聖杯戦争が始まる――――――
たった14人の戦争が、再び始まろうとしている。
アインツベルン―――、トオサカ―――、マキリ―――の御三家が作り上げた至宝。
如何なる願いをも叶える願望器―――――聖杯。
その聖杯を手にするためだけの、悪夢が始まろうとしているのだ。
「───告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝が剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うなら応えよ」
アインツベルンの居城。
その城の大聖堂で、今、召喚の儀は執り行われていた。
数多在る英雄達の中から、一つの英霊を召喚し僕と成す究極の儀式が………。
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」
アインツベルンのマスター、イリヤスフィールは、元老院の翁達の成す円卓の中心で召喚の詠唱を行っていた。
前回の第四回聖杯戦争で、あと一歩で手に入ると思われた聖杯も、外の魔術師に任せたばかりに失敗に終わった経緯がある。
今回ばかりは、もうその失敗も許されない。
責任は外の魔術師との間に生まれた娘、イリヤスフィールに………。
そして、召喚されるは最強でなくてはならない。
騎士の王でも槍の申し子でも無く…………。
呼ぶは最強の英雄。12の試練を成したギリシャの大英雄。
称号は狂戦士。7つのクラスの中で最も強い力を得る称号。
「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
召喚は成された。
部屋は光りに飲まれ、周囲の魔力がその中心へと集まる。
手応えはあった。媒介も充分。魔力も最大。
失敗する筈の無い儀式だった。
そう、失敗する要因なんて、一つも無かった。
だから、原因があるとすれば別にある。
光りに飲まれた広間が、次第に平穏を取り戻す。
そして、魔方陣の中心には、白い外装を身に纏った1人の男が佇んでいた――――。
―――― Fate/Judgment night ――――
『 予 告 』
闇は光に憧れ――――――、月は太陽に憧れるという――――――。
なら太陽は月に憧れないのであろうか……………
否、太陽にとってこそ月は必要な存在。
太陽自身には、自身の光りの大きさを見ることが出来ない。
まるで、自身では自分の顔を見ることが出来ない人間のように……。
太陽にとって月は、自身の光りを映してくれる鏡なのだ。
月が在ってこそ、月に映る光が見えてこそ、太陽は自身の輝きを知れる。
月があるから…………、輝かせるモノが在るから…………、太陽は輝き続けられる…………………。
「マスターは、雪が好きなのだな………」
「うん、好きよ。あなたは好きじゃないの?」
「そうだな……。はっきり言って、――――――大嫌いだ――――」
「私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンのサーヴァント………、
イレギュラークラス――――――『ジャッジメント』だ!」
「なっ、イレギュラークラスですって!? それに、ジャッジメント? どういうことよ、綺礼は一言も………」
「セイバーとアーチャーの二人を一度に相手にか………。
これは少々骨が折れる、が…………………………おもしろいっ!!」
「セイバーよ! その隙、貰い受ける!!」
「いったいどういうつもりよ?」
「なに、アーチャーのマスターよ。今夜は見逃してやろうと言っているのだ……」
「アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎!」
「! ふむ、まさか真名を名乗るとは思わなかったな……。
いいだろう、名乗られたからにはこちらも名乗るのが礼儀というもの。
私はジャッジメントのサーヴァント、■■……………いや、■■■■だ!!」
「手荒い歓迎だな」
「突然現れた不審人物に対しては可愛いものですよ。
いったい、何の様ですか?」
「……キャスター……だったな。私と契約をしないか?」
「なぜ邪魔をする、ジャッジメント!?」
「なぜ邪魔をするかだと? 知れた事、この聖杯戦争を破堤させるためだ」
「何っ!!?」
「故に殺しはせん。呪われし大聖杯を破壊するまで、いかなるサーヴァントもな。
それが私の役目であり、約束だ……。
行くぞ、セイバー!!
我が名はジャッジメント。この聖杯戦争を制する者だっ!」
「それがどうした………か。確かにそうだな……」
「どうしたのジャッジメント?」
「いや、気にするなマスター。何でもないのだ………そう、何でもないのだ」
「ライダー、私と手を組まないか?」
「戯言は寝てほざいて下さい」
「ふむ、戯言や冗談では無いのだがなぁ………」
「では、何を企んでいるのですか?」
「なに、君のマスターを助けたくてね」
「マスターも物好きだな。このような男に興味を抱くとは……」
「悪い?」
「いや、破綻者ではあるが良人には違いない」
「褒めてるのか貶してるのかどっちだよ……」
「さあな。私にも……よくわからんのだ」
「私はただ、英雄に祭り上げられただけだ」
世界との契約か・・・・・・
いいだろう、契約してやる・・・
代わりに・・・・・・俺の願いを叶えさせてくれ・・・・・・
俺の願いは・・・・・・・・・・・
エミヤシロウへの復讐と、 イリヤスフィールへの・・・・・・
懺悔の機会だ・・・
「このまま帰すわけにはいかないな。
仮にも此処はアインツベルンの領地、我が主の結界内だ。不法侵入者をタダで返しては主のプライドに傷が付くというもの。
悪いが、今回ばかりは贄となってもらおう…………。
特にそこのアーチャー………貴様だけは断じて帰すわけにはいかん!!!」
「ま、まさか!? 私の剣を素手で破壊するとは…………」
「悪いがアーチャーよ、私に投影は効かない!」
「この場面で乱入してくるとはな、英雄王………。
しかたないか………。アーチャー、不本意だがマスターを、イリヤを頼む……」
「教えてやろう。
私も……いや、俺も一時は王と呼ばれた存在――――。
――――――月を照らせし日輪の覇者、『太陽王』だ!!!」
「そう、君たちの想像どうり、私の生前は魔術師だったのだよ」
だけど………、誓いだけは忘れない。
どんなに磨耗しても…………
どんなに壊れても…………
どんなに時が過ぎ去っていったとしても…………
あの誓いだけは……………
誰かの味方で在るという、誓いだけは…………
「さ〜て、取り合えず1発殴らせろ、アーチャー!」
「なっ、なんだと!? いや、離せ凛、エミヤシロウ! 離せ〜〜!!」
「な〜に、1発だ……。1発で済む……。それで晴れて我々は同盟関係だ。なに、安い代価ではないか。
なあ、アーチャー…………」
「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「今一度、再び此処に契約を成そう!
例えこの剣――、この腕――、この脚――、この体――、この心――、この魂――砕け散ったとしても、
最後の最後まで、私は貴女の剣となり、盾となる事を誓いましょう。
そして――、例えこの私がいなくても、何時如何なる時でも、主の往く先を照らす光と為る事を―――。
契約は今此処に――、貴女は――、私の―――ただ1人の主だ―――――」
「五月蝿いぞ、ランサー! 少しは黙っていてくれ、治療に集中できない」
「だから治療はいらねぇーって言ってんだよ! いい加減さっさと離れやがれ!」
「そうはいかない! 貴様にはこの後重要な仕事を任せたいのでな。万全の状態になってもらわないと困るのだ」
「けっ、まったくこの野郎は……」
「くくくっ…………あ〜〜はっはっはっはっはっはぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!
ふぅ〜……………ふっ、言ってくれるよ………、セイバー。
まったく、不意打ちにも程がある……。
……『ありがとう』………か………。
そんな言葉、俺には勿体無いよ………………アルトリア………」
「今回ばかりは共闘と洒落込むとしますか、セイバー」
「はい、ジャッジメント。ふふっ、それにしても、貴方と一緒に戦える日が来るとは思ってもみませんでした」
「それは私も同じだ。貴女と同じ舞台に立ち、こうしてデュエットが出来るのだから……」
「そうですね……。ならば先導は貴方に任せましょう。
今宵のダンスは貴方と私が主役、そして観客は無数の影。
舞台は粗末ながらも、月の照明に木々と風のオーケストラ。
これ以上を望むのは無粋というモノでしょう………」
「うむ。では参りましょうか、騎士王………」
「ええ、審判………」
「勝利せし(カリバード)………………!」
「約束された(エクス)…………………!」
「絶対なる剣(ストライク)−−−−−−−−−−−!!!!!!」
「勝利の剣(カリバー)ーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
その一言があれば戦える。
その一言があれば、何所に居ても駆けつける。
その一言があれば、俺達は誰よりも強くなれる。
だから、たった一言でいい。
迷わず、臆せず、声高らかに・・・
助けてくれと言えば、それでいい……
「相変わらず、詰めが甘いな、士郎。
やはり私がいないとしょうがないな。
さて、あとは私に任せておけ。
お前はさっさと、お前の帰りを待つ皆の所へと帰るがいい」
「ジャッジメント……」
「何をしている。此処にいれば、さすがのお前でも只ではすまないぞ」
「ああ……。
ジャッジメント、お前も、帰ってくるよな?」
「さあな。その保証は出来ない」
「…………」
「だから、俺の分まで、イリヤを守ってやってくれ。
衛宮士郎………」
「っ! わかったよ、ジャッジメント………。でも、それでも、待ってるからな」
「待っているか……。
お前がそれを口にするとはな………。いや、お前だからか……。
出でよっ、太陽斬っ!!」
「死への道連れが貴様とは奇縁だな―――。
だが、これも望んでなった結果だ。悔いは無い………無い筈だ…………」
「(だが、望めるのであれば…………)」
「ふっ! さあ、アンリマユ。共に逝こうぞっ!!!
我が剣は(サンライト)………世界を別つ(ハート)ーーーー!!!!!!」
国なんて俺には関係無い―――――
国とは――― 元来人が集まって造るものだ
住まう人が居なければ――― 国など初めから成り立つ筈が無い
住まう人が居なければ――― 王なんて 形だけの形骸でしかない
俺が救いたかったのは国ではなく そこに住まう人々だ
俺が守りたかったのは 人なんだ
俺が本当に守りたかったのは――――――
「やっと……、やっと願いが叶った……………。
私の………
私の可愛い………………
………………………………」