貴殿の召喚に応じ参上した。

 これより我が身は汝の剣となり、盾となり戦い抜く事を誓おう――






今宵始ルルハ悪鬼羅将ノ狂乱絵巻







 何を勘違いしているのかは知らないが、この身はヘラクレスでは無いし、生涯一度とてそう呼ばれた事も無い。

 媒介に何を使ったのかは知らないが、この私が此処にいる以上はヘラクレスの召喚を失敗したという事だ。







自身ノ望ミダケヲ叶エントシタ愚カ者達ノ狂葬曲







 主の危機に動かずして何がサーヴァントか……

 マスター、私は貴殿のサーヴァントだ。貴殿が望む事をし、望まぬ事をしない。

 だから私は、貴殿が望む限り、貴殿のサーヴァントである事を誓おう。







異端者共ノ集マルルコノ舞台ニ舞イ降リシハ白キ審判者








 ところでマスター。

 貴殿にとって、この場所は必要なモノか?

 此処にいる者達は、必要な者か?

 貴殿に苦行を強いて、自分達は高みの見物をし、その報酬だけを受け取ろうとするこの者達を、貴殿は必要と思うか?






黒キ泥ヲ砕キコノ戦争ヲ破堤サセント企テルハ如何ナ者カ







 答えにくいのであれば、それはそれで構わない。だが、マスターに危害を加えようとしたこの者達を許す事はできない。

 返答は抜きにして、この異常者達を駆逐する。それが決定事項だ。






暫ラクノ間御付合イ願イマスルヨウ平ニ宜シクオ願イスル所存デアリマスル







 了解した。マイマスター………






















  Fate/Judgment night

        第1話

   ―― 白の審判者 ――
















 教会からの帰り道。その瞬間は突然訪れた。



「お話は終わりかしら?」



 少女の声。

 だがそれは同時に、死の宣告と同義だった。

 たった一言によって、この場今現在を以って戦場へと変わる。

 聖杯戦争による、サーヴァント同士の殺し合いの舞台へと――――



「初めまして、リン。私はイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」

「なっ、アインツベルンですって!?」

 その名を聞いた瞬間、遠坂凛の表情が驚愕へと変わる。

 アインツベルンは聖杯を造り上げた御三家の一つにして、魔術の名門。

 言わば聖杯戦争のエキスパートと言っても過言ではない。

 ならばその言葉は、最早死刑宣告以外の何でもなかった。



 衛宮士郎はただ呆然と少女を見ていた。

 雪国の生まれであろう白い肌と、まばゆいばかりの白銀の髪。

 両の瞳は血のように赤く、呑み込まれそうな程に深く、

「お兄ちゃんと会うのは二度目だね」

 年相応の微笑みを浮かべ、イリヤはそんな事を言った。


「あ、ああ…」

 声にならない程にかすれた声。

 それは恐怖と畏怖と、困惑。

「ちゃんと召喚できたんだね…。じゃあ、もういいよね」

 一瞬、安堵するかのような表情を浮べ、


「来なさい!」

 自身の従者を呼んだ――――





 世界が震える。


 今まで気配を消し去り、姿を隠していた何かが、目の前に現れた……

 白き衣を翻し、闇夜よりなお黒き漆黒の髪をなびかせて、屈強な一人の男が光臨する。

 そしてゆっくりとその場に跪き、主の命令を待つ。


「サーヴァント…」

 一目見て人為らざる者と判断出来るほどの存在感と威圧感。

 ただそこに存在しているだけで周囲一体を飲み込むほどの覇気が漂いだした。

 油断できない相手と判断したセイバーとアーチャーも自身の武器を取り出し構える。


「い、一体……何のサーヴァンなのかしら?」

 遠坂は無理と分かっていながらも、そのサーヴァントの情報を引き出そうとする。


 しかしイリヤは、

「いいわよ。教えてあげる」

 なんて、笑顔で言った。


 逆に驚いたのは士郎達の方だった。

 サーヴァントの情報は隠すもの。士郎はそう遠坂から聞いたばかりだ。

 だというのに彼女は自身のサーヴァントの情報をくれるというのだ。

 驚くのは当たり前だった。



 慌てる表情がおもしろかったのか、イリヤは笑顔のまま横に跪く従者の方を向く。

「名乗りなさい、私のサーヴァント…」

 イリヤがそう呟くと、男は立ち上がり、俺達を一瞥すると高らかに名を口にした。


「私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンのサーヴァント………、イレギュラークラス――――――『ジャッジメント』だ!」


「なっ、イレギュラークラスですって!? それに、ジャッジメント? どういうことよ、綺礼は一言も………」



 士郎も、遠坂と同じように困惑していた。


 あの神父は、イレギュラークラスは無い。正規の組み合わせだと、確かにそう言っていた。

 だが、事実目の前にはイレギュラークラスであるサーヴァントが存在している。

 この場合、あのいけ好かない神父を信じるべきか、目の前のサーヴァントを信じるべきか……。


「シロウ、考えるのは後です。このサーヴァントが何者でも構いません。今はただ倒すのみです」

 その言葉で士郎はハッとする。

 そうだ、あのサーヴァントが何者かなんて今は構わない筈だ。

 それよりも、今は逃げるか戦うかしなければ、最悪全滅してしまうかもしれない……。

 でも、あのサーヴァントから逃げられるのか?

「衛宮君、この場は強力したほうがいいわ。いいわね」

「あ、ああ!」

 遠坂が共闘を持ちかけてくる。断る理由なんて何所にも無かった。












「シロウ、下がっていてください」

「あ、ああ……わかった………」

 セイバーが士郎を守るように前に出る。

 士郎は女性を戦わせたくないという考えがあるためか、少し不満そうではあるが。


「アーチャー、いつでもセイバーの援護を出来る用に…」

「うむ」

アーチャーは凛の指示に従い、いつでも援護が出来るように屋根の上に上がる。




 そして舞台の幕は今開かれる……

「やっちゃえ! ジャッジメントっ!!」

「マスターの意のままに!」

 主の命を受け、ジャッジメントは自らの得物を召喚する。

 両手に握られた銀色に輝く二本の長刀。

 その刀を鞘から引き抜き、ゆっくりと構えを取りながら、

「セイバーとアーチャーの二人を一度に相手にか………。これは少々骨が折れる、が…………………………おもしろいっ!!」

 セイバーへと向かって駆け出した。



 一秒にも満たない時間で二人の距離は零となり、

  ガキィッ!!


 セイバーの剣とジャッジメントの2刀が交差する。


 単純に考えれば二人の体格差でセイバーは跳ね飛ばされるのだろうが、それに反し相手の方が先に崩れた。

 セイバーは剣のサーヴァント。その名は伊達ではなかった。


 バランスを崩したジャッジメントはセイバーの一撃を受け大きく後退する。

 さらに、反撃に転ずる間もなくセイバーの追撃が入る。


 上段からの斬撃。

 身を翻してその攻撃を避けるが、セイバーは決して逃してはくれない。

 体勢を立て直しながら刀を振りかぶる。そこにセイバーの剣が打ち下ろされた。

 再び交差する剣線。周囲に金属がぶつかり合う音が響き渡る。


 しかし今度はジャッジメントの2刀がセイバーの剣を流すように反らす。

「なっ!?」

 力を込めたセイバーの剣は流され、前のめりにバランスを崩す。

「はあぁぁぁっ!!!」

 ジャッジメントは反転し背後からの横薙ぎの一撃を加えるが、セイバーはそのまま転がる事で避ける。

 立て直し立ち上がろうとするセイバーに向かって上段から振り下ろされる一閃。

 後ろに反り返り、眼前を通り過ぎる一閃を見ながら片腕を付いてバク転の要領で飛び退く。

「くっ!!」

「逃さんぞ!」

 逃がすまいとジャッジメントの突きが迫るが、セイバーはそれを地面に突き立てた剣の峰で受ける。

 そして次の横薙ぎの一撃を剣を支点に飛び上がり回避し、そのまま顔面に蹴りを喰らわせようとするが、横向きに反転され避けられてしまう。

 その勢いを利用して地面から剣を抜きジャッジメントの肩に落とす。

「せりゃあぁぁぁっ!!」

「あまいっ!」

 ジャッジメントは刀を交差させる形で剣を受け、まだ地面に足付かぬセイバーの腹に蹴りを喰らわせ巴投げの状態で投げ飛ばした。

 セイバーは空中で反転し着地した後、一気に間合いを詰め、立ち上がったばかりで後ろ向きのジャッジメントの横っ腹に向け剣を薙ぐ。

「取った!」

  ガッ!!!

 しかしそれを刀の峰で受けられるが、それを見越し、跳ね返りを利用して一回転し逆胴に向けて強烈な一撃を放つ。

「せいっ!」

 ジャッジメントは地に伏して回避し足払いを掻けるが、セイバーは軽く跳ねて避け、剣を勢いよく振り下ろす。

「!」

 横に転がり、背後で地面に突き刺さった剣を確認しながら、立ち上がり様に刀を振り上げる。

 セイバーはギリギリでその刃を交わし、剣を抜きながら一旦背後に飛び体勢を立て直す。

 それを見たジャッジメントも背後へと跳躍する。


 息を整える二人。


「ふっ、さすがですね、ジャッジメント……」

「そういう貴殿もな。さすがは剣のサーヴァントだ…」

 知ってか知らずか、二人からは笑みが零れていた。






「ですが、貴方の剣筋はもう読めました。次はこうは行きません!」


 セイバーが地面を蹴って一気にジャッジメントとの間合いを詰め、上段からの一撃を喰らわせる。

 再び刀を交差させ受けようとするが、剣筋が動き打点をずらす。

 ジャッジメントも対応しようとするが一瞬間に合わず、受けた刀ごと大きく跳ね飛ばされてしまった。

 なんとか反転し着地するが、目の前には既にセイバーが迫っている。

 何とか剣に合わせ受けようとするが、またもや打点をずらされる。

 今度は踏みとどまることが出来たが、攻撃に転ずる事が出来ない。


 そのまま防戦一方となっていくジャッジメント。



 二人の攻防を息を呑んで見守る士郎。

 遠坂は二人の遥か後ろに佇んでいるイリヤを一瞥し、

「確かに強いけど、セイバーには適わないみたいね。さすがは剣の英霊って所かしら。これならアーチャーの援護もいらなそうね」

 当て付ける様にそう発言した。

 しかし内心では、

「(アーチャー、どう思う?)」
「(どう思うとは、どういうことだ)」
「(あのジャッジメントとかいう奴の実力よ! どうなの、アーチャー)」
「(そうだな…………、歪……だな)」
「(? どういうこと?)」
「(動作と武器が合っていない。あれだけの大剣、しかも二振りだ。
 普通なら力で相手を圧倒するのだろうが、あいつは技術のみでそれを使っている。
 逆に動きから考えるのなら、私の使っていた双剣や短剣の類の方が合っているだろうな………)」
「(そうなの……)」
「(ああ。だが、油断は出来ないぞ。あいつはまだ宝具を使っていない。何かあるのかもしれないな)」
「(確かにそうね。アーチャー、いつでも援護できるようにしておいて)」
「(わかった)」

 アーチャーは弓を呼び出し、遠坂はポケットに閉まってあった宝石を握る。




「はああああぁぁぁっ!!」

「くっ!!」

 再びセイバーの攻撃を受け、ジャッジメントは後退し地面に膝を付いてしまう。


 さすがに疲労が見て取れたのかセイバーは一時攻撃の手を緩め、次の手を窺う。

 ジャッジメントは刀を地面に突き立て、息を整えながら立ち上がり、セイバーを見つめる。


「ふう…………さすがは最良と言われた騎士の称号を持つ者だな。一筋縄ではいかないか…」

「………………」


 いつでも攻撃出来るよう身構えるセイバーにジャッジメントは称賛するが、相手にはしてもらえなかった。

 残念とばかりに軽くため息を付いて、夜空を見上げる。


「ふむ、月が綺麗だな。セイバー」

「…………」


 夜空に浮ぶ月を眺めるジャッジメント。

 そしてセイバーの方へと向き直り、瞼を閉じる。

 再び瞳が開いたその時、そこには銀の双眼が輝いていた。


「!」


 その異常性に気付いたと同時に底知れない恐怖感に呑まれる。


「では…月夜の舞台に…舞うとするか………」


 その瞬間、ジャッジメントの姿は音も無く消え去った。


「なっ! 消えた………っ!!」

 一瞬の気配と勘だけを頼りに、セイバーは眼前に剣を構える。


 ガキィッ!!!


 瞬間剣に強い衝撃が走る。


 そこには、ジャッジメントと自身の首を狙う横薙ぎの一閃が在った。


 今まででは考えられなかった速度の剣に、セイバーは最早驚きを隠せないでいた。





 ジャッジメントは狂気の笑みを浮かべると、またしても気配ごと姿を晦ませる。

 そして必殺の斬撃を繰り出して行く。

 首、右肩、左二の腕、左手首、右脇、心臓、左脇腹、腹、背、右腿、左膝、左足首…………

 その全ての攻撃をセイバーは直感と経験だけで捌いて行く。


 しかし、捌いているだけだ。先ほどと打って変わって攻防が完全に逆転してしまっていた。





「な、なんなのよ、アイツ。さっきまでと雰囲気完全に変わってるし、セイバーを圧倒するなんて…」

「…………」

 遠坂も士郎も、そのあまりの光景に呆然としていた。

 最早二人にはジャッジメントの姿はまったくと言っていいほど見えていなかった。

「あ、アーチャー、援護を…」

 その言葉と共にどこからか矢が飛んでくる。それも的確にジャッジメントを狙う矢が。

 ジャッジメントも気付いたのか、逆手に握った刀で弾き、避ける。

 アーチャーの矢が確実にジャッジメントの動きを鈍らせていく。

 その好機を逃すまいとセイバーは肉薄していった。


 セイバーとアーチャーの二人を相手に、ジャッジメントは再び防戦一方となった。




 セイバーは好機を逃すまいと、アーチャーの矢の影から一気に詰め寄り、生まれた隙に一撃を加え、矢を盾にし下がる。

 そして再び矢の影から攻撃を仕掛ける。

 それが今セイバーに出来る唯一の戦法となっていた。

 再び矢の影から接近しようとする。

 そのとき、セイバーははっきりと目にした。

 彼が黒い狂気の表情を浮かべているのを――――


 一瞬の恐怖と共にセイバーは大きく剣を振りかぶり、渾身の一撃を喰らわせようとする。

   ガキンッ!!!

 しかしそれを易々と左手の長刀で受けられ、


 気付けば右手の刀は、投擲の構えを取っていた。

「アーチャー!」

 最初に気付いたのはセイバーだった。

 しかし時既に遅し。

 その刀はジャッジメントの手を離れ、アーチャーに向け飛翔していた―――





 アーチャーはセイバーの声を聞き、その剣を打ち落とそうと矢を番える。

 しかし気付いた。あの剣を落とすにはただの矢では足りないと――


 ならば、


 「偽・螺旋剣!」


 必殺の一撃を持って相殺するのみ。




 高速で飛翔するジャッジメントの刀と偽・螺旋剣が衝突しようとするその瞬間。

「壊れた幻想」

 アーチャーは念には念を入れ、追い討ちをかけた。




「あまいな、アーチャー…」




 その一言と共に刀は爆発に呑み込まれ、まるで掻い潜るかのように破片が飛び出した。

 いや、破片では無い。

 幾多の短刀が壊れた幻想を超え、狙撃者であるアーチャーを捕らえる。

「な、くそっ!!」

 偽・螺旋剣を使った直後であったためか、アーチャーは短刀の攻撃をほとんど避けることも出来ずにその身に受けてしまう。

 致命傷は避けたものの、ダメージで屋根から落下するアーチャー。

「アーチャーっ!」

 遠坂が慌てて駆け寄る。



「! せ、セイバーっ!?」

 士郎が叫ぶ。

 そう、その時セイバーには、あまりにも大きな隙が生まれていた。

「セイバーよ……その隙、貰い受ける!!」

「し、しまったっ!!?」

 ジャッジメントはセイバーの剣を地面に縫い止め、左手の刀を正眼に構える。

 今まで自然体だったジャッジメントの剣技の中で初めて見る、構え―――

「遅い……百華砲っ!!!」

「ぐ、うああぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 それより早く、ジャッジメントの刀がセイバーの両肩を打ち抜き、額を掠め、首を避けられ、胸に衝撃だけを与えた。

 ほぼ同時では無く、完全に同時の突きがセイバーを貫いた。



 セイバーが倒れ行くのを見ながら、ジャッジメントは自身の刀を確かめる。

 その表情は、驚きと喜びが混ざり合っているような、そんな表情だった。

「ふむ、五撃の内、完全に当てられたのは二撃だけとはな…。勘がいいのか、運がいいのか……、それとも両方か…。ただし、両肩を打ち抜いた。しばらくはまともに剣も握れまい」

 セイバーは立ち上がろうとするが、ジャッジメントの言うとおりダメージで立ち上がる事すら出来ない状態だった。

 肩から流れる血が、地面を赤く染めていく。


 士郎が慌てて倒れるセイバーの元に駆け寄り、安否を確かめる。

「セイバー、大丈夫か…」

「…ダメです……シロウ。私に構わず逃げてください…」

 セイバーは虚ろな瞳で、ただ主の事を心配していた。





 ジャッジメントは刀を右手に持ち直し、そんな二人へとゆっくりと近寄る。そして、止めを刺さんとばかりに、凶刃を振り上げた。


「衛宮君!」

「し、シロウ…」

 セイバーを庇うような形で士郎は立ち塞がる。

「セイバーは殺らせない……殺らせるもんか!」

「ほう、自らの命よりサーヴァントの命を取るというのか…」

 衛宮の表情は変わらず、何かしらの強い決心が窺えた。



 ジャッジメントはその表情に満足し、振るう刀に力を込める。








 そして、ジャッジメントの刀が――、その身に向かって――、振り下ろされ――、















「というわけだ。今回はここでお終いにしよう…」







 なかった。










 ジャッジメントは刀を鞘に収め自身のマスターへと振り返り立ち去っていく。


 意味が解らず呆ける士郎とセイバー。

 遠坂が駆け寄ってきて、あからさまに文句あります的な表情を浮かべている。


「い、いったいどういうつもりよ? あんた!」

 遠坂は手に宝石を握りこんで、何時でも攻撃出来るように構えながら叫んでいた。


 対するジャッジメントはまったく気にしない素振りで、手に持っていた刀を消しながら、

「なに、アーチャーのマスターよ。今夜は見逃してやろうと言っているのだ……」

 なんて事を笑顔で言ってのけた。



「な、ななななんですってっ!?」

「え〜、どうしてなの? ジャッジメント〜」

 遠坂とイリヤの二人が驚く。

 どうやらイリヤの命令ではないようだ。



 ジャッジメントは懐から煙管を取り出し口に銜え火を付ける。

 ゆっくりと煙を吸い込み、吐き出しながら、二人の顔を見比べてどこか楽しそうにしている。

「今殺しては面白みにかける。なら今回は当初の目的どうりに顔見せという事にしようではないか、なあマイマスター」

「う〜、そうだけど〜……」

 イリヤはなんだかつまらなそうだ。


 そんな姿を見ながら、少し困った様子でイリヤの頭を撫で始めるジャッジメント。

 するとイリヤは直ぐに表情を変え、

「ま、まあいいわ。ジャッジメントがそう言うならそうして上げる。

 じゃあそういうことだから。お兄ちゃん、今日は見逃してあげるね」

 イリヤは笑顔でそう言うと、

「じゃあね、お兄ちゃん。また会いましょう」

 軽くコートの裾を持ってお辞儀をした。


 そしてジャッジメントに抱きかかえられると、そのまま闇夜の中へと消えていった。







 その場に残される士郎達4人。


















 家に帰ったのは、結局セイバーが回復してからだった――――












< Fortes fortuna juvat.  Next Episode.02 >