「あれ?ここ、どこだろう・・・。俺は確か冷蔵庫から食材を取り出そうとして・・・。」

あたりを見渡すかぎり、木々が生い茂った森だった。

「もしかして・・・さっき働いていたのは夢で、俺はまだ家で寝ているのかな?」

明人は確認のために頬をつねってみる。

「痛い・・・・・・じゃあ、これは夢じゃない・・・・・?」

明人が夢かどうか判断をしたとき、後ろの草がガサガサと揺れる。
明人は草の音に反応して、後ろに振り返る。
そこにいたのは、1匹の二足歩行する毛深い茶色の豚だった。
しかもその豚は、鎧を着込んでいる。その豚は、背中に大きな剣と斧を背負っている。

「珍しいな。人間がこんなところにいるなんてよぉ・・・・・」

かなり野太い声で豚がしゃべる。
明人は驚きのあまり、声も出ない。

「どうした?俺が怖いのか?・・・安心しろ。おりゃあ人を殺したりはしねぇよ。まぁ、一部を除いてだがな。」

「あ・・・あなたは・・・・・・」

「ああ?」

「あなたは誰で、何者ですか?」





年老いた老人がフードをかぶり、水晶玉を覗き込んでいる。

「むぅ?」

老人は何か悪いものでも見つけたかのような顔になる。
しばらくすると一人の少女が老人のいる部屋の中に入って来た。

「失礼します。・・・・・どうかしたのですか?長。」

長と呼ばれた老人が呼ばれたことに気がつき振り返る。

「おお、フィーナか。」

「「おお」じゃ、ありません。私を呼んだのは長じゃないですか。」

フィーナと呼ばれた少女は、見た目14,5歳ぐらいで髪は長髪で青みがかっている。
顔はとてもかわいらしく、そしてどこか少し大人びている。 服装は、動きやすそうな半そでに、ポケットのたくさんついた長ズボン。
ズボンの腰のベルトには皮製の鞘が二つぶら下がっていてその中に短剣を納めている。
フィーナが長と呼ばれた老人に近づく。

「そうじゃったな。いや、すまんな。」

「それで、何の御用でしょうか?」

「うむ、本当は軽い用件だったのじゃが。」

「面倒ごとですか?」

「うむ・・・今、恐ろしいぐらいの聖魔力をこの水晶玉が感知しておる。」

二人は深刻そうな表情になった。

「感知されている場所は・・・?」

「東の森じゃ。
 もし、今感知されておる聖魔力の持ち主の目的が、フォムルの洞窟で取れる魔宝石じゃったら大変なことになる・・・・・
 フィーナよ、行ってくれんかね?」

「・・・・・分かりました。すぐに現場へ向かいます。」

フィーナは言うなりすぐにその場から退場する。

「いよいよ、このときが来てしまったのか・・・・・。」

長はその後、水晶球の中をずっと覗き込んでいた。





「俺は、オークのジャンク。一応魔族だ。」

「俺の名前は大空明人って言います。」

「オオゾラアキト?長い名前だな。」

「大空は苗字で明人が名前です。」

「そうか、じゃあアキトって呼ばせてもらうぜ。」

「ところで明人、おめぇこんなところで何してやがったんだ?」

「分からないんだ。・・・・・気がついたらここにいたから。」

「そうか・・・・・」

この後もジャンクとアキトの会話は続いた。





「普通じゃない・・・・・。何で人とオークが話し合っているの?」

異常だと、フィーナは心からそう思った。
今まで魔物が人を襲う現場は見たことがあるが、話し合っている所は自分が生まれてからの約16年、一回も見たことがない。

「もしかして・・・・魔物のほうがあの人を油断させているの?それとも、・・・あの人間が、魔物に手引きをしているの?」

フィーナは、このあたりでは、まったく見たことのない服装にエプロンをしている男とオークを森の茂みに隠れて観察している。
しかし、観察しているだけで話している内容までは分からない。
理由は、見かけない服装の男が魔物と普通に話し合っているということはもしかすると、
かなり上級の使い手かもしれないので、むやみに近づけないということ、
そのケースを抜いたとしても近づきすぎて魔物に気配で自分の位置を悟られるかもしれないからである。

(ここはしばらく様子を見ていたほうがよさそうですね・・・・・)

フィーナはそのままエプロンをしている男とオークを監視し続けようとするが、何者かの攻撃により、中断させられる。
フィーナはその攻撃を受身で何とかかわす。

「敵!?」(迂闊でした。あっちのほうに気をとられすぎて回りの警戒を怠るなんて・・・・。)

フィーナは腰のベルトの鞘に納めた双剣を手に取りそれを構え、攻撃態勢に入る。

「こちらからも・・・行かせてもらいますよ。」






ジャンクが半泣きになって明人に話しかける。

「おめぇは強い、いい子だなぁ・・・・・」

「ど、どうしてジャンクさんが泣くんですか・・・・。」

「だってよぉ・・・・おめぇ、普通両親がいなくなったら心閉ざすとかするじゃねぇか。」

「と、とりあえずジャンクさん、落ち着いて・・・・」

ジャンクは目に浮かんだ涙を手で拭きながら言った。

「よし、おりゃあ決めたぜ。アキト、俺はおめぇに着いていくぜ。」

「俺なんかについてきても・・・・別にいいことなんてありませんよ?」

「そんなもんどうでもいいんだ。俺がそうしてぇだけなんだからよぉ。つうわけで、よろしくな。アキト。」

ジャンクはアキトに右手を差し出す。
明人はジャンクの理由のあいまいさに苦笑いを浮かべつつ、右手を差し出してジャンクと握手を交わした。

「ははは・・・よろしくお願いします。ジャンクさん。」

明人とジャンクが握手を交わし終えると同時に、「ドン」と大きな音が鳴り響いた。

「なんだ?今の音は!!」
「何かが近くに居やがるみてぇだな。」
「とにかく、いってみよう。なんだか胸騒ぎがするんだ。」
明人とジャンクはさっきの音がした方へと急いだ。





大体人より少し大きいぐらいの全身土だらけのダルマのような人が右手を平手にして、それをフィーナに叩き込もうとする。
それを見たフィーナは、とっさにその平手をよけて相手の背中のほうへ回りこみつつ双剣で切り付ける。
が、比較的に攻撃力の低い双剣ではあまり効き目がないようだ

「さすがはゴーレム。ですね・・・・・・。耐久力だけはイヤなくらいあります。」

さっきの全身土だらけのダルマのような人はゴーレムと呼ばれている。このゴーレムは人のような顔がない。
その代わりに顔にそっくりの奇妙な模様が施されている。
ゴーレムは人と比べるとややゆっくり目の速さで後ろを振り向き、フィーナの存在を確認すると体をフィーナのほうへ向ける。

「我、汝に問う。」

ゴーレムからかなり低い声が聞こえる。
フィーナはその声を聞き、驚きを隠せないでいる。
(これはいったいなんですか?ゴーレムは意思を持たない土の人形のはずです。)

「光の王の娘と闇の王の息子の間に生まれし異端児を守り、ともに過ごし、愛することが汝にできるか?
 全てをつかさどりし者の娘よ・・・・・。」

その言葉と同時にゴーレムは右手を平手から拳に変えてフィーナを襲う。
フィーナはゴーレムが喋ったことに気をとられて、一瞬判断が遅れてしまう。

(ああ、もう終わりましたね・・・・・・。)

フィーナは自分が「ここまでだ」と悟り、目を閉じる。
ゴーレムの拳がフィーナに当たろうとしたそのときだった。

「危ない!!」

黒髪ぼさぼさ頭の青年がフィーナを間一髪のところで助ける。
その青年がフィーナを助けた後に叫んだ。

「ジャンクさん!!」

その掛け声とともにゴーレムは大剣で一刀両断にされた。
ゴーレムを一刀両断にしたのは、オークだった。
オークが黒髪ぼさぼさ頭の青年に話しかける。

「何とか間に合ったみてぇだな?アキト。」

「ジャンクさんのおかげですよ。」

明人がフィーナのことを心配して話しかける。

「君、大丈夫かい?怪我はない?」

「は、はい。怪我はしてません。大丈夫です。」

「本当に?・・・・・よかったぁ〜・・・・・・。」

明人はほっと胸をなでおろした。

「君みたいなかわいい子が怪我したら大変だったからね。」

「か、かわいい?わ、私が?」

フィーナは顔を真っ赤にして慌てふためく。
その姿を見た明人は何かあったのかな?っと言った感じで話しかける。

「どうしたんだい?」

「い、いえ。なんでもないです。」

明人とフィーナがその場から立ち上がる。そのときに、フィーナは双剣を鞘にしまう。

「自己紹介がまだだったね。俺の名前は明人、大空明人。明人でいいよ。」

「あ、はい。私はフィーナ、フィーナ・フランシウムです。」

「助けてもらって言うのもなんですが・・・・・アキトさんとそこのオークの方、えーっと・・・」

「ジャンクさんのこと?」

「あ、はい。そのジャンクさんとあなたが何かをしようとたくらんでいたのではないかと・・・。」

(きっとジャンクさんのことが怖かったんだな)

「ああ、そういうことか・・・・・・。ジャンクさんとはさっき知り合ったばかりで、雑談していただけだから何もたくらんでないよ。」

「そうですか・・・。」

「おーい。アキト、何イチャついてるんだ?」

大剣を背中にかけなおしたジャンクがアキトに話しかけた。

「な、何言ってるんだよ。ジャンクさん。俺はこの子のことを案じて・・・・・・」

「わあった、わあった。そう怒るなって・・・・。からかっただけなんだからよぉ・・・・・。」

ジャンクは慌てるアキトをなだめる。

「あの・・・もしよかったらですけど・・・。私が住んでる村に来ていただけませんか?御礼もしたいですし・・・。」

「本当?なら、そうさせてもらうよ。」

明人はフィーナの提案に笑顔で答えた。

「俺は蚊帳の外ってやつだな。」

この後、明人たちは森を抜けてフィーナが住んでいる村、ルマニへと足を運んだ。