明人達は今、フィーナの案内で森を抜けてすぐ近くの村、ルマニの門前に来ている。
この村のあたり一帯は見回す限りの草原で、見晴らしが良く、天候的にも恵まれており、普通に暮らすなら最適そうな土地だ。

「ここが、私が住んでいる村、ルマニです。」

「へ〜・・・結構大きな村だね。」

「はい。この村には・・・・・・」

「なぁ、アキト。とりあえず話しの続きは中に入ってからにしねぇか?」

ジャンクは、初めて人の住む村を見てみたくて痺れを切らしたのだろう。強制的に話を中断させる。

「それもそうだな。・・・・フィーナ、案内してくれないかな?」

「あ、はい。じゃあついてきてくださいね。」

明人たちが村の中へ入った。と、同時に叫び声が聞こえてきた。

「モンスターだ!!」

「オークが・・・・オークが村の中に・・・!!」

「子供たちを!!子供たちを早く家の中に!!」

村人たちは恐ろしいものを見るようにジャンクを見て慌てふためいた。そのとき、老人の大きな声が村中に響いた。

「静まれい!!」

しばらくすると人ごみの中から茶色の少しぼろぼろのローブに、フードをかぶった身長150センチぐらいの髭の豊かな老人が現れた。
この老人を見て人々は口々に呼んだ。

「長さま。」

と、どうやらこの村で一番偉い人らしい。
長がまた口を開く。

「このものたちはわしが招いた。いわば客人じゃ。心配せんでもよい。」

長の言葉を聞くと、村人たちは少し安心した顔になり、村の人々はそれぞれの持ち場へと散った。
が、それでもジャンクのことは少し警戒しているようだった。

「何とか誤解は解けたみたいだな。」

「一時はどーなるかと思ったぜ。」

明人とジャンクが冷や汗を右腕でぬぐう。
それと同時に長が明人たちの元へと歩いてくる。

「そこのお二方、村のものが迷惑をかけたのう。お詫びもかねてわしの家に来てくださらぬかのう」

「わかりました。」

明人は長の誘いに乗って長の家へと向かった。





森の中、二人のオークが歩いている。
片方は長身の高い少し痩せ気味の体型、もう片方は身長の低い太り気味の体型だ。

「ゴラ兄ちゃん明日はどんな悪さをするの?」

と、太り気味体型のオークが痩せ気味体型のオークに話しかける。

「明日か、まだ決めていないなぁ・・・・。ブラムはどんなことがしたい?」

ブラムと呼ばれたオークは笑顔で答える。

「俺はゴラ兄ちゃんとならなんでも!!」

「そうか、なんでも・・・か、なら明日は・・・・・・ん?だれだ。出て来い!!」

何かの気配を感じたゴラがその相手に呼びかけた。
茂みから出てきたのは、つぎはぎだらけの赤い服に青い髪の男だった。
その男は無言で右手をゴラとブラムのほうへとかざす。

「お、おまえ、何をする気だ?」

ゴラは声を震わせながらはなしかける。が、その男は一言もしゃべらない。
男の右腕に赤い光がたまっていく。

「こいつは今、隙だらけなんだ。ならこれは好機!!ブラム、やつを切れ!!」

「分かったよ。ゴラ兄ちゃん!!ウォォォォォォ!!!!!」

ブラムが斧を取り出し、つぎはぎだらけの赤い服の男を攻撃する。しかし、その攻撃は空振りに終わった。

「どこに行った。あいつ・・・?」

とブラムが後ろを振り向リ向いたとたん、さっきの男によって顔面をわしづかみにされる。
そのわしづかみにした左手の手のひらから、青い光が放たれブラムはゴラの居た位置まで吹き飛ばされる。

「ごわっ!!」

「ブラム、しっかりしろ!!くそ、おまえの目的はいったい・・・・・・!!」

ゴラが続きを言う前にその男の赤い光に染まった右腕から何らかの赤い光の束が発射され、ゴラとブラムを襲った。





「ふむ、興味深いのう・・・・・。実に興味深い。
 おぬしはこの世界のものではなく、どこか遠い異世界からきたと、そういうことじゃな?」

「はい。」

長は指で長く白いひげをなでるように触っている。

「あの・・・・・。」

「なんじゃ?」

「元の世界に帰る方法はないんでしょうか?」

長は難しい顔をして答えた。

「・・・・・・・わしも異世界人との遭遇は初めてでの、よく分からんのじゃ。
 帰れる方法があるのかもしれぬし、もしかするともう二度と帰れぬかも知れぬし・・・・・・。」

「そうですか・・・・・・・・。」

明人はガクッと頭を下げた。

「力になれんで、すまないのう。」

「長さんが謝ることじゃないですよ。・・・・・・・・気にしないでください。」

アキトはさっき下げた頭を上げて、返事をする

「先ほどの面白い話の礼を含めて、アキト殿、御主にぴったりの武具を与えようではないか。」

「そ、そこまでしてくれなくてもいいですよ。」

予想外の返答に明人は慌てて答えた。

「じゃが、御主はここにずっと居るわけではなかろう?」

「そ、それはそうですけど・・・・・。」

「なら、武具は必要不可欠じゃ。ほれ、その魔方陣(サークル)の中に入ってみなされ。」

魔方陣は、白い線で書かれている。チョークで書いたのだろうか、線の周りには白い粉が少しばかり見える。

「・・・・・分かりました。」

明人は魔方陣の中心へ行くように指示され、指示されたとおりの場所に立った・・・
が、明人はそこでどんなことをするんだろうと今頃になって心配になってきた。長に何をするのかを聞いてみると

「心配されるな・・・・・すぐに終わるからのう。」

と、いってくれたが、明人はさらに不安になってくる。

明人はフィーナのほうを向き、目で「これ、本当に大丈夫?」と訴えかけると、ニッコリと笑って返してくれた。
とりあえず大丈夫なんだろうと明人は自分に言い聞かす

長は呪文を唱え始めると、白い線が紫色に光り始めた。
呪文は声が小さくて明人にはよく聞こえない。しばらくすると、呪文が完成しかけているのか長は最後の言葉だけ大声で唱えた。

「・・・・・・・・このものに武具を与えたまえ!!!!」

長の呪文の詠唱が終わった瞬間、紫に光る魔方陣が狭まり明人の中へ入っていった。
しばらくすると、ポンっと音を立てて鋼の球体が現れた。

「・・・・・・これ、何ですか?」

「ふむ、これまた見たことのないものじゃな。どれ、貸してみなさい。」

明人の手から長の手に鋼の球体をわたす。長はその手に取った鋼の玉をいろんな角度から見回してみる。

「ただの玉・・・・・というわけではないと思うのじゃが・・・・・・痛!!」

長は突然に襲った痛みに反応して、鋼の玉を手から落とす。

「大丈夫ですか?」

「これは拒絶反応といったやつかのう・・・・・・。」

長は痛みが走った手を抑える。

「長でも使いこなせない武具があるなんて・・・・信じられません。」

明人は、長が手から落とした鋼の玉を手にとり、長に渡そうと鋼の玉を目の前に持っていく。

「なにやってるんですか、長さん。真面目にやってくださいよ。」

長は鋼の玉を難なく触れている明人に驚いた。

「御主、それを持っていて何か変わったことは?」

「・・・特にありませんけど?」

その返答を聞いた長は、とりあえず冷静になった。

「ふむ、どうやら御主だけはその武具に選ばれているようじゃな。アキト殿。」

「はい。」

「その玉を手にとって何か適当にイメージをしてみなさい」

「イメージ?それだけなんですか長さん。」

「それだけじゃ。とりあえず手ごろなものを・・・・フィーナ、御主・・・双剣を持っていたな?それを少し貸してもらえんかのう。」

「わかりました。」

フィーナは双剣を鞘から抜き長に手渡した。

「これを基に双剣をイメージしてみなさい。」

明人は言われるままに、双剣をイメージしてみると核金がそのイメージに答えるように核金は二つに分かれ、姿を変え始める。
数秒もしないうちに核金は、鋼の双剣になった。

「わっわ!!丸い球体から双剣になった!!」

明人は武器の急激な変化に驚きを隠せないでいる。

「おそらく、これは核金と呼ばれていた代物じゃな。」

「核金?」

「作用、わしも今しがた思い出したのじゃ。文献などで知ってはいたが、まさか実物にお目にかかれるとは思わんかったのう。
 いやいや長生きはしてみるものじゃのう。」

「核金とはいったいなんなのですか?」

「ふむ、何でもその使い手の意思によって形を変えられる。という代物じゃよ。」

「こんなすごい武器、ありがとうございます。」

「礼には及ばんよ。さてと、あとはこの双剣にあるくぼみに魔宝石(マジックストーン)を埋め込めばいいのじゃが・・・・
 生憎もう魔宝石は残っておらんじゃ、そこでだ。御主にはこの双剣にはめ込むための魔宝石を採りにいってもらうぞ。
 もちろん、御主の試験も兼ねてな。」

「試験・・ですか・・・・・・?」

「うむ、御主の体力、洞察力、俊敏性などを調べるためにのう。」

「ところで、・・・・・・・・魔宝石って何ですか?」

「ふむ、これもいい機会じゃ。説明しておこうかのう。
 魔宝石とは本来、魔法をより強力な威力あるいは効果の魔法へと強化するために使われるのじゃが、
 魔法が使えぬものたちの知恵というやつで今ではいろんなことに使用されておる。
 たとえば、火が必要なときに、火の力を持つ魔宝石をそれに適した道具に装備させて、
 火をつけたいものに火を移し、それを利用する。という具合にのう。まぁ武具の場合は別じゃが。」

「つまりこの世界の人たちにとって、魔宝石は必需品っていうことか。」

「簡単に言えばそういうことになるのう。」

「ところで魔宝石ってどういうところにあるんですか?」

「このあたりでは、フォムルの洞窟が一番近いかのう。場所は、東の森の中心部じゃ。
 道案内にフィーナを同行させるから安心しなされ。あとジャンク殿、御主はここで待機してくださらんかのう。」

「何でジャンクさんだけ待機なんですか?」

「フィーナをおぬしに同行させると、この町の警備が手薄になってしまうんでな。
 変わりにジャンク殿に警備に当たってもらおうという訳なんじゃよ。
 それにのう、皆の者がジャンク殿と打ち解けあういい機会だと思ったのじゃが・・・・。」

明人はジャンクのほうを見て少し考える。

(確かに村の皆にジャンクさんと打ち解けてもらうには必要かも・・・・・・・)

「分かりました。・・・・・ジャンクさんには悪いけど、長さんの言う通りにしてもらえるかな?」

「ん、分かったぜアキト。仕方がねぇ、俺も付いて行きたかったがこれも馴染んでもらうためだ。」

「・・・・・・・・・・じゃあ今からその洞窟へ・・」

「まぁ焦るな、アキトよ。今はもう夕刻じゃ、出発は明日にしなされ。
 今日の疲れを明日に残すといけないから今日はゆっくりと休みなされ、宿はこちらで手配しておくからのう。」

「本当に何から何まで、すいません。」

「いいんじゃよ、いいんじゃよ。気にせんでも・・・・・・さてと、わしの話はここまでじゃ。さぁ、行きなさい。」

「本当にありがとうございます。・・・・・・失礼しました。」

明人たちは長の部屋から出て行った。

「・・・・・・・・・・本当は礼を言われる立場の人間ではないのだがのう・・・・・・。
 核金に選ばれし異世界の青年、いや、光と闇の異端児・・・アキト・・・・・・・、
 核金による「創られた」過酷な運命にどこまで抗えるのかのう・・・。」

長の言葉は誰にも聞かれないまま消化されていった。





「おい、ブラム!!起きろ。それにしてもなんだったのだ?さっきの男は・・・?」

ゴラはブラムを縦に振る。
あの男は赤い光を放った後、どこかへと消えていってしまった。

「敵ではないんだろうが・・・」

あの赤い光はこの二人を攻撃するどころか、逆に力を与えていた。

「このみなぎる力・・・試してみたいな・・・。」

ゴラは右手こぶしを握った。




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-あとがき-
どうも、友人から不死身のフラグ立ったんと違うか?といわれてしまった漆黒の風です。
とりあえず、前掲示板に投稿していたものを今更ですが投稿させていただきました。
エピソード7のほうはただいまちびちびと作成中です。
今しばらくお待ちください。