今、明人たちはフォムルの洞窟の中で必死に走り続けている。

「ハァ、ハァ、・・ま・・待て〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」

明人は走りながら「そんなに大声出して、呼吸は大丈夫なの?」と聞きたいぐらい叫び続けている。顔色もかなり悪い。

「その魔宝石を帰しなさい!!」

フィーナも同じく叫びながら走っているが、アキトと違ってなぜか、苦しくなさそうだ。

「や〜だよ!だって俺もこれがほしかったんだから!!」

追いかけられている少年は、平然とした顔で走り続けている。
なぜこのような状況になったのかというと、この日、このフォムルの洞窟出発した時刻にさかのぼる。





「それでは、行ってきます。」

「うむ、気をつけてな。」

「気ぃつけろよ。アキト!」

「ジャンクさんもね。」

「おう!」

「じゃあ、行ってきます。」

明人とフィーナは必要な荷物を持ってフォムルの洞窟へ向かった。
道中、魔物に会うことなく、すんなりとフォムルの洞窟に着いた。
「へ〜これがフォムルの洞窟か。」

「はい、洞窟といっても」

「洞窟の中に入りましょう。」

フィーナがカンテラを取り出し、それに火をつけた。

「一応洞窟なので、足元に注意してくださいね。」

フィーナが洞窟内に入ると明人もフィーナの後に続いた。





「あの二人、洞窟に何の用があるんだ?」

見た目は十三歳ぐらいの少年がつぶやいた。
この少年は、どうも好奇心でこの二人を観察しているようだ。
片方は、見たことのある服装の少女、もう片方は、この近辺では全然見たことのない服装の青年だ。
先ほどの二人が洞窟の内部へ入った。それを見て何かチャンスと思ったらしく表情をニヤつかせて、この二人のあとを付いていった。





フォムルの洞窟内部は意外と湿気が少ないようで湿気暑さなどは感じられず、
内部の見た目は洞窟というよりもコンクリートで出来た地下道のようだった。
洞窟に入ってから二人の沈黙はずっと続いていたが、その沈黙を破ったのは明人の声だった。

「ねぇ、フィーナ。」

「なんですか?」

「ここって洞窟なんだよね?」

「はい、そうですけど。」

「洞窟って言われていたから、湿気があってじめじめしているのかと思ったんだけど、ここはそんなに湿気がないんだね。」

「ああ、それはですね。この洞窟には「固定化」の魔法がかけられているんです。」

「固定化?」

「はい。もともと固定化は何かそのままの形、同じ質量で保存したいものを長時間保存するために編み出された魔法なんです。
 この洞窟はこの近辺で唯一魔宝石が取れる場所なので落盤などでこの洞窟が壊れるとこの近辺の人たちは困ります。
 ですからそれを阻止するために固定化の魔法がかけられている。ということなんです。」

「へ〜・・・・・・でも、それだとこの湿気の少なさは少し矛盾しているような気がするんだけど・・・・・・。」

「鋭いですね。この湿気の少なさは、もともとこの洞窟特有のものなんです。
 余計な湿気でこの洞窟の環境を潰されては魔宝石が発掘されなくなるので、
 入り口には余計な水分を入れないように「シャット」の魔法がかけられているんでしょうね。」

「ねえ、そのシャットって魔法はどのぐらい防げるの?」

「えーっと、確か・・・・・・水分の場合だと、大体雨ぐらいまでなら何とか防げたはずですけど、
 魔法攻撃によるものは、大概防げませんね。水分の密度が違いますから。」

「へぇ、そうなんだ。魔法ってすごいんだね。・・・・・・・・・魔宝石の発掘現場ってあとどれぐらいかかるのかな?」

「もうそろそろ着きますよ・・・・・・・・ほら、ここです。」

発掘現場は通路とは違い縦横ともにとても広く、最も洞窟らしい場所だった。
洞窟の中は少し日の明かりが差し込んでいて明るい。
フィーナがカンテラの明かりを消す。それと同時に明人は壁のほうへと向かう。

「とりあえずどこか適当に壁を掘ればいいのかな?」

明人は核金をつるはしに変形させてフィーナに尋ねた。つるはしを持って尋ねた明人を見て、フィーナはくすくすと小さな声で笑う。

「アキトさん。その必要はありません。」

それを聞いた明人は「へ?」と声を出しながらフィーナのほうへ向く。

「あそこに円形のくぼみがありますよね。」

「うん。」

「そのくぼみに手をかざしてみてください。」

明人はフィーナに言われたとおりにくぼみに手をかざす。

「こうかな?」

フィーナの方を見て聞いてみたそのとき、くぼみから透明な樹液に似た液体が滲み出てきた。
その液体はしばらくするとくぼみいっぱいに広がり、丸い石のような形になるとその液体は固まった。
その出来事に明人は驚きを隠せなかった。

「フィ、フィーナ!こ、これは?」

「それが魔宝石です。」

「これが!?」

明人は魔宝石を食い入るように見る。

「珍しい色の魔宝石ですね。私もこの色の魔宝石を見るのは初めてです。」

「そうか・・・これが・・・・・とりあえずこれを・・・・・」

明人が言い終わらないうちに何者かによって魔宝石が奪われた。

「へっへー、魔宝石もーらい!!」

魔宝石を奪ったのは、十三歳ぐらいの外見の少年だった。

「じゃあな〜♪」

そういって、少年は出口に向かって走り出す。

「な・・・・・ま、待て〜!!!!!」

明人はそう叫ぶと走り出し、さっきの少年を追いかける。フィーナはなにか呪文のようなものをつぶやいて走り出した。

ここで冒頭に戻る。





「ぜぇ・・・ぜぇ・・・な・・・何で・・・・あんなに・・・・・早いんだよ・・・・・。」

「それはですね。あの子が何か身体能力向上の魔法を使っているからですよ。」

明人は息絶え絶えだが、フィーナはさっきまでと同様普通に明人に話かけている。

「な・・・・・・なんで・・・・・そんなに・・・・・フィーナは・・・・・・普通に・・・・話せるの・・・・・・・・・・。」

「えーっと、それはですね・・・・・・・説明はまた後でします。もうすぐ洞窟の出口です。」

フィーナが言うまで明人は気がつかなかったが、目の前に円形の小さな光が見えていた。
円形の光は前に進むたびにだんだん大きくなっていく。大きな光を抜けたその先にあった光景は、
さっきの少年が棍棒を持った二足歩行する毛むくじゃらの生物に止めを刺されそうになっているところだった。





「へへ・・・・簡単だったな。」

少年はポケットに魔宝石を入れて走り続ける。

「ハァ、ハァ、・・ま・・待て〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」

「その魔宝石を帰しなさい!!」

さっきの二人の声が聞こえてくる。

(しつこいなぁ〜あの二人・・・・・・・。)

少年は余裕からか、後ろに振り返ってから叫ぶ。

「や〜だよ!だって俺もこれがほしかったんだから!!」

少年は前に向き直りさらに加速して走り出す。
しばらくすると洞窟の出口が見え始める。少年は出口を見てニヤリと口元をゆがませ、さらに加速する。
少年が洞窟の外に出るとそこには、棍棒を持った二足歩行する毛むくじゃらの生物、トロールが待ち伏せをしていた。

「へっへっへ・・・・・おで、あたま、いい。」

少年はあせった。ここに来たときに、モンスターなんて居なかったからだ。

(なぜこんなところにトロールが、もう少しであの二人から逃げ切れるのに・・・・・・・。)

「ここで、おまえ、まちぶせしてた。」

(まちぶせ?クソ・・・・・俺はつけられていたのか・・・・・。)

少年は自分が犯したミスに気づけなかったことにいらだった。

「おまえ、ぜったい、ここ、もどってくるとおもった。だから、まちぶせ、した。」

(トロールってやつは本能で動くんじゃなかったのかよ・・・・・。待てよ・・・・?)

少年はさっき奪ったポケットの魔宝石のことを思い出す。

(そうだよ・・・・・・俺にはこれがあるじゃないか・・・・・。)

少年は口もとをゆがめてニヤリと笑う。

「おまえ、さいごと、さとった?だからわらう?」

トロールは少年が笑ったのを見て問う

(これさえあれば・・・・・・・俺は・・・・・・・)

「ちがう、俺はお前に絶対に勝てる。だから笑ったんだ。」

少年はポケットから魔宝石を取り出し、それをトロールのほうに向ける。

「へへ・・・・・喰らえ!!「ファイアボール」」

しかし、なにも発動しない。

「あれ?ちがうのかな?・・・・・じゃあ、「サンダー」!!」

さっきと同様、何も発動しない。

「ええい、じゃあ「ウォーターアロー」!!・・・・・これも駄目か、「グラビティ」!!」

「おまえ、ばか?」

トロールは、少年のむなしい行動を無視して、棍棒で魔宝石を持っている手を殴り、少年の手から魔宝石を落とさせる。
少年は棍棒で殴られた手を押さえながらうめき叫ぶ。

「おで、ばかなこ、きらい。」

少年は手の激しい痛みもあってトロールに激しい恐怖を覚え、震え始める。

「・・・ひ・・ひぃ・・・・。」

「ばいばい。」

トロールが少年に別れを告げると棍棒を振り上げ止めを刺そうと振り落としたそのとき少年の後ろのほうから声が聞こえてきた。

「や・・・・・やめろ!!!」

「ああん?」

トロールが棍棒で止めを刺すのをやめて明人のほうを見る。

「ぜぇ・・・・ぜぇ・・・・・殺しちゃ・・・・・だめだ・・・・・・・。」

トロールは、顔を上に向けて馬鹿笑いを始める。

「お前・・・・おれを?・・・・むり、おまえ、まりょく、ぜんぜんかんじない。」

「それでも、・・ハァ・・・ハァ・・・・とめる。」

トロールは秋との言葉を聞くと馬鹿笑いを急にやめて静かになる。

「おまえ、おで、なめてる?」

「なめてなんかいない。俺は確かにその魔力って言うのがないのかもしれない。それでも、お前を止めて見せる。」

「おで、おこった。おまえも、あたま、わるい。」

トロールはとろそうな見た目とは違い、俊敏な動きで明人をめがけて棍棒をふるう。

「うわ!?あ・・・・危なかった。・・・。」

明人は紙一重で棍棒を交わすが、棍棒を持った二足歩行する毛むくじゃらの生物はまた明人をめがけて棍棒を振るう。

「うおっと・・・・・・やられっぱなしでいられるか、行くぞ!!」

明人は核金を取り出し、それを双剣にしてから構える。

トロールは、丸い球体が双剣になったのを見て少し警戒するが、その双剣に魔宝石がはまっていないことを確認すると、
安心したのかまた棍棒による攻撃を仕掛けようと明人目指して走り始める。

「アキトさん、それはトロールと呼ばれるモンスターです。
 棍棒による攻撃は絶大ですが、隙が多いのですぐに攻撃する機会が来るはずです。」

フィーナが、さっきの少年を背負いながら言う。

「私はこの少年を安全な場所に連れて行くので、後のことはよろしくお願いします。
 この少年を安全な場所に連れ行ったらすぐに戻りますので。」

「分かった。」

明人が了承すると、フィーナはすぐにこの場から立ち去った。
フィーナが立ち去った後、トロールによる猛攻撃が始まった。
トロールが棍棒を縦や横、斜めに振り回すたびに明人は攻撃を紙一重でかわし、双剣で攻撃を試みる。
が、ただの双剣ではトロールに傷をつけてもトロールの魔力によって強化された自然治癒力により、すぐに傷が回復してしまう。

「これじゃキリがない。何とかしないと・・・・・・。」

何かないかと打開策を考えていた明人の視界に光る何かが映った。

(あれは・・・・・魔宝石!)

明人は魔宝石の存在に気付くとすぐに魔宝石のほうへ近づこうとする。しかし、トロールの猛攻がそれを許さない。

「ほで、どうした?どうした?そででおわりか?」

「クソ・・・何とかしなくちゃ・・・・・・・・・・・そうだ・・。」

明人は何かを思いつき、どの方向に魔宝石があるか確認した後で隙を作ってみる。
その隙をトロールは見逃さず、攻撃を仕掛ける。

「もらった!!」

明人は棍棒による攻撃を防ぐが、その衝撃で吹き飛ばされる。

「うわ・・・・・・って〜・・・・やっぱ痛いな・・・でも、これで・・・・・・。」

明人はすぐそばにあった魔宝石を取ると、明人は双剣にあるくぼみに魔宝石を入れようとするが、
そのとき明人の後ろの方からトロールの声がしてきた。

「どうやら、しょうぶは、ついたようだな?だな?」

明人が振り返ると、目の前に棍棒を上に上げて待機しているトロールがいた。

「なかなか、おもしろかったぞ。おまえ。」

明人は、早急に魔宝石を双剣にはめ込む。
笑いながらトロールが棍棒を振り上げて明人にさよならの言葉を送った。

「ばいばい。」

トロールが棍棒を振るったその瞬間に、明人は双剣をトロールに刺しこんだ。
刺された瞬間棍棒がトロールの手から落ち、悲鳴を上げた。
「お・・・・・おまえ・・・・・おでに・・・・・なにを・・・・・・し・・・・・・」

トロールは言葉を言い終える前に淡い光の集合体となって消滅した。棍棒はその場に残っている。

「な?・・・トロールが・・・消滅・・・・した?」

明人は自分でも信じられないといった顔をしている。

「俺が・・・・・・やったのか・・・・・。」





少年を安全な場所まで運んできたフィーナは、明人がトロールにやられてはいないかと心配で、急いで洞窟の入り口前に戻ってきた。

「明人さん・・・・・・?」

何もなかったはずの場所で明人が立っている。フィーナはそれを変だと思い明人に近づく。

「何をしているんですか?アキトさん。」

フィーナが明人を覗き込むと明人は手を合わせ、目をつぶりながら泣いていた。

「ど、どうしたんですか?」

「ん?フィーナか。・・・ハハハ・・・かっこ悪いところ見られちゃったな。」

明人が涙を手でぬぐう。

「俺が倒したトロールを埋葬したんだよ。死体はなぜかなくなっちゃったけど棍棒が残っていたからさ。」

明人のすぐ前の地面には、木の棒を十字架にした簡易的な墓が作られていた。すぐ後ろの地面にはトロールの棍棒が突き立っている。

「フィーナ、さっきの子は?」

「あぁ、あの子なら付近の村に連れて行きました。少々放心気味でしたが・・・。」

「そっか・・・・・とりあえず無事なんだね。」

「はい。」

明人はその答えを聞いて安心したのか、ほっとため息をつく。

(アキトさんって優しくて、面白い人ですね。殺されかけたというのにその相手の事で泣くんですから・・・・・。)

フィーナはクスっと微笑む。
それを見て明人は「俺、なんか変なことした?」と聞いてきたが、なんでもないというと、
「そうか」といってこれ以上何も聞いてこなかった。

(それにしても、まだ戦闘経験もないアキトさんがトロールを倒したという事実、それにあの尋常じゃないほどの体力と回復力、きっとアキトさんには普通の人とは違う何かがありますね・・・・・。それに・・・・・・)





「長。アキトさんになぜ、聖魔力の事を話してはいけないんですか?」

「あの若者にこの事を話すのはまだ早すぎる。時が来ればわしがあのものに全てを話す。
 良いな?絶対に話すでないぞ。わしはこれより話すことができるゴーレムとやらが古文書や秘術の書などに載っておらぬか調べる。」

「・・・分かりました。失礼します。」





(それに、昨日報告しに行ったときのあの長の態度。長は何かを隠していますね。)

「フィーナ。大丈夫?無理してない?」

「え?いえ、なんでもありません。大丈夫です。」

「そっか、ならいいけど。じゃあ戻ろうか。ルマニに。」

「はい。」

明人とフィーナはルマニに戻るために歩き始めた。





あとがき
リメイク版という形で今までにep-0、1、2と投稿させていただきましたが、やっぱ改訂版のほうがあっているかな?
ということでリメイク版と表示するのはやめました。