「それでは、行ってきます。」

「うむ、気をつけてな。」

「気ぃつけろよ。アキト!」

「ジャンクさんもね。」

「おう!」

「じゃあ、行ってきます。」

明人とフィーナの後姿はだんだんと小さくなっていき、やがてジャンクの視界から消えた。

「行きゃあがったな・・・・。」

「本当はついていきたかったんじゃないのかね?」

長がジャンクの事を察したらしく、「すまないのう」とでも言いたげな顔で問いかけてくる。

「そんなことたぁねえ・・・ただな・・・・・・あいつは少しばかり優しすぎんだよ。それがちょっと心配になってだなぁ。」

「ほっほっほっほ。心配は入らんよ、何せわしの秘蔵っ子のフィーナが明人と一緒におるからのう。」

長は胸を張ってジャンクに言い聞かせる。
が、ジャンクの目に映る長は魔力が微塵にも感じられないそこら辺にいる老人とさして変わらないように見えた。
その所為で逆にジャンクは不安を覚えた。

「なんか・・・余計に心配になってきやがった。」

「ウム!?それは一体どういう意味かね?言うてみよ。」

「今のあんたを見たそのまんまの意味だ。」

「うぬぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・悔しいが弱体化した今のわしには反論できぬ。」

「ハッハッハッハ・・・・・・まぁ、余談はここまでにしようぜ。それで?俺はどこに行きゃあいいんだ?」

「ここじゃよ。」

「ここ?」

「そう、ここじゃ。」

「門番かよ!」

「何を言うておる。村の門番というものはとても重要な仕事なんじゃぞ?わしが御主を信頼しておらねばこんな事は頼まぬわい。」

「・・・それもそうだな。悪かったな・・・爺さん。」

「いいや、分かればそれで良いよ。さてと、わしはいろいろと忙しいのでの。これで失礼するよ。」

「ああ、ちなみにこの門番の仕事って何時間交代なんだ?長さんよう。」

「・・・・・・・・丸一日門番じゃ。」

「な、なにぃぃぃぃ!?!?聞いてねぇぞ、そんなこと。」

「食事はあとで誰かに持って来さすからのう。それじゃあ頼んだぞ、ジャンク殿ー。」

長は老人の動きとは思えないほどの速さで村の中へ入り、木製の門を閉めた。

「な!・・・・あのじじぃ・・・・・俺をハメやがったな・・・・・。」

ジャンクはふつふつと沸く憎悪を門番が終わった後、長にぶつけることを決める。

「しかし本当に弱体してやがんのか?あの爺さんの動き、かなり洗練されていた気がするが・・・・・・・・
 さぁってと、切り替えが肝心だな。・・・・・門番の仕事を勤めるか。」

ジャンクは門のすぐそばにあったタルに腰を下ろし、草原の風景を眺めた。

「いまさらだが、いい景色だな。」

しばらく風景を眺めていたジャンクはぶつぶつと独り言を言い始めた。

「傭兵紛いなことをしていた俺が今、人間の村を守るための門番をしているなんてな・・・・。まったく、皮肉なもんだ・・・・・。」

ジャンクは過去を思い出して苦笑する。

「魔物と共にいれば俺は魔物としては見られず、壊れたやつ(ジャンク)と呼ばれ、
 人間と接してみれば化け物(モンスター)呼ばわり・・・・・・俺は・・・あいつに感謝しないとだな・・・。」

「あ、あのぉ・・・・・・・」

門の法から声がしたのでジャンクが門のほうへと目を移すと、門の内側から見た目10歳ほどの少年が門の隙間から顔を覗かせていた。

「ん?」

「門番の人・・・・・・だよね?」

「門の前でこういうことしてる人って言ったら門番以外に誰がいる?」

「うん、そうだよね。」

少年は門から外に出ると少し恐れながらジャンクのほうへ近づいていく。

「・・・・・これ、門番の人に渡して来いって言われたから持って来たんだけど・・・・・・・・。」

少年は包みを両手で持ってジャンクの目の前に出す。

「おお、そうか。ありがとうな、ぼうず。」

ジャンクはその少年の頭をくしゃくしゃとなでたあと、包みを受け取った。

「魔物って聞いたからとても怖かったんだけど・・・・・・・豚のおじさんは良い人だね。」

「いい人、か・・・・・おりゃあいい人なんていわれる立場の人じゃねえ・・・・いい人ってのはだな。ぼうず。」

「「りゅーく」。」

「ん?」

「「りゅーく」これが僕の名前。「ぼうず」じゃない。」

「あっはっはっはっはっは・・・・・・・・・確かにぼうずにも名前があるもんなぁ。悪かったなぁリューク。」

「そうだよ。豚のおじさん。」

「リューク、俺の名前は「豚のおじさん」じゃねぇ。「ジャンク」だ。」

「うん。分かった。ジャンクおじさん。」

「それでいい。」

「あ、僕もう行かなくちゃ。じゃあね。ジャンクおじさん。」

「おう、リューク。」

リュークは急いで門の中へと戻っていった。

「さっきの包みの中には何が入ってやがるんだ?」

ジャンクが包みを開けるとその中にはおにぎりが三個入っていた

「にぎりめしか・・・・・・なかなかいけるな。こりゃあ・・・・・・・。」

ジャンクはおにぎりをほおばりながら門番を続けた。





「ジャンクのおじさん。いい人だったな。」

リュークは先ほどの出来事を思い出す。

「お勉強が終わったら、門に行こうかな?」

リュークはジャンクが門番をしているといいなと思いながら「まなびや」(*1)へ急いだ。





ジャンクが門番をしてからどれだけの時間がたっただろうか。
日の光は傾き、空は赤く染まりきっている。
「アキト達が出てったのは早朝だったから、・・・・・・もうそろそろ帰ってくる頃だな。
 ったく、こういう体をうごかさねぇ仕事は俺にゃああわねぇな。さっさと明日になってほしいもんだ。」

ジャンクは体を動かすことがしたくてうずうずしている。

「なら、俺たちがおまえの体を動かさせてやろうか?」

目の前に広がる草原に突然2体のオークの姿が現れた。

「人間の村の門番をしているとは・・・落ちるところまで落ちたな?我らが一族のブラックリスト、「殺さず」のジャンク。」

一人は背がやや高く少し痩せ気味体型オーク。
もう一人は対照的に背が低く、少し太り気味体型のオーク。ジャンクとは違い二人とも肌の表面に毛が生えていない。

「「殺さず」?なんだ?そりゃあ?俺は二つ名なんて持った覚えはねぇぞ?」

「それはそうだろうな。俺たちの間でお前をそう呼んでいるだけなんだから。」

「な、何でそんな二つ名がついたか知ってるか?お前、知ってるか?」

「落ち着け、ブラム。」

痩せ気味のオークは、太り気味のオークに言い聞かせる。

「ごめん。ゴラ兄ちゃん」

「さあな?んなこと俺が知るわけねぇだろ?つーか、知りたくもねぇ。」

ゴラと呼ばれるオークは不適に笑う。

「これは俺の信念を貫いた結果だ。」

「俺たちの名を上げるためにも、「殺さず」のジャンク。おまえには死んでもらおう。」

「へっ!!やれるもんならやってみな。」

「ブラム!手はずの通りに行くぞ。」

「わ、わかった。ゴラ兄ちゃん。で、何するの?」

そのブラムの間の抜けた言葉を聴いて、ゴラは一瞬固まった。

「なにするの?じゃない。あれほど言っただろう。作戦を忘れるなと。」

「えーっと、なんだっけ?」

ブラムは完全に作戦の内容を忘れているらしい。
ゴラは頭を抱えている。
ジャンクはその光景にあきれていた。
(俺、帰ってもいいかな?)




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あとがき
改訂前より内容は進んでいません。楽しみにしていた方々には本当に申し訳ありませんです。