予定よりも遅くフォムルの洞窟から村に帰ってきた明人たちが始めに見にしたもの。
それは明人には想像もつかないものだった。
草や道に残ったおびただしい血痕、地面に転がっている「何か」だった肉の塊、
ここに来たとき、そして出かけたときにはなかった剣山のような鋭い岩の塊、その全てが明人に不安を募らせた。
もし、村の人が死んでいたら。
もし、何の装備もなかった自分に武器をくれた長さんが死んでいたら。
もし、初対面なのに、自分に付いて行くと言って親切にしてくれたジャンクさんが死んでいたら。
そんな考えがさらに明人をさらに不安にさせる。
明人はそんな考えが堪らなくなり、村の中へと走り出す。フィーナも不安の色を浮かばせて、明人を追うように走り出した。
「死んだ・・・?ジャンクさんが・・・・・」
「すまなかったな・・・。わしらはあの子の、リュークの叫び声が聞こえるまで、
ジャンク殿が戦っていたということにぜんぜん気づけなかったのじゃ。」
明人はしばらくした後、ジャンクが埋められた場所を長に聞いて外へ向かい歩き始めた。
フィーナはそんな明人を見て思わず、声をかけて慰めようとするが、長はフィーナの右肩を軽くたたき、静止させる。
「やめておきなさい。フィーナ。」
「ですが・・・!!」
「今は、一人にさせておくのがいいじゃろうて。」
「・・・・・・・」
泣きたい気持ちを押し殺して、明人はジャンクの埋められている墓場へと足を運んでいる。
墓場は「村はずれの小高い丘」にあるとのことだった。
村から墓場への道にはモンスターよけの結界が張ってあるらしく、この村付近の弱いモンスターは現れない。
しばらくすると、小高い丘とそこに建つ無数の墓石が見え始める。
近づけば近づくほど、墓石はくっきりとより鮮明に見えた。
明人が墓場についてからジャンクの墓を見つけ出すまでにさほど時間はかからなかった。
墓場の中に一つだけ、人が扱うには余りにも大き過ぎる見慣れた大剣と斧。その二つが地面に突き刺さっている。
明人はジャンクの墓の前で腰を降ろし、墓石に話しかける。
「ジャンクさん。・・・俺・・・どうしたらいいんだろう・・・。どうしたら・・・・・・」
明人が目を閉じてもう一度目を開けると、そこには一面、真っ白な世界が広がっていた。
ああ、これはきっと幻覚か夢だな。と明人は自覚しながらその世界を少し見回し、歩き始める。
明人は思う。もしこれが夢ならいいことが起こればいいのに。と。
しばらく歩いていると明人は見慣れた後姿を見つけた。
黒い甲冑に大剣と大斧、そして茶色の体毛。
明人はすぐに分かった。「ジャンク」だと。
明人はすぐにその姿をめがけ走り出し、呼びかける。
「ジャンクさん!!」
ジャンクが明人のほうに振り返る。
((ん?どうした?アキト。))
「何で、どうして、」
明人はなみだ目になってジャンクに訴えかける。
((なぁに、くよくよしてやがるんだ。男ならびしっとしやがれ。))
明人は涙を拭き、明人なりに背を伸ばしてびしっとした。
((それでいい))
ジャンクは首を縦に振った。
((すまねぇな、アキト。俺も「おめぇたち」と一緒にこの先にある未来を見たかったんだが、
おりゃあどうもお前とは一緒に行けねぇらしい。それじゃあ元気でな、アキト。))
微笑みながらそれだけを言うとジャンクはまたもとの方向へ向き直り歩き始める。
「待ってくれよ。ジャンクさん!!」
明人がジャンクの後を追おうとする。が、
((おめぇは・・・こっちに来ちゃいけねぇ。))
明人の声が届いた瞬間にジャンクが振り返り明人を制止させる。
((よく聞け、アキト。人にはそれぞれ道ってやつがある。もちろん俺にも、おめぇにもそれがある。
それがどんなに苦しくて、辛くて、長くてもお前の命が終わるまでその道を歩き続けなきゃならねぇ。
俺の道はおめぇと少し交わっただけで終わっちまったが、おめぇの道はまだ続いている。そうだろう?))
明人は無言のまま、その場にたちつくす。
((だからおめぇは、おめぇが進むべき道を進め!!これは俺とおめぇとの約束だ。))
「分かったよ、ジャンクさん。」
返答した瞬間、明人の視界が急にかすんで見えなくなっていく。
そしてまもなく完全に視界が消え、気を失った。
明人の視界が完全になくなる前に見たジャンクの顔は微笑んでいるように見えた。
「ここは・・・・・・」
明人が周りを見渡す。そこに在る物は、木製の壁、木製のテーブル、木製の椅子。どうやらここはどこかの民家か、宿屋らしい。
明人がしばらくボーっとしていると、ドアの開く音がした。
明人がその方向へ目線を移すと、そこにはフィーナが立っていた。
「よかった。アキトさん、目が覚めたんですね。」
フィーナはほっと胸をなでおろし、明人のほうへ近づく。
「心配したんですよ。あれからしばらくの間、アキトさんの帰りを待っていたんですけど、
なかなか帰ってこなかったのでアキトさんを迎えにいったんです。そしたらアキトさんがジャンクさんのお墓の前で倒れていたので・・・」
「そっか、心配かけてゴメン、フィーナ。・・・もう、大丈夫だから。」
明人は自分の右手のほうに目線を落とし、決意を込めて右手を握り締める。
「本当に大丈夫だから・・・・・。」
(ジャンクさん、俺は、俺が後悔しない、俺だけの道を歩くよ。)
「そうか。アキト殿、旅立つのか。」
「はい。俺がいつまでもここにいるわけにいかないし、それに元の世界に返る方法を見つけにいかないといけないから。」
「フム、そうか・・・・・。」
「ところで、本当にいいんですか?こんな服をもらっちゃって。」
明人は今、こちらの世界に来たときの服ではなく、首周りに白いマフラーのようなものを巻き、
上着は朱色の半そでの服に白い長袖の服をつなげたようなもの、
黄色の理解できない文字のようなものが刻まれている朱色のズボンを穿いている。
「いいんじゃよ、それは・・・・・・ジャンク殿が働いてくれた分の給料と思ってくれればのう・・・・・・・。」
長はジャンクの名をつぶやくと暗い表情にになった。
「ハイ・・・じゃあ、遠慮なくもらっていきます。」
「アキト殿には悪いことをしたのう・・・・・。わしらがもっと早く外の騒動に気づいておれば・・・・・・。」
「そんな、長さんが謝ることじゃないですよ。もう、すんだことですから・・・・・。」
「そう言ってもらえると助かるのう・・・・・・・。ところでアキト殿、御主いくあてはあるのかのう?」
その質問に少し明人は戸惑った。行き先を決めるどころか、この世界にどんな町がどのようなところにあるかを知らないからだ。
「いや、その・・・・・ありませんけど・・・・・・。」
「じゃったら、セントラルへ言ってみるとよい。あそこなら何かわかるかもしれないからのう。
セントラルへ行くには、ルマニを出て十日ほど西南に進むと城下町が見える。そこがセントラルじゃ。」
「何から何まで、本当にありがとうございます。ところで・・・・・・西南ってどっちですか?」
(本当に大丈夫なのかのう・・・・。)
長は明人のことがだんだんと心配になってきた。それと同時にドアが開き、フィーナが現れる。
「なら、私がアキトさんのお供をします。」
フィーナの発言を聞く限り、どうやらここに入るタイミングを計っていたらしい。
「フィーナか?・・・・フム・・・・・、良いじゃろう。御主ももうそろそろ旅に出てもおかしくない年じゃしの。」
「はい。ありがとうございます。長。」
フィーナはぺこりとお辞儀する。
「ではフィーナの仕度ができるまでしばらく待ってもらってもよいかな?」
「その必要はありません。もう準備はできています。」
「ハハハ・・・・・じゃあ、これからもよろしく。フィーナ。」
「はい。こちらこそお願いします。」
「じゃあ・・・そろそろ行きます。長さん、さようなら。」
「いってまいります。」
明人とフィーナは長に手を振りながら歩く。
「うむ、二人とも、たっしゃでな。」
ルマニの町を背に、明人とフィーナは歩き続ける。セントラルを目指して。
「二人とも行ってしまったのう。」
長は寂しそうにつぶやいた。
「さてと・・・わしも動かなくては・・・のぉ?」
長は誰もいないはずの場所に話しかけた。
話しかけた場所には誰もいないはずだったが、その場所から三つの人影が現れる。
その人物たちは、森の中でゴラを始末した三人組だった。
NEXTエピソード7
-あとがき-
改訂前(前回のep4)よりも読みやすくなっていたでしょうか?
もしご指摘あればお願いします。
あと、感想も・・・
まとめた感想。
改行とかは、こちらで勝手にやらせていただきました。
では、久しぶりにまともな感想をば。
素人目の俺ですが、ファンタジー系の王道をなぞりつつ、構成はいい出来だと思います。
できたら、「」の他にも『』を使った方が見やすい場合もあると思います。
あと、「・・・」ですが、「……(三点リーダ)」を使った方が正しいようです。
まあ、それらは個人の自由なので強制はしませんが、一応アドバイスということで。
気になる点はそのくらいですね。
では、また次回で。