希望を求めて 「・・・ここ何処」

ラピスは目を覚ますと回りを確認した。
まず自分の体・・・問題ない。
次に自分が何処にいるか・・・わからない。
アキトは・・・アキト!!!

「アキト!!アキト!!!!」

呼びかけてもアキトからの返答はない。 ラピスは自分の近くにアキトがいない事がわかると急いで探しに行こうとした。

「あ、良かった目が覚めたのね」

第三話

決意


そこにかすみが扉を開けて姿を現した。
ラピスはかすみを確認するとすごい勢いで駆け寄った。

「アキトは、アキトは何処!」
「落ち着いて、ね。あの人なら隣で寝ているわ」

ラピスはそれを聞くとかすみのわきを通り抜け走って隣の部屋に行った。


「アキト!」

ラピスが部屋に入って明人を確認する。
アキトはまるで死んでいるかのように寝ている。
アキトの胸は静かに上下している。
しかし、ラピスはそんなことを確認しないくらいあせっていた。

「大丈夫よ。熱もだいぶ下がったし、ただ寝ているだけだから」

ラピスに追いついたかすみがアキトの状態を答えた。
ラピスは不安そうな顔をしもう一度確認をとった。

「本当に?本当にもうアキトは大丈夫なの」
「ええ・・もう大丈夫」

かすみはラピスを優しく落ち着かせるように話しかける。

「それにお腹すいてるでしょ。こっちにご飯を用意したから一緒に食べましょ。」
「いい、アキトが目を覚ますまでここで待つ」

ラピスは今ここでアキトから目を離すとどこかに行ってしまうのではないかという気持ちになっている。
そのために、今食事を取るという気持ちにはならなかった。

「でも、ご飯食べておかないといざという時力が入らないし、それにアキトさんが目を覚ました時元気じゃないラピスちゃんを見たらきっと悲しむわ。だから、ね」

ラピスは暫く考え一度たずねた。

「アキト、いなくならない?」
「ええ、大丈夫だから、ご飯を食べましょ」
「わかった」

ラピスはもう一度寝ているアキトを確認し部屋から出て行った。




(・・・・ここはどこだ・・・)
アキトは宙に浮いているような感覚を感じていた。
自分は死んでしまったのか。
だったら御似合いだ。
今まで自分のしてきたことを考えるとこの惨めである死に方は似合っていると感じた。
そんなことを考えていると不意に誰かの気配を感じた。
アキトは気配のするほうに向くが誰も居ない。
いや、よく目を凝らしてみると何か人のようなものが見えてている。

「誰だ」
「・・・・・」

アキトは遠方にいる人のようなものに尋ねたが返事がない。
不審に思い近づいていくとその人の輪郭がはっきりとしてきた。
そして、だんだん顔がわかってくるにつれてアキトは驚愕した。

「・・ユ・リ・・・カ」

其処にいたのはかつての自分の妻であったユリカである。
その脇にはルリの姿もあった。
アキトはユリカとルリに触れようとし手を伸ばしたが途中でそれをやめた。

未練がましい。
今ここにいる自分はユリカを、ルリを捨ててここにいる。
それなのに彼女たちに触れようとするとは・・・

そんなことを考え、再びユリカたちの方に顔を向けるとユリカが何か喋り始めた。

「アキト・・・ア・・・も・・分・・辛い・・・・・悲しい・・・・た・・も・・・・許・・・の・・・見・・・」

ユリカの言葉は小さすぎてよく聞こえなかった。
もう一度何を言っているのかを聞こうとすると目の前が一気に明るくなった。

「まだアキトさんここに来てはだめですよ」

一瞬ルリの声が聞こえたと思うと意識が遠のいった。




・・・
・・・・・
・・・・・・・
アキトは目を覚ますと違和感を感じた。
そしてその違和感の正体に気が付く。
視力が、触覚が戻っている。
アキトはその事に驚いた。
とりあえず体を起こし周りを確認し部屋にある鏡に映った自分にさらに驚いた。
黒かった髪が銀髪に、瞳の色もラピスと同じ金色に変化していた。
アキトは暫くの間自分に起こったことが信じられなかった。
そのとき扉が開く音がしたので其方に顔を向けた。

「ア・・キ・ト」

見ると洗面器とタオルを持ったラピスが立っていた。

「・・・ラピス」

アキトがラピスの名前を言葉に出すとラピスは持っていた洗面器をその場に落とし、はじかれたようにアキトに駆け寄り抱きついた。

「アキト・・・アキト・・」

アキトは抱き付いてきたラピスの背中を優しくなでながら心配を掛けたことについて謝罪した。

「ラピス・・・心配を・・・掛けたな。すまない」
「如何したのラピスちゃん!・・・・目が覚めたんですね」

洗面器を落とした時の音に驚いたかすみが急いで駆けつけたがその様子を見て胸をなでおろした。

「あなたは?」
「あっ!すいません。自己紹介がまだでしたね。私は藤井かすみといいます。よろしくお願いします、アキトさん」
「どうして俺の名を」
「ラピスちゃんがそう呼んでいたんですよ。ですから」
「なるほど・・・・この様子を見るとあなたが助けてくれたようだ。感謝のしようがない」
「そんな、気にしないでください困った時はお互い様ですよ」

かすみは微笑みながらゆっくりとアキトの傍まできた。

「いや、それでもだ。本当にありがとう」

アキトはラピスを、そして正体不明な上こんな怪しい男を助けてくれたことに心から感謝した。

「そういえばこちらの自己紹介がまだだったな。改めて、天河アキトだ」
「ふふ、じゃあこちらももう一度改めまして、藤井かすみです。よろしくお願いしますね」

そういってアキトに向けて微笑んだ。

「少し聞くが、俺はどのくらい寝ていたんだ?」
「私たちが助けて今日でちょうど三日ですね」
「そうか・・・」
「そうだ、お腹空いてますよね。今お粥か何か作ってきますから待っていてください」
「いや、俺は」
「だめですよ。三日も寝ていて何にも食べていないんですから。それにさっきも言ったじゃないですか、困った時はお互い様です」

かすみはアキトが断ろうとするとその言葉を遮り食事を作りに部屋から出て行った。
ラピスはその間ずっとアキトに抱きついていた。
まるでもう絶対に離さないというように。

暫くしてかすみがお粥を持って部屋に戻ってきた。
そしてアキトの前に湯気が立ち上りおいしそうなお粥がおかれた。

「どうぞ召し上がってください。お口に合えばいいんですけど」

アキトは一瞬躊躇ったがお粥をすくい口に含んだ。

「っ!!!」

カシャン
かすみは片付けをしようと立ち部屋から出ようとしていたところに蓮華が落ちる音がしてそちらを振り向いた。
其処には涙を流しながら固まっているアキトの姿があった。

「あの、なにか良くないところでも有りました?」

アキトははっとした。

「いや、すまない少し手に力が入らなかったんだ気にしないでくれ」
「・・・・・そうですか、何かありましたら遠慮なく言ってください。私は隣の部屋に居ますから」

そういってかすみはアキトの表情か少し心に引っかかったがそれ以上何も聞かず部屋から出て行った。


(どうして、どうして感覚がもとに戻っているんだ)
アキトは自分の五感が正常になっていることに改めて驚き、そして嬉んだ。
そして少しでも嬉んだ自分を罵った。

(いまさら感覚が戻ってどうなる。
今まで自分のしてきたことを考えろ。
俺は・・・・俺は)

そこでアキトは考えを中断しどうして子の様な、感覚が戻ったのかをラピスに聞こうとした。
しかしラピスを見るといつの間にか寝ていた。

「ダッシュ、聞こえるか」
『はい、何でしょうマスター』
「どうして俺の感覚が戻っているんだ」
『それは薬が効いたためだと思われます』
「薬?どういうことだ」
『ラピスがマスターを追いかける前にマスターの体内にあるナノマシンを中和する薬をドクター・イネスから預かっておりました』
「・・・・そうか」

アキトはその答えを聞きもう二度と会うことの出来ないイネスに感謝した。
そして新たな決意を胸に刻み込む。
ラピスが幸せになるようこの命を掛けて守って行こう。俺のような人間ではなく、ちゃんとラピスを守ってくれる者が現れるまで必ず・・・




かすみは先ほどのことを思い出し考えていた。
アキトの先ほどの表情は何だったのだろうか。
まるで何かに驚いているような。
しかし、その後に見せた表情は何か後悔をしているような。
そんな複雑な表情であった。

「何かよほどに事情があったのかしら」

いくら考えても答えは出ない。
その答えを持っているのは本人だけである。
その答えを無理に聞くことはいけない事だという思いが有りあの場では聞かなかった。

「いつか話してくれるかしら」

そこでかすみはふと思った。
どうして私こんなにあの人のことを考えているのだろう。
あの人にアキトに会ってからのことを振り返ってみてなんとなく納得した。
それは先ほどラピスに抱き付かれ少し驚いたあとの彼の彼女に向ける眼差しであった。
その眼差しの中には、彼女に対する慈しみや優しさなどがあった。
しかし、食事を食べた時の瞳にはそれとは逆のまるで何かに後悔するようなそして何か蔑む様な瞳であった。
そして、その対象がまるで自分だというように・・・

そんなことを考えていると部屋の前を誰かが横切った気がして扉を開いた。

「アキトさん!何処に行こうとしてるんですか、まだ寝てないといけません」

アキトは、失敗したと思ったが表情には出さなかった。

「・・・少し知り合いに連絡を取ってくるだけだ」
「だったらここでと取ればいいじゃないですか」
「いや・・・少し連絡方法が特別でな。心配してくれるのは有りがたいが」
「・・・・ふぅ、わかりました。でも、必ず返ってきてくださいね」
「わかっている。あの子をもう悲しませたくはないからな」

そういってアキトは出掛けていきかすみはアキトを玄関までいき見送った。
アキトはかすみの姿が見えなくなるとその場にとどまった。

「・・・ジャンプ」

アキトが一言呟くと光が体全体を包み次の瞬間その場には誰もいなかった。




『お帰りなさいませ、マスター』

アキトはユーチャリスのブリッジに姿を現した。

「ダッシュ、俺の体に何が起こったか調べる。手伝え」
『わかりました。準備をいたしますので5分後に治療室にいらしてください』

アキトはダッシュからの返事を聞き治療室へ向かった。



『マスター検査結果が出ました』
「俺の体はどうなっていた?」
『まず五感の方ですが、九割がた元に戻っております。さらに以前ナノマシンの影響により得られていた筋力などはそのままのようです。マスターの髪と瞳の色が変化したのは薬の副作用の影響です』
「そうか・・・・ダッシュ俺は後どのくらい生きられる」
『寿命の方はなんともいえませんが、あと数年ということはないと思われます。なにぶん検査器具がそろっていない為正確には』
「わかった・・・つまり今すぐに死ぬということは無いんだな」
『はい、それは保障できます。もう暫く時間をいただけれはもう少し正確に出すことは出来ますが』

アキトはその報告を聞き安堵のため息をついた。

少なくともラピスを任される人、ラピスが自分と同じくらい、いや自分以上に心を開ける人が現れるまでは生き続けることが出来る。
その様な人が現れるまでは必ず生き抜いて見せよう。
どんなことも、この命を賭け守り抜いていこう。

アキトは再び決意を自分の胸に刻み付けるよう何度も繰り返した。


「ダッシュ、この船にある戦闘シミュレーターにはシオンの機体データは入っているのか」
『はい大丈夫です。戦闘シミュレーターを使用いたしますか?』
「ああ、感覚が戻ったことで機体操縦にどのような影響があるか知っておきたい。今すぐ出来るか?」
『はい、可能です』

アキトはそれを聞くとシミュレーター室に向かった。