希望を求めて 米田はアキトが部屋から出ると一息ついた。
アキトからの質問。
おそらくあの男はこの劇場の地下に何かがあるということに気づいている。
完全ではないだろうが何かを掴んでいることは間違いない。
だから、最後の質問をした。『俺たちの敵か』と。
その質問の返答は半ば予想していたものと同じだった。
しかし、その時の彼の眼。
その眼に一瞬息を呑んだ。
自分はこれでもかなりの修羅場を潜り抜けてきたと思っている。
あのような眼をしている者も何人も見てきた。
しかし、先ほどの眼はそれ以上である。
それほど冷たい眼。
しかし、それ以上に悲しい眼でもあった。
彼の経歴を調べてもまったく資料が出てこない。
まるで存在自体がないように。

「どんなことがあれば、あんな眼になるのかね」

しかし、彼の隣にいた少女を説得する時の雰囲気、それは先ほどのものとはかけ離れている。
おそらくそれが彼本来の姿なのだろう。
そう思うと最後の質問はいらない物だったのかもしれない。
確かに経歴不明の怪しい男であるが悪いやつではない。
こう見えても人を見る眼は人並み以上に持っていると思っている。
そう思うとふと笑みが浮かんでくる。
これから彼がこの劇場で働くことでどう変わっていくか、それを思うと年甲斐もなくわくわくしてきてしまった。

第五話

出会い・U


かすみは支配人室から出るとドアの前で待っていたみんなを連れて食堂に向った。

「かすみさん、何ですかその包み?さっき天河さんが持っていましたけど」

さくらはかすみが持っている包みが何か気になり尋ねてきた。

「これ、これはアキトさんが作ったお弁当よ」
「え、天河さんお料理出来るんですか」

人を見た目で判断するのは良くないと分かっているのだが如何せんあの姿である。
とても料理が出来るとは思えなかったのでとても驚いていた。
そんなさくらをみてかすみは苦笑した。

「とっても上手なのよ。今朝朝食を作ってもらったんだけどとても美味しかったわ」
「え、かすみさん天河さんと一緒に住んでいるんですか!!」
「違うわよ。三日ほど前に倒れているのを助けたの。それで、今朝助けてもらったお礼ということで朝食を作ってくれたの」
「あ、そうなんですか」

かすみの返答を聞き由理はとても驚いたが、その後に続いた言葉で納得した。
そんな会話をしているうちに食堂に到着した。
食堂には残りの花組みのメンバーが食事をしていた。

「あ、マリアさん、かすみさん、カンナさん」
「あらさくら。みんなそろってこれから食事?」
「はい、一緒にいいですか?」
「ええかまわないわよ」

そのときマリアはアイリスの隣に知らない少女がいるのに気が付いた。

「あら、その子は?」
「あ、そうでした。この子はラピスちゃんって言うんです」
「へ〜、可愛らしい子じゃないか。あたいは桐島カンナって言うんだ。よろしくな」

そういってカンナはラピスの頭を撫で様としたがラピスはその手をかわしかすみの後ろに隠れた。
そんな様子にさくらたちは苦笑し、カンナは頭の後ろをかいた。

「ありゃ、嫌われちまったかな」
「そんなことじゃないと思いますよ。少し人見知りがある子なんです」

かすみはそういってフォローを入れた。

「私は、マリア・タチバナ。よろしくね」

そう言ってラピスに笑顔を向ける。

「おいすみれ、おめえもこちに来て自己紹介ぐらいしろよ」

カンナはそう言って少しはなれたところでお茶を飲んでいた女性に声をかけた。

「そんな大きな声をださなくても聞こえていますわ、まったく野蛮なお猿さんは」
「何だと」

かすみと呼ばれた女性はこちらに来て自己紹介をした。

「私は神崎すみれですわ」

すみれの紹介が終わり食事を始めようとしたとき、ウェイターの格好をした一人の銀髪の男性が食堂に入ってきた。

「ん、どうしたんだいかすみさん」

かすみの様子がおかしいのに気づいたカンナがかすみにたずねる。
そして、みんなすみれの見ている方に目を向ける。

「あの、どちら様ですか?」
「アキト」

さくらがその男性が誰だか分からずたずねると同時にラピスが男性に駆け寄った。

「え・・・・アキトさんなんですか?」
「ふむ、そうだが、どうした?もしかしてこの格好が似合っていないか」
「いえそうじゃなくて」

そこに居た全員がアキトの顔を見て言葉を失った。
特にバイザーをかけていた時を知っているさくら、椿、由理は特に驚いていた。

「アキトご飯食べよ」
「何だ、まだ食べてなかったのか」
「ええ、いまここにいる人の自己紹介をしていたんです」
「そうだったのか。今度からここの食堂で働くことになった天河アキトだ、よろしく頼む」

そう言ってアキトは軽く頭を下げた。
そして、傍に来たラピスに視線を向ける。

「ラピス、自己紹介はしたのか」

ラピスは、少し考えた後首を横にふった。

「ラピス自己紹介は大切なんだから、きちんとするんだ」
「ラピス・ラズリ」

アキトはラピスのそんな様子に手を頭に置き小さくため息を付いた。

「すまないな、この子は人見知りが激しくてな。根はいい子だから仲良くしてやってくれ」

アキトはそういうともう一度頭を下げた。

「そういえば、そちらの方たちはこの劇場の人かな」
「あ、すいません。この劇場の役者をしているマリア・タチバナですよろしく」
「神崎すみれですよろしく、天河さん」
「あたいは、桐島カンナってんだよろしくな。・・・あんた何か格闘技か何かしているかい?」
「?まあ、たしなむ程度にはしているな」
「だったら、食後の運動に少し手合わせをしないかい」
「それはかまわないが」
「じゃ決まりな。めしくい終わったら中庭でやろうぜ」
「分かった」

そういって、食事を始めるために席に付き弁当を開いた。

「うわ、美味しそうですね」
「そうね。これ、かすみさんが作ったんですか?」

マリアは、先ほどのさくらと同じような質問をした。

「いいえ、これ全部アキトさんが作ったんですよ」
「まあ、そうなんですの。聞きましてカンナさん、貴方もこのくらい料理が出来ないとお嫁の貰い手がなくなりましてよ」
「け、よくゆうぜおめえも料理は出来ねえだろうが。それにおめえはその性格をなおさねえと嫁の貰い手どころか彼氏すら出来ねえよ」
「何ですって」
「何だよ」

今にも一触即発の状態にマリアが小さくため息を吐きカンナとすみれの間に入った。

「もう、カンナもすみれも喧嘩しないの」
「だってよマリア」
「カンナ」
「分かったよ」
「すみれもいいわね」
「仕方ありませんわね」

アキトは少し驚いたが、他の者はいつもの事なのだろうか平然としていた。

「それじゃあ、いただきましょうか」
「そうだな」

かすみがこれまでの騒動をまとめるように言い食事が始まった。

「あ、これとっても美味しいです」
「本当、とても美味しいです」
「そうか、喜んでもらって何よりだ」

アキトの弁当を食べたみんながそれぞれ感想を言う。
昼食が一段落し一服しているとカンナから不意に思ったこと言った。

「いやーうまかった。天河さんほんと料理上手だな」

アキトはそれに軽く微笑むだけでこたえる。

「なあ、どうして食堂の料理人として働かないんだい?その服食堂の給仕のだろ。どうしてだい」
「・・・・・一身上の都合というやつだ」
「ふ〜ん。そういう事ならしょうがないけど、もったいないね〜こんなに料理が上手なのに」

カンナはそれ以上は聞かず湯飲みに注いだあるお茶お飲むと席を立った。

「それじゃあ行くとするかな。じゃあ相手の方よろしく頼むぜ天河さん」

そう言って中庭の方に向うカンナの後についてった。
その後ろにラピスは走って追いかけ追いつくとアキトの手を握る。
そんなラピスの様子にどこかほほえましいものがあったが自分に依存しすぎていることがアキトは少し不安になった。

(ここでの生活が始まればラピスの俺への依存度も軽減されるだろう)

そんなことをアキトは思ったがラピスが自分から離れていくことを考える。
少し寂しいものを感じてしまった。
そんな自分が少しおかしく思わず苦笑してしまった。
ラピスはそんな様子のアキトをすこし不思議に思ったが今はアキトがそばにいる為あまり気にしなかった。

「あの、アキトさん本当に大丈夫なんですか」

アキトと一緒に中庭についていっているかすみがアキトに尋ねてきた。
アキトはその場に立ち止まり顔だけをかすみの方へ向け不安を取るよう軽く微笑む。

「心配ない。目が覚めてから体の調子はすこぶるいいからな。まあ無理はするつもりはないから」

かすみはアキトのその顔を見て一瞬息が詰まった。
それはとても優しい温かみのあふれる顔。
僅かな間時が止まったのかと錯覚する。
アキトはそんな様子のかすみを少し不思議に思い今度は体後とかすみの方に向ける。

「どうした?」

アキトが訊ねるとかすみは少し驚いた。
が、直ぐにいつもの調子に戻った。

「あ、いえ何でもありません」
「そうか、何かあるなら言ってくれ。力になれるかは分からないがそのときは手を貸す」
「うふ、ありがとうございます。そのときはよろしくお願いしますね。それよりも本当に大丈夫なんですか」
「かすみさんは心配性だな。大丈夫だ心配するな、といっても無駄なんだろうが・・・・」

アキトはそういって少し考え一つ提案をあげた。

「そうだな、もし俺が無茶をして怪我をするようなことがあればかすみさんの言うことを一つなんでも聞くというのはどうだ」

アキトはかすみにそう言った。
そのときアキトは少し手を引かれた。

「どうしたラピス?」
「ラピスも」

アキトはラピスがなにが言いたいのかが分かりラピスとつないでいる手を離し頭にのせクシャクシャと撫でた。

「わかった。ラピスもな」

その返事にラピスは納得し再びアキトの手を握った。

かすみは再度確認するようにもう一度訊ねる。

「そんな提案はどうでもいいです。本当に無茶はしないんですね。・・・・・・・・・はぁ、分かりました」

かすみはどこか納得していないようではあったが表面上は納得してくれたようだ。
アキトはそんなかすみを見て苦笑してしまったがかすみににらまれたのですぐに引込めた。

「ふむ、少し時間がたってしまったな、少し急ぐか」

かすみにそういってアキトは中庭へ向った。
アキトとかすみとラピスが中庭に着くとカンナだけでなく一緒に食事をしたメンバー+支配人がそこにいた。
「どうして支配人がここにいるんだ?」
「なに昼飯を食った後少しブラブラしてたらみんなここに集まってたからよ。何か面白れえことがあると思ってな」
「なるほど」

アキトは支配人がなにを考えているか凡その予想が付いた。
つまり彼は自分の力がどの位のものか知りたいのだ。
彼女との組み手だけで全てが分かるとは思ってはいないだろうが、目安にはなるだろう。
別に自分はこのことを隠すつもりはないが今全てを出すつもりもない。
まあ、それはこれから組み手を行う彼女の力しだいなのだが。
そう思い彼女の方に目を向ける。
カンナはその視線に気づいたのか此方に向いた。

「こっちの準備はもういいよ。天河さんの方はどうだい?」
「ああ、此方ももう大丈夫だ何時始めてもかまわないぞ」

アキトとカンナは僅かに距離をとる。
カンナは体を半身の状態にし両手を胸の前まで持上げ軽く構えた。
アキトのほうは構えは取らず足を肩幅程度に開いただけである。

「なるほど。空手をしているのか」
「へ〜良く分かったね」

カンナは僅かに驚いたがそれ以上に楽しくなってきた。

「そういう天河さんは構えなくていいのかい」

アキトはそれに笑みを見せてこたえるだけだった。
カンナはそれ以降何も言わなかったがより緊張感を強めた。
暫くにらみ合いが続いたが先に動いたのはアキトだった。
アキトはカンナの顔にめがけてこぶしを繰り出す。
カンナはそれを受け流すとお返しとばかりにアキトの顔に上段回し蹴りを放った。
アキトはその回し蹴りを腕を上げることで防いだ。

「なかなかのものだな」
「それは、ありがとよ。それよりもあたいもこう見えて女なんだよ、女の顔に向って打ってくるなんて」
「なに、こういう組み手では女や男なんてものか関係ないと俺は思っていてな。戦う者の一人として常に真剣に対峙するようにしている」

カンナはそれを聞きよりうれしくなった。今まで自分と対峙してきた者たちは心の何処かで相手は女なんだからと思っていることが見えていた。
しかし、この人は自分を女ではなく一人の格闘家として対峙してくれている。
そのことを思うと自然に笑みが浮かんでくる。
アキトとカンナは再び距離をとった。
そして今度はカンナから仕掛けた。

カンナは打ち合うごとに楽しくなってきた。
自分とここまで打ち合える人物はそんなに多くはない。
しかも、まだ彼は全力を出していないだろう。
そう思うと、絶対に全力を出させてやろうという気がおこってしまいより力が入っていく。


アキトは自分の体の感覚が元に戻ることにより起こった問題をシミュレーションをした時に気づいた。
確かに感覚が戻ることで一般生活においての問題は無くなった。
しかし、こと戦闘においては大きな問題が出た。
今までリンクのおかげで感覚をある程度回復はしていたが一般の人よりも悪いことに変わりは無かった。
そのため戦闘時に得られる情報は視覚から得られる情報が殆どだった。
しかし、感覚が戻ることで今まで得られなかった情報を得ることが出来るようになった。
そのことで僅かながら迷いが生まれた。
得られる情報は多いほどいいのだが、アキトの場合今まで得ることの出来なかった物なので迷いが生まれてしまったのである。
また視覚も戻ることでリンク時にあったタイムラグが無くなったのも問題であった。
今まではタイムラグがある状態が普通であった。
その感覚に慣れてしまっていたのでシミュレーション時に違和感を覚え何時もなら何てことも無い状況でも撃墜されることが起こってしまった。
こればかりはやはり慣れていくしかない。


早い段階で気づいて良かった。
アキトは直にそう思った。
もし、北辰クラスの敵が現れた時今のままではかなり厳しい。
その為このカンナとの組み手はまさにうってつけであった。

カンナとアキトの組み手を見ていたかすみ達はとても驚いた。
カンナの実力は良く知っている。
帝都全域を探してもおそらくカンナに素手で勝てる人はそうはいないだろう。
今この場にいない花組みの隊長である大神もカンナと素手での組み手では勝てない。
そのことが花組み全員を驚かせた。
再び、カンナとアキトの距離が開き両者の動きが止まる。

「いや〜すごいね天河さん、あたいとここまで打ち合える人と会うのは久しぶりだよ」
「そうだろうな。ここまでの使い手そうはいない」
「そう言ってくれるのはうれしいけど、天河さん、あんた本気出してないだろ」
「どうしてそう思うんだ」
「なに、簡単だよ。あんたぜんぜん攻めてきてないからね」
「ただ其方の攻撃が激しく攻めてがないだけかもしれないだろう」
「いや違うね。そんなことならもっと必死になってあたいの攻撃を防ぐだろうけど、天河さんは何かを確かめるように余裕を持って防いでる」
「・・・・・・そうか」

アキトは僅かながら驚いた。
其処まで気づくとは。
アキトも久しぶりに楽しくなってきた。

「もうあんまり時間もないし次の一撃で決めないかい」
「いいだろう」
「最後くらい本気を出してほしいね」

アキトはそれに軽く笑って答える。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
今まで以上の緊張感があたりを包み込む。
次の瞬間互いに動いた。
カンナは今自分の持てる力の全てをかけた突きを放った。
タイミング,威力申し分ない。
決まったと思った。
しかし次の瞬間アキトの体がぶれたかと思うとカンナの視界は空を向いていた。
そしてアキトはカンナの顔に突きを放ち寸前でとめる。

「決まりだな」
「いや〜あたいの負けだ。最後のは決まったと思ったんだけどね」
「いやいい攻撃だった。流石にかわしきれなかったな」

そう言ってアキトは突き出している腕をどけ今度はその手をカンナに差し出した。
カンナはそう言うアキトの顔を見ると頬が擦り切れ血が滲んでいた。
それを見ると少しは一矢報いることが出来たと思い少しうれしくなる。
そして出された手をとり立ち上がった。

「また、相手をしてくれるかい?」
「かまわないが」
「そうかい!ありがとよ天河さん」

カンナはその返事がうれしく自然と笑みが漏れる。
そして、サクラ達がアキトの周り集まってきた。

「すごいですね。カンナさんと組み手をして勝っちゃう人初めてみました」
「大神さんでも勝てなかったのにね」
「大神?誰なんだ」

アキトは自分の知らない者の名が出て少し気になりかすみに尋ねた。

「今年の春までここでもぎりとして働いていた人なんです」
「今はいないのか」
「ええ、1年ほどの出張みたいなものですね、それに出ていて、来年の春に帰ってくる予定なんですよ」
「そうか」

ドッカ〜〜〜〜ン

かすみと話していると部屋のひとつが爆発した。
アキトは何事かと思い驚いたがかすみ達は多少驚いてはいたもののまたかというようにすぐにおちついた。
驚いているアキトにかすみは苦笑した。

「そんな驚かなくても大丈夫ですよ」
「しかし」

確かに知らない人がいれば驚くことは当たり前である。

「あれはほらあそこ」

そういってかすみが示すほうに目を向けると顔を黒く汚した女性がいた。

「彼女がどうかしたのか?」
「彼女がさっきの爆発の原因です」

アキトはなぜ彼女がと不思議に思った。

「おっかしいな〜。今度はうまくいくと思ったんやけど」

そう首をかしげながらこちらに向かって来る。

「紅蘭今度は何を作ろうとしたの?」

作る?
アキトはその質問からなぜ爆発が起こったのかなんとなくだが予想できた。
おそらく間違いないだろう。

「いやな、今回こそはと思って完成した宴会君・改を起動させたんやけど・・・・なにが悪かったんかな?」
そういって腕を組みもう一度首をかしげると、アキトに気づいた。

「ん、見かけん兄さんが居るけどどちらさんでっか」
「あ、こちらは今日から劇場の食堂で働くことになった天河アキトさんよ紅蘭」
「そうなんか。初めましてうち李紅蘭いいます。よろしゅう」
「天河アキトだ。よろしく頼む」

そう言って手を差し出した。
紅蘭も分かったのか手を出し握手をする。
そうしていると服を引っ張られた。
引っ張られるほうを見るとそこにラピスがいた。
アキトはそのことを不思議に想いラピスに尋ねる。

「どうしたんだ」
「アキト、無茶して怪我したからお願い聞いてもらう」

ああそんな約束していたな。
アキトはここに来るまでの道中で約束したことを思い出した。

「無茶はしてはないんだがな。まあ、怪我をしてしまったのも事実だしな」

アキトはそういいラピスにどんなお願いをするか尋ねた。

「わかった。かすみさんも何かあったらいってくれ。それで、ラピスはどんなお願いがあるんだ」
「一緒にお風呂に入って」

ラピスがそれを言った瞬間周りの空気が凍った。

「・・・・・・ラピスよく聞こえなかったからもう一回いってくれないか」

(最近いろいろあったからな。きっと聞き間違えたに違いない!きっと!・・・たぶん・・・・おそらく)
アキトはそう思うことで自我を保とうとする。
が、やはりそれは聞き間違いではなかった。

「一緒にお風呂に入って」

ラピスはもう一度今度は先ほどよりも大きい声で答えた。

「ラ、ラピスそれはなしにしてほかのお願いにしてくれ」
「いや。一緒に入って」
「だから、ラピス・・・・・」
「前は一緒に入ってくれたのに」

アキトが何とか説得しようとし言葉を出そうとすると、ラピスがさらに爆弾を投下した。
それを聞いた回りのメンバーは先ほどよりさらに冷たい視線をアキトに送る。

「アキトさん、どういうことなんですか?私たちにも分かるよう説明してください」

そしてかすみが笑顔でたずねてきた。
すばらしい笑顔で。
しかし・・・・しかし開かれた目が笑っていない。

「だからな、それは」
「それは、なんですか」

アキトは一度ラピスのほうに視線を向け再びかすみに視線を戻した。

「ラピス、少し待っていてくれ」

そう言ってアキトはかすみ達を連れて少しはなれた。

「で、理由は何ですか」
「ここに来る前に、ラピスが孤児だったと話したな」
「はい」
「当時ラピスは水に何かしらのトラウマを持っていたらしくてな。出会った当時はラピスも小さかったから怖がらせないために一緒に風呂に入っていたんだ。今は一人で入れるようにはなったんだが」

アキトはそういうと苦笑する。

「すいません。そんな理由があるなんて」
「気にする必要はない。このこともいずれは話さないといけなかったかもしれないしな」

そう言うとアキトはラピスの所に戻ろうと歩き出す。

「アキトさん」
「?なんだ」
「一緒に入らないですよね」
「当たり前だ」

アキトはかすみの質問を少し顔を引きつらせながら答える。


その後ラピスを説得するのに30分ほど掛かった。




管理人の感想。
生きてるよ、俺は。

さて、感想感想。
サクラ大戦は正直、何も知りません。
なので、内容の感想といってもあまりうまくいえないんですね。
でも、これは原作知らなくても充分楽しめそうです。
この投稿ペースだと、俺には到底できそうに無い、「完結」が出来そうですね。
では、これからも頑張ってください。
一つ言うことがあれば、擬音は強調しなくても大丈夫ですよ。