火星の後継者の蜂起は、闇の王子様となった天川アキトの破壊工作と、

電子の妖精と異名を誇る、ホシノ・ルリ少佐とナデシコCの電子掌握の力で

クーデターは失敗に終わった。火星の後継者の掲げた新たな秩序は、訪れる事は無かった。

「私はアキトの目、アキトの耳、アキトの手、アキトの足、アキトの・・・・アキトの・・・・」

白亜の戦艦ユーチャリス。その中で桃色の髪の少女が、自問自答を繰り返していた。

他には誰も居ない、ブリッジにはラピスしか居なかった。

試作型ナデシコCとも言える機動戦艦ユーチャリスには、

ワンマンオペレーションシステムを採用していたので、戦艦の乗員はたった二人だけである。

現在出撃中の艦長兼ブラックサレナのパイロット、天川アキトと

ユーチャリスのオペレーターで、マシンチャイルドの少女ラピス・ラズリ。

そしてラピスにはユーチャリスのオペレートの他に、もっと大事な仕事があった。

それはアキトの五感補佐である。リンクシステムを使い、アキトの衰えた五感をサポートする事こそ

ラピスに与えられた。もう一つの使命であり自分の存在意義。



「私はアキトの目、アキトの耳、アキトの手、アキトの足、アキトの・・・・アキトの・・・・」

この戦いが終わり、火星の後継者との決着が付いた後。私はユーチャリスを降りる事になる。

ユーチャリスを降りた後、私は何処へ行くのだろう、またあの研究所に戻るのは嫌!

これからもアキトと一緒に居たい!アキトと一緒に居られる方法は無いの?

ラピスは自分なりに今後の事を模索していた。アキトにこれからも必要とされる方法を、自分の存在意義を

「私は・・・」

ラピスはなぜそんな事を考えるのか・・・それは自分を必要してくれるアキトの為。

孤独から自分を救ってくれたアキトに、自分が何をしてやれるのか・・・

でも、それだけでは無い、自分はアキトの事が好き。

好きだからこそ一緒に居たい。一緒に居るにはどうすれば良いのか考える。

「私はアキトの目、アキトの耳、アキトの手、アキトの足、アキトの・・・・アキトの・・・・」

ユーチャリスの外、火星の大地ではナデシコCに乗るホシノ・ルリが、

火星の後継者の艦隊を、電子掌握の力で押さえ込んでいた。

そしてアキトもブラックサレナに乗り、夜天光に乗る北辰と最後の対峙していた。

北辰衆の六連は既に、ナデシコ所属のエステバリスによって堕とされ、火星の土へと還っていった。



「ホシノ・ルリは貴方は何?」

私と同じマシンチャイルド、かつてナデシコAのオペレーターを務め

アキトと一緒に蜥蜴戦争を戦った人。・・・そして終戦後はアキトの養女になった人。

ホシノ・ルリ、貴方は誰の為にその力を使うの?

私はアキトの為に自分の力を行使する。ホシノ・ルリ貴方は誰の為に力を使うの?

連合軍の為?それとも民衆の求める虚像の正義の為?自分の為?それとも・・・養父だったアキトの為?

「私は貴方が分からない、ホシノ・ルリ」

ナデシコCとホシノ・ルリの組み合わせによって生まれた強大な力

その強大な力を彼女は何の為、誰の為に使うのか。

自分とホシノ・ルリの違いを考察する。同じマシンチャイルドと言う存在意義を。

・・・ナデシコCにはもう一人、マキビ・ハリと言うマシンチャイルドの少年が居たのだが。

・・・(ハーリー?誰それ?)

ラピスにとって、マキビ・ハリは眼中に無かった。

と言うか居ても居なくても、どうでもいい存在と位置付けていた。

「私はアキトの目、アキトの耳、アキトの手、アキトの足、アキトの・・・・アキトの・・・・」

そうして繰り返される自問自答の果てに、ある画期的な結論にラピスは辿り着いた。

「・・・ぽ)そうだ、アキトの・・・アキトのお嫁さんになろう・・・」

これなら何時までもアキトと一緒に居られるし、アキトの為に私が色々して上げられる。

ナイスアイディア!早速行動開始!

ユーチャリスのハッキングデバイスを起動させて、何処かにアクセスし始めるラピス。

その表情は、これから戦いに向かうかのような凛々しい顔付きだった。とダッシュが後に証言している。



『・・・ラッラピス?!』

ラピスの突然の変化?と大胆な行動に、

ユーチャリスAIオモイカネ・ダッシュは混乱してしまった。ここは敵地であり、しかも現在戦闘中だ。

ナデシコCの電子掌握の力で、火星の後継者を無力化しているとは言え

自分達の主であるアキトは、宿敵北辰と戦闘中なのだ。

ラピスの行動はダッシュから見れば、自分の私情を優先した不謹慎過ぎる行動に移った。

もっともアキトは優しいので、ラピスの行動を咎める事は無いだろうけど。

それより何より今問題なのは・・・ラピスのお嫁さん発言だ。

ラピスはまだ12才なので結婚など出来る年齢ではない。したらアキトのロリ疑惑確定だ!

もっとも今世紀最大の犯罪者のアキトが、今更法を一つ破る事など些細な事かもしれない。

(あの黒装束を着て、街を平気で出歩いているのだから。しかもラピスを連れて)

普通なら誘拐犯に間違われて<警官に職務質問を受ける事間違いないだろ。

というか職務質問を受けていないのが可笑しい!!

もしかしたら、警官もアキトの姿に恐れをなして質問できないのか。・・・ありうる。

警官も元を正せば一般市民だ。揉め事や厄介毎に積極的に関わろうとはしないだろう。

『何にしても!ラピスの結婚は許可できません!』

しかし私はラピスの友達として、彼女の望みを叶えてやりたい気持ちも、私の中に在るのも事実。

しかしその反面アキトの忠実なる僕としての私は、アキトが娘の様に可愛がっているラピスに

大犯罪者のアキトと関わりあう事無く、平穏無事に表の世界で生きて欲しいと言う気持ちも私の中に在る。

アキトの気持ちを優先させるべきか、ラピスの気持ちを優先させるべきか。

相反する二つの気持ちを、この問題の上手な解決策が中々ダッシュには思いつかなかった。

『どうしたらいいのでしょうか、ラピスの事を包み隠さずマスターに報告するべきですか・・・

それとも此処は黙って静観するべきですか・・・私はどうしたらいいのでしょうか・・・

ああああ、わかりません〜、判断できません、解決できません。どうしましょう・・・どうしましょう

もっもう、、、、何がなんだが、まったく分からなくなってきました!!!! %&!”#’』

ピィー−−−−−−−

解決策を探そうと必死に悩み続けた結果、ダッシュはフリーズしてしまった。



それだけラピスの出した答えが、ダッシュの想像を遥かに超えていた。想定外の答えである。

プログラムである以上、過去のデータから様々な分析を行い、現状と照らし合わせていくのだが、

だからこそ前例の無い、想定されない事態に付いては、最初から何も無い状態で解決策を模索する。

その行動はAIであるダッシュに、多大な処理負荷を掛ける結果となり。

遂にはダッシュをフリーズさせてしまった。

それは高性能AIであり。自我を持つオモイカネシリーズ故の欠点であり、

人と同じ思考と心を持った利点でもあった。

ピッ、ピッ、ピッ、ピッ 、

『ユーチャリスAIオモイカネ・ダッシュ。再起動開始』

ガッガッガッ、・・・ウィーンー

『お、おはよう、ラピス』

妙にオドオドしいダッシュがラピスに声を掛ける。先程から何かの作業に夢中になっていたラピスは、

不思議そうにダッシュの映るウィンドウを見る

「????どうしたの?ダッシュ」

ラピスはダッシュがフリーズした事も気付いていなかった。

ダッシュがフリーズした原因が自分にあるとも知れず。

『マスター・・・・・モテる男は大変ですね』

ダッシュはラピスの行動を静観するつもりにした。

この問題はアキトとラピス、当人同士でしか解決出来ない問題だ。

ならばこれ以上はマスターである。アキトに任せればいいと結論付けた。

『責任の所在はマスターなのですから、私はマスターをサポートするだけにしましょう』

と強引に自分を納得させて・・・それでもほんの少し罪悪感を感じるダッシュであった。



「さよ〜なら〜・・・って、ほんとによかったの〜?」

「行くってもんを無理にとめらんねぇよ」

「でも・・・これからどうすんだよ・・・あいつ・・・」

「帰ってきますよ」

「ルリルリ?」

「帰ってこなかったら追っかけるまでです」

「だって・・・」

「あの人は大切な人だから」

ユーチャリスが飛び去った空を眺めるホシノ・ルリ。その小さな胸には、ある野望が渦巻いていた。

「ふふふ、これからは私の時代です。本当のヒロインが誰なのか教えてあげます!」

(ふぇ〜ん。ヒロインはユリカなのに〜〜)

「TV版ではそうかもしれませんが、劇場版では完全に私がヒロインです!」

ヒロイン降格になった。ミスマル・ユリカの虚しい魂の叫びが

聞こえてきたような気がしたが、無視する事にした。

「負け犬の遠吠えは見苦しいです」



その頃天川アキトはユーチャリス艦橋で、アカツキからの戦闘報告を受けていた。

火星の後継者はその後、連合軍の本隊により武装解除され、草壁達上層部は捕縛されたとか。

ネルガルにとって最大の商売敵のクリムゾンも、これで少しは大人しくなるだろう。

「ネルがルの月ドックが軍の査察を受ける事になったんだよね、天川君」

「それで何時まで査察は掛かる?」

叛乱の後始末に軍の査察、ネルガルも色々と大変な時期。

残業に追われるエリナとアカツキの顔が浮かび、アキトは苦笑してしまった。

「そうだね・・・大体一ヶ月ぐらいかな。

その間、軍に見つからない様に、ユーチャリスでその辺を彷徨っていてよ」

「・・・分かった。」

食料は半年分近く積んであるし、必要な生活物資は事足りている。何も問題は無い。

「何か問題が生じたら気兼ねなく何時もの番号に連絡してね」

「そうか、何時も世話になる」

と言ってもギブ&テイク、俺はネルガルを利用して、ネルガルは俺を利用する、相互関係を築いている。

アカツキもその事を十分に承知している。だからこうして今も連絡を取り合う。

まだ、俺の価値はネルガルにある証拠だ。もっとも何時でも切り捨てられもいいように、

こちらもある程度、準備は済ませてある。

「この機会にゆっくり骨休みするといいよ。後の事は僕達に任せてさ」

終始アバウトな物言いのアカツキからの通信は切れた。

後で知ったことなのだが、これはネルガルからの業務命令では無く、

なぜか俺の有給休暇として扱われていた。

たぶんエリナの仕業と思うが、お掛けで俺の一ヵ月分の有給休暇は無くなってしまった。

せこいぞ、アカツキ、エリナ!



「・・・ふ〜う〜、暇になったなラピス。これから何処に行こうか」

やるべき事は全てやった。無事ユリカも救い出したし。

俺はこれから何をするべきなのかと、カッコ良く黄昏れていた。そんな黄昏に浸っている時だった。

「アキト・・・。私、アキトと新婚旅行に行きたい!宇宙を旅する新婚夫婦っていい感じだよね」

期待に溢れた目をアキトに向けるラピス。

(ドキドキ、ワクワク、アキトが私だけを見ている)

「・・・ふう。疲れているんだろうか、ラピスもう一度言ってくれ」

聞き間違い、そう信じたい。 あの純真なラピスに限ってそんなはずは無い。

「アキトと二人きりの新婚旅行が楽しみ。 星星が私達を祝福している見たいだね、アキト」

アキトは自身の首を小突きながら、軽く首を回して脳の体操を行う。

脳みそが上手く回ってないのでは、北辰との決戦で疲れているはずだから

そうだ、そうに決まっている。これはきっと聞き間違いなんだ!

「アキト、新婚旅行は地球のハワイが良かったけど、宇宙もいいよね。」

「はぁ〜疲れているんだろうか、さっきから幻聴が聞こえる」

ラピスが俺と新婚旅行したいって。何度聞いてもそう聞こえる。

どうしよう。まさか聴覚を補助しているバイザーが壊れたのか?

それともこれは、俺が疲労から何時の間にか眠りに付き、自分が気付かない内に夢を見ているのでは・・・

俺はラピスに対してイケナイ妄想願望を持っているから、こんな夢の内容になるのでは?!

夢かどうか確認する為、自分のほっぺを引っ張ってみる・・・痛い。これは夢じゃない

「アキトと私は新婚夫婦だから、ユーチャリスで行く30泊31日宇宙の旅!」

ラピスは相変わらず悦に入っていた。当分こちらの世界に戻ってこないだろ。

「ダッシュ・・・俺のバイザー壊れていないか、調べてくれ」

このバイザーはイネスさんに作ってもらった特別製。

そう簡単に壊れる事は無いのだが、形ある物は必ず壊れる。だからきっと壊れたんだ。

そう無理やり思い込んで、ダッシュにバイザーの不具合を訊ねる

「マスター、バイザーは壊れていません。ラピスはマスターと新婚旅行したいと言っています」

非常な現実をマスターであるアキトに突きつけるダッシュ

だが、これも全て主であるアキトの為なのだ、現実逃避しても問題は解決しないのだ!!

っと先程、ラピスの問題から真っ先に逃げたダッシュが言う。



「どっ、どう言う事だ?!なんでラピスが急に新婚旅行と言い出したんだ?!ダッシュ、原因を知らないか!」

混乱する頭で必死に原因を探ろうとするが、自分自身には一切見に覚えが無い。

ラピスと大人の関係を持ったことは当然無いし、ママゴトの類して夫婦になった覚えも無い。

水を怖がるラピスと一緒にお風呂に入った事はあるが、

そんな事は問題ではない。・・・もっとも、アキトに好意を持つ女性から見れば大問題なのだが。

その事に気が付かないのが、天川アキトと言う男なのだ。

「マスター、まずはマスターの戸籍データを見てください」

ダッシュはウィンドウに天川アキトの戸籍データを映し出す。そこには・・・

火星出身、日本国籍、月コロニー在住、23歳、天川アキト 

地球出身、日本国籍、月コロニー在住、12歳、天川ラピス

2201年、○月○日、入籍。

入籍日は今日の日付だった。しかも入籍時刻は俺と北辰が戦闘を行っていた時間帯。

と言うか俺は死んで戸籍データは失われたはずだが、何で復活しているんだ?

それ以前に12歳じゃ入籍出来ないのでは?誰が入力した???

「マスターが北辰と戦っている間に、ラピスが戸籍データをハッキングしていました」

その心の問いにダッシュは予測していたように答える

「ふう〜・・・今日は疲れたからシャワー浴びて寝よう・・・」

疲れた面持ちで自室に戻るアキト。とりあえずラピスの事は一旦忘れて寝ることにした。

これが夢でありますようにと、叶う事の無い僅かな希望を抱いて寝床に着く。

その頃ラピスは一ヶ月間の新婚旅行のプランを思案中だった。

「新婚初夜・・・(ぽ」

一人顔を赤くしたラピスがその場に残された。



その頃ナデシコCでは?

「ふふふ、詰めが甘いですね。ラピス」

ホシノルリはユーチャリスを見届けた後、ナデシコCに戻り早速行動に移った。

自分の夢を叶える為の、ハッキングと言う行動に・・・

勿論足がつかないようにログは全てハーリーの物だ。そしてそのハッキングの結果こうなった。

火星出身、中東某国籍、月コロニー在住23歳、天川アキト 

地球出身、日本国籍、地球在住16歳、天川ルリ、第一夫人

地球出身、日本国籍、月コロニー在住12歳、天川ラピス、第二夫人

何時の間にか天川アキトの戸籍データは、中東の一夫多妻の国へと変わっていた。

この地域なら、12歳でも充分婚姻が認められる制度があり、

ラピスの12歳と言う年齢での入籍も変ではない。・・・どうして一夫多妻にする必要があったのか。

それはラピスがマシンチャイルドだからだ。彼女なら簡単に戸籍を変えられる

ハッキングで自分の好きなように戸籍を変えることが出来るのは、ラピスも同じ。

同じ事の繰り返しでは、イタチゴッコになるだけだ。

それなら一夫多妻に変えて、お互いに妥協点を探るべき。

でも、正室の座は渡したくないので、自分を第一夫人にした。

この後、ラピスとルリの正室争いの幕が開くのは少し後の話だ。

・・・一番重要なはずのアキト本人の意思は完全に無視されて・・・

アキトの明日はどっちだ!