戦ってやる。最後の最後まで。灰色の機動兵器バンクシアにラピスと共に乗り込み、

機体内部にあるブラックサレナと、同型の灰色の対Gスーツを装着する。

ブラックサレナ程のアクロバットな運動性も、高機動ユニットの様な機動性も無いので

急激なGなど掛からず、対Gスーツなど本来は必要が無いのだが、

アキトとラピスの負担を極力減らす為、対Gスーツを装着する事になった。

「ラピス、大丈夫か?」

「うん平気、私は何時でも行けるよ」

アキトも大丈夫だよね?何事も無く、ここに戻ってこれるよね・・・

「・・・そうか、だが無理はするなよ」

ラピスをバンクシアに搭乗させる前までは、出撃前に恐怖など感じる事は無かった。

だが、今は違う。今は戦いの度にラピスが怪我をするんじゃないか

この戦いでラピスが死ぬんじゃないかと、何度も不安に苛まれる。俺にはラピスの命は重過ぎる。

ラピスの命を背負うと言う事は、俺の判断次第で彼女の身が危険に晒される事になる。

俺は彼女を最後まで守りきる事が出来るのだろうか。

ラピスを失う事がこれほど怖いとは、考えてもいなかった。

結局、俺がラピスに依存しているのだろう。彼女の優しい心に。

だからこそ無理は出来ない。ラピスを絶対に守らなければならないから

機動兵器バンクシアを起動させる。ゴォォォンっと言う音と共に、小型相転移エンジンが徐々に動き出す。

その力強い咆哮と共に、火星の後継者を地獄へと送り込み、全てに決着を付ける為に始動を開始した。

アキトは廃棄コロニー攻略の為の武装を確認した後、

貨物室の壁に固定されていたハンガーから武器を取り出す。

右手にレールカノン砲を持ち。左手には対艦ミサイル砲を持つ。

バンクシアが右手に持ったレールカノン砲は、

ブラックサレナのハンドカノンと。同出力のビーム砲を放つことが出来る。

このレールカノン砲の出力なら、火星の後継者の主力機動兵器、ステルンクーゲルの

ディストーション・フィールド程度なら、易々と貫通する事が出来る。

そして左手に持った対艦ミサイル砲は、ディストーション・フィールドを展開した

リアトリス級戦艦を一撃で破壊する程の高威力を持つ。この戦いの切り札

その代わり、弾薬は一発限りの使い捨てとなる。



「これで、最後なんだよねアキト」

バンクシアの武装やシステムの最終点検中に、ラピスが声を掛けてきた。

その表情は何かを決意しような、強い意志が感じられた。

「ああ、そうだ。この戦いが最後だ。今まで世話を掛けたなラピス」

ユーチャリスの頃からラピスには、世話を掛けっぱなしだ。

不甲斐ない自分が情けない。ラピスに苦労ばかり掛けてしまう。

「私はアキトの役に立てて嬉しい。」

ラピスが俺の心を読んだのか、そう答えてくれた。

正直嬉しかった。ラピスがそう思っていてくれて、だが、俺は・・

「ラピス、俺はお前に今まで何もしてやれなかった。」

ラピスぐらいの年齢の子なら、学校に行って友達を作り、街に遊びに行き楽しく笑っている事だろ。

出来る事なら彼女に普通の暮らしをさせてやりたい。しかしそれを周りの人間は許さない。

ただの人間の少女なら良かった、しかしラピスはマシンチャイルド。

その希少性と能力ゆえに、彼女は企業や国家、組織等に今後も狙われ続ける。

「別にいいよ。私はアキトと一緒に居る時が一番の幸せだから

・・・アキト、・・あの・・私のお願い聞いてくれる?」

ラピスが顔を赤くしながら、勇気を振り絞ってアキトに問う。

「ラピスのお願い?なんだ、俺に叶えられる物ならなんでもしよう」

「私はアキトとずっと一緒に居たい。」

ラピスが真剣な眼差しでアキトを見据える。

「それは・・・」

アキトは躊躇した。自分にその資格があるのかと?

たしかに、ラピスの気持ちには答えてやりたい。しかし

俺は復讐に身を染めて、コロニーを襲撃した。そして無関係な者達の未来を奪った

A級ジャンパー達の未来を奪った、火星の後継者と同じように

火星の後継者は新たなる秩序と言う大儀の為、俺は復讐と言う目的の為、彼等の未来を奪った。

そんな俺が、生き続ける事が許されるのか?

全てが終わった時、喜んで地獄に落ちる覚悟を、サレナプロジェクトの時に決めたはずなのに

・・・どちらにしろ、体の限界も近い、ここ最近発作の間隔も徐々に短くなってきている

自分の死が近づいている事を嫌でも実感できた。どうにもならないな・・・

「アキト・・・私はアキトの事が・・・」

「ラピス、その話は後にしよう」

その先をラピスに言わせるわけにはいかない。

俺はその想いに例え答えられたとしても、俺はもうじき死ぬ行く存在だから

「うん、アキト、後で話を聞いてね」

「わかった。」

全ての準備は整った。シャトル後部のハッチを開きバンクシアを外に出す。

目標の廃棄コロニーまで距離は二分程度、監視衛星の探査領域まで一分弱

廃棄コロニーの護衛戦力は、双胴型戦闘空母1隻、リアトリス級戦艦1隻、駆逐艦3隻

コロニー周辺の偵察活動を行なっているステルンクーゲルは四機。

恐らく廃棄コロニー内には、表に出ている以上の戦力が温存されているはずだ。

まともに正面から戦えば、こちらもただでは済まない。

もっとも、真正面からバカ正直に、戦う必要など無いから奇襲を要すればいい。

ようは敵が穴蔵から出てくる前に、コロニーを叩けばいいのだから。

「ラピス、手筈通り行くぞ」

「分かった。アキト」

こうして火星の後継者との最後の戦いの幕が開かれた。



「暇だな・・・」

表向きは廃棄コロニー。その実体は元火星の後継者に属していた組織の隠れ家

そのコロニーの管制室でモニター見ていた。管制官がぼやいた。

二年前、火星の後継者に賛同した彼等はその後、組織の崩壊と共に姿を消し

宇宙海賊として周辺の船を襲い、日々の糧を得ていた。

昔の大儀理想より、今重要なのは今の生活なのだ。

「まったくだぜ、平和そのもの、どうだ、トランプでもするか?」

同僚の管制官も同じ、緊張感の無い会話を続けていた。

ここは軍の巡回航路から外れており、軍に発見される心配は無い

「それにしてもよ、最近物入りが悪いよな」

ここ最近、輸送船を襲って貨物を奪っても、大した獲物は得られなかった。

「仕方がないだろ。不景気なんだから、連合議会の連中は何事も地球優先で

宇宙開発には消極的だし、木蓮と経済政策でまた揉めているらしいからな。

それに火星復興計画も予算の都合が付かず先送り、おかげで月と火星を結ぶ、この航路は閑古鳥だぜ」

「まぁ、その代わり、軍の目を誤魔化せるってもんだ」

「違いねぇ」

「「あはははははは」」

和んだ場の管制室に突然、喧しい警報が鳴り響く。

「なんだ!?どうした」

「敵襲か?!何が起こっている!!」

責任者の管制官がオペレーターに報告を求める

「違います、監視衛星3Aから未確認機発見との報告が上がっていますが、少し変なんです」

オペレーターが表示したウィンドウには、監視衛星3Aから未確認機の警告文が記載されていたが

肝心の未確認機の映像が映っていなかった。

監視衛星3Aを遠隔操作で動かし、周囲の映像を撮影させるが

未確認機の姿を捉える事は出来なかった。他に要因があるとすれば、監視衛星3Aの故障

「虚報か?オペレーター」

「わかりません。現在調査中です。」

オペレーターが必死になって原因を探るが、それらしい原因を掴む事は出来なかった。

「故障したんじゃ、最近故障が多いですから」

台所事情が最近苦しく、部品交換にも事欠くありさま、月に一回何処かしら故障していた。

「故障した監視衛星3Aの設置エリアって、Cエリアだろ。あそこは浮遊物が多いからな」

「そうなると、やはり故障の線が一番可能性が高いな」

管制室内では故障の線で話が纏まる。オペレーターはまだ不満があるようだが、

責任者の管制官が決めた事には逆らえない。

「通信士、偵察中の01小隊に監視衛星3Aの回収を」

「分かりました。こちら管制室、01小隊聞こえますか?」

『聞こえているよ、定時連絡にはまだ時間があるが』

偵察巡回中のステルンクーゲル01小隊の隊長が、コロニーの通信士から連絡を受ける。

「定時連絡ではありません。監視衛星3Aが故障したので、Cエリアに行き、回収を頼みます」

『Cエリアの監視衛星3Aだな。了解した。これから現場に向かう』

ステルンクーゲル四機はCエリアにある監視衛星3Aへと赴く。

その動向を見守っていた。怪しい影に気付かず

『こちら01小隊、現場に到着した。これから監視衛星3Aを回収する』

ステルンクーゲル四機は監視衛星3Aにワイヤーを結んだ後、

監視衛星を兼引きしながらコロニーへと戻る

「了解しました。では、回収後、第二格納庫には・こ・・ん・・・・ザァァァーーー」

突然通信にノイズが入り、管制室との通信が途絶えた。

『どうした!管制室、おい!管制室応答しろ!』

ドォォォー−−−−−−ン

その直後、大きな爆発音がコロニーの方から聞こえてきた。通信は相変わらず途絶えている。

01小隊は監視衛星回収を作業を中断し、ワイヤーを切断して。急いでコロニーへと向かった

そしてコロニーが視界に移ったときには全てが手遅れだった。

そこには各所で爆発しているコロニーの姿があった。

その光景を01小隊の面々は、信じられない光景を見るように、ただ見守るしかなかった。

『何が起きたんだ、まさか敵襲か?』

01小隊隊長の背に冷や汗が流れ始める。



「爆発だと!・・・艦長命令だ、全パイロットは至急、自分の持ち場に付け」

コロニーの爆発を目の当たりにした。双胴型戦闘空母の艦長は即座に、

パイロット達に出撃を命じた。これが敵襲にしろ事故にしろ。

コロニーに対する人命救助は行なわなければならないからだ。

そしてそれは迅速さが要求される。少しの遅れで助からない人間も居るのだから。

そう、艦長の判断は正しかった。しかし、後手に回った時点で彼等の運命は決した。

「ボソンジャンプ反応!!」

双胴型戦闘空母のオペレーターが悲鳴を上げる。

突如、眩い光と共に一機の機動兵器が、ボソンジャンプして来た

それも双胴型戦闘空母のディストーション・フィールド内、艦橋の目の前に

「近接防御!!対空砲開けーーーー」

艦長の怒号がブリッジに響く、オペレーターが対空砲を発射させようと操作するが

ガシャン!跳んできた機動兵器の、左手のクローにより艦橋は破壊された。

そして止めと言わんばかり、機関部にビーム砲を撃たれて、双胴型戦闘空母は一瞬の内に爆沈した

まだ空母から出撃していなかったステルンクーゲルと共に・・・



ここまで全て予定通りに進んでいる。

漂流物の多い、Cエリアの監視衛星をハッキングして警報を鳴らさせる。

偵察機をそこに誘き寄せて、その隙に監視網の僅かな抜け穴からコロニーに接近

ハーメルシステムでコロニーへの突入経路の監視衛星を麻痺させる。

本来なら直ぐに気付かれるのだが、管制室の注意がCエリアに逸れているので、

こちらの接近に気付かれる事は無い。コロニーの迎撃システムは、魔笛によって無力化した後、

左手に持った対艦ミサイル砲でコロニーの動力部に打ち込む、

コロニーが大きく爆発した後、爆風でコロニー各所は連鎖的に爆発して崩壊していった。

これでコロニー内部に温存されている戦力も、一緒に破壊する事が出来た。一石二鳥

次の標的は双胴型戦闘空母だ、ステルンクーゲルが発進される前に堕とさなければならない。

弾切れの対艦ミサイル砲を捨てて、アルストロメリアと同じ、折り畳み式クローを展開する。

そしてボソンジャンプを用意いた奇襲攻撃によって、双胴型戦闘空母は一瞬で轟沈した。

これで敵の戦力は残り、リアトリス級戦艦1隻、駆逐艦3隻、

新たに出撃した、ステルンクーゲルと偵察機を合わせて八機

充分余裕を持って対処できる数だ。



『こんな所で終われるかよ!アイツをぶっ殺して仲間の仇を討つぞ』

ステルンクーゲル01小隊の隊長は、小隊に向けて激を飛ばす。

監視衛星の回収を切り上げて戻って来てみれば、コロニーは崩壊して

空母も残骸と化していた。その原因を作り出したであろう、未確認の灰色の機動兵器を目に捕らえる。

そして隊長の激に答えるように小隊の意気も上がる。

『絶対に許さないぜ』

『蜂の巣にしてやる』

『たかが一機で何ができる。これは俺達の復讐だ!』

ステルンクーゲル四機が一斉に未確認機に向けて、ハンドレールガンを放ち続けるが当たらない。

敵機動兵器は軽々とかわして、こちらに近づいてくる。

『くそーーー!!、包、、いし、集、中!こう・・・・・』

包囲して集中攻撃、小隊に向けて命令を送ろうとした時、

突如通信にノイズが入り、小隊への連絡が取れなくなった。

撃破された訳ではない、小隊の味方マーカーは健在だ、ただ通信を送る事が出来なくなった。

この事態に小隊は混乱して、各人、敵に向けてハンドレールガンを撃ち続けるしかなかった。

先程までの連携行動は無い。がむしゃらに撃ち続けているだけの直線的な射撃

この機を逃す事無く、敵機動兵器が一気に接近、そして右手に持ったビーム砲で

小隊のステルンクーゲル2機がコックピットを打ち抜かれて、火球と化す

『ステファー−−−ン、ジョー−−−−ニー−−−−−!!!』

長年連れ添った二人の部下の喪失に、呆然とする01小隊隊長マイケルと部下のヤシマ

だが、その行動は機動兵器乗りとしては致命的な隙を生み出す。

動きの止まった。2機のコックピットに向けてビーム砲が放たれ、そして直撃

彼等も部下達の元へと旅立っていった。



アキトはその後、残存勢力のリアトリス級戦艦1隻と駆逐艦3隻は、空母を堕とした時と同じ

ボソンジャンプでディストーション・フィールド内に跳び、

クローとレールカノン砲で順番に堕としていった。

途中で逃げ出したステルンクーゲル四機も追撃した後に破壊、

火星の後継者の全勢力を破壊した。ここに火星の後継者は完全に潰えた。

「終わったんだ・・・俺の戦いは。復讐は果された」

これで、死んでいったA級ジャンパー達の無念も果されただろ。

「アキト・・・」

ラピスが不安な顔を俺に向けてくる。

「ラピス、何も心配する事は無い。全て終わったんだ、シャトルに戻ろう」

「うん、アキト、さっきの約束忘れていないよね?」

約束、出撃前の話の事か、忘れてはいないさ。ラピスの想いに答えられるかどうかは別だけど。

「忘れてはいないよ。シャトルに戻ってからな」

ふう〜、どうやってラピスを誤魔化すかな・・・

「さぁ、帰ろう・?!!ぐっ、うがぁぁぁーーーー」

バンクシアをシャトルへと帰還させようとした時、突然アキトの全身が光りだし苦しみだした。

この症状は何時もアキトを苦しめている、ナノマシンスタンピート。

暴走したナノマシンが内部で無秩序に暴れ回り肉体を蝕んでいく、

その激痛に耐え切れずアキトは苦しみ悶える。

「アッアキトーーー!」

ラピスの悲鳴がコックピットに響く。

「だっ、大丈夫だ。ラピス、直ぐに収まるから」

そう、何時もなら、もう収まり始めているはずなのに収まる気配が無い、

段々痛みが激しくなっていく。そして意識が薄れて行く

俺はやはり、ここで死ぬのか・・・ラピス、一緒に居られなくてゴメン。

ドカッと言う音と共にアキトが崩れ落ちた。



「アキト、アキトーーーーー」

声が聞こえない、アキトの声がリンクしているのに、アキトの心が感じられなくなった!?

いや、アキト、答えて、答えてよーーアキトーーー

「誰か、誰かアキトを助けてーーーー」

悲痛なラピスの声がコックピットに響く。

ラピスにとってアキトは半身も当然、アキトが居ない世界など考えられない

アキトが居ない世界に居ても意味が無い。アキトと一緒に居なければ意味が無い。

絶望がラピスを覆うとしていた。そんな時だった。

『死なせない』

誰かの声が聞こえた。誰の声かは分からなかったが、でも、何故かとても安心出来るような気がした。

そしてバンクシアが勝手にボソンジャンプを起動させる。

アキトはボソンジャンプを起動させてはいない、意識が無いのだから

それなのに、これからボソンジャンプが行なわれようとしている。

「誰でもいい、アキトを助けてくれるのなら」

ラピスはこのボソンジャンプに、僅かな願いを託すしか無かった。

今の自分には何も出来ない。お願い、アキトを助けてください。

そしてバンクシアがボソンジャンプを発動させた。眩い光と共にバンクシアはその場から消える。

後に残されたのは残骸と化した火星の後継者と、無人のシャトルだけだった。・・・



後書き

死ぬ時に名前が判明する01小隊の皆さんwご苦労様。ありふれた名前も仕様です。

アキト×ラピスはやっぱりイイですよね〜、

今後はほのぼのや少しギャグも交えて作っていきたいな。上手く作れるかは別として

機動兵器バンクシア!残念だけど今回で出番終了です!理由は性能不足、次回あの機体が復活!!