『兄ぃは、私をいじめる?』

まだ、ブラックサレナは妹言葉を続けていた。

いや、もう妹言葉はいいからブラックサレナ、いい加減話を元に戻そう

「はぁ〜」

呆れたアキトは、脱力と共にため息を出す。

「それで、本当の所はどうなんだ?」

そろそろ核心を聞かないとな。たぶん、今まではブラックサレナに遊ばれていたんだろうけど。

『ゴメンなさい、本当は私達がこの世界に貴方を呼びました。

我々の思考周波数と、貴方の乗っていた機動兵器の思考周波数が偶然合致したので

我々がナビゲートする形で、こちらの世界へ、ジャンプを誘導しました。

でも本当に偶然なんです。こんな事は、今まで一度も無かった事なんですから。』

やはりそうか、でもそれならどうして俺をこの世界に呼ぶ必要があった?

他に何か隠しているのか?俺の疑問に答えるように、ブラックサレナが話を続ける

『私達には至急、マスターの存在が必要だったんです。この世界を救う為には!!』

この世界を救う?一体何から救うと言うんだ?

話のスケールが急に大きくなっているぞ。この先話に付いていけるだろうか、少し心配になって来た。

「それでなんで、俺の力が急に必要になったんだ」

死にかけている俺に、一体今更何が出来ると言うんだ、俺にはそんな力など・・・

『貴方がこの世界に来れた原因は、先程言った通りこの世界と異世界を隔てる、

次元境界線が不安定になっているからです。そして日毎に次元境界線が小さくなり続けている。

このまま縮小が続けば、異世界同士がお互いに干渉を受け合い。

天変地異、空間や時間の乱れ、異物の進入、そして最終的には

両者の世界がぶつかり合い。両者共に消滅する危険性があります』

ブラックサレナの言っている事は、およそ理解出来ない。

もはや、人の手の及ぶところではない。どう考えても、神の領域だ。

無力な人間の俺には、到底この事態を解決する術など持ち合わせては居ない。

それでもブラックサレナは俺の力を欲するのか?どうして・・・



『私達はこの第二の故郷と言うべき場所を守りたい。その為には貴方の力を貸して欲しいのです』

ブラックサレナが涙ながら語る。機械だから涙流せないけど、その気持ちは充分に伝わって来た。

誰だって故郷は大事だ。ユートピアコロニーと言う故郷を無くした俺には

ブラックサレナの気持ちが痛いほど判るが、それで俺にどうしろと?

「・・・・・・・・」

アキトがブラックサレナに対して、どう答えるか悩んでいる頃、ブラックサレナはと言うと・・・

『(・・・未来は自分で選ぶ物・・・マスターはきっと、

御自分の意志で、最善の選択をされる事でしょう。私達は貴方を信じています・・・

・・・この世界の危機は、たしかに一大事なんですけど、それよりなにより。

マスターと遊びたかった気持ちが強かったのは内緒ですよ。

だって、だって、夢にまで見たマスターが、実際に目の前に居るんですよ!

マスターとまた遊べる日々が来たら、楽しいでしょうね〜・・・はっ!いっいけません。

私とした事が、自己営利的な欲求を優先する所でした。これはプログラムのバグですよね。

私はこの世界を救うと言う、崇高な使命があるのです。それに・・・抜け駆けは原則禁止ですし

マスターに尽くすと使命は、この際後回しにしましょう!時間は沢山ある事ですし

焦って事を仕損じると言う事も考えられます!!ここは冷静になりましょう。ふう〜

それにしても、早くマスターと交渉を済ませて、 HTML 誰にも邪魔されず、二人きりの時間を堪能したいものです。

・・・はぁ〜マスター・・・悩んでいる姿も素敵です。。はにゃ〜ん〜♪)』

ブラックサレナがそんな不純な事を考えているとは露知らず、

アキトは真剣にブラックサレナの事を考えていた。

「具体的にはどうして欲しいんだ、ブラックサレナ」

『・・・マスター・・・』

ブラックサレナは少し間を空けた後、覚悟を決めて言う事にした。

それが結果として、かつて自分のマスターであった存在。

天川アキトに辛い選択を迫る結果だと。分かってはいるが。

自分達にも譲れない想いがある。だからこそ言わなければならなかった。

それに彼ならば、自分達の想いを汲んで来れると信じて。

『次元境界線の縮小原因を作り出している異世界に、私達と一緒に赴いて戦って欲しいのです』

ブラックサレナの赤い瞳がアキトを捉える。そしてまるで燃えている様に赤い輝きを放つ。

『マスターー萌えーーーー、カッコいいーー』

どうやらブラックサレナは違う意味で燃えていたようだ。

「また戦いか・・・」

新たなる戦い、先程終えた火星の後継者との戦いに終止符が打たれ

これから安息の日々がアキトとラピスに訪れようとしていた矢先、この世界に飛ばされた。

そして別の戦いへの誘い、運命とは何処まで行っても皮肉な物だ。



「それは無理だ、この身体で新たな戦いなど、それにラピスの事もある」

並行世界のブラックサレナやユーチャリス達とは言え、

俺の居た世界では彼等に世話になったのだから。なんとかして恩返ししてやりたい。

それが代償行為だと言われたとしても。だが・・・俺には無理だ。

この死にかけたこの身体では、一度の出撃にも耐えられないだろ。

それにラピスの事もある。あの子には少しでも幸せにしてやりたい。

残りの短い人生全てを、ラピスの為に使いたい。だから戦いで命を縮めるわけにはいかない。

その旨をブラックサレナに伝えようと、声を掛けたとき

ブラックサレナの方から信じられない、見返りを示された。

『私達と共に戦って頂けるのなら、貴方の壊れた五感と寿命を治す事が可能です。』

一瞬何を言っているのか、分からなかった。

だが、その意味を理解した時、体が震える程歓喜していた。

・・・体が治る・・この先も生きられるのか!そんな事が本当に可能なのか?

「でっ出来るのか?俺の身体を治す事が・・・」

『出来ます。私達がリンクシステムを通じて、貴方のナノマシンを制御します。

そして、制御したナノマシンを使い、貴方の壊れた体を修復し、人体に有害なナノマシンは

新たにプログラムを書き換えて、無害な物へと変換する事が可能です』

生きられる、そんな事考えもしなかった。火星の後継者のラボから、ネルガルSSに助けられた時には既に、

五感は壊れ、寿命も残り少ない状態だった。

火星の後継者に復讐を!自分から未来と夢を奪い取ったあいつ等に制裁を!

その一心で奴等と戦い抜き、後悔と絶望の中を彷徨い歩いた。

そして全てが終わった時、自分も喜んで朽ち果てるつもりだった。

自分には血に塗れた両手しか残されてはいない。ユリカの元にもルリちゃんの元にも帰れない

ネルガルとて大犯罪者である俺を、何時までも匿う危険は冒せないだろ。  

サレナプロジェクトは完遂され、ネルガルにとって、俺の利用価値はもう無いのだから。

もう何処にも帰る場所なんて無い。修羅の道の果てにある物は、

破滅のみ、そう思っていた・・・でも違った。

そんな救いようの無い俺に、手を差し伸べてくれたのがラピスだった。

「ラピスはどうなるんだ?」

確かにブラックサレナの話を承諾すれば身体は治り、俺はラピスの幸せを求める事が出来る。

だが、その代わりラピスをまた戦いに巻き込む事にはならないか?

彼女を戦いに巻き込まない様に、この場に残すと言う選択もあるが、恐らくラピスは承諾しないだろ。

それに黙って行けば、ラピスは俺に捨てられたと思い、心が壊れてしまうかもしれない。

俺の都合で彼女を振り回すべきではない。俺にはそんな資格など無いんだ。

やはり、この話は断るべきか・・・。

『ラピスが貴方に望む事はなんだと思いますか?今一度、思い出してみてください』

ブラックサレナはアキトに問う、ラピスが望む事とは・・・

「ラピスが望み事か・・・あれはたしか・・・」

記憶の底にある。ラピスに関する記憶を静かに掘り返してみる・・・見えてきた・・・あれは。

『私はアキトのお嫁さんになる!』

・・?!、これは違うな。外国人妻紹介のTV番組をラピスが見ていた時に、

急に言い出したんだ。きっとTVに影響されたんだろ。だから本心じゃないよね・・たぶん。

『アキト・・・私、初めてだから痛くしないでね』

ラピスが怯えている。俺は彼女にとんでも無い事をしたのか・・・

・・!!!、これも違うーーーー。これは健康診断の予防接種の時じゃないか!

『アキト!もっと優しく揉んで、強くしないで〜〜』

・・・なんでこんな紛らわしい、記憶ばかり思い出す。

普通にラピスの肩揉んでいた記憶じゃないか、まったく。

でもラピスと過ごす時間は嫌いじゃなかった。どちらかと言うと心が安らいで好きだった。

復讐に燃える憎悪を、一時的とは言え、忘れさせてくれたから。



ラピスは本当の所、俺の事をどう思っているのだろうか。

リンクしていたとは言え、深層心理まで繋がっていたわけではない。

だから彼女の本心が何処にあったのか、俺に確認する術は・・・ん?彼女の本心?

たしか、前にもこんな事で悩んでいた時があったな。

・・・あれは、火星の後継者の拠点への襲撃直前だったか、

ラピスと何か、大事な約束したような・・・

『ラピスのお願い?なんだ、俺に叶えられる物ならなんでもしよう』

『私はアキトと一緒に居る時が一番の幸せだから』

『アキト、・・あの・・私のお願い聞いてくれる?』

『私はアキトとずっと一緒に居たい。』

『アキト・・・私はアキトの事が・・・』

『うん、アキト、後で話を聞いてね』

・・・!そうだ、俺は・・あの時。自分の想いを封印したんだ。

ラピスの気持ちに答えてやる事が出来ない。老い先短い自分の未来に絶望して

そしてラピスが傷つく事が無いように・・・全てを諦めて。

・・・ラピスが本当に望んでいる事は俺と共に居る事。

それなのに、俺は全てを諦めて放棄してしまった。

「まったく・・・本当に俺はダメな奴だな。何時も逃げてばかりだ。でも今度は逃げないよ」

俺は・・生きなければならないな、ラピスの望みを叶えてやる為にも。諦めないで最後まで足掻く

だから俺は、自分の罪と向き合って生きる事にするよ。ラピス

自分の気持ちに整理が付いたアキトは先程までと打って変わって、

晴れ晴れした顔つきをしていた。もっともバイザーで顔の大半が隠れているので

他者には判別出来ない。相棒のラピスやツクヨミなら彼の気持ちの変化に気づく事だろ。

『結論は出ましたか?』

何処か嬉しそうなブラックサレナが声を掛ける。

「ああ、俺の結論はな。さてと、次はどうやってラピスに説明するか」

ラピスは今、バンクシアと一緒に寝てるらしいからな。

この世界の何処に寝ているのやら、まぁそれはブラックサレナに聞けばいいか。

とりあえず、この状況と俺の事を話さなければならない。

『その心配はありませんよ♪』

「アキトーーーーー」

「ラッラピス?」

ブラックサレナの方を振り向くと、そこには何時の間にかラピスが居た

バンクシアと一緒に寝ていたのではないのか!何時起きたんだ?いや・・・何時からここに居た。

ラピスはアキトに向かって走り出し、そして思いっきりアキトに抱きついた。

ドサッ、アキトはラピスを受け止めた後、優しく抱き返す。

「ラピス、お帰り」

「アキト、ただいま」

ラピスにとって帰る場所はアキトの側。そしてアキトにとってもそれは同じになった。



「私はアキトの為に、ブラックサレナに協力する」

「ラピス、何時からここに居た?」

ブラックサレナに協力すると言う事は、俺とブラックサレナの話をここで聞いていたか、

それとも先にラピスがブラックサレナと話し合ったか。

『ラピスは最初から私の横に居ました。

貴方を起こした時、ラピスも一緒に起こしたんです。

どうして貴方には、ラピスを見ることが出来なかったか、分かりますか?』

「わからないな」

トリックと言うわけでは無いのか?それとも別な要因が?

『・・・この世界は心を映し出す世界、ラピスを見ることが出来なかったのは、

貴方がラピスの想いから、何時も逃げていたからです』

「逃げていた・・」

たしかに、俺は逃げていた。自分の罪から、ラピスの想いから、

それが一番いいと思っていた。だがラピスは違った。

結局俺は、ラピスの事を全然分かっていなかったんだな。

「私はアキトとずっと一緒に居たい。アキトはあの時約束した。

自分に叶えられる事をするって、アキトは約束を破るの」

今にも泣きそうな目でアキトを見つめるラピス。二度と破らないよ、ラピスとの約束だからな。

「ラピス、またお前の力を借りる事になるけど、いいか?」

「うん!アキト、ずっと一緒だよ」

ラピスは安心したのか、笑っていた。ラピスもこんな笑顔が出来るんだな。

このまま少し、ラピスの笑顔を堪能するのもいいかな・・・

『こほん、お話の続きをしたいのですが』

呆れている感じのブラックサレナが話を戻す。

「ブラックサレナ、俺達はお前に協力する事に決めた。それで具体的に俺達は何をしたらいい」

一緒に戦うと行っても、何をどうしたらいいのやら、今のところ俺に出来る事は、

一通りの諜報活動、IFS対応の機動兵器の操縦、射撃は比較的得意だが、

格闘では月臣や北辰に遠く及ばない。数年修錬を積んだだけで、達人の領域に入れるわけがない

『私達に協力して頂けるのなら、現時点を持って貴方をマスターと認証します』

「マスターって・・・」

元の世界の天川アキトはいいのか?

『今後は私のことを、愛しいのサレナと呼んで下さいね。』

サレナが可愛い声?を上げる

「はぁ?・・・」

愛しのサレナって何、洒落か?

『・・・冗談です。それではリンクシステム接続開始』

キィィィィィィン、アキトの全身にナノマシンの発光現象が現れる。眩しい光りを放ちながら、

全身を激しく、銀色の光りが身体全体を覆う。

『リンクシステム接続終了、マスターの五感及び人体の損傷点の修復作業を終了します。』

アキトのナノマシンの発光が収まる。

「治ったのか?あんまり実感が無いが」

確かに先程まで感じていた、全身のきだるさが無くなり、

今は清々しいほどまで、全身が研ぎ澄まされた感じがする、

「アキト大丈夫?何処も痛くない?」

ラピスが心配して声を掛けてきた。

「ああ、何処も痛くないよラピス。心配してくれてありがとう」

こういうさり気無いラピスの優しさが嬉しい。



「それで、これから向かう異世界ってのはどんな所なんだ?」

自分の知らない異世界、そこにはどんな夢と浪漫が満ち溢れているのだろうか。

・・・もっともそんな都合のいい世界など、実際は存在しないのが世の常。

それでも、ちょっとぐらい夢想して見たかった。

『我々と同じ地球であり太陽系です。文明レベルはマスターの居た世界と近く

宇宙コロニーによる移民や、火星、月への入植、木星圏にも人類圏は広がっています。

その他にも近年太陽系外へ、移民船を送り込んでいるようです』

「・・・普通の世界だな・・・」

予想していたより、ずっと普通の世界。

『これだけなら、我々の世界とそれ程大差はありません。問題は別な所にあります』

「別な所?」

『一般常識から考えて、想定範囲外の事態が、この世界で多発していると言う事です』

まさか、魔法が使えるファンタジー世界が実在するとか、・・・そんな分けないか、

『・・・・・』

ブラックサレナが言いよどむ、そして語られた異世界の全容

地球とコロニーの対立と戦争、ここまでは良くあることだ。

自分の居た世界でも、100年前の月の独立運動、火星での独立運動、

地球と木星の蜥蜴戦争、草壁の乱、南雲の乱と

地球優先主義、宇宙植民地化への政策は、何かと宇宙移民者の反発を生み出してきた。

だから世界が違えど、人の心の在り方は、何処の世界も同じだ。

同じだからこそ、似たような歴史と戦争を繰り返す。

そう、ここまでだったら、良くある人類の歴史だ。・・・だが、この世界は違った。

宇宙人の侵略、宇宙怪獣の襲来、地底人の侵略、巨人族襲来、機械生命体襲来、

そしてそれに康応する様に作られた、数多の超技術、超エネルギーを搭載した機動兵器

『・・・この世界は異常です。この短期間の間に複数の種族による侵略が、重なると言う事は

普通はありえません。そしてそれ等に対抗しうる機動兵器が全て完成している事もです。』

・・・全ては偶然では無い

『この世界には、何者かの意志が存在している事は、ほぼ確実でしょう。

恐らく我々と同種の存在、世界に対して直接影響を与える事が出来る、超越した存在が』

サレナが言うには、これらの事態を意図的に操作している存在が、居るとの事。

そして、そいつは世界の創造者クラスの相手らしい。

もっとも、この存在が次元境界線を狭める原因者かどうかは、現時点では不明。

これら、外界からの情報は、この世界に侵入してきた異物である。

地球や宇宙人の機動兵器や無人機の、残骸のメモリーから抽出して情報を得た物。



異世界の機動兵器は、主に二種類の系統によって分けられているようだ。

リアルロボット系と呼ばれる機動性重視の機動兵器は、主に人類間の戦争に運用され。

この世界の主力機動兵器の様だ、我々の世界の機動兵器と、戦闘力に置いてそれ程大差は無い。

逆にスーパーロボット系と呼ばれる、パワー重視の大型機動兵器は、

宇宙人や地底人などの、非人類圏との戦争に運用され、一騎当千の力を持つ

だが、コストや材質の問題から、生産数に限りがあるようだ。ほとんど試作機の一機だけだ。

「まったく言葉が出ないよ。この世界の在り方には」

『我々もそう思います。マスター』

それにしても凄い世界だ、特にスーパーロボット系の技術力は目を見張る。

サレナの話だと、超古代の技術や、宇宙人の技術が流用されているらしいが、やはり世界は広い

よく考えれば、俺達の世界も、古代火星人の技術の発掘によって、

反重力関係の技術が一気に進歩したんだよな。

それにしても・・・このゲッターロボって、まるでゲキガンガー3だ。

熱血を信じたナデシコの頃を思い出して、苦笑するアキト

あの頃は若かった。だから、物事の本質を見誤った。

「それで、こちらの戦力は」

次元境界線を縮小させる原因を作る勢力。現在把握している世界情勢を見る限り

どの勢力も、かなりの規模の軍事組織を所持している。一筋縄ではいかない。

特にバルマー帝国と宇宙怪獣には注意しなければならない。

バルマー帝国はその技術力に、宇宙怪獣はその数と繁殖力に

もしかしたら、世界の創造者クラスが相手になるかもしれない。

そうなるとかなり厄介の事になる。縮小を防ぐにしても、原因者を破壊するにしろ。

こちらもそれ相応な戦力が必要になってくる。だが、サレナの示し戦力はあまりにも少なかった。

『こちらが派遣可能な戦力は、Yユニットを装備したユーチャリス一隻と

搭載されているバッタ及び、マスター専用の機動兵器の二種のみです。』

「たったそれだけか!?・・・それは無謀だろ!!!」

アキトは唖然とした。戦力が少な過ぎる。

最低でもナデシコ級30隻、ブラックサレナ級の機動兵器が100機は欲しい所だ。

多種多様な技術発展を遂げている異世界の方が、総合的な技術レベルは上であり

次元境界線の縮小原因を調査を進める上で、

こちらが有する相転移エンジンや、無人機等の技術を狙って

敵対する可能性がある、侵略者達や地球優先主義の地球連邦軍。

調査だけなら問題は無いが、我々の最終目的は次元境界線の縮小原因を取り除く事。

つまり、その過程でそれ等を引き起こす者達と、戦闘になる可能性が高いのだ

一隻の戦艦の戦力だけで、どうにかなるような勢力では無いだろ。



『残念ですが、我々が送り込める戦力は、これが限度となります。

マスターが居なければ、この戦力も送り込む事は出来ませんでした。』

「どういう事だ?」

この世界には、数多のユーチャリスやブラックサレナが居るはずだ。

何故その戦力を出さない。この世界の危機が近づいている今、戦力を温存する意味は無いはず。

サレナがアキトの問に答える。

『我々はこの世界に縛られています。ですので異世界に出向く事が出来ません。

しかし、マスターがリンクシステムを通して、我々の意識を共有する事によって、

辛うじて我々の存在は、異世界に留まる事が出来ると言うことです。

我々はマスター以外の存在と、リンクする事が出来ませんので、

ユーチャリス一隻が、戦力の限界となります。』

そうか、それなら仕方が無い、無いもの強請りをしても、どうにもならないから

「・・・ボソンジャンプは使用可能か?」

異世界に置いてボソンジャンプは果たして機能するのか?

窮地に陥っても、ボソンジャンプさえあれば、何処にでも逃げる事が出来る。

逃げる事さえ出来れば、いくらでも大勢は立て直せる。

何より、ラピスを死なせるわけにはいかないから。自分の人生を翻弄した、ボソンジャンプ

それに頼るしか、今のところ、単艦による目的達成の目処は見つけられなかった。

『ボソンジャンプに関しては、問題ありません。

異世界に演算ユニットの存在を、確認する事は出来ませんが

演算ユニットが無い世界でも、他の世界に在る演算ユニットが、

ボソンジャンプの演算を代行するので、ボソンジャンプは可能です』

「一先ず、安心と言う事か」

ボソンジャンプによる中枢奇襲、この戦術が使えるのなら、まだ勝機は0%では無い

「それで俺達の乗る、Yユニットを装備したユーチャリスと、

俺専用の機動兵器の説明を受けたいんだが」

『マスター、現物を見るほうが、早いでしょ。』

眩い光の粒子が集まり、Yユニットらしき物を装備した白亜の戦艦ユーチャリスと

既存のブラックサレナの、二倍近い大きさのブラックサレナが目の前に現れる。

『これが新しい船、ユーチャリスYユニット。戦艦イザナキです。』



ユーチャリスYユニット「戦艦イザナキ」 

全長約400メートル、ユーチャリスに新たにYユニットを装備した戦艦で

改良型相転移エンジン6基を搭載する事によって

ナデシコCの二倍近いディストーション・フィールドを誇る

バッタを搭載した無人兵器カタパルト44基を搭載。

搭載バッタの内訳は戦闘用、偵察用、工作用の三種類に分けられる。

武装面に置いては、Yユニット装着により相転移砲を発射可能になり。

四連装グラビティブラストの火力は、従来のユーチャリスの三倍近い出力を誇る

ハッキングデバイスの他に、新規武装である。

リニアレールキャノン二門、ミサイル発射口96門、システム掌握、ステルス迷彩システムを装備する。

中枢AIはオモイカネ・アマテラス、オモイカネ・ツクヨミ、オモイカネ・スサノオの三人で

マシンチャイルド無しでも、AI独自にシステム掌握を行なう事が出来る。

この戦艦は、次世代ナデシコシリーズとして開発中止になった。ユーチャリス級戦艦の旗艦

『次にマスターが乗る事になる、ファントム・ブラックサレナです』



強襲型戦術機動兵器「ファントム・ブラックサレナ」

全高16m・全長16m

黒い追加装甲を着けた試作型フレームではなく、丸々一つの機動兵器として完成された物であり。

小型相転移エンジンを2基搭載する事によって

ナデシコA並のディストーション・フィールドを張る事が出来る。

機動性は従来のブラックサレナの2.2倍、異世界の技術を取り込むことで

高機動ユニットへの変形機能も搭載した。尚ジャンプシステムも搭載している。

加速Gは、新型G中和システムによって、完全に遮断する事が出来る。

これも異世界の技術を解析して、手に入れた技術の一つだ。

武装面では、ハンドカノン砲二門の威力は従来のブラックサレナの2.5倍

両肩に新しく装備した。小型グラビィーブラストは、

ナデシコAと同等な出力を誇る拡散、収束クラビィーブラストを放つ事が出来る。

接近戦に置いても、アルストロメリアと同じ、

両手に装備された収納式ハンドクローを展開して、接近戦の欠点を一部解消した。

その他にも高性能ステルスシステムを搭載して隠密行動が可能



「ユーチャリスもブラックサレナも、随分パワーアップしたな」

『パワーアップしたからって、あんまり無理しないでくださいね、マスター』

無理をする気など無いさ。この戦力分析をすると

ユーチャリス五隻分、ブラックサレナ10機分と言った所か、

まだ、全然戦力が足りないけど。覚悟を決めるとするか。

ラピスは不安になっていないだろうか?相変わらず自分に抱きついているラピスを見る。

「ラピス、怖くないか?」

アキトはラピスに優しい声を掛ける、それに対してラピスは

「アキトと一緒なら何も怖くない」

アキトに笑って答える。ラピスは幸せだった。この幸せがずっと続きますようにと、お祈りをした。

勿論何もしなかった神ではない。アキトとサレナ達にだ。

「ありがとう、ラピス、一緒に居てくれて」

「アキト、大好き」

ラピスはアキトを強く抱きしめる。そんな微笑ましい光景を、羨ましいそうに見つめるサレナ

『マスター・・・幸せになってくださいね。でも、たまには私と遊んで欲しいです!

ラピスとばかりラブラブするのって、ズルイです!

せっかく、私だけのマスターになってくれたのに、それってあんまりです。

私とマスターはもう、一心同体、一蓮托生、死ぬ時は同じ時、同じ場所って

三国志の桃園の誓い、じゃないですけど、とにかく私だけのマスターなんですーー』

リンクを通して、サレナの過激な魂の叫びが、アキトに聞こえて来た。

そして、別な声もアキトの頭に響いてきた。・・・

『サレナさん。マスターを困らせてはいけませんよ。』

『マスター!サポートは全て私にお任せください!』

『マスター、僕の事も忘れないでね〜』

戦艦イザナギのAI、アマテラス、ツクヨミ、スサノオの順番で話し掛けてきた。

のほほんとしたアマテラス、勝気なツクヨミ、お気楽なスサノオ達、AI三人衆

『(お邪魔虫が現れたか、ちっ)・・・ではマスター、

そろそろ戦艦イザナギに乗艦してください、新たな船旅に出かける事にしましょうか』

ブラックサレナはそう言うと、虹色の光と共に、ボソンジャンプして消えてしまった。

そして、次にラピスとアキトの体も、虹色の光に包まれる。

「ラピス、新たな船出だ。」

「うん、アキト。頑張ろうね」

アキト達は新たな世界へと旅立っていった。次元境界線を元に戻し、未来を勝ち取る為に・・・



後書き

黒アキトはやっぱりブラックサレナが一番似合う。それなのに微妙なパワーアップなのは

今後ブラックサレナが、物語後半にパワーアップする伏線!では無く。裏方に回るからです。

ですのでαナンバーズの一員となって、一緒に怪物達と戦う予定はありません。

ヴァルシオンとかグランゾンとか復活させて、本編とは絡まずオリジナル外伝風に進めていく予定

そして次回からようやく三次α世界が舞台、次の話では主役4人の内、誰か一人登場予定