未だ謎に包まれた少女アリス、彼女に強引に連れてこられた世界は、

彼女によって生み出された。異空間に存在する魔法の世界「エデンの箱庭」

この世界の時間は外の現実世界と大きな溝がある。この世界の一日は外の世界の一時間でしか無い。

この世界の24日間は外の現実世界の24時間。つまり僅か一日でしか無い。

この不思議な世界で自分は、魔法の修行を480日間行う事になった。

そうしなければならない理由が生まれたからだ。・・・最初は単純に自分とサレナの身を守る為だった。

森で吸血鬼の少女に襲われ、少女に手も足も出ずに、自分は逃げ出す事しか出来なかった。

だから自分の身を守れる様に力を求めた。それが例えアリスの思惑に乗る事になっても。

しかし、その考えは根本的に変わる事になった。アリスからルリやラピス達の事を聞かされた時。

「・・・ルリちゃん。ラピス・・・必ず君達に会いに行く」

彼女達は自分を追って、命がけのボソンジャンプをした。そしてアリスの下へと辿り着いた。

だからこそ、今度は自分が彼女達を向かいに行く番。自分追って来た彼女達の気持ちに答える為に。

そして今度こそ彼女達を最後まで守りきる。前は死ぬ事を選んで責任から逃れようとした。

しかし今度は違う。どんな事があっても逃げない。彼女達をあらゆる災厄から守り続ける。

それが自分の選んだケジメであり。この世界で選んだ新しい生き方。

だからどんなに離れた場所に彼女達が居たとして、必ず迎えに行く。

その為にも無事修行を終えて力を手にしなければならない。

480日後、俺の修行の成果を確かめる為に、彼女の使役する竜の石像と戦う事になるのだから。

俺は塔内の修錬所で魔法の修行を行い、サレナはその間に図書室で魔法に付いての情報収集を行なう。

その他にも、炊事や洗濯、掃除など、身の回りの世話を彼女にさせる事になってしまった。

彼女に負担を掛けてさせてしまって申し訳が無い。

幸いな事と言えば、この塔内には衣裳部屋らしき場所が在ったので、

そこから服や下着を何着か拝借している。・・・男性用、女性用、子供用と衣裳部屋には

服のバリエーションが多かったので、サレナも色々な服に着替えて遊んでいた。

何故、塔内にこんな衣裳部屋が在るか、それは分からない・・・アリスの趣味なのか。

それとも来客に備えて色々揃えているのだろうか?

「マスター、紅茶の味はどうですか?」

「悪くない、このハーブティーは良い葉を使っている」

「食料倉庫には他にも沢山の紅茶の葉が有りましたから、今度一緒に吟味しましょう」

俺とサレナは塔の屋上でティータイムを楽しんでいた。

ここからの見晴らしは絶景だ。島のほとんどを見ることが出来る。

考えてみれば・・・随分遠くまで来てしまったな。俺達は・・・。

ほんわかとした顔で、紅茶を飲むサレナを俺は見る。

「サレナ。また色々手間を掛けさせる事になって済まない。」

彼女に自分の身の回りの世話をさせる事は、本来はお門違い。

そう思ったアキトは彼女に済まなそうに声を掛ける。しかし帰って来た言葉は。

『炊事や洗濯、掃除の事ですか?私は別に構いませんよ、人間らしい生活は機械であった私にとって

実に興味深く、楽しい物ですから♪気になさらないで下さい、マスター。

・・・(炊事に洗濯、掃除ですか・・・まるでマスターのお嫁さんです〜)』

サレナはこれから始まるであろう、アキトと二人きりの甘い生活を思い浮かべて。悦に入っていた。

『うふふ・・・なんて素晴らしい日々なんでしょう』

「??????????」

鈍感なアキトにサレナの気持ちが伝わるわけが無かった。

例えリンクシステムで感覚や表層意識が繋がっていたとしても。彼は筋金入りの鈍感。

恋愛に関する思考回路が最初から存在していないらしい、彼がサレナの想いに気付くのは何時事やら・・・



アキトの修行日記「エデンの箱庭編」

修行1日目

今日は記念すべき修行初日。とりあえずこの身体に慣れる必要があった。

何故なら身体機能を阻害していた、ナノマシンの統制が取れた事で、

本来持つ、ナノマシンの効果を存分に引き出す事へとなった。

それが結果として、自身の身体能力と五感の機能を、三倍近くまで強化される事に繋がった。

今日は簡単な体操からランニングまでを一通り行い。一日を終えた。

修行の汗を流そうと風呂場に入ると。途中からサレナがバスタブ一枚で入って来て

目のやり場に困ったと記憶しておこう・・・これは日記に書く必要が無かったな、修行と関係ない事だし。

『そんな事言わず、沢山書いてください』byサレナ

修行3日目

木蓮式柔術の基礎的な動作確認を行い。技の確認へと移った。

やはり思った通り、技の動作がワンテンポ早く動いてしまう。

自分が記憶している技の動作は前の身体の物なので。強化されたこの肉体の動作に合わせる為には、

木蓮式柔術の動きや技のタイミングを、1から調整し直す必要が生まれた。

修行7日目

木蓮式柔術の調整も終わり、本格的に魔法の修行に入る。

「プラクテ・ビギ・ナル・アールデスカット」(火よ灯れ)

塔の中に有った初心者が扱う練習用の杖を使って、初心者用の呪文を唱えるが・・・何も起こらない。

それから一日、プラクテ・ビギ・ナル・アールデスカットを唱え続けたが、結果は惨敗に終わった。

そして喉を痛めてしまった。詠唱の修行は休みを入れながら程々にしないと、喉を痛めてしまう。

その事をサレナからきつく注意された俺は。彼女の作ったスケジュールに沿った修行を行なう事になる。

まず俺の一日は修行14時間、食事と休み時間を合せて3時間、睡眠は7時間

修行の14時間の内訳は10時間を魔法の修行に、4時間を基礎訓練や体術訓練に回す事になった。

修行10日目

一向にプラクテ・ビギ・ナル・アールデスカットの詠唱に成功しない。

その事を図書室に居るサレナに相談しに行くと、魔力を高める修行方法があるらしい。

早速サレナに言われた通り、その修行方法を試してみた。修行内容はインドのヨガに似ている。

修行14日目

ようやく初心者魔法、プラクテ・ビギ・ナル・アールデスカットの詠唱に成功した!

普通ならこの魔法を会得するのに、三ヶ月は費やすらしい。

流石に半日近くの時間を、魔法の修行に費やしただけの事はある。

しかし、だからと言って楽観視は出来ない。

この世界は普通より魔力が満ちているので。魔法が発動しやすい環境にあるのだから。

もう一つの初心者魔法の練習に入る。

修行21日目

同じく初心者魔法「プラクテ ビギ・ナル・ウェンテ」(風よ)の詠唱に成功した。

この調子でドンドン魔法を会得していくぞ!魔法詠唱のコツは集中力と精神力

この二つは誰にも負けない自身が有った。火星の後継者によって行なわれた過酷な人体実験、

そしてブラックサレナの急激にGに絶え続けた精神力。

過剰なIFS処理を要求したブラックサレナを、手足の様に操りながら一人で敵軍を駆けた集中力

どれも常人の身では、けして辿り着く事が出来ない境地

火星の後継者に対する復讐を糧に、血反吐を吐くような思いの末に辿り着いた狂気の力

修行24日目

修行を始めて今日で24日目、現実世界ではまだ一日しか時間は経ってはいない

このエデンの箱庭の一日は、外の現実世界の一時間でしか無いのだから。

正直、外の現実世界とこの異空間との時間の格差に、自分はあまり実感を沸かずにいた。

外に出られるのなら、時間の格差を確認する事が出来るのだろうが、

この世界より出られるのは480日後なので。今それを確認する事は不可能。

現在は初心者攻撃魔法「サギタ・マギカ」(魔法の射手)の修行に入っている。

修行31日目

サギタ・マギカの詠唱は未だに成功しない。初心者魔法とは言え、

流石に攻撃魔法はそう簡単に会得する事が出来ない。

今までスムーズに行き過ぎていて、魔法を少し甘く見ていたようだ。

ここは焦らずに一歩一歩前進していく事を心掛ける。

修行45日目

ようやくサギタ・マギカの詠唱に成功した。と言っても出せたのは破壊属性の風の矢を一本だけ。

他にも炎、水、氷、雷、と色々試してみるが、詠唱に成功する事は無かった。

その事をサレナに相談しに行くと、俺の相性の良い魔法は風系だと言われた。

480日と時間が限られているので、今後の修行方針は風系の魔法を中心に会得していく事になった。

修行60日目

サギタ・マギカの破壊属性の風の矢を、一度に10本まで出せるようになった。

同じく捕縛属性の風の矢も3本まで出せる様になった。まだまだ修行が足りない。

修行85日目

サギタ・マギカの破壊属性の風の矢を、一度に30本まで出せるようになった。

同じく捕縛属性の風の矢も10本まで出せる様になった。しかしこれぐらいで満足するわけにはいかない。

サレナに修行の問題点が無いか聞きに行き、その改善策を貰う。

修行100日目

サギタ・マギカの破壊属性の風の矢を、一度に80本まで出せるようになった。

同じく捕縛属性の風の矢も50本まで出せる様になった。

サレナの助言が効いた様だ。自分でも信じられない程に魔法が上達していく。

やはり頼りになるのはサレナだ。彼女の精密な分析力は今後共、お世話になり続ける事だろ。

修行120日目

サギタ・マギカの破壊属性の風の矢を、一度に120本まで出せるようになった。

同じく捕縛属性の風の矢も90本まで出せる様になった。

サギタ・マギカの修行はこれぐらいで充分だろ。次は防御魔法「デフレクシオ」(風楯)の修行に入る。

この魔法は魔法障壁を手に集めて魔法の盾を作り、物理的な攻撃を受け流す魔法だ。

それほど難易度の高い魔法では無いので、サギタ・マギカ程は時間が掛からないはず。

修行145日目

デフレクシオの詠唱に成功した。数日後、デフレクシオの効果を試す為に、

サレナに協力を頼み。デフレクシオの耐久実験を行なうことになった。

今の段階でどの程度の衝撃まで防ぐ事が出来るのか、今後修行が進み魔力が高まれば

より強固な魔法障壁を展開する事が出来るだろ。だがその前に今の実力を調べる必要があった。

自分がどの程度まで強くなったのか・・・魔法使いとしての力は大丈夫なのかと。

『マスター、準備はいいですか?』

俺とサレナは塔の外に出て、島の海岸にある崖に来ていた。俺は崖の下、そしてサレナは崖の上

俺の合図と同時に、サレナが直径1m程の大岩を上から落す手筈になっている、

勿論その岩をデフレクシオで防ぐ実験だ。サレナの分析では、今の俺の力ではこれが限界らしい。

しかしこれはあくまで計算上の数字であって、実際は防げるかどうかやってみないと分からない。

仮に失敗した場合、ナノマシンによって強化されたこの肉体と言えども、大怪我は必至。

しかし、それでもやらなければならない。自分の力量を測る為には多少の危険は覚悟の上。

「・・・サレナOKだ。やってくれ」

『行きますよーーえい!』

サレナが崖から大岩を落とした。

ヒューーーーー

1mの大岩が崖の上から落下して来た。あと一秒も経たずに自分と激突する所で

「・・・・・・デフレクシオ!」

アキトは魔法障壁を両手に集めて魔法の盾を作り、大岩を弾いた。実験は無事終了した。

「成功だな・・・ふぅ。」

本当に成功するかどうか、内心ドキドキしていたアキトだった。

修行168日目

今日で丁度、外の時間で一週間が経った頃だろ。修行日程の内1/3を消化した。

残された期間は2/3。今の力ではあのゴーレムに勝てそうに無い。まだまだ力が足りない。

その事をサレナに相談しに行くと、彼女との話し合いの結果、新たに修行方針を見直す事にした。

まず魔法は風の魔法一本に絞り、ゴーレムとの戦いに有効な魔法を中心に会得していく事になった。

将来的には風の魔法を中心とした戦い方で、あのゴーレムに挑む事になりそうだ。

そして新たに「フランス・エクサルマティオー」(風花・武装解除)の修行に入る。

この魔法は相手が身に付けている物を、強力な風によって吹き飛ばす魔法だ。

サギタ・マギカと同じ初心者が最初に習う魔法だ。しかしこの魔法は

ゴーレムとの戦いに有効な魔法とは言えないが、武装している対人戦では非常に役立つ魔法

そして何故か、サレナの強い後押しもありこの魔法の修行に入る事になった。



修行184日目

フランス・エクサルマティオーの詠唱に成功した。

ちょっとした悪戯を思い付いた俺は図書室に行き、本を読んでいるサレナに向けて

フランス・エクサルマティオーを放った。本当は彼女の読んでいる本を飛ばすつもりが

魔法が当たる直前にサレナが本を手放してしまい。本の変わりに彼女の黒い着物が弾け飛んでしまい。

サレナの白い裸体が露になってしまった。

『きゃっ・・・マスターのH!』

「すっすまん!!サレナ」

アキトは図書室から逃げ出し、そのまま修錬所に戻って修行の続きを行なったが・・・

その日はサレナの裸体を何度となく思い出してしまい。集中力が乱れてあまり修行にならなかった。

その頃、図書室では・・・

『ふふふ、マスター甘いですよ。私達は表層意識だけとは言え、リンクシステムで繋がっているんですよ?

マスターの悪戯なんて、私は直ぐに気が付きました。ですから逆に理由させて貰いました。

今頃マスターは、私の体を思い出してドキドキしている最中ですね♪』

どうやら彼女の方が一枚上手だったようだ。逆にアキトは彼女に悪戯されてしまった。

修行200日目

「フランス・バリエース・アエリアーリス」(風花・風障壁)の修行に入る。

この魔法は物理的な損害、10tクラスの衝撃にも耐えられる魔法らしい。

但し、効果は一瞬で連続使用も出来ない。使い所を選ばなければならない防御魔法だ。

しかし、あのゴーレムの巨体から繰り出すパワーを防ぐには、この魔法の会得が必要不可欠。

修行220日目

今日は修行を行なわずに、サレナが俺のナノマシンのメンテナンスを行なった。

その結果、体内の不要になったナノマシンの多くが、魔力に還元されている事が分かった。

これも遺跡ナノマシンの力らしい。お陰でこの世界に来た直後と今では、

魔力の質や量が大幅に上昇している。そしてこの傾向はもう少し続くらしい。

とりあえずナノマシンが安定するまで・・・

修行245日目

フランス・バリエース・アエリアーリスの詠唱に成功した。

さすがにデフレクシオの時の様な実験する訳にはいかない。岩の大きさと

落下速度を計算に入れれば、10tクラスの衝撃を再現する事は出来るが

失敗した場合は死ぬかもしれない。サレナの強い反対もあり、リスクが大き過ぎるので実験は見送った。

修行268日目

「フランス・サルタティオ・ブルウェレア」(風花・風塵乱舞)の修行に入る。

この魔法は炎を消せる程の強風を放つ魔法だ。竜を模したゴーレムは本物には及ばない物の、

アリスの説明では、それに近い灼熱の炎を吐くらしい。さすがに当たれば火傷程度では済まない。

その強力な炎を防ぐには、やはりこの魔法の力が必ず必要になる。

修行284日目

朝からサレナの様子が可笑しい・・・彼女の居る図書室へ様子を見に行くと

『素晴らしい・・・まさかこんな手が有ったなんて・・なんて素晴らしい本なんでしょう!』

サレナはまるで本に取り付かれた様に、一心不乱に手に持った本を読み続けている。

それも笑いながらだ・・・これは不気味。それにこの笑みは北辰のあの笑みに通じも物がある。

嫌な予感がして、その場から離れようとした時。

『・・・見てしまいましたね・・・マスター・・・。覚悟はよろしいですね♪』

何時の間にか後ろにサレナが居た。先程と同じ笑みを浮かべた彼女が・・・

「サッサレナっ!・・うっ・わぁぁぁぁぁーーーーー」

・・・そして翌日。何事も無かった様にアキト修錬所で修行を

サレナは図書室で魔法の情報収集を行なっていた。そして昼食時

「サレナ、実は昨日の記憶が無いんだが、俺は昨日何をしていた。」

『マスターは修行中に無理をし過ぎて倒れていたんです。勿論その後、私が看護しましたが・・・

あまり無茶はしないで下さいね。記憶の混乱もその影響だと思います』

何か満たされた、爽やかな笑顔を浮かべてサレナは答えた。

「そうか・・・世話を掛けたな」

逆にアキトは疲れた顔をしていた・・・

『別にかまいませんよ。お世話をするのは私の仕事ですから・・・ふふふ(マスターの記憶処理完了)』

昨日、サレナとアキトに何があったのか、それは誰も知らない事だ。サレナ以外は・・・

修行300日目

フランス・サルタティオ・ブルウェレア(風花・風塵乱舞)の詠唱に成功した。

これでゴーレムの灼熱の炎を防ぐ事が出来る。ゴーレムとの決戦に向けて

接近戦の備えはフランス・バリエース・アエリアーリスと合わせて。準備はかなり整った。

次は「カントゥス・ベラークス」(戦いの歌)の修行に入る。

この魔法は自分の体に魔力を供給して、身体能力を上げる魔法。

気や魔力で強化された肉体は、常人を遥かに越えた身体能力を手に入れるらしい。

ナノマシンで強化されているアキトと言えど、軽々と民家を飛び越せるほどの跳躍力は無いが

気や魔力で強化された人間はそれを軽々とこなすらしい。そして接近戦を好んで戦う魔法使いは、

気か魔力かどちらかで自身の肉体を強化して前衛で戦う事がある。

一般的な魔法使いは従者に前衛を任せて、自分は後衛から魔法で援護して戦うスタイルが一般的だ。

その際、前衛で戦っている従者に魔力を提供して、従者の身体能力を高めて戦わせる。

修行318日目

久しぶりに料理をする事に決めた。誘拐されてから今まで一度も厨房に立っては居ない。

サレナと一緒に記憶の中にある、天河特製チャーハンと天河特製ラーメンを作って見たが・・・

昔に比べたらやはり大分味が落ちていた。今更コックになるつもりは無いが。

料理を愛する一人として。気晴らし程度にこれからも、時々料理を作りたいと思った。

それにラピスやルリちゃんに、自分の料理を食べさせたいと言う気持ちもあった。

・・・ちなみにサレナは食事を取っても取らなくても、どちらでも問題は無い。俺の影なので

ただ、彼女は俺と食事を一緒にしたいと言う理由から、食事を取っている。



修行336日目

外の時間では二週間が経った頃だろ。気晴らしに塔内を散策していた時、新たに隠し部屋を見つけた。

早速サレナと共に中を調べて見ると、そこはマジックアイテムが沢山置かれている宝物庫だった。

「まさか、こんな部屋が在ったとは・・・アリスも教えてくれればいいものを」

ここには居ない彼女に愚痴を言う。彼女は外の時間で後一週間程でこの世界に戻って来るそうだ。

この世界の時間で計算すると144日後になる。

『彼女は捻くれていますから。ワザと教えなかったと思います。』

「・・・ありえるな。後で「自分で探し当てた方が面白いでしょ」とか言いそうだしな」

まだ付き合いが短いとは言え、アリスの性格は大体分かった。・・・あれは天邪鬼だ。

「とりあえず、使えそうな物を捜すとするか、サレナ手伝ってくれ」

アキトとサレナはガサガサと、辺りのマジックアイテムを漁り始める。

奇怪なデザインの物や、悪魔や天使を模った物等、多種多様な物がそこにはあった。

『マスター、中には呪われた道具も有ると思いますので、気を付けて下さい。

安易に使用したり。付けたりする事は絶対に避けてください。後で私が図書室に行って

道具の種類と効果を調べて来ますので」

呪われたマジックアイテム、強い力を秘めたマジックアイテムは、大なり小なり危険性を秘めている

あえてリスクを負う事で、それ相応の力を得るマジックアイテムがある事も知っている。

しかし強過ぎる力は諸刃の剣となる。扱いを誤ればその力は自分に返り周りをも傷つける。

注意しなければならない。力を求める理由は何処に有るのか、

俺の目的はアリスの下に居るルリとラピスに会いに行く事。今度は前の様に自分を見失いはしない。

「・・・サレナ。俺が扱える範囲の物を選んでくれよ」

アキトは声を少し落として、サレナに言った。

『わかっています。もうマスターが傷付く姿は見たくありませんから』

それからアキトとサレナは、使えそうなマジックアイテムや武器を何点か選び、

宝物庫から運び出して。それ等を図書室へと持っていった。

宝物庫にはマジックアイテムの他に、宝石や貴金属類、それに刀剣の類も置かれていたが

今必要なのは、ゴーレムとの戦いに役立ちそうなマジックアイテム。それを優先した。

後はサレナが図書室に戻り、マジックアイテムの種類や効果を調べる事になるだろう。

アキトは修錬所に戻り、魔法の修行を再会した。

修行340日目

宝物庫で見つかったマジックアイテムの、分析が終了したとの報告をサレナから受けた

早速サレナの居る図書室に行き。マジックアイテムの確認を行なう。

一つ目は魔法の杖「エメラルドロッド」

一般的な魔法の杖と同じ木製で作られている。しかし杖の先端には大きなエメラルドが埋め込まれている。

このエメラルドが風の魔法を増幅させるらしい。

実際、修錬所で魔法の杖を使ってサギタ・マギカを唱えて見たところ、

通常二倍近くの大きさと威力持った、破壊属性の風の矢を放つ事が出来た。

他にもこの魔法の杖を使って、風の魔法を色々試してみたところ、それぞれ風の魔法が強化されていた。

二つ目は魔法銃「ストーム」

実弾の代わりに魔力を弾丸にして飛ばす魔法銃。形状は大型のハンドガン

弾の威力は魔法の射手一発分で、一秒間に三発連射が可能。

これは魔法が使えないサレナが使う事になるだろ。

三つ目は魔法の双刀「夜叉丸」と「弁天」

日本の平安時代に陰陽師達によって作られた魔法の刀で、長さ90cmの打刀

黒い鞘に入った方が「夜叉丸」で、赤い鞘に入った方が「弁天」

刃が欠けても、折れても、砕けても、自動的に刃が再構築して新品同様に戻る。

二本あるので、夜叉丸は俺が使う事になり、弁天はサレナが使う事になった。

四つ目は魔法の指輪「スペルリング」

杖が無くても、この指輪が魔法を発動する触媒の役割を果す。

その代わり魔法の威力は、杖で発動するより威力が落ちてしまう。

形状はシルバーリングで、小さなラテン語が幾重にも書かれている。

五つ目は魔法のペンダント「ブルーマリン」

所持者に炎の耐性を与える。水の力を宿したペンダントで、

鎖は銀製で作られ、ペンダントトップの部分には、アクアマリンが備え付けられている。

六つ目は魔法の腕輪「ルビーアイ」

一定範囲内の炎を弱める効果を持つ魔法の腕輪。

大きなルビーが埋め込まれている銀製の腕輪で。両腕に付ける事で初めて魔法の効果を得る

七つ目は魔法の術衣「ミスリルローブ」

物理、魔法耐性を持つ魔法のローブ。見た目は魔法使い達の礼装である白いローブとそっくりだが

初級クラスの魔法を無力化する効果と、1tクラスの物理衝撃を無効化する力を持つ。

ミスリルと言う名前は付いているが、伝説の金属であるミスリルが使われている訳ではない。

あくまで愛称としてミスリルと言う名称が付けられた。

修行345日目

「カントゥス・ベラークス」(戦いの歌)の詠唱に成功した。

後は瞬動術と呼ばれる技を会得すれば。本格的な接近戦を行う事が出来る。

この瞬動術はその言葉の通り、3〜7m程の距離を一瞬で移動する技で

魔法使いに限らず、気を扱う者達もこの技を使い、機動力を上げて戦うのが一般的になっている。

早速、カントゥス・ベラークスを使い、身体に魔力を供給して

瞬動術の修行に入るが、力加減が難しく修行は難航しそうだ。

他にも「エウォカーティオ・ウァルキュリアールム」(風精召喚)の修行に入る。

この魔法は下位、中位、上位の風の精霊を召喚して、風の精霊に様々な命令を与える事が出来る。

一般的には戦わせるのが基本だが、捕縛を命じたりする事も出来る。

精霊の容姿は詠唱の種類や、詠唱者のイメージがそのまま現れるらしい。

どの様な容姿を持った風の精霊が現れるか楽しみだ。

修行355日目

瞬動術の会得に成功した。これで接近戦の準備は完了した。

図書室に居るサレナを修錬所に呼び、サレナとの組み手を入れた実戦訓練に移る。

組み手と言っても、木蓮式柔術や宝物庫で手入れた魔法の双刀を使い。

木蓮式抜刀術の本格的に打ち合いも行なった。実力が拮抗している者同士の戦いは非常にいい修行になる。

サレナの戦闘技能は、アーティファクト「幻影魔鏡」の効果により、自分と同一の力を持つ。

故に負ける事も無いが勝つ事も出来ない。ギリギリの攻防がお互い繰り返される。

修行365日目

この世界に来てから丁度一年の月日が流れた。今日は修行を休んで、

サレナと一緒に一周年の宴の席を設けた。俺もサレナと一緒に宴の料理を作った。

「・・・今日で一年か、時の流れは早い物だな」

この世界に来た一年前の事を思い出す。もっとも外の時間では15日程度しか時間は進んではいないが

ここで生活していると、随分過去に思えてしまう。

『マスター、年寄り見たいな事を言わないで下さい』

「・・・そうだな。今は忘れよう、この祝いの席を楽しむとするか」

サレナも珍しく宴を楽しんでいた。

修行385日目

ゴーレムとの戦いに備えて、俺とサレナの戦闘スタイルを構築する事になった。

まず、魔法が使えないサレナが魔法銃と双刀の一振り「弁天」を持って前衛で戦い。

俺はサレナを魔法で援護しながら、魔法の杖と双刀の一振り「夜叉丸」を持って後衛で戦う。

これはアキトのアーティファクト「幻影魔鏡」の特製上。

アキトが傷付いてしまえば、アキトの影であるサレナの戦闘能力も一緒に低下してしまうからだ。

それにアキトは幻影魔鏡を常に所持しているので、

戦闘により幻影魔鏡が割れてしまう危険性を下げる為、アキトは後衛で戦う事を選んだ。

修行400日目

エウォカーティオ・ウァルキュリアールム(風精召喚)の詠唱に成功した。

召喚に成功したのは可愛い容姿を持った下位精霊、直径30センチ程の小さな妖精だ。

しかし、今の段階では風の下位精霊を3体までしか、使役する事が出来ない。

魔法の威力もサギタ・マギカ(魔法の射手)程度しか無く、

中位、上位の風精霊はまだ召喚する事が出来なかった。

残り80日。もうあまり時間は残されてはいない。新たに魔法を会得する時間も無さそうだ。

この風精召喚の仕上げが最後になるだろ・・・

修行420日目

エウォカーティオ・ウァルキュリアールムによる、

下位精霊を5体、中位精霊を3体まで、使役する事が出来るようになった。

風の中位精霊の容姿は女性の姿を模っていて、右手に剣を左手に盾を持っていた。

この魔法はサギタ・マギカに比べて、魔法の威力も高く追尾性にも優れている。

精霊の数さえ揃えば、かなり強力な魔法として運用する事が出来るだろ。

修行445日目

エウォカーティオ・ウァルキュリアールムによる、

下位精霊を9体、中位精霊を7体、上位精霊を3体まで、使役する事が出来るようになった。

風の上位精霊の容姿は中位精霊と同じ女性の姿を模している、

しかしその両手には、直径2m近くの大きな一本の槍を携えている。

そして上位精霊の力はサギタ・マギカ等、比べ物にならない程大きな力を持っていた。

しかし、この魔法は精霊の数を揃える事が中々出来ない。

サギタ・マギカの場合は、100発近く魔法の射手を打ち込んで、数で押す事が出来るが・・・

修行不足でまだ、多くの精霊を一度に召喚する事が出来ない。

修行466日目

残り二週間。・・・今日は修行を休む事にした。理由?・・・疲れたから

日記もこれだけ書いて終了。・・・『では、私が続きを書きますね、マスター♪』

サレナの日記「エデンの箱庭特別編」

マスターのお嫁さんにも板が付いたサレナです。最近は料理の腕も上がってきています!

って私じゃなくて、マスターの料理の腕が上がっているので、

幻影魔鏡の力で、私の料理の能力も一緒に上がるんですけどね・・・

マスターは最近笑う様になって来ました。これは良い傾向です♪

マスターにはもっと沢山笑っていて欲しいです。

その為にもこの世界を出た後は、ルリとラピスのお迎えです。

彼女達もマスターの笑顔を見たらきっと喜びますね!でも恋愛事に関しては一歩も引きませんよ〜

現在私が一歩リードしています。ルリとラピスはまだ娘扱いなので、

ここから恋人に転じるは難しいですよ、年齢差もありますし、何よりマスターの鈍さは一級品です

・・・私の思いに全然気付かないんですから(涙)・・・キングオブ鈍感ですよ、まったく・・・

修行473日目

残り1週間。ゴーレムとの決戦に向けて、修行の最終調整に入った。

それに合せてサレナが、俺のナノマシンのメンテナンスを再び行なった。

前は遺跡ナノマシンの干渉により、不安定だったナノマシンも、

今では安定しており特に異常は見つからなかった。

ただ、ナノマシンが安定した事によって、これ以上魔力の容量や質が向上する事は無いとの事だ。

自分がどの程度まで強くなったのか。これまで行なった修行をもう一度見直してみた。

「サギタ・マギカ」(魔法の射手)は

一度に180発まで、破壊属性の風の矢を放つ事が出来る。

捕縛属性の風の矢は150発まで放つ事が出来る。サギタ・マギカ自体は600発で魔力が尽きる。

「エウォカーティオ・ウァルキュリアールム」(風精召喚)は

下位精霊を12体、中位精霊を8体、上位精霊を5体まで、使役する事が出来るようになった。

この魔法は精霊のクラスに関係なく、精霊を40体召喚した所で魔力が尽きる。

「カントゥス・ベラークス」(戦いの歌)

身体に魔力を継続して供給していられる時間は20分。それ以上は魔法の効果が切れる。

連続使用は5回が限度で、それ以上は魔力が尽きる。

残りの魔法に関しても、初期の頃に比べたら格段に強力な魔法へと成長していた。

過去を振り返りながら、自分は強くなった事を改めて自覚した。そして同時に恐れた。

力を持つという事は、危険と隣り合わせになる事が多い。そしてそれに伴う責任も発生する

ボソンジャンプと言う。空間と時間を超える異能力故に、火星の後継者に誘拐され、

そして、その復讐の為にボソンジャンプの力を使って、コロニーを5つも襲撃する事が出来た。

力は諸刃の剣。使い方を誤れば必ずその報いは自分へと戻ってくる。

今、自分が力を求めているのは、自分の身を守り、サレナの身を守り、そしてこれから会いに行く事になる

ルリちゃんやラピス達を守る為に、その為には自分はもっと強くなる必要がある。この苦境を乗り越える為に。

修行479日目

明日の決戦に向けて今日は修行を行わず、サレナと一緒に休む事にした。

「・・・明日か・・・」

アキトは明日の戦いに思いを馳せる。そしてこの戦いの先に居る、彼女達の事を・・・

『・・・明日です。しかし私はマスターの命に従い、マスターの敵を倒し、マスターを守るだけです』

アキトとサレナは夕食を終えた後、夜の海岸に来ていた。

「例の作戦を実行すればゴーレムに勝てるが・・・勝つ為にあの戦い方をするのは・・ちょっと」

アキトはあまりこの作戦に乗り気では無かった。この作戦はサレナが考えた手の中で、

もっとも単純で有効な策だ。しかしこの手を本当に使って良い物なのか・・未だに悩んでいた。

それが例え確実な勝利を掴む為とは言え・・・ある意味禁じ手を使うのだから

『マスター、今更何を言っているんですか?恥じも外聞もかなぐり捨てて下さい。

別に誰かに見られているわけてば無いんですから。カッコ悪くたっていいじゃないですか!』

「それは・・・そうなんだが、心情的にな・・・」

この作戦は有効な手とは言え、とても情けない戦い方になってしまう。

だが、間違いなくゴーレムに勝てる手段だった。この作戦は当初より考えられていた。

そして今から一年前、サレナの発案によって少しずつ準備して来た。主にサレナが準備していた物だが・・・

「俺が見たアニメや漫画の主人公達は、絶対にこの手を使わないな。使えばかなり有効な手だが」

こんな戦い方をすればアニメや漫画の連載が打ち切られるだろ・・・それに何度も使える手ではない。

『漫画やアニメの主人公達が、こんな情け無い戦い方したら、

TVや漫画を見ている子供達もドン引きしますよ・・・

悪人ですら、こんな手を使って戦っている所は見た事がありません。

ですが、現実の戦場に置いてはとても有効な手立てと言える事でしょう』

・・・戦場か、確かに一騎当千とまではいかないが、ブラックサレナの様な強力な兵器を潰すには

数と補給による波状攻撃で疲弊させて、叩く事がもっもと損害を少なくして勝利を収める方法だろ。

アキトはサレナの考えた秘策を携えて・・・479日目を終えた。そして明日は決戦の日に挑む。



中編に続く・・・改正版後書き。

竜のゴーレムと戦う前に、アキトの修行の成果を発表!

魔法使いとしてまだまだ未熟なアキトは、アリスが集めた強力な魔法道具の数々を手に入れた事で

戦闘能力が限定的にパワーアップ!・・・卑怯と思う無かれ。道具に頼って強くなるのは良くある事です。

例えば過去に逆行して来たアキトが「ブラックサレナ」や「ユーチャリス」や

未来の機動兵器を所持して過去の歴史に介入するとか・・・。

後、蜥蜴戦争の途中で未来の機動兵器を作ったりするとか、まぁその場合は北辰も夜天光を持ち出してきますが

夜天光と六連は蜥蜴大戦1年後には完成している設定なので、

ブラックサレナの登場で、開発が前倒しになっても可笑しくは無いんだよね。

・・・何にしてもアキトの修行期間が短いので、何かで補強しないと説明が付きません。

天才で済ませるのが一番楽ですが、物事には限度がありますから。あまり御都合過ぎるのも・・・

原作では魔法の素質が無いと魔法は使えない。一般的には三ヶ月で初心者魔法「火よ灯れ」を会得する

綾瀬夕映は才能が有った為に、一日三時間の練習で一ヵ月後には「火よ灯れ」と「風よ」を会得しています。

それじゃあアキトの場合はどうか?素質と才能は有りと言う事にして。検証して見ると。

アキトの一日は睡眠7時間、食事と休み時間を合せて3時間、残り14時間が修行になります。

その他にもサレナが図書室で、魔法の本を読んで知識を蓄えているので。

魔法の知識に関する情報も、リンクシステムを通してアキトの補助脳に蓄えられていきます。

アキトは実技訓練の他に、魔法の勉強をしているのと同じ成果を得る事が出来ます。

そして14時間の修行の内訳は、10時間を魔法の修行に、4時間を基礎訓練や体術訓練に、

アキトは魔法の修行を開始して一週間で「火よ灯れ」を会得しましたが。そこには

サレナの協力と多くの修行時間を費やした結果があります。ですのでアキトも結構苦労しています。

但しこれは通常空間より多くの魔力が、エデンの箱庭に有ったからと言う、好条件での出来事

さらに言えば、アキトはIFSを長年使い、実戦でさらにIFSが磨かれた事によって

イメージングに長けた者となっています。これが魔法を詠唱するに当たって、

役に立っていると言う設定です。ですので普通の人より魔法の会得が早いです。

さて、アキトが修行で覚えた魔法は全部で九つ。遅延と無詠唱はまだ使えません。

1番目・修行7〜14日目に会得「火よ灯れ」(アールデスカット)

2番目・修行14〜21日目に会得「風よ」(ウェンテ)

3番目・修行24〜45日目に会得「魔法の射手」(サギタ・マギカ)

4番目・修行120〜145日目に会得「風楯」(デフレクシオ)

5番目・修行168〜184日目に会得「風花・武装解除」(フランス・エクサルマティオー)

6番目・修行200〜245日目に会得「風花・風障壁」(フランス・バリエース・アエリアーリス)

7番目・修行268〜300日目に会得「風花・風塵乱舞」(フランス・サルタティオ・ブルウェレア)

8番目・修行300〜345日目に会得「戦いの歌」(カントゥス ベラークス)

9番目・修行345〜400日目に会得「風精召喚」(エウォカーティオ・ウァルキュリアールム)