修行480日目・・・最終日

遂に決戦の朝を迎えた。既に作戦の配備は完了している。後は竜のゴーレムと戦うだけだ。

食事と軽めの体操を済ませた俺とサレナは、マジックアイテムの確認を行い、作戦の最終確認を行なった。

そして全ての準備を整え塔を後にした俺達は、在る場所を目指して森の中を歩いている。

「忘れ物は無いな、サレナ・・・」

アキトは横を歩いているサレナに振り返り、彼女に確認を取る。

『忘れ物はありません。ご心配無く』

そう言ってサレナはアキトに笑いかける。

「・・・そうか」

アキトは魔法使い達が着ている、白いローブとそっくりな色と形状の術衣、ミスリルローブを被り。

左手にエメラルドロッドを、右腰には魔法の双刀の一振り、夜叉丸を取り付けている。

スペルリング、ブルーマリン、ルビーアイと、他のマジックアイテムも装備済みだ。

サレナも左手に魔法銃ストームを、右腰には魔法の双刀の一振り、弁天を取り付けている。

しかし、アキトとサレナの表情は決戦が近いと言うのに、それ程緊張してはいなかった。

サレナの考えた作戦に絶対的な自信があったからだ。そんなに慌てる必要も無い。

「必ずゴーレムを倒して、ルリちゃんとラピスの元へ行く」

アリスの下に居る自分の娘達を想うアキト。彼女達は今アリスに保護されているらしい。

しかし、アリスが何時までも彼女達を保護しているとも限らない。

なるべく早く彼女達の下へと行かなければならない。

『作戦は完璧です。ゴーレムと言っても所詮は命令通りに動く自動人形です。

柔軟な対応をする人間には勝てない事を教えてあげましょう。マスター』

サレナが自信満々に言う。確かにあれは最強だ。・・・良い意味で。

昨日、夕食時にアリスから連絡があった。と言ってもパクティオーカードを使った念話なので

サレナのリンクシステム経由で。俺の脳にアリスの言葉が届いて来た。

「アキト殿、お久しぶりですね。遂に明日は試験の日です。貴方が何処まで強くなったのか、私は楽しみです

対戦相手のゴーレムが出現する場所を教えましょう。場所はストーンサークルの在る場所です。

開始時刻は午前12時、試験の内容は簡単です。ゴーレムを倒してください。内容はそれだけです。では・・・」

そう言うと、アリスからの一方的な連絡は途切れた。

『アリスからの伝言は切れました・・・それにしても屈辱です!』

アリスにリンクシステムを使われた事が、サレナにとっては・・・かなり不快らしい。

彼女に取ってリンクシステムはアキトと自分を繋ぐ二人だけの物、それを無断で使われた事に対する。

怒りが渦巻いていた。しかし、何時ものように冷静さを取り戻した彼女は、アリスの言った場所の確認を行なう。

『・・・ストーンサークルですか?確かこの塔から北西に2kmの地点に在ったと思います』

サレナがこの島を全体図を思い出しながら答える。

「そうか、そこが決戦地と言うわけか」

アキトは棚から出した島の地図を広げながら、ストーンサークルの場所の確認を行なった。

そのストーンサークルの中に、竜のゴーレムの本体が封印されているらしい。

前回、アリスが展開した魔方陣のゴーレムは、あのストーンサークルの中を映し出した物だった。

俺とサレナは早めに食事を済ませて、決戦の地であるストーンサークルに出向いてみた。

「・・・ここが、ストーンサークル。ここにゴーレムが封印されているのか」

八角形に位置した石柱が8つ。一定の距離をおいて設置されている。

特に魔方陣らしき物は何も書かれてはいない。

しかし、このストーンサークル内に、僅かな空間の歪みをサレナは感じると言う。

『恐らくここにゴーレムが封印されている事は間違いありません。・・・それで、どうしますか?』

サレナは何かを確認するかのように、アキトに尋ねる

「・・・ゴーレムがここから出てくる事が分かっているのなら。先制攻撃を仕掛ける。

サレナ、お前が作っていた例の爆弾は実用可能か?」

今度はアキトがサレナに振り返り、彼女に尋ねる。

『例の爆弾ですか?問題ありません。実験は既に終了していますが、あまり数は有りませんよ』

アキトとサレナが言っている爆弾とは、サレナが図書室の本から見つけ出した魔法の爆弾の事だ。

魔法の本から詳しい爆弾の調合リストを解析したサレナは、

塔内に残っていた魔法薬を使い、調合して魔法の爆弾を作り出していた。

その破壊力はC4、俗に言うプラスチック爆弾には及ばないが、

普通の手榴弾より高い爆発力を持っていた。そして普通の爆弾と決定的に違う事は

振動や衝撃、可燃物で爆発する事が無く、特定の魔力の周波数によってのみ起爆すると言う点だ。

「サレナ、今から塔に戻ってありったけの爆弾を持ってくるぞ。

そしてそれをストーンクサークルの周りに設置する。ゴーレムが召喚されたと同時に起爆だ」

『わかりました。爆弾の数は10個しかありませんので、一度の往復で事が足りるはずです』

アキトとサレナは来た道を戻り塔に帰って来た。そしてサレナが作った爆弾を保管している部屋から、

袋に爆弾を10個入れて。再びストーンサークルへと戻って来た。

そして爆弾をサレナの指示に従い、一定の距離を取りながら円形に10個設置していく。

『この位置関係が、一番爆発の効果を高めるはずです』

サレナの導き出して計算によって、爆弾の配備が終了した。

「サレナ、ここが主戦場になるなら、例の作戦の配備箇所も調整したらどうだ?」

例の作戦、それこそが明日のゴーレムとの決戦の明暗を分ける重要な物。

『そうですね。若干の修正は必要と思いますが、それ程広範囲に位置を変える必要はありません』

島の全域に既に配備し終わっている。基本的に何処が主戦場になろうとも関係は無い。

「そうか、なら早めに済ませて今日はもう就寝しよう。疲れを明日に残すわけにはいかないからな」

俺とサレナは作戦の微調整を済ませた後。塔に戻り就寝した・・・そして今に至る。

俺達は森を抜けてストーンサークルへと辿り着いた。現在の時刻は午前11時30分

あと30分程でゴーレムの封印が解けて、戦う事になるだろ・・・

「サレナ、無茶だけはするなよ。お前がやられたら作戦その物が危なくなるからな」

アキトは何かと無理をし過ぎるサレナを気遣う。

『そのぐらい分かっています。私はあくまでマスターのサポートに徹するつもりです』

「そうか・・・それならいいんだ。今回は無理する必要が無いんだから、じっくりといこうか、サレナ」

アキトはそう言うとサレナに笑いかける。そんな敬愛する人の笑顔を見たサレナは顔が真っ赤になった。

『(マスターの笑顔って何時見ても素敵ですね。心が満たされる感じです・・・)』

サレナはアキトの笑顔に見惚れていた。

「どうした?サレナ?」

アキトは自分を見つめて動かなくなった、サレナを心配して声を掛ける。

『いっいえ、何でもありません・・・(マスターのバカ)』

サレナの想いが報われる日は果して来るのだろうか・・・

それとも新たな恋敵が現れて彼女の悩みが増す結果になるのだろうか、それは神のみぞ知る。



「遂にこの時が来たか・・・」

こんな所で立ち止まって入られない。ルリちゃんとラピスに会いに行くまでは。

俺は彼女達の下に、生きて向かいに行かなければならないのだから。だから絶対に死ねない。

俺自身の為にも、彼女達の為にも、俺はこの戦いに負けることが許されない・・・

「サレナ・・・いや、今はやめておこう」

『マスター?どうかしましたか?』

アキトは一瞬頭に浮かんだ事を振り払い、今は目の前の敵に集中することにした。

「なんでもないよ、それより時間だ。サレナ」

・・・ゴーレムが解放される午前12時を迎えた。

ゴォォォォォォ

ストーンサークルに魔方陣が浮かび上がり、青白い光を放ち始める。

そして薄っすらと、前回アリスに見せられた竜のゴーレムの姿が現れ始める。

相変わらずゴーレムは鎖で全身拘束されていたが、その鎖がジャラジャラと音を鳴らしながら揺れ動いていた。

それは正しくゴーレムが目覚めようとしている証拠だろう。そして・・・竜のゴーレムの瞳が開いた。

ギャァァァァァァァ

ゴーレムの甲高い咆哮が辺りに響き渡り、ゴーレムを拘束している鎖が物凄い勢いでしなり始める。そして

バッキンーーー!

ゴーレムは力任せに鎖を引き千切った。そして鎖の破片がバラバラと地面に落ちてくる。

ゴーレムはその巨体をゆっくりと動かして、ストーンサークルの外へ出ようとする。

「・・・早速お出ましかい。もっとゆっくりして行けばいいのに」

『改めて見ると、随分大きいですね〜』

アキトとサレナは竜のゴーレムを見上げた。その巨体は非常に大きかった。

自分の長年の愛機エステバリスよりも、復讐の象徴たるブラックサレナよりもずっと大きかった。

ゴーレムの全長は15メートルを悠に越える。赤竜を模した赤いゴーレムだった。

グゴォォォォォォーーー

空気を振動させるような凄まじい雄たけびを再び上げて、敵意の含んだ瞳でこちらを睨んで来た。

その瞳を見た時、アキトの身体はまるで生体本能が危険を告げるかのように震え始める。

これが恐怖による震えなのか、武者震いなのかは知らないが、

なんとか震える体を押さえ込んでゴーレムと対峙する

「ふん。いざ決戦だ!サレナ」

恐怖を吹き飛ばすようにアキトは声を上げる。

『了解!マスター』

サレナもアキトに続いて声を上げる。

「・・・・・・・戦いの歌!」

アキトは自ら魔力を提供して身体能力を高める魔法「戦いの歌」(カントゥス ベラークス)を唱える。

それと同時にアーティファクト「幻影魔鏡」の力により、アキトと同レベルまで

サレナの身体能力も引き上がっていく。

「サレナ、手筈通りに行くぞ!」

『承知しております。マスター』

「ふん!」

アキトはエメラルドロッドを天高くかざして魔力を解き放つ。それに康応して、

ストーンサークルの周りに配置している、10個の魔法爆弾が一斉に爆発した。

ドォォォォォォォォォン

爆発の威力は大きく、八角形に位置していた。8つの石柱の全てが吹き飛んで残骸と化す。

「お楽しみはこれからだ!」

アキトはエメラルドロッドに再び魔力を集めて呪文の詠唱に入る。

サレナはアキトの一歩前に出て魔法銃ストームをゴーレムに構える。二人は後衛と前衛の位置に分かれた。

「・・・・・・風の精霊、180柱、集い来たりて、敵を射て、魔法の射手、連弾、風の180矢」

『喰らいなさい!』

アキトは魔法の射手の呪文を発動をした。そして破壊属性の風の矢が、

風の力を増幅するエメラルドロッドより180発分、竜のゴーレムへと放たれた。

アキトの魔法の発動と共にサレナも、魔法銃ストームで魔力の弾丸をゴーレムに向けて連射していた。

ドォォォォォォォン

再び大きな爆発に見舞われるゴーレム、それもその筈、増幅された魔法の矢を180発、

そして魔法銃の弾丸を十数発受けたのだから・・・ゴーレムの身体は爆煙に包まれていた。

しかし、その爆煙が晴れた時、ゴーレムの身体には傷らしい傷は付いていなかった。恐るべき強度である。

「やはり硬いな。だが長期戦は覚悟の上だ!」

相手が生物では無く無機物のゴーレム、痛みや疲れを感じ無い以上、長期戦は覚悟していた。

『予定通り、多重攻撃を仕掛けていくしかありませんね。どんな強度を誇っていても、

攻撃を受け続ければ必ず何処かにガタがくるはずです』

ゴーレムの皮膚は非常に強固だった。竜を模しているだけあって、その強度は竜に類するのだろ。

しかし、切り札はこちらにある。長期戦を想定して準備して来たアレが・・・

今はまだ、慌てるような事態では無い。

『マスター!なんの遠慮もいりません。バンバン強力な魔法を唱えていってください』

サレナはそう言うと、ゴーレムに向かって走り出していた。そしてアキトは再び魔法の詠唱に入る。

「・・・・・・風精召喚、戦の女神、5柱、迎え撃て!」

風精召喚により、アキトは2m近い大きな槍を持った、女性の姿を模した風の上位精霊を5体召喚した。

「アキト様、お呼びでしょうか」

5体の風の上位精霊の内、一体がアキトに話し掛けてくる。

上位精霊ともなると自分の意思を持ち、こうして召喚者と話す事も可能になるのだ。

と言っても、5体召喚したら5体とも自分の意思を持っていると言うわけでは無い。

意思を持った1体の上位精霊が、自分の姿を五人分に分けているに過ぎない。

故に5体の精霊は同じ存在であり、同じ意思によって繋がっている、影分身と同じ状態なのだ。

「シルフィー、力を貸してもらいたい。あのゴーレムを倒す為に」

アキトはサレナと交戦中のゴーレムを見る。

「・・・わかりました。それがアキト様の望みなら、力を貸しましょう」

本来、召喚者が呼び出した者は召喚者に絶対服従をする。しかし中には言う事を聞かない者が居る

その場合は召喚者が未熟な者か、それとも自分の力以上の存在を召喚した場合に限る。

特に後者の場合は、召喚した者の力を制御出来ずに暴走してしまう事がある。

分かりやすく言えば、見習魔法使いがドラゴンを召喚して使役するような物だ。

アキトの場合は前者で、まだ魔法を完全にコントロールする事が出来ず。

中位精霊までなら問題は無いのが、上位精霊ともなると完全に制御する事はまだ無理だった。

だから召喚した風の上位精霊シルフィーにお願いして、言う事を聞いてもらっているのだ。

「そうか、助かるよシルフィー」

アキトはほっとした。もし断られたらどうしようと思っていたのだ。風の精霊は気まぐれだから。

「それでは、アキト様とのデート1回で手を打つ事にしましょう♪」

「うっ・・・」

どう言うわけか、アキトが召喚する風の上位精霊シルフィーは、アキトの事を気に入っていた。

だからこうして、呼び出す度にアキトにデートを吹っかけてくる。

そしてその度にサレナの機嫌が物凄く悪くなるのだ・・・そしてアキトの心労が増えていった。

「わっわかったよ。とりあえず、この戦いが終わった後にしてくれ」

アキトもちょっとヤケクソになっていた。とりあえずこの戦いに勝たなければ意味が無い。

「わかりました、それでは行って参ります」

シルフィーは、己の姿を模した4体の精霊を従えて、

ゴーレムと交戦中のサレナに合流、そしてゴーレムに攻撃を開始する。

『シルフィーなんて、呼ばなくてもいいじゃないですか。マスター・・・』

風の精霊達を見たサレナは、小さな声で独り言を囁いた。

「聞こえていますよ、サレナさん。貴方がどう思おうが呼び出したのはアキト様です」

余裕たっぷりな顔でシルフィーはサレナを見た。

「むっ!・・・。戦いしか能の無い貴方には、確かにお似合いですね」

今度はサレナがシルフィーに余裕の笑みを見せる番だった。

「!!!!!、何よ!アンタなんてアキト様の劣化コピーじゃない。自分一人じゃ何も出来ないくせに」

『うるさいですね!召喚されなきゃ何も出来ない。貴方と私とでは格が違うんです!』

シルフィーとサレナは言い合いを始めていた。

しかし、二人ともゴーレムとの戦闘は何故か器用にこなしていた。不思議だ光景だ。

そんな現実離れした光景をアキトはただ眺めていた。今の自分は何もする事が出来ない。

風精を使役中なので、アキトは新たな魔法を詠唱して攻撃に移る事が出来なかった。

熟練の魔法使いは発動した魔法を維持しながら、新たな魔法を詠唱する事が出来るらしい。

しかし、アキトはまだ未熟なのでそんな高度な芸当をする事が出来ない。

アキトはただ彼女達の戦いを見守り続けるしかなかった。勿論アキトが戦いに加わる事も出来たが

怪我をすれば幻影魔鏡で繋がっているサレナの戦闘能力も低下してしまい、結果的に彼女を危険に晒してしまう。

それでは意味が無い。この戦いは長期戦を想定しているのだ。・・・焦りは禁物。

『これでどうですか!!』

サレナは左手に持った魔法銃で、ゴーレムの右の眼球に弾丸を3連射するが、

キン、キン、キン。

『ああ、やっぱりあまり効果はありませんね』

サレナの魔法銃から放たれ弾丸は、狙い通りゴーレムの赤い右目に命中したが、傷一つ付くことはなかった。

生物なら致命傷になる眼球攻撃、しかし無機物のゴーレムにとっては、意味の無い攻撃だった様だ。

アキトの召喚したシルフィー率いる風の精霊達も、サレナを支援しながらゴーレムに果敢に挑むが、

ゴーレムの巨体から繰り出される爪や牙、翼、そして尻尾によって、

シルフィー本体を残して、風の上位精霊4体はゴーレムによって掻き消された。

「くっ、以外に素早いな」

アキトはもう一度、風精召喚を行なう為に魔法の詠唱に入る。そして

「・・・・・・・・・風精召喚、風の戦士、8柱、迎え撃て」

アキトは新たに剣と盾を持った女性を模した、風の中位精霊を8体召喚してゴーレムへ差し向ける。

同系列の魔法なら何とか発動した魔法を維持しながら、呪文の重複を行う事が出来た。

『行きます!』

「貴方には負けません!」

サレナは魔法銃で牽制を掛けながらゴーレムの足元に近づき、

魔法の刀「弁天」による木蓮式抜刀術をゴーレムの足元に放った。

そしてシルフィーは、風の中位精霊を盾にしてゴーレムに近づき、

両手で掴んでいる大槍をゴーレムの肩に突き刺した。

ガァァァァァァァ

しかし二人が与えた傷は僅かな切り口に過ぎず、サレナとシルフィーは直ぐに後退した。

「・・・予想以上の強度だ。木蓮式抜刀術を使ってあの程度しか傷付けられないとは」

戦いの歌、魔法の刀、そして木蓮式抜刀術の三つが合わさった一撃は軽々と鋼鉄を切り裂く

それがゴーレムに与える事が出来たのは僅かな切り口に過ぎない。一体どんな材質で作られたんだ!?

例えブラックサレナの特殊装甲と言えども、魔法で強化された木蓮式抜刀術の一撃を受ければ、

紙の様に切り裂くだけの破壊力が生まれているはず。つまりあのゴーレムの強度はブラックサレナ以上

『しかし無敵ではありません。僅かな傷と言えども積み重ねれば大きな傷になります』

サレナは木蓮式抜刀術で与えて切り口に、魔法銃を打ち込んでいく、

僅かに開いた切り口に魔力の弾丸が次々打ち込まれ、ゴーレムの傷口は少しずつ広がっていった

「私も負けて入られませんね!」

シルフィーも再度、大槍を構えてゴーレムに突撃を開始する。

『良い感じです。もう一度行きます!』

サレナはもう一度、木蓮式抜刀術を至近距離からゴーレムに放つ為、

生き残っていた風の中位精霊3体を囮に使い、一気にゴーレムとの距離を詰める。

『でぁぁぁぁーーー!』

サレナの木蓮式抜刀術が今度はゴーレムの膝へと放たれた。

しかし、サレナは迂闊にもゴーレムに近づき過ぎていた。

このゴーレムが何を模して作られていたのか、その事を失念していた。

竜のゴーレムはその口を僅かに開けて、灼熱の火炎を口に溜め始めていた。

「サレナ!!!そいつから急いで離れろ!」

『くっ・・間に合いません。マスター!支援をお願いします!』

竜のゴーレムは口に溜めた、灼熱の火炎をサレナに向けて放った。

しかし、それより早くアキトが魔法の詠唱をしながら瞬動術でサレナに近づき、詠唱していた魔法を解き放った。

「・・・・・・・吹け、一陣の風、風花、風塵乱舞!」

ボォォォォォォォォ

サレナに向けられたゴーレムの火炎は、アキトの放った強風の魔法によって

ゴーレムの火炎は空気の風の壁に阻まれて、左右に炎が分かれていく

しかし、炎の直撃は防ぐ事が出来たが、炎の熱波がアキトとサレナに襲い掛かって来た。

ゴォォォォォォォォ

「・・・くっ」

『・・・んんっ』

灼熱の炎の熱波がアキトとサレナに襲い掛かるが、彼らは無事だった。

炎の熱波を防ぎアキト達を救ったのは、アキトが戦いの前に身に付けたマジックアイテムだった。

水の力により炎の耐性を持つブルーマリン。そして一定の範囲内の炎を弱めるルビーアイ。

二つのマジックアイテムの力により、アキトはなんとか炎を受け流す事が出来た。

そして直ぐに二人はゴーレムとの距離を取る為、後方へと下がる。

『・・・・助かりました、マスター!・・・それとゴメンなさい!』

サレナはほっと一息付いた。ここで自分がやられては作戦に支障が出る。

しかしそれ以上に自分の失態の為に、アキトを危険に晒させてしまった事を謝る。

「お前が無事ならそれで構わない、それよりそろそろ引き際だと思うが?」

残りの魔力も大分少なくなってきた。あと何回魔法を唱える事が出来るだろうか。

「では、最初の地点に行きましょう」

サレナはそう言うと森の方を振り向いた。

「ああ、そうしよう・・・」

アキトとサレナはゴーレムに背を向けて、森の方へと走り出した。

「シルフィー、ゴーレムの足止めを少しの間頼む、その後は帰っていいぞ」

アキトは風の上位精霊シルフィーに、自分達が逃げる時間を確保させる為、

ゴーレムの足止めを彼女に頼んだ。そして帰るとは召喚者の束縛から解き放つと言う事だ。

束縛から解き放れた精霊は元居た世界へと帰って行く。

「アキト様!デートの約束は守って下さいね!!」

遠くの方からシルフィーの声が聞こえて来た。そして、その声をサレナが聞き逃すわけが無かった。

「あっあの・・サレナ?」

アキトはビクビクしながらサレナの顔を見る。

『マスター、シルフィーとのデートの件は、後できっちりと聞かせてもらいます』

サレナの顔は笑っているが、目がまったく笑っていなかった。はっきり言って怖い・・・

そうこうしている内に竜のゴーレムがその翼を羽ばたかせて、自分達を追い掛けて来た。

シルフィーの足止めはあまり効果をなさなかったようだ。しかし目的地は直ぐそこまで来ていた。

「・・・見えてきたぞ!」

アキト達の前方には白い旗の付いた樹木見える。そしてその下には有る物が置かれていた。

『では、私がここで足止めを行ないますので、マスターはその間に済ませてください』

サレナは後ろから飛んで追いかけて来るゴーレムの足止めをする為、ゴーレムへと向かって行った。

「無理はするなよ、サレナ」

アキトはそのまま白い旗の付いた樹木に行き、その樹木の根元に有る液体の入った透明なビンを掴む

「これが俺達の切り札、そして勝利の鍵だ」

アキトはビンの蓋を開けて、中の液体を飲み始める。

ゴクゴクゴクゴクゴク

アキトは喉を鳴らしながら、一気に液体を飲んでいく。

「ぷはっぁ・・・・にがぁ」

アキトはビンに入った液体を全て飲みきった。その味はとても苦かった。

しかし、この液体を飲み終わった後、身体の内側からどんどん力が溢れ始める。

「よし!・・・魔力の回復完了!待ってろサレナ今行くぞ」

アキトはサレナの戦っている場所まで戻り、その途中で魔法の詠唱に入る。

「風の精霊、180柱、集い来たりて、敵を射て、魔法の射手、連弾、風の180矢」

エルメルドロッドで増幅した風の矢180発分の、魔法の射手をゴーレムの傷口へと放った。

ドォォォォォォォン

多数の魔法の射手がゴーレムに当たり、爆煙がゴーレムを再び包み込んだ。

そしてサレナも魔法の射手を発動したアキトの姿を見て、後退してアキトと合流した。

『マスター、飲み終わりましたか?』

「ああ、相変わらず苦い味だ。しかしこの通り魔力は全快している」

自分の魔力を見せ付ける様にアキトは魔力を高めた。そしてその様子を見たサレナは安心する。

『魔法回復薬は正常に機能しているようですね。それなら作戦も無事に展開する事が出来るでしょう』

アキト達が事前に用意していた物、それは大量の魔法回復薬だった。

魔法回復薬を液状にして大量に生産する。これはゴーレムとの決戦時にアキトが魔法を連発するため

この島の各所に目印の白い旗を樹木に取り付けて、その下に液状の魔法回復薬を入れたビンを配置した。

これによって魔力の心配無く、力の限り強力な魔法を連発して戦う事が出来る。

これがアキトとサレナが考えた作戦。ゴーレムに対して長期戦に持ち込み、消耗戦を仕掛けること。

どんな強敵でも、攻撃を受け続ければ何れ倒れる事になる。

それが例え、疲れを知らない無機物のゴーレムと言えども。動けば魔力を消費する。

痛覚が無くても攻撃を受ければ僅かに傷が付く。戦いに置いて補給は大切な事だ。

しかし一人、いやこの場合一体に対してこの様な消耗戦を仕掛ける事など論外だろ。

・・・まぁ、あのまま元の世界に居れば、俺の乗っていたブラックサレナが

連合軍か統合軍の艦隊に波状攻撃を仕掛けられたと思うが、仮にそうなったとしても

ボソンジャンプで包囲網の外に跳べばいいだけだし。消耗戦を仕掛ける事は有効な手とは言えないだろ。

とにかく俺とサレナは確実な勝利を掴む為に、恥じをかなぐり捨てて補給による消耗戦を選んだ。

アニメや漫画の主人公は絶対こんな卑怯な戦い方をしないだろ。大量の回復アイテムを使用しての消耗戦など。

しかし、ゲームでは良くあることだ。強敵に対して、回復アイテムを頼りに消耗戦に持ち込むと言う事は・・・



「・・・・・・戦いの歌!」

アキトは三回目の戦いの歌を発動した。既にゴーレムと戦い始めて一時間が経っていた。

ゴーレムの身体には、アキトとサレナによって付けられた無数の傷が付いていた。

それに比べてアキトにはほとんど傷が無かった。そして接近戦を仕掛けているサレナにも傷は無かった。

もっともサレナの場合は、例え傷を受けてもアキトの魔力を消費して、

損傷箇所を自動で修復するので傷自体が身体に付かない。そしてアキトの魔力が尽きない限り、

サレナは再生を繰り返す事が出来る。しかしアキトの魔力も尽きる事は無い。

何故なら島の各所に配置した99個では到底追い付かない、大量の魔法回復薬を島中に配置しているのだ

勿論、魔法回復約の他に体力を回復させる魔法薬も充分に容易している。こちらにも一切抜かりは無い。

「・・・・・・風精召喚、風の戦士、8柱、迎え撃て」

アキトは剣と盾を持った、風の中位精霊を8体召喚してゴーレムへと放つ。

風の中位精霊達は度重なる攻撃で、傷口が大きく開いた箇所に集中して攻撃を加えていく。

そしてサレナも風の精霊達に負けない様に、魔法銃を連射して傷口を開けていく。

『マスター、ゴーレムの動きも大分鈍ってきました。それと今までの戦いから推測すると

恐らくあのゴーレムの弱点は胸部だと思われます。そこに集中攻撃を仕掛けましょう』

サレナの高速思考と分析力によって、ゴーレムの弱点と思われる場所が判明した。

「分かった!俺が至近距離から魔法の射手を全力でぶち込む、サレナ援護してくれ!」

『わかりました。マスター、危なくなったら引いてください』

アキトは風の中位精霊達を全て、ゴーレムに体当たりさせて隙を作り、

瞬動術を連続で使いゴーレムに接近して行く。サレナもゴーレムに魔法銃を連射しながら

木蓮式抜刀術を放つ為、接近戦を仕掛ける。仮に木蓮式抜刀術を放てなくても、囮になる事が出来る。

ガァァァァァァァァァ

ゴーレムはサレナや風の精霊達を無視してアキト目掛けて突進する。そして前足の爪をアキトに振り下ろすが

「・・・・・・風花・風障壁!」

物理的な衝撃を10tまで防ぐ魔法障壁が一時的に展開され、難なくゴーレムの爪を弾く事に成功した。

そしてアキトは瞬間術でゴーレムの懐に潜り込み、ゴーレムの胸部にエメラルドロッドを付ける。

「・・・・・風の精霊、180柱、集い来たりて、敵を射て、魔法の射手、連弾、風の180矢」

エメラルドロッドによって増幅された魔法の射手180発が、0距離からゴーレムの胸部に放たれた。

ボォォォォォォォォォォン

魔法の射手を0距離から放った事で、アキトも爆発の余波に巻き込まれるが

初級魔法を無力化して1tの物理衝撃を無力化する、ミスリルローブのお陰で怪我をする事は無かった。

爆煙から逃れたアキトは再びゴーレムとの距離を取り、もう一度魔法の射手の詠唱に入ろうとするが

それよりも早くゴーレムの身体の各所がボロボロと崩れ始める。そしてゴーレムはの巨体は大地へと倒れた。

ドスーーーーン

「・・・勝ったのか?」

『たぶん・・しかし、・・・・』

アキトは半信半疑のまま大地に横たわったゴーレムを見る。

しかしサレナだけはゴーレムの僅かな異変に気付いていた。ゴーレムの身体から徐々に漏れ出す魔力の流れ・・・

力を失ったにしては、魔力の流失が若干早過ぎるような気がする。これは・・・一体。

サレナは警戒しながらゴーレムをもう一度念入りに確認すると。

『・・・・・!!!!!マスター!ゴーレムの内部から膨大な魔力の流出反応が・・・まさか自爆?!』

サレナの悲鳴に似た声が辺りに響く。

「何!!くっ・・・サレナこの場から離脱するぞ!」

しかし、アキトとサレナの考えていたより状況は最悪だった。

『ダッダメです。もう時間が有りません。マスター、逃げてくださいーーー』

アキトは自分の魔力を限界まで高めて防御魔法の詠唱に入る。

「くっ!、対魔法障壁、対物理障壁、全方位、全力展開!!」

アキトはゴーレムが爆発する間際のギリギリのタイミングで、

自分とサレナを包み込む魔法障壁を全力で展開した。

そして大地に横たわっていたゴーレムは、内部の魔力が膨張して大爆発を起こした。

ドォォォォォォォォォン

強大な爆発により発生した爆炎と魔力の余波が、魔法障壁を展開しているアキトの元に襲い掛かる。

「うぉぉぉぉーーーーーー!!!」

展開している魔法障壁がどんどんひび割れていく。前方の視界は真っ白。何も見えない。

膨大なエネルギーの余波が、辺りの視界を真っ白に染めていた。

「・・・くぅ゛・・・まだ・・持て・・・・あと少し・・だ」

展開している魔法障壁は既に、崩壊寸前の所でギリギリ持っていた。

そしてアキトが待ち望んだ時が・・・ようやく来た。

「・・くぅ゛・・・よし・・・」

エネルギーの流れが急速に弱まり始める。あと少しでこの膨大な魔力の余波は収束するだろ。

「・ぁ゛がぁぅ!!!」

バッリン

しかし、無情にもあと少しの所で魔法障壁は崩れ、アキトとサレナは爆発の余波に吹っ飛ばされた。

どのぐらい飛ばされただろ。受身も魔法障壁を張れないまま、アキトは思いっきり地面に叩き付けられる

「・・・ぐふっ」

口から血が噴出す。どうやら内臓をかなり痛めてしまったらしい。

しかし痛みが分かると言うことは、まだ自分は辛うじて生きていると言う事だ・・・

自分が生きているのなら恐らくサレナも無事なのだろ。懐に入れていた幻影魔鏡は割れてしまっていたが

実体化が解除されればサレナは俺の補助脳に戻ってくるはず・・・そう思い声を掛けて見る。

『・・サ、レナ、無・・事か」

アキトは辛うじて喋る事が出来たが、喋るたびに口から血が溢れ出す。

『・・・はい、しかし、マスターの身体はかなり損傷しています。喋ると危険なので喋らないで下さい

それと私はこれからマスターの身体を治す為、治療用ナノマシンの制御に専念するので

リンクシステムでの会話も控えてください。治療が遅くなりますので・・・・』

「・・・・・・・・」

アキトは顔を動かして辺りを見る、そこは直径1kmはありそうな大きなクレーターの中だった。

あのゴーレムの爆発によって生まれたのだろう。問題のゴーレムは跡形も無く吹き飛んでいる。

全身の疲労が今になって現れ始めた。・・・魔法薬で回復していても。

疲労は取り除けるわけでは無いらしい。薬では回復しない疲労は徐々に蓄積されていたのだ

アキトは睡魔に身を任せて、そのまま意識を手放し深い眠りに付いた・・・



まだまだ続くよ!後編へ

中編後書き

アキトの魔法始動キーは「・・・・・・」未設定です。適当に脳内補完してください。

次に魔法の詠唱が何故日本語なのと言われても・・・ラテン語よりその方が分かりやすいでしょ?

アキトはセコイ手?を使って竜のゴーレムに勝ちましたが、彼の実力は果してどの程度なのか

魔力の容量と質に関してはネギ先生には及びませんが、エヴァには勝ちます。次に戦闘能力ですが

学園長>高畑先生>天河アキト>上位の魔法先生>武道四天王>小太郎>ネギ>魔法先生、生徒の順番です。

ちなみにアキトの戦闘力は、魔法の杖、魔法の刀、魔法の爆弾、魔法の拳銃を所持した

完全装備状態の強さです。何も持っていない生身のアキトの戦闘力はそんなに高くないです。

元々奇襲が専門の破壊工作員ですから、武器の扱いには慣れていますが、魔法の扱いにはまだ不慣れなので

それにあんまりアキトを強くし過ぎると、超編に介入するに当たって不都合が生まれるので



天河アキトのパクティオーカード紹介

称号「黒百合を纏いし操者」

色調は七色、番号は96番、徳性は愛、方位は東、星辰性は黒い穴

アーティファクト名「幻影魔鏡(LV1〜?)」鏡の魔法道具。

本来は鏡に映った使用者の姿を召喚するのだが、アキトが使用するとサレナが鏡に映し出させれる。

使用者と同一の能力を有する。使用者(サレナ)の姿を模した者を使用者の影から幻影として召喚する。

その歳、使用者の影は消失する。なお幻影は魔法を唱える事が出来ない。

仮契約の場合<多くの制約が付くが、使用者の力が強まるか幻影魔鏡を使い続ける事で

アーティファクトのLVが上がり、制約が徐々に緩和されていく、ちなみにアキトの幻影魔鏡はまだLV1。

「使用上の注意事項その1」

幻影の実体化の維持には、使用者の魔力が消費される。

使用者の魔力が無くなった場合、幻影の実体化は解除される。

魔力が満ちている場所では、使用者の魔力を消費せずに幻影を実体化させる事が出来る。

「使用上の注意事項その2」

使用者が意識を失うか、幻影魔鏡を破壊された場合、幻影の実体化は解除される。

幻影魔鏡を使って幻影を呼び出す事が出来るのは一日3回だけ。それ以上は召喚する事で出来ない。

「使用上の注意事項その3」

幻影が実体化していられる範囲は幻影魔鏡から半径100m。そこから出た場合、実体化は解除される。

使用者と幻影魔鏡の距離が半径10mより離れた場合も、同じく幻影の実体化は解除される。

「使用上の注意事項その4」

病気や怪我で使用者の能力が低下した場合。使用者の影から作られる幻影も同じく能力が低下する。

幻影の実体化中に使用者が怪我をした場合も、同じく幻影の能力が低下する。

魔法や気の力で使用者の能力が上がった場合は、同じく幻影の能力も上昇する。

「使用上の注意事項その5」

幻影が損傷した場合、損傷の度合いに合わせて使用者の魔力を消費して、幻影の損傷箇所を自動で復元する。

幻影が修復不可能など程、破壊されてしまった場合、幻影の実体化は解除される。

その場合、新しく幻影を召喚するには24時間の間が必要になる。