ゴーレムとの死闘を終えてから、アキトは5時間もの間、眠りに付いていた。

そしてようやくアキトは意識を取り戻した。

「・・・ぅっ・・・」

ここは・・そうか・・・。俺はゴーレムの自爆に巻き込まれた後、

疲労から来る睡魔に襲われて、そのまま眠りに付いたんだ・・・。

全身の痛みは引いている。体内の治療用ナノマシンを操作して、サレナが俺の身体を治してくれたのだろ。

「・・・サレナ・・・居るか」

アキトはリンクシステムを使って、サレナに呼びかけて見る。

『・・・マスター、気が付きましたか?あまり無理はしないでくださいね。

とりあえず応急処置は済ませましたが、身体が完治するには一週間は必要だと思います』

アキトの怪我は普通の人間ならとっくに、死んでいる程の重傷だった。

しかしアキトの身体はナノマシンによって、生体強化が施されているので、

これぐらいの怪我では死なない、いや死ねないのだ。補助脳が完全に死滅しない限り、

サレナが治療用ナノマシンを操作して細胞の無限再生を行うのだから。仮に体の一部を失ったとしても

細胞の分裂を促進して損失箇所を再生させる事が出来るらしい・・・アキトは半分人間をやめていた。

「・・・心配を掛けたなサレナ」

また、サレナに心配を掛けてしまった。それにしても・・・まさかゴーレムが自爆するとは

俺の読みが甘かった。アリスならその可能性も視野に入れるべきだった。

『マスターが無事ならそれで結構です。ふぅ〜、一時はどうなるかと思いましたよ』

アキトの身体は確かに無事だったが、折角手に入れたマジックアイテムまでは、そうはいかなかった。

まず、身に付けているミスリルローブはボロ切れとなり。ほとんど原型を成していない。

それに魔力をまったく感じなくなった。もうミスリルローブは使い物にならないだろ。

炎を退ける力を持つブルーマリンとルビーアイも、完全に宝石部分が砕けてしまい。

ミスリルローブと同じく魔力を完全に失っている。修復は不可能だろ・・・

指に付けていたスペルリングもひび割れており、魔法詠唱の触媒としての機能は失われているようだ。

もっとも、このスペルリングは宝物庫に何個か同じ物が有ったので替えは利く。

今回使う事が無かった。腰に付けている夜叉丸は辛うじて無事だった、しかし当分は使う事が出来ない

ゴーレムの爆発によって発生した膨大な魔力の余波の影響で、夜叉丸から魔法の力が消失していた。

しかしこれは一時的な物らしく。時間が経って魔力の影響が消えれば、夜叉丸の持つ魔法の力が元に戻るらしい。

サレナが持っていた魔法銃ストームと、夜叉丸の兄弟刀にして魔法の双刀の一振り弁天は、

魔力の余波に巻き込まれて、恐らく消滅してしまったのだろう。

展開していた魔法障壁が壊れて魔力の余波に飲まれた後、

俺が気づいた時にはサレナは俺の補助脳に戻っていたので、

サレナは再生不可能な程の魔力を一気に受けた見ていい。・・・それにしても俺はよく生きていたな。

まぁ何にしても命が助かったんだ。それだけで充分だ。魔法の刀は別な物をサレナに渡せばいいし。

魔法銃に関しても連射性に優れるストームの他に、威力と性能が異なる魔法銃が後二つ宝物庫に有ったはずだ

唯一無傷だったのは左手に持っているエメラルドロッドだけ。

これだけは他のマジックアイテムとは別格と言うわけか。それだけ強い魔力を持っているのだろう・・・

『マジックアイテムは無くなりましたが、マスターの命は助かりました。

仮にマジックアイテムに意思があるのなら、彼らもきっとマスターが助かった事を喜んでいるでしょ

マスターはマジックアイテムの手入れを大切にしていましたから、道具としては幸せだったと思います。

元道具であるこのサレナが言うんです。間違いはありません!』

サレナが力強くアキトに答えた。その想いはブラックサレナと言う道具であり、

兵器だった物だからこそ。言える言葉だった。

「・・・そうだな。ありがとう」

もし、自分がマジックアイテムを装備していなかったら、ゴーレムを倒す事が出来たとしても。

ゴーレムの自爆から身を守ることも出来なかっただろ。

自分の代わりに壊れたマジックアイテムに、アキトは感謝を述べた。

「・・・・・・」

アキトは立ち上がり辺りを見渡す。

「・・・酷い惨状だ」

ゴーレムの爆発によって生まれた、大きなクレーターの中に自分は居た。

少しの間、感傷に浸っていると・・・今一番会いたくない人物の声が聞こえて来た。

「うふふ、おめでとう。アキト殿」

黒いフードを目深に被った少女アリスが、目の前の空間に転移して来た。今度も恐らく思念体なのだろう。

しかしそんな事はどうでもいい。彼女には聞かなければならない事があった。

「・・・アリス・・ゴーレムが自爆する事は・・・お前は知っていたのか?」

俺はアリスを睨んでいた。こんな事態になるなら、もう少しゴーレムの情報を寄越しても良かったはずだ。

お陰でこちらはゴーレムの爆発に巻き込まれて、あゆやく死ぬところだった。

しかし、アリスの返答は俺の予測を遥かに超える物だった。

「はい、ゴーレムを自爆させたのは私ですから、勿論アキト殿が死なない様に爆発の威力は調整しましたが」

そう言ってアリスは笑っていた。・・・彼女は何の罪悪感も感じていないらしい。

「くっ・・貴様!」

アキトはアリスに強めの殺気をぶつける。普通の人間がアキトの殺気を受ければ気絶してしまうだろ。

それ程にアキトの殺気は強かった。しかし、実体を持たない彼女にどれ程効果が有るのか分からない。

それでもアキトは彼女の行いに怒っていた。だから効果が有るか無いか別として殺気を彼女に放った。

「・・・アキト殿が・・・ズルしたから悪いんです!こんな戦い方は見ていて美しくありません。

魔法道具を持ち出す事までは良しとしましょう、しかし、魔法薬を大量に使用した消耗戦ですか?

こんな無様で醜い戦い方をされては、私の従者として品格を問われます!」

アリスは急に不貞腐れたように自分の考えを述べた。しかしアキトの考えは違った。

多くの戦場を渡り歩いて来た彼には、戦いと言う物が常に身近に存在する、

大切な者達を簡単に巻き込んでしまい、そして奪い去ってしまう危険な行為だと分かってた。

それがアリスには分からないのだろうか。そう思うと急に悲しくなってしまった。

「・・・・・・・・・」

戦いに美しさは無い、戦いが齎すのは破壊と恐怖、悲しみ、憎しみ、そして死だけだ。美しさは残らない。

この現状がそうだ。ゴーレムの自爆によって美しかった島の一部が焦土と化した現状。これが現実だった。

「ふふふ、怒った顔も素敵ですが、悲しみを浮かべるアキト殿の顔はさらに魅力的ですね。

もっとアキト殿の心を私に見せて下さい。その内に秘めた想いを解放してください」

アリスは無邪気に笑っていた。アキトの心を垣間見るの事が彼女には楽しいらしい・・・

『マスター、これはアリスの挑発です。頭を冷やしてください』

「・・・・・・・・ああ」

どうしてアリスはこんな事を言うのだろうか、そして彼女は俺に何を求めているのだろうか。

単純に俺をからかっているだけでは無い、それは分かるのだが・・・

彼女の心には一体何を抱え込んでいるのだろう。虚無か?狂気か?まったく別な想いなのか、

今の俺にはそれが何なのか分からない、でも話し合う事は出来るのだから。

何時かはお互いを理解し会える日が来るかもしれない。俺はそう願いたかった。



「何にしてもゴーレムを倒す事が出来のですから、約束通りこのエデンの箱庭から出して差し上げましょう。

・・・とその前に、アキト殿に紹介しなればならない人物が居ます」

アリスはそう言うと、両手を大きく広げて呪文の詠唱を行い召喚魔法を発動した。

そして地面に浮き出た魔方陣の中から、東南アジア系の民族衣装に似た物を着た

やや褐色した肌と、赤い髪、そして赤い瞳を持つ10歳前後の少女が現れた。

「ここは何処ですか?・・・貴方はアリス?・・・私は元の体に戻る事が出来たのですか?」

赤毛の少女は辺りを見渡し、次に自分の身体を不思議そうに見ていた。

「そうですよカレン。貴方の呪いは解けました・・・しかし、竜の力は失われたままです」

アリスは少し残念そうに、カレンと呼ばれた少女を見つめる。

「そんなどうして!元の姿に戻ったのにどうして力が戻らないの。それじゃあ私は帰れない・・・」

悲痛な叫び、そして愕然とした表情をカレンは浮かべていた。大切な力を失ってしまったからだ。

「困りましたね、どうしましょうか」

「・・うぅ・・・」

カレンの瞳に涙が溜まり始める。カレンは竜の力を失った事で故郷に帰れなくなってしまった。

彼女の故郷に肉親は居ない既に小さい頃に死んでいた。それでも彼女は故郷が好きだった。

誰しも故郷は大切だ。しかし彼女は故郷に戻る事が出来なくなってしまった。

竜の力の無い者は竜の住む領域に入る事が出来ない。そういう結界が張られているのだ。

「私はこれからどうすればいいの、どうやって生きればいいの・・・教えてアリス。お願い」

竜の力を失い、故郷に帰ることも出来ない。助けてくれる人も居ない。

まだ幼い彼女にはこの現実は辛過ぎた。そんなカレンを可哀相と思ったアリスは・・・

「可哀相なアリス・・・それではカレンの責任は、そこに居るアキト殿にとって貰いましょう。

そもそもカレンの力が失われた原因はアキト殿にあるのですから、カレンを任せましたよ、アキト殿」

「・・・はっ?」

アリスはアキトの方に振り向いて、悪戯をしている様な子悪魔な笑顔を浮かべていた。

対するアキトは、突然アリスから話を振られて唖然となっていた。

「・・・・・・貴方は悪い人なんですか?私の力を奪ったってアリスは言いましたが」

カレンは少し警戒しながらアキトに近づいて、アキトに話し掛けた。

「いや、俺は何も悪い事はしてないぞ、だから悪人では無い・・・」

アキトは少女の警戒を解く為に。苦笑しながら彼女の質問に答えた。

本当は元居た世界では超が三つ付く程の極悪人だけど、この世界に来てからは何も悪い事はしていない。

・・・いや、本当です。・・・信じて・・あの、その・・・・・ゴメンなさい。本当は悪い事しました。

洋服店の事務所に無断で侵入して、監視カメラの映像を止めました。

ハッキングして企業や銀行が脱税して隠しているお金を少し頂きました。後は何も悪い事はしていません。

チンピラ達に制裁した事はアキトの考えでは悪い事に入らないらしい。(だってあれは人助けでしょ?)

「貴方は本当に悪い人じゃ無いんですか?・・・信じていいんですか?」

カレンは若干アキトに対する警戒を緩めたが、まだ完全にアキトの話を信じきる事が出来ないらしい。

アリスその昔、人間界に行った時、悪い人間の魔法使いに騙されて竜の力を奪われてしまった過去を持つ。

アキトが倒した竜の石像は、悪い魔法使い達がカレンの力を抽出して作った物だった。

そして彼女自身も呪いを掛けられ、竜の石像の中に封印されてしまったが、

アキトがゴーレムを倒した事で、カレンに掛かっていた呪いが解ける事となった。

しかし、長年竜の力を押さえ込んでいた、ゴーレムの内部は非常に脆くなっており。

アキトが倒した事が切っ掛けとなって、何時爆発しても可笑しくは無かった。

アリスはゴーレムが自爆する前に、呪縛の解けたカレンを転移魔法を使ってゴーレムの中から救い出した。

そしてアリスはアキトが死なない程度に、ゴーレムの自爆の力を押さえ込んでいたのだ。

その事実をアリスはアキトに伝えなかった。彼の心を見たいが為に・・・

「・・・話がいまいち見えないんだが、それでアリスは俺にどうしろと言うんだ?」

アキトは困惑していた。カレンと呼ばれた少女を何故自分は紹介されたのか?

いや、話が見えなりなりにアリスが自分に厄介ごとを、押し付けようとしているのは何となく分かった。

しかし、サレナ違う意味で嫌な予感を感じていた。これが女の直感なのかどうかは知らない。元AIなので

「アキト殿。このカレンは貴方が倒した竜の石像に、竜の力を奪われていたのです、

しかし、それをアキト殿が壊してしまった。もう二度と彼女に竜の力が戻ることはありません。

力を失った事で彼女は故郷にも帰れなくなりました。それでこの責任をアキト殿はどう取られるのですか?」

アリスは真剣な眼差しでアキトを見ていた。それに比べてアキトは戸惑うばかりだった。

「いや、責任と言われても・・・」

アリスは俺にどうしろと言うんだ・・・なんかお前、俺に言いがかりを付けてないか?

そもそもゴーレムを倒せと命じたのはお前だろ。責任の所在はお前に有るんじゃないか?

『(アリスに賛同する訳では有りませんが、責任転嫁は男として見苦しいですよ。マスター)』

アキトがもっとも信頼するサレナから、密にダメだしを受けていた事はアキトは知らない・・・

「・・・アリス、教えてください。このお兄さんが私の力を奪ったのですか?」

カレンはアリスの方に振り向いて尋ねる。

「その通りです。カレン、アキト殿にちゃんと責任を取ってもらいなさい」

アリスはカレンに優しく笑い掛けながらそう言った。

「ちょっ!ちょっと待て!アリス、お前があのゴーレムを倒せと俺に命じたんだろ!!」

彼女達の話を聞いていたアキトは、直ぐにアリスに反論した。

「おやおやアキト殿、私はゴーレムを倒せとは命じましたが、破壊しろとは言ってませんよ?」

アリスはアキトに対してすっ呆けていた。

「・・・先ほど、お前がゴーレムを自爆させたと言ったのは、お前自身だろ・・・」

「・・・・・・・・」

アキトの言葉を聞いてアリスはアキトから顔を逸らした。話を聞いていたカレンも

誰を信じて良いのか分からなくなってしまった。



「あの〜・・・私はどうなるんですか?・・・アリス、お兄さん」

カレンはアキトとアリスに縋るような目で見てきた。

「うっ・・・どうなるって・・・」

可哀相・・・アキトは最初にそう思った。そして助けてあげたいと思い始めていた。

相変わらずアキトは小さい女の子に弱かった・・・(これってペド?ロリ?アリコン?byサレナ)

(そんなわけあるかぁぁぁぁ!!俺はいたってノーマルだぁぁぁ!!)

アキトの魂の声が何処かに響いていた。残念ながら誰にもその声は届く事はなかった。サレナにも・・・

『マスター、また何時もの女難ですか・・・』

サレナの少々元気の無い、独り言が聞こえたような気がした。

また恋敵に増えそうな気配に、いい加減サレナも呆れるしかなかった。

ルリとラピスがまず追いかけて来て、この世界に跳んだ直後にアリス、そして次は風の上位精霊シルフィーと

どんどん人間離れしていっているのは、気のせいなのだろうか?そう言うサレナも元AI

それにこの少女の話を聞く限り、彼女は人間では無く竜人らしい、サレナの不安は増すばかりだった。

「この少女の事をどうするか・・・サレナ、お前はどう思う?」

「知りません!」

乙女心が分からないアキトに、サレナは不貞腐れてしまった。

「何にしてもカレンの事は頼みましたよ、アキト殿・・・思念体の身では、私に出来る事が少ないので」

アリスは最初からカレンの事をアキトに託す事に決めていた。外の世界で実体を持つことが出来ない彼女では

色々と不都合が生じてしまうのだ、それに思念体を外へ送れるのは一定期間内のみ。

常に彼女の側に居る事はアリスには出来なかった・・・それに面倒は嫌いらしい。

「あの、えっと・・・お兄さん。わっ私の事をよろしくお願いします!!!」

カレンはあまり状況を正しく理解していなかったが、それでもアキトに必死に頭を下げてお願いした。

「ふふふ、まるで愛を告白している見たいねカレン。アキト殿、まだ小さい女の子にここまでされたら、

当然男として引き下がれないわね。この子を立派に育ててね・・・それと間違っても手を出しちゃダメよ

まだ小さいカレンに幼妻をさせる様な、鬼畜な行為は控えてくださいね」

何時もの同じアリスの笑顔・・・だが、あの目は笑っていない。マジだ・・・

そしてアリスはこちらの事情を一切無視して、勝手に話しを進めて行く。

「まっ待ってくれ!アリス」

『なんでそうなるんですか!!』

アキトは焦っていた。サレナも勿論焦っていたが、アキトの焦りは微妙に違っていた。

何やら話はアキト達にとって良くない方向に進んでいた。

カレンの身はアキトに預けられる事になりそうだからだ。

『・・・・・・・』

やっやばい、サレナの機嫌がどんどん悪くなっている。・・・どうする?俺どうする?

ライフカードのCMの様に3枚のカード(選択肢)がアキトの頭に浮かんだ。

1番、サレナを説得する。2番、カレンを説得する。3番、逃げる。・・・俺はどうしたらいいんだ。

「誰も頼れる人が居ない可哀相なカレン、アキト殿は彼女を見捨てるんですか?

彼女にこれから一人で生きていけと言うんですか?ああ・・可哀相な子・・・」

アリスが悲しそうな表情でカレンを見つめる。・・・うそ臭い演技が丸出しだ!

「・・・お兄さん。カレンを見捨てないで下さい!!・・お願い助けて」

今度はカレンが今にも泣き出しそうな表情で、アキトに縋り付いて来た。

「・・・・・・・」

この少女を見ているとラピスを思い出してしまった。アリスの下に居る自分の娘を・・・

似ているのかもしれない。ラピスとこのカレンと言う少女は心の根っこの部分が。

あの子は何時も俺に甘えていた。本当は心細かったんだろ、だから俺から離れたくなかった。

周りが怖くて自分の心を頑なに開こうとしない・・・

それなのに俺はあの子を突き放してしまった。結局あの時は自分の事しか考えていなかったんだ。

ならばこの少女の事はどうするべきか、・・・代償行為そんな言葉が頭に浮かんだ。

でも、代償行為の為に少女を引き取ると言うのも、この少女に対して失礼だ。

それに少女の気持ちを無視している。彼女が一体何を望んでいるか、それが重要なのに。

そして俺にはルリちゃんやラピスの下に、一刻も早く行かなければならない事情も有る。

安易な気持ちで少女を引き取るわけにもいかない。厄介ごとに巻き込む事になるかもしれないから。

「君を見捨てるなんて事はしないさ、もっと他にいい案が無いか考えているだけさ・・・」

アキトはカレンを安心させる為に彼女に笑いかける。

「あっ・・はぃ」

カレンは顔を真っ赤にして俯いてしまった。・・・何故だろう?

『天然って怖いですね〜・・・自覚が無いから始末が悪いです』

「???・・・サレナ、何を言っているんだ?それよりカレンをどうするか考える方が先だろ」

この子は俺が引き取って本当にいいのだろうか、彼女を幸せにする事が出来るのだろうか・・・

ダメだ、事体解決の妙案が浮かばない。誰か試してガッテンに投稿してくれ!

『修羅場を上手く切り抜ける方法とか、女難から解放される方法とか、少女に迫られない方法とかですか』

「サ、サレナ・・・」

それは微妙に違うと思うぞ・・・それと何を先程から怒っているんだ?

『はいはい、マスターが超が三つぐらい付く程の鈍感なのは分かりましたから、それでこの子をどうしますか?』

「・・・ぅぅ・・」

カレンはまた泣き出しそうな表情になっていた。その心の内は不安で一杯だろ・・・

さすがに何度も小さな女の子を泣かす様な真似はさせたくない。それにこの少女には子供らしく笑っていて欲しい

カレンの表情を見たアキトは、自分の良心を激しく揺さぶられていた。

そしてなんかラピスを見ている様で、アキトには少女をほっとく事が出来なかった。

「・・・はぁ、分かったよ。この子の面倒は俺が見ればいいんだな。アリス」

アキトはアリスの方を見て一様彼女に確認を取った。・・・アキトの心は遂に折れた。

そしてもう一度カレンを見る。今度は父親が娘を見るような全てを抱擁する表情で・・・

「・・・アキト殿、カレンをよろしくお願いします」

アリスは少し羨ましそうに、カレンとアキトに笑いかけた。

「おっお兄さん。こっこれからよろしくお願いします!」

カレンは緊張した面持ちでアキトに頭を下げた。

「よろしく・・カレン。それと今度からは名前で呼んでくれ。俺達は家族になったんだからさ」

アキトはそんなカレンの頭を優しく撫でた上げた。最初はビクっとしてた彼女も

今では気持ち良さそうにアキトに頭を預けている。



「・・・・はぁ〜」

カレンの頭を撫でながらアキトは考えていた。どうして自分はこう言う小さい女の子に縁があるんだろうかと

思えばアイちゃん、ルリちゃん、久美ちゃん、ユキナちゃん、ラピス、そしてカレン

『・・・マスター、私が納得する説明をお願いします』

何処かトゲのある様なサレナの物言い、リンクシステムを通して頭に響いてくる。

「うっ・・・説明と言われても見たまんまだし、説明は不要だろ・・・サレナ」

今更何を説明する必要がある?俺とアリスのここまでの会話を聞いていれば分かる事だろ?

『・・・・・・・・・』

しかし、サレナは何も言って来なかった。・・・彼女はアキトに対して拗ねていた。

「サレナ、カレンが力を失った原因が俺にある以上は、彼女の責任を担う一端が俺にはあるんだよ。

それはお前も分かっている事だろ。それにカレンを一人にしてはおけないよ」

そう言ってアキトは少し悲しそうな表情を浮かべた。

『・・・そう言うことなら納得します。でもシルフィーとのデートの件は、まだ納得していません!』

風の上位精霊シルフィーが召喚に要求した代償、それはアキトとデートする事だった。

それは毎回の事なのだが、アキトが好きなサレナにとっては、とても納得の出来る問題では無かった。

「そうは言っても、約束してしまった事には今更どうにもならんよ」

もっと多くの魔法の修行を積んでいれば、シルフィーにわざわざお願いする様な事は必要無いんだが

未熟な身の上で上位精霊を召喚して使役するには、彼女の力を借りるしかないのが現状だ・・・

当分サレナの不満は溜まり続ける事だろ・・・怖いな・・・なんとかしたいけど・・・

「あの・・・おに・・アキトさん」

カレンは俯いたまま、何か言いたそうだ?

「どうしたんだい?カレン・・・」

アキトは温和な笑みをカレンに向けて優しく話し掛ける。

「あの・・・えっと・・・その」

カレンはモジモジして何を言いたいのか分からない。

ぐぅぅぅぅぅぅ

そんな時、カレンのお腹の虫が大きく鳴いた・・・

「そうか、カレンはお腹が空いているんだね、じゃあ一緒に食事に行こうか」

「あっ・・・ぅ・ぅぅぅ」

カレンは恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして俯いたままだ。

アキトはアリスの方に振り向いて。

「アリス、俺達はこれから塔に戻ってカレンに食事を取らせる。

その前にこの世界から出る手段を教えてくれ、そう言う約束だったよな?」

ゴーレムを倒せばこの世界から脱出する方法を教える。そう言う約束をここで修行する前にアリスと約束した。

「ではこのゲートキーを差し上げましょう。これを使えば外の現実世界とこのエデンの箱庭を

好きな時に自由に行き来する事が出来る様になります」

アリスはアキトに近づき、形状と大きさはどう見ても家の鍵にしか見えない、銅製の鍵を渡す。

「そうか・・・所でお前の本体は何処に居るんだ?」

アリスの下にはルリちゃんとラピスが居る、俺は何としても彼女達の下に行かなくてはならない

その為には彼女達が居る場所を知る必要があった。

「私の本体は・・・・禁断の聖域に居ます」

少し悲しそうな顔を浮かべて、アリスはそう言った。

「禁断の聖域とは何処にあるんだ?」

名前からして恐らくとんでも無い場所に在るのだろう。それでも行かなければならない。

「禁断の聖域への道のりは、アキト殿が自分の力で見つけ出してください」

アリスはそう言って、少し無理をして笑っている様な気がした。

「・・・・・・ルリちゃんとラピスは元気か?」

恐らく彼女達の扱いは悪くないはずだ。俺をその場所に呼び込む為の餌なのだから。

それでもアリスに確認を取っておきたかった。彼女が真実言う言わないに限らず

この不安感を僅かに取り除いてくれるのなら・・・

「彼女達は元気です。・・・ですから早く私と彼女達の元へ来てくださいね・・・」

アリスは前の時と同じ様に、幽霊の様に薄っすらと消え去っていった。

アキトはアリスの消えた空間を少しの間眺めていた。

「・・・さて、塔に戻って食事の準備を始めるか」

何時もはサレナが食事の準備をしているのたが、今日はサレナを召喚する事が出来ないので

アキト自身の手で料理を作らなければならなかった。時々アキトはサレナと一緒に料理を作っていたので

前ほどのブランクは無い、一通り料理を作る事が出来るのだ。

「カレンは何が食べたい?」

アキトとカレンは塔に戻り始める。そして歩いている途中でアキトはカレンに話し掛けた。

「・・・あの、アキトさん。私・・・お肉は・・あんまり好きじゃないの・・・だから」

モジモジしながらカレンは自分の苦手な食べ物を先に言っておく。

本来カレンは竜人なので肉は大好物のはずだが、昔から彼女は肉があまり好きではなかった。

「カレン、好き嫌いしていると大きくなれないぞ、とりあえず戻ったら、

野菜炒めでも作って上げるけど、今度からは少しずつ好き嫌いを治していこうね」

アキトの姿はまるで、子供を心配する保母さんの様に見えた。

「野菜炒め大好き!アキトさん大好き!」

野菜炒めを作ってもらえる事が余程嬉しかったのか、カレンはアキトの右半身に抱き付いた。

『・・・・・・(怒)』

その光景をサレナは黙って見ていた・・・そう黙って。しかし、嫉妬を含んだ怒りの感情は、

リンクシステムを通じてアキトに痛いほど伝わっていた。

「・・・サレナ。頼むから機嫌を直してくれ」

ここで彼女の機嫌を損なうと、後々この問題を引きずる事になるかもしれない。それは避けたかった。

『マスターはやはり小さい子が好みなんですね、ロリですか、ペドですか!』

サレナが何か違う方向にヒートアップしている様だが。何とかして彼女の誤解を解かなければならない。

「サレナ、誤解を招くような事は言わないでくれ、俺は至ってノーマルなんだ。

俺がユリカと結婚した事を・・・俺がユリカを愛していた事をお前は忘れたのか?」

アキトはかつて自分の妻だった者を持ち出す。しかし彼にとって妻であるユリカは既に過去の存在。

もう二度と同じ線が交わる事は無い。彼女の事は・・・何れ忘却の中で昔の思い出となっていく事だろ。

『でもラピスにしろ、ルリにしろ、小さい女の子をマスターは何時も可愛がっています!!

(私もマスターに沢山可愛がって欲しいのに・・・)』

「あの子達は妹・・いや娘達だから・・・」

両親が死んでからアキトは、天涯孤独の身で生きて来た・・・だからこそ。

同じ孤独を抱える少女達をほおっておく事が出来なかった。その辛さは自分も理解していたから。

『・・・・・・・』

アキトの心を読み取ったサレナは、何も言えなくなってしまった。

『マスターは本当に優しい方ですね。ラピス達が娘ならマスターは父親で、私は母親になりますね♪』

「サレナが母親?・・・まぁ。そうとも言えなくもないな」

俺とサレナは共生する存在。男性の俺が彼女達の父親なら、女性のサレナは確かに母親になるのか?

『・・・・マスター・・・・(涙)』

サレナの意図をまったく別な意味でアキトは捉えていた。ここまで来るとある意味芸術的だ・・・

「ねぇ、アキトさん。さっきから誰と話しているんですか?」

カレンは不思議そうにアキトに尋ねて来た。カレンは魔力の源であった竜の力が消失した事で

念話によってアキトとサレナの会話を聞き取る事が出来なくなっていた。

「俺の中に居るもう一つの存在サレナさ。今は会わす事が出来ないけど、明日にはカレンに紹介するね」

サレナが破壊されてから24時間の時間が経過しないと、彼女を新たに召喚する事が出来ない。

まだゴーレムが自爆してから5時間しか経っては居ない。19時間の空きが足りないのだ。

「そうなんですか?所でアキトさんが私のお父さんとか、サレナさんがお母さんとかなんの話ですか?」

カレンは少し困惑した面持ちでアキトを見上げる。

「いや、そう言うわけじゃ無いんだ。あくまで言葉のあやで、・・・そう言えばカレンの両親は」

「・・・居ません。私が小さい頃に戦争で二人共死にました」

カレンは悲しそうに俯いて、小さくそう言った。

「そうだったのか・・・」

カレンには辛い事を思い出させてしまった。戦争か・・・戦争は誰も思い出したくない事だろ。

主義主張の対立、利権、憎しみ、悲しみ、怒り、人の業によって繰り返される不幸の連鎖。

「アキトさん。アキトさんが私の面倒を見てくれるんですよね?」

「ああそうだ、カレンが自立するまでは俺が面倒を見よう、その後はカレンの好きな様に生きればいい」

カレンが立派な大人になるまで俺が彼女の面倒を見続ける・・・それが俺に課せられた責任の一端だから。

それにしてもカレンが先ほどから、俺の事をチラチラと見てくるのはどうしてだ何だ?

『マスターって本当に人が好いですね・・・人生損していますよ』

サレナから見れば、厄介事をアリスに押し付けられたようにしか見えなかった。

しかし、そんな優しくてお人好しのアキトがサレナは大好きだった。

『(この先も色々と大変な事になりそうですが、私はマスターを全力でサポートするだけです)』

アキトの知らない所で、サレナの決意が密に行なわれていた・・・

そして身近な脅威が直ぐにそこまで、迫っていた事を彼女は知らなかった。

「ねぇアキトさん。私の好きな様に生きていいって言ったけど、アキトさんとずっと一緒に居てもいいの?」

「俺達はもう家族だからな。カレンが俺の側に居たいのなら、好きなだけ一緒に居ると良いよ」

カレンは顔を真っ赤にしながら深呼吸を繰り返している・・・どうしたんだ?何処か体調が悪いのか?

『いやーーーーーーーー。やめてーーーーーー』

サレナは急に取り乱し始める・・・どうしたんだサレナ!しっかりするんだ!

「・・・私はずっとアキトさんと一緒に居たいから、私をアキトさんのお嫁さんにしてください!」

「・・・はっ?」

突然カレンから告白された。・・・一瞬俺も何が起こったのか理解出来なかった。

「ちょっ・・・ちょっと待て!カレン!どうしてそう言う事になるんだ!」

「だってアキトさんと一緒に居たいから。お嫁さんになればずっとアキトさんと一緒に居られるから」

カレンはモジモジしながら、アキトの答えを待つ。

「いっいや、一緒に居る事は別に良いとしても、どうして急にお嫁さんに話が跳ぶんだ」

何故そう言う展開になる?俺達は今さっき出会ったばかりだろ。・・・一時の気の迷いなのか

いや、カレンの表情は真剣で何処か儚い感じがした。これは彼女の本心では無いのでは?

「もう・・・一人は嫌・・・お父さんとお母さん以外から優しくされたの、アキトさんが初めてなの!!

だから、だから!!・・私はアキトさんと離れたくないの!」

「・・・カレン」

そうか・・・この子も色々大変な思いで今まで生きてきたんだな。両親と死に別れた後。

そんな彼女の弱さを見抜けなかった俺は、父親失格だな・・・まったく持って情けない・・・。

「大丈夫だカレン、俺は居なくなったりしないから。俺の側にカレンが居たいだけ居なさい」

アキトはそう言いながら、カレンを優しく抱擁した。

「・・ぐすん。・・ありがとう・・アキトさんはやっぱり優しい人です。

私、決めました。やっぱり私はアキトさんのお嫁さんになりたいです」

カレンは少し照れながらアキトに言う。

「いや、・・・その、困るんだけど・・・」

『(マスターのお嫁さんは私です!!)』

アキトはカレンに苦笑して、そしてサレナはカレンに猛烈なライバル心を抱く事になった。



さらなる後編に続くって・・・まだ3話は続くのかよ!・・・次回はアキト達が麻帆良に戻ってくるよ!

そしてエヴァンジェリンと再会、学園長と面談と言えば次の展開は読めてしまうね。