カレンがアキト達の家族となってから1週間が経った。アキト達は未だに現実世界に戻ってはいなかった。

何故ならゴーレムの自爆に巻き込まれて負傷した、アキトの治療を優先してこの世界に留まっていたからだ。

しかし、それも今日で終わる。1週間と言う十分な休息を取った事でアキトの怪我は完治した。

アキト達はこれからアリスに貰ったゲートキーを使い、現実世界に一旦戻って必要な物を買出しに行く。

そう、これはあくまで一時的な外出であり、用が済めば再びこの世界に戻って来る。

「・・・・力が足りない。カレンやサレナを守りきるだけの力が・・・」

アキトはこの世界を存分に活用する事に決めた。外の現実世界で生活するのは後回しにして。

この世界の時間の流れを利用して、自分が納得するだけの魔法の修行を積むつもりだった。

「それにしても遅いな、まだサレナとカレンの支度は終わらないのか」

アキトは塔の外で二人を待っていた。アキトの服装は街に繰り出すので、

前買ったビジネスマン風の黒い上下のスーツに着替えていた。

『マスターすいません、待たせてしまって・・・』

「アキトさん。行きましょうか」

カレンとサレナが塔の中から出て来た。サレナはエリナが着ていたような様な

キャリアウーマン風の黒いのスーツに着替えていた。と言ってもサレナは自分の意思で、

服装や形状を自由自在に変えることが出来るので、着替えると言うよりは変更したが正しいだろ。

但し服装を自在に変えることが出来ても、色までは変更する事が出来なかった。

それは影の形状を変えることが出来ても、影の黒い色まで変化させる事が出来ないのと一緒なのだ。

そしてもう一人、カレンの服装は衣裳部屋に有った、薄いピンクのワンピースに着替えていた。

何分カレンの民族衣装は目立ってしまうので・・・着替える必要があったのだ。

そして今まで支度に時間が掛かったのは、サレナがカレンに似合う服装を色々試していたからだった。

『カレン〜、こんな服はどうですか〜』

手に持ったゴスロリ風の衣服を手に持って、怪しい笑みをしながらサレナはカレンに迫っていた。

「サレナさん、こんな恥ずかしい服着れませんよ!!」

必死に逃れようとするカレン、こんなやりとりが先程まで衣裳部屋で行なわれていた・・・

実はサレナがカレンを着せ替え人形として遊んでいた。だから時間が掛かってしまったと言う事実。

まさか衣装部屋でそんな事になっているとは、アキトはこの時全然知らなかった。

「カレンやサレナの準備も出来た事だし、この世界から出るとするか、・・・ゲートキーよ!」

アキトは一般家庭に設置されている、家の鍵に似た銅製の鍵を天にかざした。

ピキーンーーー

鍵が一瞬光りを放った後、辺りの空間がぐらぐらと揺れ始める。そして揺れが収まった後

「・・・全員無事か?」

『はい、問題ありません』

「アキトさん。私も無事です」

アキトはサレナとカレンの無事を確認した後、辺りを見渡した。

「ここは・・見覚えがあるな・・」

アキト達が居る場所はアキトがアリスに拉致されてしまった。繁華街から少し離れた道端だった。

都合が良い事に辺りには誰も人が居なかった。もし誰か居たら突然人が現れたと大騒ぎになっていただろ。

「どうやら無事に現実世界に戻って来れたようだな・・・」

アキトは少しほっとした。またわけの分からない異世界に跳ばされてしまうのではないかと内心不安だった。

現在の時刻は午後五頃、空はオレンジ色に染まり、辺りは夕暮れ時を迎えていた。

『五体満足で戻ってくる事が出来ました。・・・ではマスター、早速買物に行きましょう』

サレナは空かさずアキトの腕に自分の腕を絡ませる。何故こんな大胆な行動を彼女が取るのかと言うと。

数日前、アキトがシルフィーとデートした事をサレナはまだ気にしていたからだ。

一週間前のゴーレムとの決戦時に、アキトが風の上位精霊シルフィー使役した事があった。

その代償としてシルフィーから要求された事が、アキトとデートする事だった。

数日前に彼女の要求を果したアキトだったが、それを見ていたサレナとしては実に面白くなかった。

それからサレナは積極的にアキトとスキンシップを取るようになった。・・・そしてもう一人。

「アキトさん。私、買物って初めてなんです。迷子にならない様にしっかり側に居てくださいね」

カレンは笑いながらサレナに負けじと、サレナとは逆方向のアキトの腕を自分に引き寄せる。

アキトの状態はまさに両手に花だった・・・しかしアキト本人はこの状況に戸惑っていた。

「あ、ははは、そうだね・・・」

美女と美少女を両側に挟んで街中を歩けば、自然とアキト達に注目が集まってしまった。

「ねぇ、見てよ・・あれ・・」

「まぁ、あの人、カッコいいのに少女趣味でもあるのかしら?」

「親子には見えないな。もしかしたら前の奥さんとの連れ子か?」

「くそーーーー羨ましいぜ!!」

「萌えーーーーあの兄さんイケテルぜ!」(・・・はぁ?)

女子学生、主婦、サラリーマン、瓜畑似のお兄さん?、モホの兄貴と

様々な通行人がアキト達にそれぞれ感想を抱いていた。

「サレナ、これでは隠密行動の意味が無いのだが・・・」

何の為に服装を変えたのか。これではあまり意味が無かった。

それにまた、吸血鬼の少女エヴァンジェリンに襲われる危険性が残っているのに、

こんなに目立ってしまって良いのだろうか・・・。

『大丈夫ですよ。観衆の中を堂々と襲って来るような事はしませんって』

サレナはかなり楽観的だった。確かに魔法の力を手に入れた今の俺なら、

あの吸血鬼の少女エヴァンジェリンに勝つ事が出来るだろ・・・あの時の力が彼女の全てなら。

「わぁ・・凄い〜。私、こんなに沢山な人達を一度に見たのは初めてです」

カレンは都会が初めてだった。だからこんなに沢山の人達を、お祭りでも無いのに見たのは初めてだった。

キョロキョロと辺りを見渡すカレン、その行動は完全に田舎物だった・・・。

そんなカレンと付き添いしているアキトまで、彼女の行動に恥ずかしくなってしまってた。

「まぁ、何しても早めに屋内に入ろう。・・・・・」

この状況から逃れる為には、一刻も早く屋内に入る必要が有った、

アキトはサレナとカレンを急かして、まず最初の目的地である家電量販店に入る。

家電量販店に入ったアキト達はまず、パソコン売り場に向かい。

無線LAN対応の2003年初夏の最新モデルのノートパソコンを、銀行から降ろした現金で購入した。

『マスター、情報屋から連絡が入りました』

使い捨てが利くプリペイド携帯を片手に、サレナは情報屋からの連絡を受け取る。

「そうか、そっちの方はサレナ、お前に任せる」

サレナは魔法世界の情報を仕入れる為、携帯を使って情報屋からの連絡を待っていた。

これはプリペイド携帯を買った時に、サレナが事前に情報屋に目的の情報を提示していた。

まず最初に前金を払い、情報が正しかった場合は残りの金を携帯から振り込む事になっている。

「それにしても、デザインは昔も今はあまり変わらないな・・・」

200年後の世界に比べたら、かなり原始的なノートパソコン。

デザインに関しては未来とあまり変わらなかった。それは日用品の殆どがそうである様に、

未来だからと言って、人々の生活がそう簡単には変わらないと同じだった。

それでも情報社会ではこう言う物が一番役に立つのも事実。それは未来も過去も変わる事はない。

「アキトさん。これって何ですか?・・・わぁ、これって凄いです♪」

ノートパソコンを購入した後、カレンが店内を散策したいと言い出した。

800年も封印されていたカレンに取って、現代社会の科学の産物は、見る物全てが不思議な物だった。

だから彼女は色んな物をあっちこっちで触っている・・・頼むから壊さないでくれよ・・・

ガシャンァン

しかし、アキトの願いは届かず、物が地面に落ちる音が店内に響く・・・

無情にもカレンは何かを壊してしまったらしい。仕方が無いので壊した物を全額弁償した。

「ごっごめんなさい。アキトさん!!」

カレンは少し涙目になりながら、アキトに頭を下げて謝った。

「カレン、電化製品は精密機械だから壊れやすいんだ。今度からは注意してくれよ。はぁ〜

やっぱり一般教養を早急にカレンに教える必要があるな、サレナ、彼女の教育を任せても良いか?」

アキトは隣に居るサレナにカレンの教育を頼んだ

『分かりました。カレンの教育は私にお任せください。・・・ふふふ、カレン。ビシバシ鍛えますよ』

「ううぅ・・・サレナさん。程々にしてくださいね」

サレナの怪しい笑みを見たカレンは、すっかり怯えてしまった。

「二人共、遊んでないで次の場所に行くぞ」

そんな二人を尻目に、アキトは買物袋に入ったノートパソコンを持って、先に店を出ようとする

『あっ待ってくださいマスター、置いて行かないでーーー』

「アキトさん。カレンを一人にしない下さい」



サレナとカレンは急いでアキトを追い掛けて彼に合流した。そして今は駅前の無線LAN接続エリアに居た。

早速、先ほど買って来たノートパソコンを開けて、初期プログラムのダウンロードを済ませた後、

インターネットに繋ぎ、そして次はまほネットに接続した。

ノートパソコンの画面には、次々魔法世界の情報が映し出されていく。

まほネットに接続する為のアクセス方法は、サレナが情報屋から情報を聞き出した後、

家電量販店の店内にあったパソコンを使って既に実証を終えていた。全て順調に行くと思われていたが

残念な事が一つだけあった。それはIFS補助機を使ってまほネットに接続する事が出来ない事だった。

これではお得意のハッキングをする事が出来ない。

まほネットは通常のネットワーク技術と違い、魔法を使用した特殊な伝達系統になっている為、

現状のIFS補助機ではまほネットに接続出来ても、それを使用してハッキングする事が出来なかった。

IFS補助機を使用するには魔法の伝達系統に繋げる事が出来る。特殊な部品を組み込む必要が有った。

その特殊な部品をまほネットで調べて見ると、今から注文したして届くのは早くても一ヵ月後。

かなり品薄らしい。仕方が無いのでこの部品の調達は後回しにして、他の品を先に調達する事にした。

サレナが必要としている魔法薬の注文をまほネット経由で行なった。

この品物なら、数日中に指定した場所に品物が届く手筈になっている。

そしてアキト達は他に情報が無いかと、色々まほネットを検索している内に、

森で襲撃して来た吸血鬼の少女、エヴァンジェリンの情報を見つける事になった。

「まさか、こんな大物だったとはな・・・」

エヴァンジェリンは吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)にして

闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)不死の魔法使い(マガ・ノスフェラトゥ)人形使い(ドール・マスター)

と様々な異名を誇る世界的に有名な魔法使いだった。そしてその強さは世界の中でもトップクラス。

15年前まで彼女は魔法界で600万ドルの賞金が掛けられていた極悪人だった。

しかし、彼女は15年前に退治された事になっていた。・・・これはどういう事だ?

それに世界トップクラスの魔法使いなら、彼女と初めて出会った時、俺は瞬殺されていただろ・・・

それぐらいの力の差は有ったはずだ・・これは恐らく推測だが、15年前に彼女は誰かに倒された。

その際、力を封じられたか失ったのどちらかだろ。彼女が未だに処刑されずこの学園に居るのも

その危険性が無くなり、魔法界の上層部と何らかの裏取引を行なって、罪状を免除して貰ったと言った所か

そうしてもう一つ、まほネットを調べていて分かった事があった。

「なるほど・・・道理で襲われるわけだ・・・」

この麻帆良学園が東日本の魔法使い達の一大拠点だという事だ。

恐らく俺がこの世界に飛ばされて、直ぐにエヴァンジェリン襲われた理由も、

この重要拠点に転移して来た者に対する調査が目的だったのだろう。

『どうしますかマスター?麻帆良祭の見物を取りやめて、早々にこの麻帆良市を発つますか』

サレナが心配した顔でアキトを見て来た。

「俺としてはサレナと麻帆良祭を見たいんだが、それにカレンにも見せてやりたいし」

サレナの言っている事は分かる。厄介事になる前に麻帆良市を離れるという提案も悪くは無いが・・・

それはこの世界に来て直ぐに約束する事になった、麻帆良祭をサレナと一緒に周る約束を反故する事になる。

果たしてそれでいいのだろうか?彼女をまた悲しませてしまうのではないのか?

「・・・・・・・?!!」

どうするべきかアキトが悩んでいた時、後ろに見に覚えの有る気配が現れた。

「・・・・まさか!?」

アキトは嫌な顔をしながら後ろを振り向いた。そこには今一番会いたくなかった人物が居た。

「くくく、ようやく見つけたぞ!」

「どうも初めまして・・・と言うのは少し変ですね。私は絡繰・茶々丸と申します」

吸血鬼の始祖エヴァンジェリンが、従者である茶々丸を引き連れてアキト達の後ろに居た。

茶々丸と名乗ったガイノイドはかなり礼儀正しい。主であるエヴァンジェリンとは大違いだ・・・

「・・・エヴァンジェリン。三週間ぶりだな」

流石に俺達は目立ち過ぎたか、まぁ、確かにかなり人目には付いていたからな。

サレナもカレンも綺麗だから一緒に歩くと何かと目立ってしまう。もう少し周りに気を配れば良かった

『マスター・・・・』

サレナやカレンは確かに人目を惹き付ける美しさ、可愛さを持ち合わせていた。

しかし、アキトも十分カッコいいので、アキト達を見てくる人目の中に女性からの目も

ちらほら有った事はアキトは気付いていなかった・・・

「坊や近衛・木乃香以外に大きな魔力の反応が有って来て見れば、まさかお前だったとはな」

エヴァンジェリンは何かを考える様にアキトを見てくる。

「・・・魔力は押さえ込んでいたはずだが。どうして分かったんだ?」

アキトは自分の魔力を隠す為、特殊な気配の絶ち方を行ないながら街に来ていた。

それは他人に比べて、自分の魔力がかなり大きい事を自覚していたからだ。

魔力を隠さないで行動すれば、自分の存在を周りを教えるような物、だから注意していたのだが・・・

吸血鬼の真祖であるエヴァンジェリンには、どうやら通じなかったようだ。

「生憎だが、私は魔力に敏感なのでな。それぐらいの偽装は簡単に見抜くことが出来るのだよ」

妙に自信満々にエヴァンジェリンは勝ち誇った様に言う。

「そうか・・・それで俺に態々会いに来たと言う事は、何か俺に用件があるのか?

生憎だが、これでもそれなりに忙しい身なので手短にお願いするよ」

買物の続きもしたいし・・・カレンにも色々教えて上げなればならない事が沢山ある。

丁度街に来ているのだ、社会見学も立派な勉強になるしそれにエデンの箱庭に戻ったら

魔力を失ったカレンの為に木蓮式柔術を彼女に教えてあげないといけない、

それに自分自身の修行もまだまだ足りない。まだ一人前の魔法使いとしは程遠いのだから・・・

「ふん、大した手間は取らせん。学園長のじじいがお前に会いたいらしい」

エヴァンジェリンは俺に用が有ったのではないのか・・・学園長。つまり麻帆良学園の責任者か

「・・・分かった。会って話し合うぐらいならいいだろ」

自分はここでは部外者でしか無い、自分が異世界から来たと言う情報は伏せておくにしても。

こちらに敵意が無い事を、ここの責任者に示す必要は有るだろ。

「サレナ、カレン。済まないが買物は中止だ。これから麻帆良学園に向かう」

アキトはエヴァンジェリンとの会話を黙って聞いていた二人を見る。

『マスターが決めた事に反対する理由はありません』

「アキトさんと一緒に行ってもいいんでしょ?」

その後、俺はエヴァンジェリンの案内で学園長の居る麻帆良学園へと向かった。



麻帆良学園に付いたアキトは、サレナとカレンを待合室に待たせて、

アキト本人はエヴァンジェリンの従者である茶々丸に案内されて、学園長室へとやって来た。

ガチャリ

部屋の扉を開けて中に入ると、かなり高齢の老人が椅子に座っていた。

その容姿は一瞬妖怪?と思った事は内緒だ。いや、本当にありえない容姿だし・・・。

「お主を待っておったぞ、ワシは近衛・近右衛門。この学園の学園長じゃ」

学園長である近衛・近右衛門はアキトに対して自己紹介をする、

アキトも学園長に失礼が無い様に丁重な挨拶で返した。

「天河アキトです。三週間前、こちらに無断で跳んだ事をお詫びします」

そう言ってアキトは学園長に向かって一礼する。次に学園長がどんな行動に出るかに寄って

今後の対応を決めなければならない。果たしてこの学園長の器はどの程度の物か・・・

「いやいや、謝るのはこっちじゃ、エヴァがお主に少々乱暴な事をしたようじゃからな」

学園長はアキトの行いに対して大して気にもせず、笑いながらアキトに話し掛けて来た。

「なるほど・・・そう言っていただければ幸いです」

アキトも笑みで学園長に答える。もっともそれはあくまで表面上な物。心の中では違った思いが生まれていた。

アキトは学園長の人間性を詳しく観察していた。交渉を優利に進めるには相手の本質を見向く事が肝要

この学園長は人の上に立つ事の出来る、柔軟性と洞察力に優れた者だと直ぐに気が付いた。

そして迂闊な事は何も言えない。手強い相手と言う事を認識した。

「ふぉふぉふぉ、それでお主は何者じゃ?」

近衛・近右衛門は鋭い眼差しをアキトに向ける。その眼光は多くの者達を見抜いて来た迫力に満ちた物だった。

学園長の迫力に一瞬怯んだアキトだったが、直ぐに立て直して学園長を見据える。

「いきなり核心に突く質問ですね。・・・簡単に言えば、俺は事故でこの麻帆良に飛ばされて来た者です」

アキトは近衛・近右衛門の全てを見抜こうとする、眼光を軽々と受け流して事実だけを述べる。

下手に嘘を付いてもこの老人には見抜かれてしまうだろ・・・下手な事は言わない方がいい。

信用のおける人物かどうかまだ分からないのだから。この学園長を見極めなければならない。

「ふむ〜、エヴァンジェリンからの報告では、お主からは魔力を感じなかったと言っていたが・・・

今のお主からは、全盛期のエヴァを超える程の魔力が有るのはどうしてじゃ?」

学園長は何を考える様にアキトを見る。それに対してアキトは・・・

「つい最近、力に目覚めました。それまで俺には確かに魔力は無かったと思います」

ここは正直に言っておいた方が良いだろ。魔力が封印されていたとか、失っていたと言い訳をしても

今の俺は全盛期のエヴァンジェリンの魔力を超えているらしいので、

嘘を言ったとしても直ぐにバレる事になるだろ。力が大きい者は常にマークされる。

魔法世界での活動記録の無い俺が、魔法世界の住人と言っても直ぐに怪しまれてしまうのが落ちだ。

「ふむ・・・・・・・」

また学園長は思考に耽り始めた。眉間に皺を寄せて目を瞑り、アキトの事を考える・・・

それはアキトも同じだった。なんとか学園長の追求を上手く切り抜ける事を思案していた。

「・・・・・・・・」

なんとかこの老人を上手く誤魔化せればいいのだが・・・何とか揉める事だけは避けたい。

この老人は恐らく物凄く強い。歴戦の風格を身に纏っている。

今の自分ではまず勝てない相手だと本能が告げている。此処は譲歩に見せ掛けて相手の出方を探るか・・

「・・・麻帆良祭の見物が終わり次第、俺は麻帆良市を出て行きます。ご迷惑を掛けるつもりはありません」

ここに留まる理由は無い、別な場所でIFSの改良部品の調達を待てばいいのだから。

それまでアリスの手掛かりを得る事は出来ないが・・・それは新たな修行期間と思えばいい。

魔法使いとして自分はまだまだ未熟。最低でも転移魔法を使えるぐらい強くなりたいと思っている。

ただ、麻帆良祭の見物はサレナとの約束があるので、どうしても見たかった。それにカレンにも見せてやりたい

「ふぉふぉふぉ、まぁ待て、お主何か困っている事があるじゃろ?」

疑問を投げかけるように、学園長はアキトに尋ねる。

「・・・・・・・」

鋭い。やはりこの老人には迂闊な事は言えないな。アキトはますます学園長に警戒を強める。

「ワシとて伊達に年はとっていないぞ、話してみなさい、力になれるかも知れんぞ」

・・・・・確かに東の魔法協会の長なら、魔法に関する多くの知識と情報を持っているだろ。

それならアリスに付いて何か知っていても可笑しく無い。聞くだけ聞いてみるか・・・

「では学園長お尋ねしますが、禁断の聖域と言う場所をご存知でしょうか?」

アキトは少し畏まった様にして学園長に聞く。アリスの事ではなく場所だけ尋ねる。

これなら例え、学園長がアリスに関して何か知っていたとしても、深く追求される事はないし

知りたい情報はあくまでルリちゃんとラピスの居る場所なのだから。目的も達せられる。

「ふむ、聞いた事が無いな。こちら側に在る場所なのか?それともあちら側の場所か?」

学園長が言ったあちら側と言うのは魔法世界の事だろ。特殊な異空間に複数の国が存在するという

しかし、学園長の様な上の立場に就く人間が、まったく知らないとなると。

そう簡単にはアリスの元に辿り着く事が出来ないらしいな・・・さて、これからどうする。

「そうですか、知りませんか・・・それなら別にいいんです。今の事は忘れてください」

下手に突っ込まれるわけにはいかない。この話はここで終わらせなければ、

「ふむ、私は知らんが本国の図書館かこの麻帆良学園の図書館島なら、何か手掛かりがあるかもしれんな」

少し期待を持たせるように、近衛・近右衛門はアキトに言った。

「・・・・・・」

世界最大の図書館である図書館島。・・・確かに探る価値はある場所だ。

しかしどうやって探る、忍び込むわけにはいかないし。学園関係者で無い以上は正面からも入れない。

ハッキングで経歴を偽装して入っても、顔が割れている以上は直ぐに魔法使い達に気付かれてしまう。

それに自分の魔力の気配を隠し切れないので、直ぐにエヴァンジェリンに見つかってしまう。

「どうじゃお主、ここで働いてみないか?」

悩んでいるアキトに対して、学園長がある意味とんでも無い話をアキトに持ち掛けて来た。

「・・・それはどういう事でしょ?」

学園長の意図が分からなかった。自分は住所不定の不審者なのに何故雇おうとする?

アキトは心の中で学園長が示し案を不信に思いながらも、それを表情に出すよう様な事はしなかった。

「裏の仕事を手伝って欲しいのじゃ。今は何処も人手不足でな。お主の様な腕の立つ者は尚更じゃ。

その代わりにお主に図書館島の使用を許可しよう。どうじゃ?」

人の悪い笑みを浮かべて、アキトに雇用の条件を提示した学園長

「・・・・・・」

そう言うことか、俺にまた手を汚せと、人を殺めろと言うのか・・・

この学園長にはガッカリだ。結局他の連中と何も変わらない。下らない連中と一緒だ

上の立場を利用して、不都合な人間を処理していく他の組織や企業と同じ体質。

この老人はそう言う奴等とは違うと思っていたが・・・

エデンの箱庭で平穏な生活を送っている内に、俺の目も曇ってしまった様だな。

「スイマセンが裏の仕事はもう引退したんです。もう一度手を汚すつもりはありません」

別な世界にまで来て闇に落ちるつもりは無い。俺はこの世界で新しい生き方を選んだのだから。

「ふむ、お主何か勘違いしておらんか?」

学園長は何故か首を傾げていた。・・・話が通じていない?

「勘違いとは何です?学園長が俺に求めている仕事は、邪魔な者達を消す仕事では無いのですか?」

アキトは感情がまったく篭っていない声で学園長に答えた。不都合な人間を始末する、つまり殺すという事だ。

それに対して学園長は何故か笑っていた・・・何故笑っていられる?

「物騒な事を言うのぉ〜、しかしワシが言っている裏の仕事と言うのは、魔法に関係する仕事の方じゃぞ?」

学園長は少し困った顔をしながら、アキトに答える。

「同じでは無いのですか?関わっている分野が違うと言うだけで、そう言う奴等を消す仕事なのでは?」

今度はアキトが学園長に対して鋭い眼差しを向ける。嘘は許さないと言う相手を斬る様な眼差しだった。

「まぁ、まったく無いとも言えんが、そんな悪い魔法使いは最近は居ないからのぉ〜、

それにそう言う仕事は本国の治安部隊が受け持つ、そんな危ない仕事は学園に回ってくる事はまずない。

あくまで魔法に関係するトラブルを解決する事が主な仕事じゃ」

「そっそうですか・・・」

学園長の話を聞いて、アキトはなんだが急に脱力してしまった。

ネルガルSSに所属していたアキトは、企業や国家、組織の裏の顔を見続けた結果、

アキトは組織に対して何かと不信感を持つようになっていた。

「・・・・・・」

まさか自分がこんな恥ずかしい勘違いをしていたとは・・・

冷静を装っても、恥ずかしさは表情に表れてしまっていた。

「どうやら俺が勘違いしていた様だな、済まないがもう一度詳しく話しを聞かせてもらえないか、学園長。

今度は仕事の内容と条件に関して、詳しく内容を知りたいのだが・・・」

アキトは苦笑しながら学園長に尋ねる。今度は表面的な誤魔化しでは無い、本心からの表情を出していた。

「ふむ、良かろう」

「ええ、お願いします」

人を殺すような仕事でないのなら、一定期間この仕事を引き受けていいと思った。

とりあえずIFSの部品が届く一ヶ月間は、まほネットの電脳情報をハッキングする事が出来ないのだから。

その一ヶ月の間に、少しでも多くの情報を集められる可能性があるのなら、それに賭けて見る価値は有る

これはまほネットの電脳情報から、仮に情報を得る事が出来なかった場合に対する保険でもあった。

もしかしたらアリスに関する何かしらの手掛かりを、図書島で見つけることが出来るかもしれない。

俺は一刻も早くルリちゃんとラピスの下へ行かなければならないのだから。時間を無駄にする訳にはいかない。



アキトと学園長の話し合いが終わり、アキトは表向き司書として学園の図書館島に勤める事になった。

その代わり魔法に関係する仕事を手伝うという条件付だ。空いた時間は好きに図書館島を使っていい事になった。

「では学園長、俺はこれで帰らせてもらう」

ガチャア

アキトは学園長室の扉を開けて、カレンとサレナが待っている待合室に向かった。

「ふぅ〜・・・中々手強かったのぉ〜」

部屋に残された学園長はほっと一息付く。労働や待遇に関する条件面に中々妥協しない、

交渉強いアキトとの話し合いに、学園長はすっかり疲れてしまった。

「じじい。入るぞ」

ガチャア

学園長室の扉が開き、エヴァンジェリンがずかずかと中へ入って来た。

「おおエヴァか、何かワシに用か?」

と言っても学園長には分かっていた。彼女がここに来た理由はあの青年に付いての事だろ。

「あの男に付いて、じじいはどう思う」

自分以上の魔力を持つ天河アキトの存在に、エヴァンジェリンは興味を抱いていた。

「ふむ、・・・嘘は付いておらんが、真実も述べてない、そんな所じゃな」

学園長が見たアキトはまだ全てを語っているとは思えなかった。それは信用されてはいない証拠。

こればかりは時間を掛けて信頼を築いていくしか道は無い。

「よくそんな奴を雇ったな」

物好きな奴だといいたげなエヴァンジェリンの眼差しが、学園長に向けられていた。

「ほぉほぉほぉ、有能な者を指を咥えて見逃すわけが無かろう、人手不足のこのご時世に

それに彼が学園に害を齎すような男では無い事は、言動や目で分かる事じゃ」

近衛・近右衛門はアキトの本質を見抜いていた。内に秘めた優しさを・・・

「それにのぉ〜。彼の目を見ていたら無性に助けてやりたくなったのじゃあ。

あれは多くの悲しみを抱えた目じゃ。きっと多くの者の死をその目で見て来たのじゃろ・・・」

学園長は思い出すようにアキトの瞳を思い浮かべる。底が見えない暗い瞳を持つ者。

但し、その瞳は濁ってはいなかった。必死に暗い闇から這い上がろうとする僅かな光りを持っていた。

「・・・私はじじいの感傷話を聞きに来たわけではない。奴は他に何か言っていなかったか?」

そんな事に興味ないと言うように、エヴァンジェリンは学園長に尋ねる。

「ふむ、そう言えば、禁断の聖域と言う場所を探していたようじゃな」

学園長はアキトの会話を思い出して、エヴァンジェリンに答えた。

「禁断の聖域・・・うん〜・・・何処かで聞いた事があるような無いような・・・ダメた思いだせん!」

エヴァンジェリンは必死に思い出そうとするが、禁断の聖域なる場所の情報は

遥か遠い記憶の彼方に追いやってしまっている様だった。結局最後まで思い出す事が出来なかった。

「ふむ、何か心当たりがあるのか?」

興味津々に学園長はエヴァンジェリンに尋ねる。

自分がまったく知らなかった情報なので、学園長は禁断の聖域の情報に興味が沸いていた。

「ダメだ。まったく思いだせん!」

エヴァンジェリンは遂に思い出す事を諦めた。これ以上は無駄だ彼女は判断したからだ。

「年かのぉ〜」

学園長はそういってふぉふぉふぉと何時もの笑いをする、しかしエヴァンジェリンは違っていたようだ

「ヤルぞ、じじい!」

エヴァンジェリンの目はちょっとマジだった。いや、結構本気で怒っている様だった。

やはり年をからかわれる事は嫌らしい・・・。吸血鬼の始祖と言っても彼女も女性なのだ。

「老人の洒落が分からんかのぉ〜」

上手くエヴァンジェリンを誤魔化して、この場を丸く納めようと学園長。

「もういい!・・・後は私が直接アイツから聞き出す!」

そう言って、エヴァンジェリンは部屋を出て行った。

その頃、麻帆良大学工学部、超・鈴音、葉加瀬・聡美の共同研究室では

三週間前、エヴァンジェリンが森でアキトを襲った際、

残された弾薬やマント残骸の分析がここでは行なわれてた。

「このマントは特殊繊維を編み込む事で、軽量でありながら防弾と防刃を可能にしていますね」

パソコンに表示されたデータを、次々読み上げていく葉加瀬・聡美。

「こっちの弾丸は、空間に干渉する事が出来る様に作られているネ」

顕微鏡らしき物で、詳しい内部構造を分析している超・鈴音。

二人の天才。超・鈴音と葉加瀬・聡美は、アキトの残した物の分析を行なっていた。

「二つとも、この時代の技術力では精製する事が出来ない物ばかりですね」

葉加瀬・聡美は一つの結論を出した。それはオーバーテクノロジー。

それは彼女達が使用しているロボット技術も、オーバーテクノロジーの範囲に入るのだが、

今分析中の物は、まったくの別系統の技術によって作られている物だった。

「・・・私以外にも未来から誰か来ている様ね」

超・鈴音は調査対象物を見ながら、そう静かに答えた。

「イレギュラーですか・・・」

少し心配になりながら、葉加瀬・聡美は超・鈴音を見る。

「・・・計画に支障は無い、それに時空跳躍弾は無敵。誰にも防ぐ事は出来ない」

時空跳躍弾、どんな相手も三時間後に飛ばす時空転移弾。一度喰らえば解除する方法は無い。

世界樹が発光している時にだけ使える限定武器の存在が、彼女達の揺ぎ無い自信となっていた。

それにもう一つの切り札も用意している・・・それは既に完成していた。

「私は自分の想いを果すだけね」

超・鈴音の硬い決意は変わる事はなかった。歴史改正と言う新しい未来を手に入れるために。



後編その2、後書き

アキトは表向き司書の肩書きを得て、麻帆良学園の魔法に関する仕事をすることになりました。

これでアキトが超・鈴音の陰謀を阻止する大義名分が出来ました。・・・かなり強引ですね。

アキト本人は別のSSで、ボソンジャンプによる歴史改変をしまくっているのに、今度は阻止に回ります。

さて、次からは原作に沿った話の流れになります。と言っても少々アレンジを加えますが。

一日目は麻帆良祭見物→告白阻止→まほら武道会予選。サプライズ有り、多分予測出来ないと思う。したら凄い

二日目はまほら武道会本選→麻帆良学園地下遺跡→??????。ヒントは原作を参考にしています。

三日目は??????→??????→超のロボット軍団阻止。原作の設定を生かすぜ!ヒントはネギの予定表

何にしても原作10巻の麻帆良祭編からクロス開始です。ここまでの前フリが長かった事を反省

でも麻帆良祭編はもっと長くなる予定です。まだまだ先は長いな・・・続けられるのか?



人物ファイルその2「カレン」クラス:竜人

種族は竜人。年齢は約1000歳(封印期間中は除外)人間の年齢で言えば10歳程度。

東南アジア系の民族衣装を羽織っている。赤い短髪で赤い瞳、やや褐色した肌の少女。

800年前、人間界に行った時に悪い魔法使い達に騙されて竜の力を盗まれてしまう。

力を盗まれカレンは、さらに悪い魔法使い達に呪いを掛けられてしまい。

彼等が作り出した竜のゴーレムの中に封印されてしまう。それが災いしたのか

竜のゴーレムが突如暴走始め。悪い魔法使い達はゴーレムの暴走に巻き込まれて全員死亡。

ゴーレムの暴走はその後も続き、周辺の地域に多大な損害を出した。

そして遂には討伐隊まで結成される騒ぎになったが、討伐隊がゴーレムの元に辿り着く前に

アリスがゴーレムをエデンの箱庭へと封印した。この騒動に関心を抱いていたアリスは、

ゴーレムの下に赴いていた。そしてカレンと出会い彼女の望みを聞き届けてあげた。

僅かに残っていた意識でアリスと会話したカレンは、自分の身をアリスに託して眠りに付いた。

・・・それから800年後、アキトによってゴーレムは倒された。

呪いから解放されたカレンは、その代償として竜の力=魔力を失ってしまった。

竜の力を失った事で、彼女が住んでいた竜の世界に戻る事が出来なくなり、

力を失った原因であるアキトに、自分の面倒を見てもらうことになった。

アキトのお嫁さん修行と称して、アキトから料理と木蓮式柔術を習っている。

カレンは少しだけ気の力を使う事が出来るが、気の力が無くても竜人なので身体能力が人間より高い



人物ファイルその4「天河アキト」クラス:破壊工作員

種族は人間、但しナノマシンの永続的な活動によって、不老不死に近い存在になっている。

補助脳が完全に死滅しない限り細胞の再生を無限に繰り返す。年齢は23歳(修行期間を入れると25歳)

新婚旅行の日に火星の後継者に妻と共に誘拐され、人体実験をされて五感の大半を失う。その後復讐鬼となり。

ブラックサレナを駆って数多くのテロ活動やコロニーを襲い、一万人近くの人間を殺したテロリスト。

この世界に跳んだ際に、AIサレナと融合して五感と寿命が回復した。

ナノマシンの正常化によって、常人の三倍近い身体能力と五感を備えている。

短剣術、銃術、木蓮式柔術、木蓮式抜刀術の使い手、木蓮式柔殺術とネルガル式暗殺術は現在封印中。

アリスと仮契約を行なっており、アリスの従者。アーティファクト「幻影魔鏡」を持っている。

今は麻帆良学園の司書と言う表向きな顔を手に入れて、図書館島でアリスに関する手掛かりを探っている。

今もエデンの箱庭を住居代わりに利用して、サレナとカレンと一緒に生活している。