これは「魔法とアキト」の外伝ではありません。同じネギま!のクロスですが、

IFによるまったく別な、もう一つのアキトの物語です。

ですので本編に登場しているオリキャラは誰も登場しません、と言うかオリキャラは作りません。

ギャグパートも今回は作りません。アキトの色恋沙汰はまだ思案中ですがハーレムは予定していません。

ネギ君に好意を抱いている3A生徒を、アキトが堕とす展開はありません。それとルリとラピスも登場しません。

その他、本編に登場した物や設定の流用がありますが、本編との繋がりは一切ありません。



救いは平等ではない救われない者達も居る。ちょっとした分岐によって人の運命は大きく変わっていく。

そう大きく変化していく、時の流れの様に・・・そして、それに抗う者達が居るのも事実なのだが。

人は弱い、弱いからこそ時と言う抗う事が出来ない誘惑の中で、心が飲まれてしまい心が蝕まれていく。

そしてそれを止める事は誰にも出来なかった。彼も心を飲まれた一人だった。

与えられた運命を抗うか、それとも運命と言う鎖に囚われるか、過去と未来が此処にはある。

では現在は一体何処に、彼の目指す現在は一体何処に在ると言うのだろうか・・・

虚ろなる肉体と魂を携えて、アキトのもう一つの物語が始まる。



「魔法とアキト、アナザーストーリー第1話(流転する運命。絶望と希望の狭間の中で)」



銃声、断末魔、金属音、爆発音、そして・・・炎。何処にでもある。

そして何処にでも起こりうる戦場と言う光景。別に珍しくも無い光景。

アキトにとって戦場とは己の存在意義を確かめる場所。生きている実感を得られる唯一の場所。

それ故にアキトに取っては身近で有り、見慣れた光景なのだ。それが例え過去の世界と言えども・・・。

殺し合いの方法が機動兵器から旧型兵器に変わるだけ、人が機械と道具を操り人を殺す。

世界は変わっても人のする事は何も変わらない。人は未来永劫同じ事を繰り返すのかもしれない。

何故なら世界は有限だから。考え方も資源も富も土地も食料も人の数さえ無限ではない、

だから人は奪い合い、争いあう。人が己の正当性を主張を通す為に、力を持って相手に制する。

戦争と言う病魔に心を蝕まれながらも、人の心が齎す恐怖と不安、

そして疑心に怯えながらも一歩一歩未来へ近づいていった。その先に何が在るか誰も知る良しがない。

未来は可能性に満ちていた。絶望する運命も希望ある未来もそこに在った。人はどの道を選ぶのだろうか。

「まだ抵抗するか・・・それなら仕方が無い。死ぬ覚悟は出来ているのだろうな!魔法使い達よ」

ここは過去の世界でありながら、アキトが居た戦場とは根本的に一つ大きな違いがあった。

「黙れ!鮮血の魔術師天河アキト、死んでいった者達の恨みを受けるがいい!」

それは魔法の存在。この過去の世界には魔法や気と言う、ファンタジー的な力が存在していた。

アキトが居た未来の世界には存在しなかった力、それがこの世界には有った。

ここはアキトが居た直径の過去ではない、自分の知らない過去を持つ並行世界の過去だった。

しかし、力の存在は争いの引き金に容易になる。ボソンジャンプや古代火星遺産の様に・・・

それはこの世界に置いても同じだった。機械の力が魔法の力に変わるだけ。

力が齎す誘惑と不安。そして戦争と言う避けて取れない現実は、人の心の問題故に。

世界に関係無く、最終的に戦争と言う手段に人が進んでいく事は、変わる事はなかった。

「光の精霊、38柱、魔法の射手、連弾、光の38矢!」

「水の精霊、45柱、魔法の射手、連弾、水の45矢!」

「雷の精霊、26柱、魔法の射手、連弾、雷の26矢!」

「闇の精霊、41柱、魔法の射手、連弾、闇の41矢!」

「氷の精霊、34柱、魔法の射手、連弾、氷の34矢!」

「風の精霊、32柱、魔法の射手、連弾、風の32矢!」

「炎の精霊、21柱、魔法の射手、連弾、炎の21矢!」

アキトと対峙している7人の魔法使い達は、アキト目掛けて様々な属性を持つ魔法の射手を放った。

「ふん」

それに対してアキトは身の丈程もある大きな木製の杖を、迫り来る魔法の射手の方向に構える。

大きな杖の先端には、とても大きなエメラルドの宝石が杖の中に埋め込まれていた。

「・・・・・・氷大盾」

相手の攻撃魔法を跳ね返す氷盾(レフレクシオー)の上位魔法「氷大盾」

上位魔法すら容易く跳ね返す程の力を秘めた、巨大な氷で出来た魔法の盾を正面に展開して、

アキトは魔法使い達から放たれた、7人分の魔法の射手を全て相手に跳ね返した。

「くっ、魔法障壁展開!」

リーダーらしき魔法使いが残りの六人に魔法障壁の展開を指示した。魔法の射手を跳ね返された魔法使い達は

慌てて魔法障壁を展開して、自分達の放った魔法の射手を防ごうとするが

アキトは魔法使い達に反撃する為の魔法詠唱を終わろうとしていた。

「・・・・・・氷爆(ニウィス・カースス)」

ゴォォォォォォーーーーー

アキトは魔法の力により空気中に大量の氷を瞬時に発生させて、それ等氷を一斉に爆発させた。

氷爆の魔法によって発生した。冷気と爆風が7人の魔法使い達に襲い掛かる。

ドォォォォォォン

氷爆の魔法によって発生した爆発音が辺りに響き渡る。

そして氷の爆発によって生まれた霧が辺りの視界を白く染めていた。

「大丈夫か?皆の者よ」

「こちらは大丈夫です隊長」

魔法使い達はアキトの氷大盾の魔法によって、跳ね返された自分達の魔法の射手を防ぐ為に、

魔法障壁をそのまま展開していたので、アキトの放った氷爆の魔法による致命傷は受けてなかった。

しかし、アキトの目的は魔法使い達を氷爆の魔法で倒す事では無かった。

これから唱える強力無比な魔法を使用する為、詠唱時間を確保する必要があったのだ。

その為には魔法使い達の足止めを行い、尚且つ此方の意図を気づかせない為、視覚を封じる必要があった。

全てはアキトの思惑通り進んだ。アキトは身の丈ほどある大きな杖を、天高く掲げて魔法の詠唱に入る。

「・・・・・・契約に従い、我に従え、大気の化身、来れ、風の息吹、大気の本流、

全てを消し去る、風を司れ、大気の怒りを、今この場所に、発言せよ、渦巻く風!」

風の最上級魔法「渦巻く風」広範囲殲滅魔法を、アキトは風の力を増幅させる愛用の杖である

エメラルドロッドから解き放った。アキトの標的は7人の魔法使い達ではない。

7人の魔法使い達の遥か後方、アキトを目指して徐々に近づいてくる、

敵の増援部隊に向けて、アキトは広範囲殲滅魔法「渦巻く渦」を解き放った。

ゴォォォォォォォォ

エメラルドロッドの力によって、風の魔法を増幅された「渦巻く風」は、

敵の増援部隊が逃げられないように、魔力で形成された大気の壁に閉じ込める。

この魔法は100フィート四方の空間を、外の空間と完全に遮断して敵を外に逃げられなくする。

転移魔法なども空間が遮断されているので、外へ逃げ出す事は出来ない。

そして閉じ込められた空間内には真空の刃を齎す巨大な竜巻が発生させて、中に居る者全てを切り刻んでいく

「また一つ無意味に命が消えていったな」

魔法の発動が終わり大気の壁が無くなった。そして遮断されていた空間が元に戻る。

魔法の発動から終了まで10秒と掛かっていない、しかしその10秒で戦況は大きく変わった。

敵の増援部隊が居た場所には人の姿を維持している物は何も無く、肉片が辺りに散乱していた。

そして地面には散乱する肉片から染み出した血によって、赤く大地が染まっていた。

これがアキトが鮮血の魔術師と言われる由縁。

敵を血の海に沈める恐るべき魔法の使い手から来た二つ名だった。

「残りはあと少しか、これなら昼前には辿り着くかもな・・・」

凄惨な光景を作り出したアキトだが、彼はこの状況に何の感傷も感じていなかった。

戦争なのだから人が死ぬのは当たり前、戦艦を一つ落せば何百人も死ぬ。

その何百人の姿を今まで直接見てこなかった。戦艦を堕した場合は戦艦が爆発して宇宙の塵と消えるか

仮に爆発しなかったとしても、死体の多くは宇宙空間に投げ出される事無く戦艦内部に留まる。

殺しの実感が余り無かったから。火星の後継者に対する復讐の為に多くのコロニー堕とす事が出来た。

そして戦艦を沢山堕とす事が出来た。そうでなければ彼は復讐をやり遂げる事も、

人を殺し続ける事も出来なかった。でも・・・今の彼はあの頃と少し違っていた。

優しい心は今でも持ち合わせている。しかし、人の死に対してアキトは寛容になってしまった。

自らの死を身近な物と認識しているは、復讐していた頃と基本的に同じなのだが。

他人の死に関しても死を身近にある当然の物として、受け入れるようになってしまった。

永い時の流れがアキトの心を変えてしまった。いや、アキトは人に対して何処か諦めを抱いてしまった。

「・・・・・・」

アキトはエメラルドロッドを魔法の力で背中に張り付かせて、

腰に刺された二本の鞘から、二本の日本刀を抜き出した。

「・・・・・ふっ」

アキトは両手に持った日本刀を構えて、魔法使い達に向けて一瞬嘲笑した。

そして後続の部隊の惨状を見て呆然自失となっている。生き残った7人の魔法使い達に襲い掛かった。

「暗殺術奥義陽炎」

アキトの世界では最高峰の暗殺術。気配も殺気も物音すら立てずに、陽炎の如く相手の視界から消え去り、

命を刈り取る事が出来る、伝説級の暗殺術をアキトは使っていた。

「何・・・奴は何処に消えた・・」

視界から急に消えたアキトに驚いた魔法使いのリーダーは、

慌てて辺りを見渡すが、アキトの姿を見つける事が出来なかった。

「・・ぐふっ・」

次の瞬間。リーダーの隣に居た男の口から血が吹きだした、男の胸には黒い刀身が生えていた。

アキトは一瞬で男の背後に回り、右手に持った日本刀で男の心臓を後ろから突き刺していた。

ズブリ

突き刺している日本刀を男の胸から抜き取ると、男の胸から盛大に血が吹きだした。

プシュュュューーーー

その光景に正気を取り戻した残りの魔法使い達は・・・

「くそっ・・・光の精霊14柱、集い・・ぐはぁっ」

魔法使いの一人は慌ててアキトに向けて、魔法の射手の詠唱に入るが、

アキトは左手に持った紅い刀身の日本刀を、詠唱している魔法使いの肩口に振り下ろした。

プシュュュューーー

魔法使いは肩口からばっさり斬られ、血を吹きだしながらそのまま倒れてショック死した。

仮にショック死しなくても、出血多量で長くは無かっただろ。

「うっうわぁぁ!!!・・・・・」

仲間の死に恐慌状態に陥った4人の魔法使いと

「落ち着け!連携を取るのだ!!」

部下の死にあまり動じていないリーダーの魔法使い。しかしリーダーの言葉を無視して

四人の魔法使いは辺り構わず魔法を放ち始めるが

「暗殺術幻影斬」

アキトは残像を生み出しながら、ゆっくり魔法使い達近づいて行く。

魔法を必死に放つ魔法使い達だったが、全て実体の無い幻影の後ろを通り過ぎる結果に終わった。

「何で、当たらないんだ!!」

張り詰めた恐怖の中で魔法使い達が必死に叫ぶ。

「俺がお前達にとっての死神だからだ」

魔法使いの正面でアキトは嘲笑。そしてアキトは目の前の魔法使いの首を日本刀で切り飛ばした。

首の無くなった死体からは血が噴水の様に吹き出る。

「ヒィャャャャァーーーーー」

この状況に耐えられなくなったのか、発狂している魔法使いも居る。

しかし、アキトは両手に持った日本刀で魔法使いの命を一つずつ刈り取っていった。

ブッシュュュュュューーーーー

赤黒い返り血を浴びながら。アキトはリーダーを残して4人の魔法使い達を殺し終わる。

「お前には聞きたい事がある。三日前起こった捕虜の虐殺はお前達の国による物だな」

三日前に起こった惨劇、その原因がある国の介入である事に疑いは無かった。

「・・・・・・・・」

部下の死にも動じなかったリーダーの男は、疲れ切った顔のまま身動き一つしない。

完全に放心状態だった。髪も白髪が一気に増えて10年分くらい年老いた印象を受けた。

アキトが使った暗殺術幻影斬は、恐怖を増徴させて相手の精神を崩壊へと導く技だった。

尋問として使ったはずだったが、どうやらこの男は技に耐え切ることが出来なかった。

「ふん」

アキトは地面に項垂れるリーダーの心臓を突き刺して、その場を後にした。

七人の魔法使い達の死体が新たに大地に加わり、死体から漏れ出す血が大地を赤く染めていた。



「終わった・・・しかし、彼等には同情は出来ない」

これは戦争なのだ、彼等とて此処とは違う場所で多くの人間達を殺している。

殺すか殺されるか、遅いか早いかの違いで死は誰にでも平等に訪れる。

「早く、ナギ達の元に合流しなければな・・・」

アキトは紅き翼の支援の為、彼等が戦っている戦場へと足を向けた。

その途中で敵の部隊と何度も遭遇しながらも、邪魔する者達を蹴散らしながら強引に進んでいった。

「ギァァァガーーーー」

「グェェェェZZ」

黒い戦闘服に身を包み、黒いバイザーで視界を覆い、黒いマントで返り血を隠す。

魔法で鍛えられた二本の日本刀「夜叉丸・弁天」を両手で振るい、

襲い掛かってくる魔族と魔物達を切り捨てていく。

魔法の力を持つ夜叉丸と弁天の二刀は、黒い刀身と紅い刀身を持つ日本刀で、

例え刃が折れても、刃毀れしても、直ぐに元通りになる修復の力が備わっていた。

日本の平安時代に陰陽師達によって作られた魔法の刀で、長さ90cmの打刀

黒い鞘に入った方が夜叉丸で、赤い鞘に入った方が弁天だった。

「グギィィィィ」

また一つ命が消えた。これ等魔物や魔族達を召喚した魔法使い達は既に生きてはいない。

今頃その辺に屍として転がっているだろ。首や心臓が無くなった屍として大地に血を広げている頃だ。

「木蓮式二刀流剣舞陣」

アキトは両手に持った二刀で舞を踊るように刀を滑らせていく。

攻防一体の技により、その一撃は敵の攻撃を防ぎ、その一撃は敵の急所を的確に突いていく。

「木蓮式柔殺術蹴殺打」

アキトは二刀の舞の他に、木蓮式柔殺術の足技による打撃を組み込みながら、

魔物や魔族の脳天を砕き、敵の心臓や肺を蹴りで潰していった。

そしてアキトの舞が終わる頃には、辺りは死体の山が築かれていた。

「虚しい物だ、この戦いは一体何時まで続くのだ」

死体の山を眺めるアキトの頭の中には、この戦いで散っていった多くの者達の顔が浮かんでは消えていった。

「魔法大戦」・・・西洋、東洋問わず、人間同士による魔法世界全てを巻き込んだ大きな戦争。

その原因の発端が何なのかアキトは知らない。しかし既に采は投げられ多くの者達が地に倒れた。

人の歴史は争いの歴史、絶えず衝突を繰り返しながら、人は多くの悲劇を生み出していく。

そしてアキトもまたこの戦いの中に居た。全てを失い死に場所を求めて、戦場を彷徨い歩く幽鬼として

止まった時の中を一人で生きて来た。相棒のラピスやサレナはもう何処にも居ない・・・。

しかし、アキトはこの過去の世界に来て面白い者達に出会った。

それがアキトにとって、僅かに残された希望だったのだ。

「相変わらず人気者だなナギは。何時見ても凄惨な光景だな」

紅き翼の応援に駆けつけたアキトは、ナギの周りに形成された死体の山を眺めていた、

そこには人間も魔物も魔族も例外無く、平等に地に倒れて死んでいた。

そこはある意味、地獄絵図・・いや、ここは戦場なのだ。死体が大地に溢れるのは至極当然

民間人がその中に入っていないとだけ、マシと言う事だろう・・・。

「そう言うアキトもここに来るまでに、相当殺ったんじゃないか?鮮血の魔術師さんよ〜

お前も俺並に凄惨な光景を作りやがって・・ったく戦争なんて嫌になるぜ、早く終わって欲しい物だな」

ナギはアキトに愚痴りだす。アキトにもその気持ちが痛いほど分かるが、

一人ではどうにもならない事もある。それはどんな強大な力を持っていたとしても変えることが出来ない。

未来の世界ナデシコの時もそうだった。ナデシコが独走した結果、地球と木蓮の両陣営の目的であった、

遺跡中枢ユニットは無くなったに見えたが。熱血クーデターで木蓮を追われた草壁によって、

密に回収される事となった。あの時ナデシコが独走せずに、

地球と木蓮の双方が停戦後に遺跡中枢ユニットを管理していれば、その後の悲劇は回避された事だろ。

ナデシコの独走で戦争は終結したが、消化不慮のまま終わった戦争は、

地球と木蓮の双方が不満を抱えたまま終結した為に、火星の後継者と云う膿みを生み出した。

目先の平和では真の平和はその後に訪れない。

多くの犠牲の上にお互いが矛を引かなければ、同じ事が繰り返される事だろ・・・

「ナギ、お前が最強の魔法使いと言えども、人の流れは・・・戦争は止める事が出来ない」

アキトは悲しい瞳を携えて、隣に居る男に静かに語った。

「ああ、そんな事は分かっているよ。でも俺はアキトの様に簡単に割り切れないんだよ」

アキトに話し掛けて来たこの男、いやまだ青年と言うべきか。

悠久の風に所属する紅き翼(アラルブラ)のリーダー、ナギ・スプリングフィールド。

まだ15歳ながら立派な魔法使い(マギ・ステル・マギ)の資格を有する魔法使い

別名「サウザンドマスター」と呼ばれ、既に本国では英雄扱いを受けている若き魔法使い。

千の魔法を使いこなす者と言うらしいが・・・

俺が知る限りナギの魔法を5〜6個しか見た事が無かった。そこでナギにその事を聞いて見たら

「俺は勉強が苦手で、本当は自力で唱えられる魔法を5〜6個しか知らないんだ、

まぁ、詠唱呪文は本を読みながらカンニングすれば。どんな魔法でも使えるぜ!」

そう言って自信満々にナギは、一冊の魔法の本を取り出してアキトに見せる。

はっきり言って自慢出来る事ではない。むしろ恥ずべき事だろ。

「戦闘中に本を読みながら戦闘は出来ないだろ。特に接近戦や乱戦などの時はどうする気だ?」

本を読みながらの詠唱では敵への注意散漫になり、瞬時の対応が遅れてしまう事だろ。

一瞬のやり取りの中で命の奪い合いを行なう実戦の中では。

カンニングしながらの詠唱は実用的とは到底思えなかった。それに対してナギは

「ああ、そう言う時は自力で使える5〜6個の魔法しか使わないから」

「・・・お前らしいな、ナギ」

・・・呆れた。しかし5〜6個の魔法で事足りる程にナギの強さは突出していた。その魔力の大きさも

いや、魔力だけではない、体術に関しても相当な物だった。この歳でリーダーを務めるだけあって

判断力や決断力にも優れている。そしてそれ以上に人を惹き付ける魅力を持っていた。

ナギは天性のリーダータイプ、カリスマと言うべき者なのだろ・・・。

「どうしたアキト?相変わらず陰気な奴だな〜」

この状況下でナギはアキトに笑い掛けて来た。本当に神経が図太い奴だ。

「ナギ、お前のその神経・・賞賛に値する。この状況下で良くそこまで明るくなれるな」

戦闘が一時的に収まったとは言え、戦いはこれからも続いていく。この大戦が終わらない限り

ここと同じ、いや、それ以上の過酷な戦場と言う地獄がこの先待っているのだ。

何故そこまで明るく居られるのか?感性が常人の域を出ないアキトにはその事が分からなかった。

「何〜戦いなんて何時かは終わるもんだ」

ナギはアキトに気楽に言ったが、そう簡単なものじゃない。戦争を始めるのは容易いが

いざ、終わらせるとなると実に難しい。片方のどちらの陣営を全て叩けば戦争は終結するが、

そう中々上手くいかないのが実情だ。それに占領後の事も考えると叛乱が頻発する事になるだろ。

停戦に付いても、責任の所在に付いて両陣営が揉める事は確実で、

一方が妥協すれば今度は妥協した陣営の内側から不満が噴出する事になるだろ。

戦争とは辞めたくても中々止められない物・・・しかし、戦争は何時かは終わる。

その原因が疲弊による物なのか、一方の破滅なのかは知らない。だが、終わらない戦争は無いのだから。

「・・・ナギ、この戦いが終わったらお前はどうするんだ?」

ナギ程の英雄なら、本国から重要なポストへのスカウトもあるだろ。

まだ現役を退くの早過ぎだと思うが。多くの者達が戦場で散り何処も人手不足になり始めている。

そう言う話が何時来ても可笑しく無い現状だった。

「あん?そうだな・・詠春が日本の京都に来いと言っていたし、観光のついでに自宅訪問でもするかな」

近衛・詠春。関西呪術協会の次期跡取で京都神鳴流剣士。ナギと同じ紅き翼に所属している

優れた剣士であると同時に魔法使い。日本古来の魔術である陰陽道を行使する事が出来る。

「そう言うアキトはどうするんだ?」

アキトの事を心配しているのか、ナギがこれからの事を訊ねて来た。

「・・・・・・・まだ考えていない」



俺はまた別な任務に付く事になるだろ。生きている実感を求める為に戦場を駆けて、

その先に訪れる死を待っている。しかし、未だに俺に死は訪れてはいなかった。

周りの人間の多くが死んだというのに。俺はまだ生き残っていた。

「これからの事か・・・」

俺は悠久の風に雇われた傭兵として表向きこの戦争に参加していた。

裏では本国から密命を受けて、色々裏で工作活動を行なっていた。

表向き傭兵中隊「鋼の足」の一員として活動する。しかし鋼の足に所属していた傭兵は既に半分を切った。

傭兵と言う事もあり常に最前線の戦場へと何度となく赴き、その度に多くの仲間達が死んでいった。

多くの戦友が死んだというのに、俺はまだ生きていた・・・今の俺は何の為に生きるのか。

その答えは未だに分からない。このまま答えが出ないままなのかも知れない。

ボソンジャンプによって飛ばされた並行世界の過去・・・魔法が存在する世界。

俺はこの世界に飛ばされて来た。・・・そして一緒に生きると約束したサレナは何処にも居なかった。

俺だけ助かった・・・俺に訪れたのは新たな苦悩と絶望だけだった。・・・救いは何処に無かった。

しかし、それだけでは無かった・・・この世界に跳んだ反動なのかどうなのか知らないが、

俺を苦しめていたナノマシンスタンピートが起こらなくなった。

それもそのはずだ。俺の痛覚は完全に消失した。いや、痛覚だけではない

僅かに残っていた味覚、触覚、視覚、聴覚、嗅覚の五感全てを消失した。

五感全てを失って新たに芽生えたのが、第六感と言う魔法と気の力。

その力を使って、俺は無くなった五感を代用している。

だが、それはあくまでも擬似的な物。味覚、触覚、視覚、聴覚、嗅覚。

五感が全て元通りになった訳ではない。所詮は偽物なのだ・・・本物には到底追いつかない。

味覚を感じる事が出来る。でもそれは単調な味しか分からない。

触覚を感じる事が出来る。でも人肌の温かさは感じられない。

視覚を感じる事が出来る。でもカメラ越しの風景にしか見えない

聴覚を感じる事が出来る。でも録音テープを聞いているようにしか聞こえない。

嗅覚を感じる事が出来る。でも香水の臭いを嗅いでいるようにしか・・・

全ては五感を疑似体験しているに過ぎない現状なのだ・・・。

そしてもう一つ。重要な事があった。・・・俺は歳を取らなくなった。

この世界に跳んで既に200年以上が過ぎたと言うのに

俺はこの世界に跳んだ頃とまったく同じ、20代前半の姿を保っていた。

この200年間。俺は世界を渡り歩き、力を磨いてきた。

自分生きている意味を、そして死に場所を求めて戦って来た。

だが、未だに答えが出ずに戦場に身を置いている。俺の求める物に出会う事は出来ないのだろうか

「アキト、あんまり深く考えるなよ。人生なんてその時その時で変わる物なんだからさ」

思い悩んでいる俺にナギは単純明快な一つの答えを提示する。確かにナギ言っている事も一理有る。

「ナギ、お前は気楽でいいな・・・」

ナギのそう言う所が人を惹きつけて止まない。こう言うのを魅力と言うのか。

「アルもガトウ、詠春もアキトの事を心配しているんだぜ」

アルビレオ・イマ。年齢不詳の男で重力魔法を得意とする。恐らく俺と同じで見た目以上に生きている。

彼とは100年以上付き合っているが、未だによく分からない掴み所が無い男だった。

ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグ。愛煙家で髭面のオッサン、そして咸卦法の使い手。

得意技は居合い拳と呼ばれる高速拳技、気や魔力を飛ばすのではなく、

魔力で強化した拳から繰り出される、拳圧を相手に放つ技を持っている。

二人とも紅き翼の一員で詠春と同じ何かと俺を気に掛けて来る三人。揃いも揃って人の良い馬鹿達。

いや、アルは違うか・・・性格の悪さは馬鹿の筆頭であるナギを超えている。

俺も彼だけは苦手だ、アカツキの悪ふざけを地で行く様な奴で冗談で済めばいいのだが、

冗談で終わらせない所がアルの怖い所。男である俺にキスを必要とする仮契約を迫ったり

そう言えばナギも仮契約を迫られていた事があったが、まさかナギに限って仮契約をする様な事は・・・

「そんなわけないか・・・」

危ない妄想を振り払い改めてナギを見てみる。・・・そこである事をふと思い出した。

「話は変わるが、エヴァがこの地域でナギの事を捜していたぞ」

「げっ・・マジかよ。アイツまだ俺の事諦めてなかったのか」

エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェル。と言う長い名前を持つ西洋の魔法使い。

だが、彼女は人間ではなかった。吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)にして

闇の福音、不死の魔法使い、人形使いとも呼ばれているある意味伝説的な魔法使いで、年齢は600歳前後

見た目は10歳前後の少女にし見えない彼女だが、多くの者達をその手に掛けているので、

悪い魔法使いとして魔法界で、600万ドルの賞金を掛けられている賞金首だ。

魔法界では子供を寝かしつける為に、エヴァの名前を出して脅かす風習がある・・って

何処の民謡伝説だよ!!・・・今も実在している人物に対して、エヴァは酷い扱いを受けていた。

まぁ、それだけ彼女が恐れられているという事だ。もっとも実際は違っていたがな・・・

アキトは100年くらい前に賞金稼ぎの一団に傭兵として雇われ、エヴァと戦った事があった。

しかし、直ぐに彼女がそんなに悪い奴では無いと気が付いた。彼女の操る無数の人形と戦っている内に

賞金稼ぎの一団は全滅した。弱い者が群れを成しても彼女との力の差が在り過ぎた様だ

依頼者が死亡したので俺は戦う動機が無くなり、転移魔法を使ってその場から離脱した。

もっとも、あのまま仮に戦っていても、多勢に無勢でエヴァには敵わなかった事だろ・・・。

それから仕事の関係で、エヴァとは裏ルートに関する情報交換を行なう仲になった。

そして今もその関係は続いている。特にナギに関する情報をエヴァは欲しがっていた。

「エヴァはナギの事が好きみたいだな」

彼女がナギに好意を抱いているのは間違いないだろ。ナギはああ見えてかなりモテていた。

同性の俺から見ても人間としての魅力を感じるのだ。異性から見れば尚更だろ。

ナギとエヴァがどの様に知り合ったのかは知らないが、エヴァがナギを追っているのは事実なのだ。

「はははは、モテる奴は辛いぜ。でも俺には心に決めた人が居るから」

そういってナギは何処か遠くを見た。彼には帰るべき場所、彼を待っている女性が居るのか。

ナギが幾らモテても、彼はイギリス国籍なので結婚して妻に選ばれる女性は一人だけ。

その大切な女性が、彼の帰るべき場所に居るのだろ・・・

「そうか・・それならナギの本心をさっさとエヴァに言えばいい」

優柔不断のままでは何時か後悔する事になるぞ。(鈍感なアキトがそれを言っても説得力が乏しい)

「エヴァには何度も言ったさ、でもそれで諦める相手か?」

確かにエヴァの執念深さと諦めの悪さは、魔法界で当代一かもしれない

だが、それは裏を返してみれば、それだけナギの事が好きと言う事だ。

もしかしたらエヴァの初恋相手がナギなのかもしれない。

「分かった。お前の事はエヴァに会っても黙っていよう。しかし、情報は常に何処からか漏れて来る物。

俺が黙っていても、彼女は何らかの情報を掴んでお前の元に行くぞ」

「まぁ、それはそん時考えればいいのさ」

相変わらずいい加減な奴だ。だが、嫌いではない・・・こう言う馬鹿を見るのは。

見ている此方を清々しい気持ちにしてくれる。それがナギと言う青年だった。

「そろそろ俺も本隊に戻る時間か・・・。ナギこの大戦を必ず生き残れよ」

「アキト、お前な!」

そう言ってアキトは自分の所属部隊である鋼の足に戻った。

あれからアキトは幾多の戦場駆け回って、時が過ぎて行くのを待っていた。

そしてようやく待ち望んだ時が訪れた。ナギが待ち望んだ魔法大戦の終結。

戦争は終わった。大きな戦災と言う悲しい爪痕を残して・・・



「・・・・・・」

あれから20年が経った。あれ以来大きな戦争は起こらなくなったが、その代わり紛争は各地で多発している。

これも戦争と言う膿みを完全に出し切れなかった事が原因なのだろう。

魔法大戦を最後にアキトは傭兵稼業から足を洗った。

別に新しい目的が出来たわけではない。今も昔も変わらないアキトは何となく今を生きていた。

生きる意味を探して世界を回っていた。しかし、未だにその答えは見つからない・・・

傭兵稼業を引退したと言っても。お金は何かと必要になるので、その関係で裏の仕事は今も続けていた。

「平和な日常か・・・ナギ達の望んだ世界」

アキトは東ヨーロッパを旅していた。別にこの地域に目的が在ったわけではない。

ただ当ても無く旅をしていた。ただそれだけだった。当然だが今はあの黒い戦闘服は身に付けてはいない。

アレは裏の仕事をする時以外は着用しないようにしている。変質者として警察に掴まりたくないから。

だから今はやや黒めのスーツ姿に着替えている。この姿なら誰にも怪しまれず。

仕事で滞在している、日系のビジネスマンにしか見えないだろ。

ハンガリーの首都ブダペスト。ここに滞在して一ヶ月が過ぎた頃だった。

「電話か・・・」

トルル、トルル、部屋に有った電話の音が鳴り、俺は受話器を取った。

「ミスター天河!日本からの国際電話が掛かっています」

俺が宿泊している受付のホテルマンが、英語で俺の部屋に電話を掛けて来た。

内容は直訳すると日本から俺宛に電話が来たと言う・・・一体誰からだ?

「そうか、こちらに回線を回してくれ」

ホテルマンに英語で簡潔に答えた。

「わかりました」

ガチャン、一旦受話器を戻して、程なく電話の音が再び鳴り始めた。ガチャ

「フォフォフォ、久しぶりじゃのうアキト、ワシじゃ、麻帆良学園の学園長、近衛・近右衛門じゃ」

老人の声で受話器の向こうから懐かしい声が聞こえて来た。実に5年ぶりになるのか?

「学園長お久しぶりです・・・俺に何か仕事の依頼ですか?」

裏の仕事の関係で麻帆良学園の学園長である近衛・近右衛門から、何度か仕事を受けた事があった。

それにあの学園には高畑・T・タカミチが居る。10年前ナギの所属していた部隊。

紅き翼に所属していた男。そして今は亡きガトウの弟子・・・。

20年前の魔法大戦期に、ガトウの付き添いとして紅き翼に居たらしいが、

俺は大戦時タカミチとは会っていないので、その時のタカミチの事は良く分からなかった。

しかしこの10年間、タカミチとは何度か仕事を共にした事があり、交友関係もそれなりに築いていた。

「ふむ、実はお主に頼みたい仕事があるじゃ」

何処か歯切れの悪い学園長・・・。何か仕事の中身に問題でも?

「仕事の内容は何ですか?」

外国に居る俺に態々連絡を取ってくるとは、かなり大きな仕事か危ない仕事のどちらだろう。

「生徒二人と今度赴任してくる先生の護衛を引き受けてもらいたい」

しかし予想は外れた。それほど問題のある内容とは思えない。それに護衛の必要性すらあるどうか疑わしい。

麻帆良学園は関東魔法協会の本拠地。そして多くの魔法使い達を有している一大組織だ。

学園所属する魔法使いを数人も付ければ事足りるはずだか?

「それで護衛期間は何時までですか?」

「ふむ・・・一年と二ヶ月ほどじゃ」

一年と二ヶ月か、これはまた随分長い仕事だ。

「学園長・・・仕事の期間が長過ぎます。申し訳が無いがこの仕事は断らせてもらいます」

長期の護衛は学園の魔法使い達に任せておけばいい。俺の出る幕ではない。

それにそこまで守りたい相手でも無い。長期の仕事はそもそも受け付けていない。

「アキト、話は最後まで聞け。護衛対象の一人にネギ・スプリングフィールドと言う少年が居る」

「少年?それにスプリングフィールド?・・・ナギの親戚の方ですか?」

スプリングフィールドと言う苗字は珍しい。可能性があるならナギの親戚だろう。

そう考えていた。しかし予測は大きく違っていた。

「いや、ナギの息子じゃ」

「何!?・・ナギが結婚したなんて話は聞いてないし、奴に息子が居たのか?!」

ナギが死んだという情報は10年前に風の噂で知った。同じ頃にガトウも死んだらしい。

アルもその頃に行方不明になり、未だに彼とは連絡が取れてない。エヴァもアルを探していた。

紅き翼は任務の途中で壊滅したと言う情報だけが、後から伝わって来た。

まったく信じられない。少数精鋭とは言えあの紅き翼が破れるなど・・・

いや、少数精鋭だからこそ、唯一の弱点である物量で押されれば、いかにナギ達とは言え消耗して弱る。

ナギが死んだと言う情報を初めて聞いた時は自分の耳を疑った。あの馬鹿が死ぬはずが無いと思っていたのに

しかし、死とは平等な物。誰にでも襲い掛かる避けて通る事が出来ない物。

それはどんな勇者でも賢者でも同じ事。何時かは終わりが訪れる、それが遅いか早いかの違いだけ。

「・・・そのネギと言う少年が護衛の生徒の一人だと」

「いゃ・・・実は先生なのじゃ?」

学園長は少し言いづらいのか、躊躇しながら言った。

「・・・・・・・・・・・はぁ?」

学園長は一体何を言っているんだ?少年が先生をするって、労働基準法とか明らかに違反しているだろ。

いや、それ以前に先生をやる事を認める学園長もか・・・一体何を考えているんだ!?

「実はのぉ・・・ネギ君は魔法使いの試験の結果。日本で先生をやる事になったのじゃ」

「ああ、アレか・・・それは厄介な試練を受けたな」

魔法使いになる為の最終試験。例の卒業証書の神託か、

俺は独学で魔法を会得したが、本来は魔法学校で魔法を学んだ後、

魔法使いの仮免許を貰って、卒業証書の神託に導かれた場所で神託に沿った仕事を行なうらしい。

「それなら先生の仕事をするのも仕方がありませんね・・・それにしてもナギに息子が居たとは驚きです」

アイツも死ぬ前にやる事はやっていたのか・・・。まぁ、男なんだから当然か。

「それで他の二人の生徒と言うのは」

「ワシの孫娘で詠春の娘、近衛・木乃香じゃ」

学園長は立場的にちょっと気まずいのか、小声でそういった。

「詠春の娘・・・そうか、あの子か」

近衛・木乃香。その潜在魔力はナギも超える程の魔力を秘めていると、詠春から聞いた事がある。

俺は彼女が生まれて間もない頃に、日本を訪れて詠春に祝いを述べている。

その時に赤ん坊の彼女と出会った。・・・しかし、赤ん坊の彼女に印象はあまり無かった。

何分、詠春の親馬鹿があまりにも印象が強過ぎたため、それしか覚えていなかった。

「ふむ、実は関西呪術協会の過激派の一部が、何やら暗躍しているらしい」

関西呪術協会は昔から関東魔法協会との確執の為に仲が悪い、

それに西洋魔術師に対する嫌悪する者が、西側に多いと言うのも特徴だ。

これは先の大戦が理由なのだが、関東魔法協会は西洋魔術師の留学生を多く抱えているので。

反感を抱く者が居るのも仕方が無い。まだ大戦から20年しか経っていないのだ。

家族や友人を失った者達の心の傷が癒えるには・・・まだ時間が足りないのかもしれない。

これも戦災という傷跡が、今も人々を苦しめている結果だろ。

戦争が齎した憎しみや悲しみ、怒りはそう簡単には収まらない。

何故なら特定の人物が起こした事件なら、その者が断罪されれば犠牲者の気分も晴れるだろうが。

戦争と言う形無き物では、戦争に関わる者全てに怒りや憎しみを抱いてしまう。

それは何処の誰に殺されたのか分からない。顔や名前の分からない相手、唯一分かっているのは敵対する勢力

その事が戦争が終わった後も、人を過去に縛り付けてしまう原因の一つなのかもしれない。

木蓮にしても100前の恨みを抱き続けていたのだから・・・心が憎しみに縛られる

それはとても悲しい事、しかし人の性故に避けて通る事が出来ない。

それこそが人の心なのだ。人の数だけ想いがある。ルリちゃんが言っていたな、しかしそれは逆に言えば

その想いが踏み躙られれば、人の数だけ憎しみが生まれてしまう。まったく持って人は救われないな、

かつて憎しみに囚われた俺も、偉そうに人の事を言える立場ではないがな。

「それでどうじゃ、アキトよ」

学園長は再度俺に確認を取った。

「もしかしたら西の過激派の全てが一部の過激派に同調して動くかもしれない。その時の保険の為に

俺を護衛に回すと言う訳ですね。しかし、それは学園に所属する魔法使いだけでも事足りるのでは?」

「まぁ・・・今は何処も人手不足で大変なのじゃ。タカミチも海外への出張が多くのぉ・・・」

「タカミチはまた出張ですか?相変わらず仕事熱心ですね」

タカミチはかつて所属していた紅き翼が無くなったとは言え、今も悠久の風に所属している魔法使い。

腕も立つ実績もあると言う事で、かなりの仕事が彼に回ってくる。

それに対して本国の魔法使い達は動きを見せない。本国の情勢は孤立派が台頭しているからだ。

魔法使いはこちら側の世界に干渉するべきでは無いと言う孤立派、

故にこちら側に居る魔法使い達で活動しなければならず。何処の支部も人手不足で苦労している。

そう言う俺も各国の魔法協会から、未だに何度もスカウトされている。

200年近く裏の世界で傭兵稼業をしていたので、自然と自分の名前が売れていた。

傭兵を引退する20年前までは鮮血の魔術師を筆頭に、漆黒の刀鬼、惨劇の双剣士、血塗れの戦人

なんて物騒な様々な二つ名で呼ばれていた時期もあった。まぁ今も一部の者達に言われている。

魔法使いと言うよりは俺は剣士として名を馳せていた。高位の魔法も扱えるのだが。

魔法を扱う機会があまり無かったのも事実。大抵は刀だけで事足りていた。ちょっと複雑な気分だった。

あれだけ魔法の勉強と修錬を積んだのに。剣士としての名声だけが一人歩きしてしまった。

まぁ、何にしても、俺へのスカウトは全て断っている。今更何処かに所属する気など無い。

俺は自分の生きる意味を捜す事が、今生きている目的なのだから・・・。

「タカミチの留守が多いのは仕方が無い。そこでお主の番と言う事じゃ」

一見世界は平和に見えても実情はそれほど平和ではない。だから俺に仕事の依頼が沢山来り

タカミチの出張が多いのもそこに起因している。

「ネギ先生と木乃香ちゃん。もう一人は誰です?」

「もう一人はかなり訳ありじゃ。すまんがここでは話す事が出来ん。電話越しでは・・・」

盗聴の可能性があると・・・。この部屋に盗聴器が無いのは確認済みだが。

外部から電話回線を覗かれると、会話の内容を盗まれる危険性があった。

三人目はよほど重要な人物なのだろ。電話で気軽に話せないほどに・・・。

「わかった。どうせ今暇だし仕事を引き受けるかどうかは別として、そちらに話を聞きに行こう」

エヴァにも別な用件で、近々会いに行く予定だったからな。

「おおそうか、ではアキト待っておるぞ、それとネギ君も数日中に学園に赴任してくるぞ」

「分かった。俺も数日中にはそちらに付く。その時続きの話を聞かせてもらう」

ここでの調べ事を済ませた後、俺は日本に向かう事を決める。

「ふむ。ではいい返事を待っている」

そう言って学園長からの電話は切れた。俺は受話器を戻してベットに転がる・・・ドサァ。

「ネギ君か・・・」

あのナギの息子か。いかほどの者なのか楽しみだ・・・。父親に似て破天荒でなければいいが。

一抹の不安を抱きながら、俺はそのままベッドの上で軽い眠りに付いた。



後書きとか・・・色々書いて見た。

ネギま!とクロスするなら、ネギが赴任してくる一番最初からやるべきだ!と言う意見があったので。

それと原作ではナギとエヴァが出会ったのは15年前?だけどこのSSでは20年前に変更して見た。

アキトとナギは20年前の魔法大戦期、悠久の風に所属する部隊違いの戦友って事にしてみた。

そしてアキトはエヴァ、アルとは古い付き合いをしている。エヴァとの関係は恋愛云々じゃなくて、

あくまで友人の一人として、情報交換を主とするビジネスパートナーとして。

お互いの事に一切干渉しないと言う前提の上で協力関係を築いている設定です。

いきなりグロイシーン全開ですけど今回だけですよ。平和になれば殺し合いのシーン何てありませんから。

深夜アニメのコード○アスに影響されました。そして本編には設定だけ登場した木蓮式柔殺術と暗殺術奥義陽炎。

こっちのアキトは良心の呵責が完全に外れているので、殺傷力の高い技や魔法を頻繁に使用しています。

さて、次回から麻帆良学園ですが。時期的にはネギ君が赴任してから数日後、

原作の四時間目と五時間目の間です。

アキトの戦闘力は全盛期エヴァ≧アキトぐらいかな?学園長よりは上と言う設定です。