コロニー、サツキミドリ2号。
月近くに設けられたコロニー。
ここから火星までは何もない。
奪う物も、奪われる物もない。
軍を配備するにも拠点も置けず、木星蜥蜴がくるにも一直線。
だから、サツキミドリ2号は割合重要な拠点と言える。
守備隊の人数も、用意されている機体も段違い。
そうそう攻め落とせるコロニーではない。
その、筈である。
ある場所で、パイロット、スバル・リョーコは肩を落とした。
男勝りなパイロットと言う職業以上に、性格も男勝り。
自慢のショートカットを、手でぐしゃぐしゃと掻き分ける。
リョーコがサツキミドリ2号にいる理由は、近々到着するであろう機動戦艦ナデシコとの合流のため。
二人の相棒を引き連れて、ただ待っていればいい筈だった。

「……それが、どうしてこんなことになんだろーな」

独り、愚痴る。
リョーコが今いる場所は、エステバリスのコックピット。
真っ赤なパイロットスーツに着替え、出撃準備は完了。
他の二人も既に準備は完了し、コックピットにいることだろう。
何故、出撃するか。
答えは聞かなくても分かる。
サツキミドリ2号全体に鳴り響く非常警報。
木星蜥蜴による襲撃。
それも守備隊の手に負えない程、大規模な一斉攻撃。
本来頼むのはお門違いとは言え、リョーコたちにも出撃要請が来た訳である。
タダ働き。
生きるためでも、タダは嫌だ。
もっとも、コロニー消滅の瞬間まで生死を共にする気はない。
危なくなったら脱出する。
薄情にも思えるが、ナデシコに辿り着くのが仕事だ。
見ず知らずの人間のために命までは張れない。

『はいはい、リョーコもぼやかないぼやかない♪』

リョーコのエステに通信が入る。
相棒の一人、アマノ・ヒカル。
メガネが特徴的な、いつでもはつらつとしているのが彼女だ。

『…………いくわよ』
『うわっ、イズミシリアス〜。リョーコ、先いくよ〜!』

先に水色のエステが飛び出していく。
彼女の名前はマキ・イズミ。
いつもは寒いダジャレを連発するのだが、時々ああやってシリアスに入る。
考えている間に、黄色のエステも飛び出した。
リョーコは、一人出遅れたことに気付く。

「ま、まちやがれ、てめぇら!オレを置いてくんじゃねーっ!」

焦って、急発進。
こうして、彼女たち三人は戦火に身を投じた。








戦況は、酷い状態だった。
サツキミドリ保有の機動兵器部隊は、ほぼ全滅。
サツキミドリ2号からの支援攻撃は得られない。
何よりももの凄いのは敵の数。
どれほどいるのだろうか。
何故、あれほどの大群の接近を察知できなかったのだろうか。
考えているほど余裕はない。
今は、身体を動かす時。
圧倒的に不利な状況の中でも、リョーコ、ヒカル、イズミの三人は諦めない。

『ふえ〜、これヤバいよ!逃げよう、リョーコ!?』
『…………死神が見えてきたわね』

……絶対に諦めない。
リョーコは、逃げ回る二機に情けなくなって叫ぶ。

「て・め・ぇ・ら、もっと根性みせろっ!」

根性でどうにかなる物量でないのは、リョーコも分かっている。
だが、今逃げたところで逃げ切れるものではない。
黄色の群集。
そこに僅かに混じる紫の巨体、カトンボ。
狙いはもちろん、三色のエステバリス。
戦うしか、道は残っていない。

「いくぞ!援護、しっかりな!」
『『了解!』』

やるときにはやる二人だ。
リョーコは、迫るバッタをひらりとかわし、反撃に弾丸をぶつける。
瞬間、リョーコの攻撃が止まった。
ライフルのダメージが、あまりに薄すぎる。
バッタは身体をぼつぼつと陥没させながらも、ふらふらとリョーコに再度攻撃を仕掛けようとしていた。
リョーコは何度かエステでバッタと戦ったことはあるが、いずれもラピッドライフルの一撃に大破していった。
この敵は、おかしい。

「おいおい、な、なんだ、コイツら!?」

二人を見ると、どちらもかわすのでいっぱいいっぱいの様子。
リョーコは離れてはいけないと、二人に近寄る。

『こっちもダメ〜!』
『本格的ね。祈りは……済ませた?』
「うるせぇ、イズミ、黙ってろ!やるしかねーだろうが!」

群集に突っ込む。
二機がリョーコに道を作るように、ライフルを照射した。
何発か撃ち込んで、バッタは初めて残骸に変わる。
リョーコは、手近なバッタを一匹掴んで投げつける。
これは、なかなか有効。
少なくとも二機以上のバッタが粉々になる。
リョーコはライフルで牽制し、近接戦闘で止めを刺すスタイルに戦術を切り替えた。

『ひゅ〜、リョーコやるぅ!』
「へへ、任しとけって……うおぉっ!?」

カトンボ級のインパクトレーザーが、リョーコを掠めていった。
間を置かず周囲のバッタが、リョーコにマイクロミサイルを放つ。
紙一重、脇を通り過ぎていった。
避けきったのは奇跡かも知れない。

『……連携』
『あらら、バッタちゃんも日々精進ってことかな。リョーコ、無事?』

今まで、バッタたちが攻撃を一斉に撃つことはあっても、タイミングを合わせることはなかった。
精々、味方を撃たないように気を使うくらいだ。
さっきの攻撃は、明らかにリョーコ一人を狙ったものだった。
なんとか敵を振り払って、イズミとヒカルのところに戻る。

「あっぶねーっ!にしても、コレはなんかの冗談かよ!?」

いよいよ、ホントにマズい。
リョーコはバッタを一機、ナイフで切り落とした。
藪蚊を手で払うようなもの。
いくら手を振っても、倒せる量が見合わない。
ライフルの引き金を引くと、弾が出なくなっていた。
弾丸を、堅い敵相手に使いすぎた。
リョーコは、邪魔になったライフルを通り過ぎようとしていたバッタに叩きつける。
黙って、ナイフを握り締めた。

「まだ、弾残ってるか?」
『ぼちぼち〜』
『……後少し』

上等だ。
リョーコは、バッタを二機切り落として群集を睨みつける。

「全部撃ち尽くしたら、撤収だ!撃ちまくれぇ!」

リョーコが敵に飛び込み、引きつける。
そこをイズミとヒカルが掃射。
如何せん、どうにもならない。
数は、まだ増している。
リョーコの動きを封じようと、先回りをするバッタ。
フィールドでぶち抜くと、左右からの挟撃。
確実に、頭が良くなっている。
何だと言うのか。
リョーコは焦り始める。

「おりゃぁぁーっ!ざっけんじゃねーっ!」

急加速。
機体を捻る。
右のバッタを逸らし、左のバッタにぶつける。
そのまま機体を回転させ、ナイフで後方からの突撃攻撃を止めた。
力を込めて引き裂く。
一時、群から距離を取った。

「はぁ……はぁ……、ざまーみろ」
『リョーコ!危ない!』

ヒカルの声。
リョーコが後ろを振り返ると、ミサイルが多数。
一斉攻撃だ。
油断した。
リョーコは避けようするが、ミサイルとの距離は、もうない。
防御姿勢をとる。
あとは、神頼み。

「……ちくしょう」

目を、閉じた。
こんなところで死にたくない。
最後は、もう少しマシな死に方をしたかった。
多くを嘆く間もなく、衝撃。
衝撃。
更に衝撃。
三度の爆発は、リョーコの機体を揺らした。
身体が、強張った。
だが、いつまでもリョーコが火に包まれることはない。
リョーコのエステを襲った衝撃は、あまりにも小さかったからだ。
恐怖から、うっすらと目を開く。
機体は、良好を示している。
そして―――


リョーコの機体の前には、左腕を無くした、黒い一機のエステバリスがいた。


庇われた。
どこの誰とも、リョーコには分からない。
リョーコなら、そんなことはできない。
何発か、あの状況で撃ち落としたのだろう。
損傷は、左腕だけのようだ。
黒い機体はリョーコの無事を確認すると、残った右腕でライフルをバッタに向けて構える。

『…………無事か?』

通信からの声は、まるで何事もなかったかのように冷静だった。
サウンドオンリー。
音声、のみの通信。
顔がバレると何かまずいのだろうか。

「あ、ああ」
『……そうか』

淡々と、確認だけを取って黒い機体はリョーコを離れていく。

「ま、待てよ!何でオレを庇った!」

黒い機体はピタリと動きを止める。
どうやら、割と律儀な性格らしい。

『庇わない方が、よかったか?』
「んなわけねぇだろ!」
『なら、動け。戦場で望みを捨てれば……すぐに、死ねるぞ』

今度こそ、黒い機体は離れていった。
動きは、かなりいい。
リョーコが引きつけていた敵を一人で受け持つ。
装甲の結合部分を狙っているのか、バッタは着実に破壊されていく。
リョーコを含めた三人よりも、おそらくずっと強いだろう。

『ほえ〜、カッコイ〜!』

いつの間にか、ヒカルとイズミがリョーコの隣に来ていた。
黒い機体を見て、感嘆の声をあげる。

『……どこの人?』

わからない。
守備隊にもエステバリスのテスト機が何機かいたが、リョーコが出撃する頃には残らず鉄屑になっていた。
それに、あれ程のパイロットがいるなら、真っ先に地球防衛に回されているだろう。
リョーコの目から見ても、かなり強い。
リョーコは、口元を歪めて笑う。

「……あの野郎、なめやがって」
『リョーコ、助けてもらってそれはないんじゃ……やばっ、リョーコの悪い癖でてる!』

自分よりも強い相手に出会えたことに、リョーコは歓喜していた。
庇われて、礼も言わないリョーコに恩を着せる訳でもなく、強さからの見下した態度を持っている訳でもない。
ただ、あの黒いのは、助けられたから助けたのだ。
自分は、歯牙にもかけられていない。
相手にも、されていない。
いい、性格をしている。
リョーコの、闘志に火がついた。

「ヒカル、イズミ、ここで待ってろ。ぜってー、邪魔すんなよ」
『はいはい、わかってるって』

イズミは、ただこくんと頷く。
リョーコは勢いをつけて、黒い機体に向けて飛び出した。
熱くなりやすいと言うか、戦闘狂と言うか。
強ければ強いほど、超えるのが嬉しいのだろう。

『リョーコだなぁ〜』

ヒカルは適当に敵を捌きつつ、溜め息を吐く。
もう弾丸の残りがないので、突っ込むに突っ込めない。
ふと、ヒカルの視界を何かが横切った。

『だあぁぁっ!またあいつが活躍してやがる!アキト、いくぞ!』
『お、おう、でもガイ、何かこいつら堅いぞ!』
『んなわけねぇだろ、バッタだぜ!マジかよ?うわっ、マジだ!?』
『撃ってきたーっ!?』

青とピンクのエステバリス。
バッタの群に向かっていって、すぐにまたヒカルの前を通って戻ってきた。
バッタがあとを追いかけていく。
とりあえず、バカが二人と認識することにした。

『あー、ねえねえ君たち!どこの人ーっ?なにやってんのーっ?』
『おっ、生存者か!俺が来たからにはもう安心だ!俺は機動戦艦ナデシコのエースパイロットォォ!ダイゴォォジ・ガイッ!』
『おお〜!』
『見てろよっ、いま俺の真の力で邪悪な敵を……どわあぁぁぁっ!?』
パチパチパチパチ。
エステでバシッとポーズを決めるヤマダ。
ヒカルが手を叩くと、ガイは調子に乗ってまたバッタに突貫して追っかけられてまた戻ってくる。
動きは、あまりよろしくない。 突如、宙域にいる全機に一枚の映像が映し出された。

『サツキミドリの皆さ〜ん!補充パイロットの皆さ〜ん!お待たせしました、ナデシコ艦長のミスマル・ユリカで〜す!ぶいっ!』

真っ暗な宇宙。
遠くに見える、真っ白な戦艦。
ナデシコは威風堂々と参上した。








アキはただ目の前の敵を破壊する。
戦闘において、ましてや無人機と戦うのに余計な感情は必要無い。
より、速く。
より、多く。
より、機械的に。
必要なのはそれだけ。
それを突き詰めれば、誰もが力を得る。
先程、リョーコを庇った時にエステの左腕は吹き飛んだ。
アキにとっては、マイナスにならない。
機体とは損傷するものだ。
夜天光や六連と戦う時は、常に七対一。
何度も破損し、敗北し、敵の血を啜り、一機の機動兵器が完成した。
その経験があって、今のアキがある。
破損した機体を操るのは、アキには慣れたもの。
そして負傷した敵を相手にする者が抱くのは、油断。
それは人が操る兵器でも、バッタでも変わらない。
残った右腕には、ライフル。
まだ、戦える。

「……それにしても」

装甲の薄い部分を狙って撃ち込む。
バッタに関しての知識には自信がある。
長所から短所まで完璧に記憶しているが、これはいったいどういうことなのか。
アキの記憶では、この段階ではまだバッタにディストーション・フィールド発生装置は搭載されていない。
アキが今戦っているバッタは、まだ弱いとは言え明らかに新型だ。
機銃を取り払い、フィールドによる突撃とミサイルを主武装に加えたタイプ。
ナデシコの能力を学習して進化したのなら、早過ぎる。
有り得ない、歴史。
そのために、スバル・リョーコが死にかけた。
何とか未然に防げたから良いものの、アキは自分を悔やむ。
自分が、影響したせいだ。
他に、可能性など有りはしない。
異分子など、他にはいないのだから。
全部、自分のせいだ。
やはり、ナデシコに乗るべきではなかった。
悔やんでも、もう遅い。
既に未来は変わってしまっている。
ここでアキが降りても、敵の能力はこのままだろう。
無事に、ナデシコを地球に帰さなければならない。
とにかく、まずはこの状況を何とかしなければ。
アキはひたすら動き、敵を集める。
もう少しで、ナデシコの支援攻撃。
フィールドの強度からして、まだグラビティ・ブラストには耐えられない。
敵を射線上に集めるのが、今回のアキの役目。
無くなった左腕の分は、機動力でカバー。
数を減らされてなお、アキを囲む敵機の数は増え続ける。
さすがに、回避が難しい。
アキがそんなことを考えていると、バッタの群集の一部を撥ね飛ばして、赤い機体が飛び出してきた。
盾にしていたのか、ボロボロのバッタを敵機に投げつけている。

『あー、くそっ!やりすぎなんだよ!こんな集めてどうすんだ!』

リョーコは、言うだけ言うとアキの側まで突っ切ってきた。

「……何故、ここに来た」

せっかく無事だったのだ。
ここに来て撃墜されては、意味がない。

『借り、返しにきた。貸されっぱなしは性に合わねぇ!おめぇの左手の分だ、オレを使え!』

本質的には真面目な女性らしい。
リョーコが撃墜される。
それなら、守ればいい。
それが無理なら、また盾になればいい。
アキの表情は苦笑。
アキは、リョーコを一瞥し加速する。

「……ナデシコの攻撃までに、包囲を突破する。前衛を、頼む」

リョーコは、アキの言葉を聞いて笑顔を浮かべた。
戦いを楽しむ人間は、長く生きられない。
リョーコの場合は、例外だろう。

『おう、わかってんじゃねーか!クロ助、後ろは任せたぜ!』
「……クロ助?」
『わ、悪いかよ!?つーかオメーは何だ、ナデシコのパイロットか?』

アキはそういえば、言っていなかったと思い返す。
初対面の人間はアキの事を黒い方とか、クロ助とか。
気には、していない。
さずかに他の服も着て見ようかなんて、アキは考えていない。

「ナデシコ所属、予備パイロットだ」
『よびぃ?その腕で予備だってのかよ?』
「……色々あってな。取り柄がこれしかないかないからやっているに過ぎない」
『お、それならオレと同じだな』

リョーコは、歯を見せて笑った。
話しながらも、二人は手を抜かない。
リョーコが敵を分け、攻撃姿勢に入った機体はアキが落としていく。
なかなか、いいコンビネーションだ。

『なあ、ナデシコに仮想戦闘用のシュミレーターってあるか?』

リョーコが突然切り出した。
顔は嬉々として、何かを期待している。
アキは、何だか嫌な予感がした。

「……パイロットは、一日二時間のシュミレーター訓練が義務づけられている。それがどうした?」
『オレと勝負しろっ!』
「断る」

そんなことだろうと思った。
アキは一気にリョーコを抜き去って、射線上から突破する。
リョーコは、アキのあまりの即答にきょとんとしていたが、理解できたのかすぐにアキに併走していた。

『てめっ、待て!何でだよ、一回くらいいいじゃねーか!?おいっ、クロ!』
「……断る」
『んだと、てめぇっ!』

遂には『クロ』まで簡略化された。
アキは更に加速する。
バッタは、大分引き離したようだ。
射線上には、上手くバッタの大群とカトンボだけが残されている。

『今です!グラビティ・ブラスト、発射!』
『……了解。発射します』

アキのエステとリョーコのエステを横切って、黒い光は敵機を喰らった。
予想通り、まだグラビティ・ブラストは有効らしい。
あれだけ視界を塞いでいた数が消されると、改めて宇宙の広さが実感できる。
ナデシコが、こちらにゆっくりと近づいてきた。

『……各機、作戦終了。ナデシコに着艦してください』
『補充パイロットのみなさ〜ん!ようこそナデシコへ〜!』

ユリカが通信に映し出される。
目一杯手を振り回していた。

『は〜い!あ、さっきのパイロットさんだ!やっほ〜!』
『お、アキも生きてたか!敵もなかなかの強敵だったが、俺様の相手にはならなかったな!』
『おーい!何だ、みんな無事か……本当に良かった』

それぞれはぐれていたのか、お互いに無事を確認し合う。
イズミだけは、どこから取り出したのかウクレレをひいていた。

『なんとかなったな』

アキの脇には赤い機体。
ナデシコのパイロットは、ヤマダを除いて皆、悪運が強いようだ。
機体に傷はあっても、中破までしている者はいない。
損傷率で見れば、アキが一番重傷だった。

「スバルは、大丈夫だったか?」
『ん?ああ、オレは何ともないけどよ。何で名前知ってんだ?』
「…………事前に、資料が配布されていただけだ」
『ふーん、そっか。それよりさっきの話、ナデシコに着いたら勝負だからな』
「だから、それは断ると」
『……アキ』

アキとリョーコとの会話に、一枚のウィンドウが割り込んで来た。
ルリだ。
しかも、無表情ながらかなり不機嫌そうな目をしている。

『着艦命令です。即座に帰投を開始して、機体の整備を受けてください。今、すぐに』
「あ、ああ、わかった」
『わかってません。無駄話をしてる場合じゃないんですよ。それに、また無茶しましたね……』
「む……う、いや」
『…………約束、絶対に守ってください』

無表情なのに、凄まじい剣幕で押し切られる。
ルリは最後にそう言って、通信を切った。
確かに、無茶をしたとアキは反省する。
ルリと約束したばかりにこれでは、示しがつかない。
原因不明の敵機の進化。
これからのアキによる歴史への影響。
問題は、山積みだ。
出来るだけ史実通りにしたとは言え、ヤマダは生存し、サツキミドリ2号は破壊されなかった。
これからは、もっと歴史から外れていく。
それでも、アキは歩みを止める訳にはいかない。
最終的には、未来を変えなければいけないのだから、止まってはいられない。

『おい、なにボーっとしてんだよ!いくぞ!』

いつの間にか、他の機体は動き出していた。
アキも慌てて帰路につく。
あのままでは、またルリの機嫌を悪くしてしまう。
アキは、まずナデシコに戻ったらルリの機嫌を直そうと心に決めたのだった。