昼下がりの食堂。
人が少なくなったフロアの、一つの大きなテーブル。
そこに座り、注文を待つ数名。
その中に、アキはいた。

「クロ、さっからどうした、腹いてーのか?」
「うん。キョロキョロしてるね」
「……何か、見えるの?」
「え〜、でもアキさん目、見えないよ?」
「「「ウソッ!?」」」
「ホントホント〜」

そう言えば、言っていなかった。
アキトが帰ってくるまで食堂で待っていたらしいユリカの台詞に、心底驚く三人娘。
つい何分か前には、普通にシミュレーターで対戦していた相手が失明しているとは考えもしないだろう。
と言うか、他人の不自由を話すのに軽い雰囲気を維持できるのは、さすがユリカだとアキは思う。

「ウソだ……ウソだ……ウソだ……ウソだ。クロに、負けた……目、見えねーのに、負けた」
「うわっ、リョーコが壊れた」

若干一名、自信喪失から軽い自己暗示に入ったようだ。

「……いや、エステのIFS接続中なら見えるのだが」
「ホントか!?ホントだな!?…………良かったぁ」

あまりに不憫なのでフォローを入れる。
談笑。
和やかと言えば和やかな雰囲気。
アキが、本来いてはいけない空間。
何故、こんなことになったのか。
珍しい人間が来たせいか、食堂の人間の視線は確実にアキを意識していた。
アキについて何も知らないパイロット三人は、アキの変に落ち着かない態度に疑問を思っている。
絶対に、ここには来ないと決めていた筈だ。
時間が経てば経つ程、状況は悪化する。
逃げなければ。
覚悟を決めた。
ガタッと、椅子を揺らして立ち上がった。

「……アキ」

条件反射的に座る。
安い覚悟だった。
アキは、肩を落とす。
隣の席にはルリが座っている。
逃げられない。

「………ねぇねぇ、ミナトおねーさん。あの二人どういう関係?」
「え〜っとねぇ。ただならぬ関係、かな?」
「おお〜♪」
「え、じゃあれか?歳の差ってやつか?」
「う〜ん、そう言うのとも違うかな。でも、二人とも相思相あ」
「ミナトさん、聞こえてますよ?」
「げ…………」

不穏な会話。
もはやアキの耳には入っていない。
やがて、ラーメンがアキの前に運ばれて来た。
ホウメイは、すまなそうにアキに手を振って厨房に戻っていってしまう。
頼れる人間は、あと一人。

「……オモイカネ」
『……ごめん』

小声で話しかけ、小声で申し訳なさそうに返された。
理解はしていても、縋りたくなってしまう。
オモイカネに頼れば、困らせてしまうのも分かっていた。
ルリに聞かれる訳にもいかず、アキは会話を諦める。
食事が、始まる。
パイロットたちは空腹からか、良い食べっぷり。
何故か、ユリカまでまた食べていた。
アキは独り、動かない。
目の前の物が食べられない。
匂いも、味も分からぬ人間が、どうして食事ができるだろうか。
独り、何もしない訳にもいかない。
箸を持つ。
麺を掴む。
そこから先に、進まない。
この料理は、師であったホウメイが作ったもの。
それを再び自分が食べるのは、これ以上ない侮辱になる。
再び自分が料理と名の付くものを食べるのも、気が引けた。
無数の不審な目が、アキを見つめる。
おそらく、おかしく思われていることだろう。
ルリにいらない世話を焼いたのが、元はと言えば悪い。
だが――


「アキ…………?」


ルリの視線が、声色が、心配に変わる。
ここに来る前に強く言ってでも断るのが、最善だったのだと思う。
今となっては、遅い。
優柔不断な自分を呪う。
箸を置く。
席を立つ。
アキには、もう限界だった。

「クロ?」
「ん?ホントにどうしたの、お兄様?」
「……すまない」

アキはそれだけ言うと、そのまま出口に歩き出す。
自分の行為全てに馬鹿らしくなった。
何を、夢見ていたのか。
二度と、戻れる筈がない。
このナデシコに本来自分の居場所などないのたがら。
変わってしまったのは、心も身体も同じ。
壊れた心に壊れた身体。
元に戻れると、ルリが恐れなかっただけで、本気でそう思っていたのだろうか。

「待ってください!」
「ちょ、ちょっと、アキさん?」

ルリの声も、アキの耳には届かない。
アキは振り返ることなく、食堂から出ていった。








ルリは走る。
そして、すぐに息が切れた。
早歩きで進むことにする。
アキに会ってから、行動することが増えたと思う。
それでも、体力は向上しない。
体質の問題なのだ。
そんなことより、ルリは焦っていた。
何故かはわからないが、アキは食堂を出ていった。
前にアキは人と距離を置くと思ったことがあるが、アキは他人の行為を無碍にしない。
断るにしても理由を言うし、極端なことを言われない限り誰の頼みも引き受ける。
さっき、アキは謝っていた。
食堂に入った時から辛そうなのも、態度がおかしいのも分かっていた筈なのに。
ルリは、こういう雰囲気が苦手なのかと、早くナデシコに馴染んでほしいと、先走っていたのかも知れない。
気付かなかった。
アキが自分で席を立つまで。
ルリは焦り、嫌な考えが頭に浮かぶ。


アキに、嫌われた。

もう、一緒にいてはくれない。
もう、助けてはくれない。

「…………やだ」

歩みが、また走りに変わる。
息を切らして、呟く。
謝らないと。
何か、あの場所にはアキにとって辛いものがあったんだ。
途中で席を立たねばならない程の。
たぶん、料理のことだとルリは思う。
ルリが言うことを、アキが断らないと分かっていたのに、ルリはその場所にアキを連れて行った。
胸が、痛んだ。
偉そうなことを、頼ってほしい何て言って、この失態。
初めてルリを大切だって、言ってくれた人なのに。
食事の量のことだって、アキはルリを心配してくれたのに。
痛い。
身体が、頭が。
もう、手は繋いでくれないかも知れない。
もう、口も聞いてくれないかも知れない。
ただ、走る。
『通路は走るな』と言う文字も、ルリの目には入らない。
アキの部屋に、人は戻っていなかった。
無理矢理ロックを開けたので間違いない。
プライバシーとか、道徳的とか言う言葉も、ルリには構ってられなかった。
いない。
どこにもいない。
研究所の時のように、消えてどこかに行ってしまったのか。
腕時計を、握り締める。
不安な時は、いつもこうしてきた。
今回ばかりは、落ち着くことはできない。
アキが、いく場所。
一つだけ、思い付く。
ルリは食堂に向かう角を曲がる。
窪んだ壁。
アキが叩いた壁のある場所。
そこに、アキは座っていた。
前のように苦痛の表情はなく、無表情のまま椅子に座っている。
ルリは、慌てて駆け寄った。

「アキッ!」
「…………ん?」

もしかしたら、眠っていたのだろうか。
ルリの言葉に、ハッとしたように俯いていた頭を起こした。
音源を探して、ルリの方を向く。

「……どうした、ルリ」

また、名前を呼んでくれた。
少し、安心してアキの前に立つ。
ルリは大きく頭を下げた。

「ごめん……なさい」
「……どうして君が謝る」
「迷惑でしたよね……私が無理に食堂に連れて行ったりして。ごめんなさい、アキ」

無言。
怖かった。
許してもらえないかも知れない。
傷つけてしまったのかも知れない。
ルリには、とても顔は見れなかった。
ルリが頭を上げないでいると、くしゃくしゃと頭が撫でられた。
ミナトとは違う、優しい大きな手。
分かってはいても、身体が震えた。

「ルリのせいじゃない。最初に断らなかった俺が悪い。君が、頭を下げる必要はないんだ」
「……アキ?」
「出来るだけ、ああいう雰囲気は壊したくなかったんだが……駄目だったよ。俺があれを食べれば、少し我慢すれば済んだことだったのに」

自嘲して笑うアキ。
見ていて痛々しい程、アキは責任を感じているようだった。
ルリは、頭の上の手を握る。

「アキは、悪くないです」
「…………君は、優しいな」

くしゃくしゃくしゃくしゃ。
髪を撫でる大きな手。
あったかい。
もっと、してほしい。
心地いいが、今はそんな場合ではないことを思い出す。

「……何が嫌だったんですか、料理ですか?」
「強いて言うなら…………自分が嫌いだ」

返答が、ひねくれている。
ひねくれてはいるが、アキの場合は本気で自分を嫌うから黙っている訳にはいかない。
ルリは、アキを見る。

「お願いします。教えてください」
「……………………」
「あなたのことが…………知りたいんです」

また頭を下げる。
沈黙の中、しばらく待つ。
ルリは、こういう沈黙は嫌いだった。
アキが自分自身のことを知られたくないのは知っている。
いい返事がくることはないだろう。
それでも、聞かなければいけない気がする。
今知って置かないと、あとでもっと後悔する。
ルリは、目を瞑った。
ガサゴソ。
少し古いが、本当にそんな音がした。
それから、アキがちょんちょんとルリの肩を叩く。
目を開けると、アキは隣に座るように促していた。
ルリは、おずおずとアキの隣に腰掛ける。

「……これが、何かわかるか?」

差し出されたアキの手のひらに乗っているのは、短い一本の硝子の筒。
中には、キラキラした物凄く細かな粉のようなものがたくさん舞っている。
一つ一つが、様々な色にチカチカと発光する物体。
ルリにとっては、かなり身近なもの。

「ナノマシン……?」

種類にもよるが、一般的にはある一部の種類を除いて、ほぼ全てのナノマシンは持ち出し禁止とされている。
その一部にしても、火星に散布してあるような安全と認められたテラフォーミング用のものなど。
人体に入るようなナノマシンは、医療機関や軍部施設からの持ち出しは所属の研究員以外は厳重に保管されている。
アキが持っているのは、何なのだろう。
アキはルリの答えを聞くと、筒をズボンのポケットにしまった。

「……今のが、俺の身体の中に入っている」
「アキの?」
「種類判別のため血と一緒に抜き出したが、専門家でも半分以上は分からないそうだ」

ルリは、思考に切り替える。
アキの中にあるナノマシン。
この間見た苦痛や、光を起こしている ナノマシン。
半分以上が不明。
あれだけの量が全て別種と言うのだろうか。
複数の種類のナノマシンが同時に人体に存在した場合、別種のナノマシン同士が悪い意味で干渉し合う。
時には酷い痛み、時には人体機能の障害、時には死に至る。
ナノマシンによる適合障害。
一般的に人間が制御できるなら、ルリのようなナノマシン強化体質の人間は造られない。
アキの発光現象も、それが引き起こしているのだろう。
そこまでナノマシンの効果が表れている状態で、まともに生きていられる筈がない。
ルリは、自分の記憶していたナノマシン障害に関する事項を思い出す。
『人体機能に障害』
アキは、目が見えない。
ルリの中で、何かが繋がった。

「アキの目は…………」
「……ああ、最近完全に見えなくなった。このバイザーも視覚補助用なんだが、補助しきれないらしい」

初めてアキと会った時のことを思い出す。
『目に慣れていないだけ』
あの時の前後に、アキは失明したのだ。
病気よりも、ずっと質が悪い。
ナノマシンは普通の医師では除去できない。
しかも、ナノマシンの専門家は火星会戦の以来数を少なくしている
治すことを考えるなら、地球の医師に期待する他ない。

「……目だけなら、良かったんだがな」

ルリは思考を中断する。
アキはバイザーを押さえ、ルリに顔を見せないようにしていた。

「視覚、嗅覚、味覚……全部持ってかれたよ」

辛そうに言葉を続けた。
ルリは頭を、思いっきり殴られ感じがした。
実際に殴られたことはないので、あくまでもそんな感じ。
顔から血の気が引いた。
アキは、食堂を避ける理由。
味覚が、無い。
何を食べても、味が分からない。
食堂は、食事をする場所。
ルリは、その場所に連れて行った。
慌てて立ち上がろうとする。
何度謝っても、許されない。
しかし、ルリの身体が椅子から離れることはない。
アキの手が、ルリの小さな肩をしっかり押さえていた。

「ア、アキ……?」
「知られたくなかったのは、単に気を使われたくなかっただけだ。断らずに付いて行った俺が悪い。ルリが、気にすることはない」

気にするな。
いつもアキが繰り返し使う言葉。
他人の間違いも、全部自分で背負ってしまう。
立ち上がろうとしていた足に力を込めるのをやめると、またルリの頭の上に手が置かれる。
ルリは、アキを見上げた。

「……黙っていてすまなかった。一生隠して生きるつもりだったんだが、そんなに落ち込ませるとわかっていたなら……君には、言っておくべきだった」

そう言って、アキが頭を下げる。
アキは、悪くない。
誰にでも隠して置きたいことも、触れられたくない部分もある。
ルリが知らずにそこに触れて、安易な気持ちで秘密を聞いた。
なんで、いつもアキは自分を悪者にしたがるのだろう。
分からない。
ルリには、アキの考えていることが分からない。
一つ言えることは、ルリが謝ることはあってもアキが謝ることはないと言うことだ。
ルリは両手を伸ばすと、アキの頭を支えるように押し上げた。

「………………なんだ?」

困惑して、アキの動作が一瞬止まる。
身体を起こしたアキは、ルリの触ってズレたバイザーを慌てて直していた。
もう補助機能はないと言っていたが、どうしてつけているのだろう。
外れると何かマズいのだろうか。
今は、聞く必要のないことだ。

「……どうして、アキはそんなに優しいんですか?」
「俺が、か?」
「はい。私は、アキに嫌われてもいいくらいのことをしました。なんで自分が悪いことにして済まそうとするんですか?アキは悪くありません…………どうして、私を嫌わないんですか?」

アキは黙ったまま、少し俯く。
嫌って、欲しい訳ではない。
ルリは、確かにアキに嫌われるのを怖いと感じたから。
でも、アキが独りで責任を被るようなことはしてほしくない。
アキから返事はなく、ルリは不安になる。
だが、アキの手は動いた。
ぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃ。
ちょっと、痛い。
髪が乱れる。
ルリの頭にあるアキの手が、少し力を込めてルリの頭を揺らした。
ルリが不満気にアキを睨むと、アキは苦笑している。
嫌悪は、感じられない。

「……君は、馬鹿だ」
「……アキに言われたくありません」

ルリの返事に、アキは口元を隠して笑い出した。
こんなアキを見たのは、ルリの出生を種明かしする時以来だ。
上半分はバイザーで隠れ、下半分は手袋で隠れ。
真っ黒。
僅かに震えるアキ。
ここまで露骨に笑われると、なんだか悩んでいた分腹が立つ。

「どんなに嫌われても、俺はルリを嫌わない。どんなに嫌われても、俺は君を守る…………安心したか?」
「……………………」

ルリの顔が、赤く染まった。
顔が、熱い。
そんなに、自分は不安そうにしていただろうか。
それに、アキの台詞がキザったらしい。
恥ずかしそうな素振りもないアキを見て、逆に言われたルリが恥ずかしくなった。
頭をくしゃくしゃ撫でられたまま赤くなって、今度はルリが俯く。
悔しいが、アキを探していた時の不安は欠片も残っていない。
アキの言葉に安心できてしまったのも、悔しかった。

「今日は久しぶりに忙しかった」

アキが話し出す。
表示はいつも通りの無表情に戻っていたが、ルリには晴れ晴れしたように明るく感じられた。
ルリは、こくんと頷く。

「……そうなんですか?」
「何故か人を慰めることが多かった上、ルリには捕まって……」
「う…………それは、謝ります」
「だが、こうしてルリに大事なことも話すこともできた…………満更悪い一日でもない」
「…………アキ」

気を使われるのが嫌だったとアキが言った。
でも現に今、気を使われているのはルリの方だ。
どうしてだろう。
ルリは、アキに何もできていない。
力になることも、頼ってもらうことも。
最後には、いつもアキに助けられている。
いつも、ルリは受け取るだけ。
せめて礼くらい言わなければ、ルリの気が済まない。

「ありがとう、アキ」
「……何の礼だ?」
「いつもの、です。いつも隣にいてくれて、ありがとうございます」
「君が迷惑ならすぐに……」
「……やめないで、くださいね?」

気付かないように、少し身体を傾けてアキ寄りかかる。
恥ずかしいが、何故かそうしたかった。
たまには、子供みたいでもいいのかも知れない。
温かく、心地がいい。
アキの側だと、安心できる。
何も、怖くなくなる。

「…………ルリ」

身体が、強張った。
もしかしたら、近すぎただろうか。
ルリは前言をすぐに撤回する。
怖いものは、ある意味あった。
慌てて返事をする。

「はい!」
「……俺の身体のことは、黙っていてくれるか?」

安心、そして少し嬉しく思う。
他の人には言えないことを、ルリは知っている。
少し、優越感。
こう言う感情は女々しい、と言うのだろうか。
何にしろ、ルリは正真正銘の女なので関係はないが。
ルリはアキの言葉に黙って頷いた。
いつものことだが、アキはどうしてルリが頷くのがわかるのだろう。
気配とか言われても、ルリには理解できない。
せっかく寄りかかったのだから、しばらくこうすることにした。
アキとの沈黙。
今は、好ましい沈黙。
いつも通りだった。
いつもと違うのは、アキとの距離が少しだけ縮まったこと。
どうせアキには見えないのだからと、ルリは目を瞑った。
あったかい。
もう少し、こうしていよう。








アキとルリの少し離れた角の所で、二人を監視する一団があった。
曲がり角から団子のように、頭を縦に並べている。

「わお、ルリルリ大胆〜♪」
「お、おい、いいのか、あの二人ほっといて…………あ、目ぇ瞑った!?」
「あれあれ〜、リョーコなに焦ってるのかな〜?もしかして…………お兄様と急接近してるのが」
「…………リョーコ、嫉妬?……おう、シット…………ふふふふふ」
「な、なにいってやがる!?オレは、アキのこと何かなんとも…………」
「リョーコちゃん、顔赤いわよ〜?」
「「「リョーコちゃん可愛い〜♪」」」
「てめぇら…………まとめて息の根止めてやる!」
「「きゃあ〜っ♪」」

食堂の方へ逃げていく二人。
顔を真っ赤にして追いかけるリョーコ。
ちょこまかリョーコの突撃を回避する二人に、リョーコはまた何か言われて顔を赤くする。
ミナトは苦笑し「素直じゃないわね」と呟きながら、アキたちに視線を戻す。
ルリが何も言わずに食堂を駆け出して行って、他のパイロット三人娘も気にせず食事と言う訳にはいかない。
ミナトには、アキを連行してきた責任がある。
ユリカにアキトとヤマダの相手を任せて、ルリを探していたのだが、いざ見つけて見れば…………。
仲良く寄り添って座る二人。
何を喋っていたか分からないが、問題が解決したようなので、ミナトが心配することはもうない。

「……仲直り、かな」
『……良かった』
「あら、どなた?覗き見はいけないのよ?」

ミナトの前に、一枚のウィンドウ。
休むことなく、くるくると回っている。

『それはお互い様。私はルリさんとアキのお友達。オモイカネって呼んで』
「オモイカネ……不思議な名前ね」
『うん。命名したのはアキじゃないけど、気に入ってる。ハルカさん、ひとつ忠告』

ウィンドウがひらがなで『でんじゃあ』と言う字に変わる。
ミナトはよく分からなくて、首を傾げた。

「何が?」
『アキ、この距離だとこっちに気付いてる』
「…………うっそぉ」

アキをよく見ると、変な汗をかいている。
羞恥。
無表情だが、ミナトにはそれが読み取れた。
ミナトは慌てて頭を引っ込める。
あとで、からかおう。
そう決意する。

「……いこっか、オモカネちゃん」
『うん、ハルカさん』
「別にミナトでいいわよ〜」

ミナトはオモイカネと一緒に三人娘を追って食堂に歩いていく。
何だか、和やかな気分だった。
ウィンドウは嬉しそうにくるくるくるくる。
今日、オモイカネは友達が増えた。