窓の外から差し込む日差しでだんだんと意識が浮上する。
もぞもぞと体を動かせて布団の中に潜り込む。
何故か体がだるい。故に二度寝をすることに。
冬の時期に限り布団は正に理想郷となる。

「う〜ん。あったかくてきもちいい♪」
そう、誰にも侵されたくない聖域なのである。
ある種の固有結界。イリヤはまた己の内面世界(夢)を展開しようとして

―――コンコン
「イリヤ、アサダヨ。オキテ」

詠唱途中の妨害にあい失敗となった。







運命の閃光 第二夜 〜『戦い』の合図〜







「リズ、あともうちょっとだけねかせて〜」

寝ぼけ眼で先の妨害者―リズ―にそう訴えかける。
が、

「ダメ、セラガオコル」
「え〜〜。…ちぇ」

あえなく却下となり仕方なくベットから身を出す。
肌に触れる外気は冷たく身震いをしてしまった。

「リズ、洋服を出して」
「ウン。コレデイイ?」

早く暖をとりにいくためにさっさと服を着る。
ちなみに手渡されたのはいつもと同じお気に入りの洋服である。

「イリヤ、アサゴハンデキテルヨ」
「そう、じゃあ行こうか」

まずは食事をすませにいく。…何か忘れているような気がするのは何故だろう?
普段と変わらない筈の今日なのに。そう考えていると

「お早う御座います、お嬢様」
「セラ、おはよう」

自分の教育係であるセラである。セラはいつもどうり礼儀正しく佇んでいる。

「お嬢様、お食事の前に申し訳ありませんが」
「何?」
「アレについてのご説明をして頂きませんか」
「あれ?」

アレとは何の事だろう、と記憶を掘り返す。
しかし思い当たる事が見つからない。

「ねえセラ。アレって何のこと?」
「アレはアレです」
「だから〜」

問いかけに対しての明確な答を出してくれずに何故か嫌悪感すらにじませながらセラは言う。
と、

「イリヤアレ、アレ」

リズが窓の外を指差しながら私を促す。
一体何があるのかと窓の外を見て

「何?あれは」

奇妙な物体を目にしてしまった。
と同時に昨夜何があったかを全て思い出した。







「朝日はいいねぇ。心が洗われるみたいだよ。そうは思わないかい?」
「それについては同意しますが、そんな格好で言っても格好はつきませんよ」
「ウン、カッコワルイ」
「あなたは何してるのよ」

散々な言われようである。しかし彼女達が言うにも尤もで今の彼の格好は『荒縄でグルグル巻きにされ、さらに木に逆さ吊り』というある意味この季節にあっている蓑虫スタイルである。

「そんな事は分かっているよ。だがそう思うなら降ろしてくれない?「駄目です」」

文字どうり言葉尻を食う即答でその提案を却下するセラ。

「なぜに!?」
「お嬢様を襲った変態には当然の処置です」

睨みながらすっぱりと相手の言葉を切るセラ。抗議の意を示すようにピョンピョンと器用に跳ねるハイライト。爽やかな朝の森。
……なんだろうこの混沌とした場面は。

「だからアレは誤解だと何度言えば解るんだよ!」
「誤解などしていません、事実変態なのだからこうしているのです」

ハイライトを変態と言い切るセラ。
気になるのは『お嬢様を襲った』という点だが、

「ねえ、なんでハイライトは吊るされてるの?」
「おお!聞いてくれイリヤ。んでここから降ろしてくれ」
「お嬢様コレの言う事に耳を傾ける必要などありません」
「だからアレは意識を失ったイリヤを受け止めただけだって何度言えばいいんだよ」
「それについての説明は既に聞いてますこのロリコン」
「ハイライトハロリコン?」
「あの時の緩んでいた顔は間違いなく危険な顔でした」

…自分が気絶した後の彼に問題があるようだ。

「ロリコンのどこが悪い!」
「お嬢様の身が危ないからです」
「俺は犯罪者じゃない!」

不毛な言い争いはなおも続く。と、ハイライトがこちらを向き

「イリヤは俺のことを怒っているか?」
「…別に」

これは事実である。彼に対して怒る事など特に…ないと思う、多分。
昨夜聞いた彼については既に諦めている。
「そうか。なら」

瞬間、ハイライトを締付けていた荒縄が解ける。
どうやら霊体化したようだ。
即座にまた実体化する。

「や〜きつかったぜ〜」
「!なぜ勝手に抜け出すのですか!?」
「なぜってイリヤはもう怒ってないんだぜ。ならいいだろ?」
「く、いいのですか?お嬢様!」

セラが問いかける。しかしもう答えは出ているのだ。

「別にいいわよ。私なら気にしてないし」
「……お嬢様がそう言うのでしたら」

不承不承ながらセラが引き下がる。

「しっかし一晩逆さ吊りなんて、普通の人間なら死ぬぜ?あれは」
「あなたは仮にも英霊でしょう、ロリコン」
「ちょっ。いい加減しつこいぞ」


「イリヤイコウ」
「うん、そうしよっか」

なおも言い争いを継続する二人をおいて食事を摂りに行くことにする。
別にそこまでお腹が空いただけではない。その場にいる意味も無いし、冬の朝は爽やかな分寒いからだ。







「んで、今後の行動はどうするんだイリヤ?」
食事を終えて一息ついているところにハイライトが問いかけてきた。

「今後の行動って聖杯戦争はまだ始まっていないし、基本的にはこの城にいることにするわ」
「なんだもっと積極的にいかないのか」

積極的に。確かに本来の私なら積極的にいっただろう。
でも今はそうできない理由がある。

「誰の所為だと思ってるのよ。このへたれ」
「へ、へたれって・・・」
「ちがうの?。どこの英霊かも判らないしおまけに宝具も使えない。あ〜あ、本当ならヘラクレスを召喚してる筈なのに」

へたれという言葉に傷ついたのかハイライトはうなだれてしまった。
しかし本当の事なのだから仕方が無いだろう。

「俺だってやればできるんだぞ…」
「そう、じゃあ期待して待ってるわ」
「信じてないな!?いいだろう、やればできる奴だって証明してやる!」

そう言って勢いよく駆け出していく。

「……証明ってどうするつもりよ」

できれば余計な事はしないで欲しいところだが。
きっと何かを仕出かすのだろうという嫌な予感が付きまとう。

「お嬢様いいでしょうか?」

不安げに彼の去っていった方向を見ていたところに話しかけられた。

「何かしらセラ?」
「頼まれていた件ですが後数日お待ちください」
「そう、わかったわ」

頼んでいたこと。それはアインツベルン家とは関係なく、イリヤスフィールとしての事である。
エミヤキリツグ。彼に対する胸のうちに潜むこの思いをぶつける。それが日本に来たもう一つの理由。
待つ時間は長かったがそれもじき終わる。聖杯戦争にしても、キリツグの事にしてもあと少し。
もうすぐ始まる、全てが。そして終わらせる、全てを。


数日後、ある感覚が私に告げる。
結界が張られている森の中に入ってきた存在を。

聖杯戦争はまだ始まっていない。しかし「戦い」は既に始まっている。
青き獣は地を蹴って一直線に走る。己が獲物を求めて疾走する。




――戦いの幕があがる。








あとがき?
なんだろ、内容がすっごい薄い。
今回はリズセラの登場、戦闘の幕開けの予告
が主な内容のはずなんだが…。
うん、やっぱSSって難しいね。
さて次回は兄貴との戦闘です。
…戦闘場面書けるか心配ですが頑張ります。
ちなみに短いですかね?1話分ってどんくらいなんだろ?




〜ノートの隅に書かれていたネタ披露〜

その場は誤解でできている。
空気は嫌悪で、視線は軽蔑。
幾たびの誤解を得て変態。
ただの一度も弁解もなく、
ただの一度も理解されない。
彼の者は常に一人、社会の隅で己に泣く。
故にその生涯に意味は無く。 その場所は無限の誤解でできていた。
固有結界「社会の排斥場」

…ハイライトの所有する固有結界?で半自動的に展開されるカオス空間。
何故半自動的なのかというと、やらなきゃいいような言動をしてしまうがために展開されるので。