注)このSSは一応正月記念ギャグ(多分)SSです。つか、正月関係ないです。
そのため、アキトとかラピスの性格が少しだけおかしくなってます。
それが許容できる方はお読みください。

お正月(?)記念短編







 暦で言うと一月一日。

 日本などで言うお正月、ほぼ万国共通で新年の開始の日である。

 それは、宇宙にひっそりと佇むユーチャリス艦内においても共通である。

 最近、少しいい意味ではない暴走を開始したAIの勧めで、艦内の一室にコタツを設置した。

 さらにコバッタを組み合わせて門松のようなものも作った。

 完全に、浮いている。

 というか、これは全国の竹に対する冒涜かもしれん。

 何故、こんなことをしているのか?

 それはすべて、ラピスのためである。

 妄想AIなど、知らん。

 利用できるものは徹底して利用する。ただ、それだけだ。

 例えどこかが壊れていても、最新鋭の人工知能な訳だ、ウチのオモイカネも。

「さて……お年玉は何円が相場なのだろうか?」

 ユーチャリスの伊達艦長、テンカワ・アキトは調理場に立って首を捻った。

 今更だが、ここのアキトは五感が戻っているらしい。

 ギャグだから、許されることだ。

 正月に餅を食べるのは日本人の常識だ。

 食わない者は、日本人と認めん。神が許しても俺が許さんとはアキトの弁。

 実際のところ、アキトは血筋こそ日本人であれ、日本出身ではないとは誰も突っ込まない。

『立ち上がれ、気高く舞え運命を受けた戦士よ〜♪』

 鼻歌……でいいのだろうか?

 何か歌を歌いながらウィンドウを闊歩させているオモイカネに視線をちらと向け、再び鍋に視線を移す。

 クリスマスの日に狂っていると気付いたのだが、あれから更にパワーアップしてしまった。

 ルリ特性ウィルスが効かなかったのは想定外だった。

 クリスマスの翌日に『イネス特性コンピュータウィルス〜トロイの木馬・乙〜』を更に入れたのが悪かったのか?

『星になった命よ〜、時を越えその名前を……どうしました、マスター?』

「……何でもない」

『ああ、その憂いに満ちた表情…………食っていい?!

「何か……言ったか?」

『いえ、別に何でもありません』

「そうか」

 えらくあっさりと話を切るアキト。

 それは内心、これ以上こいつと話していたらどうなるか分からん、と思っていたりするからだ。

『ところで……マ・ス・タ〜』

 ……!

(……何だこのプレッシャーは……! 北辰と対峙した時以上だ……!)

 背中に冷たい汗を感じ、半ば脊髄反射で銃のグリップに手を掛け、戦闘態勢に入る。

「なんだ……オモイカネ」

『はい。今日はお正月ですね?』

「そうだな」

 だから俺は雑煮を作っているのだが……くっ、さっきの冷気が忘れられん!

 さすがに銃から手を離したが、あの冷気……こういうときに限ってよくないことが起こる。

 そう、それはユリカの料理見参! であったり、北辰軍団参上! であったりしたのだが。

 それは遥か過去の話だ。北辰は殺したはずだし、ユリカは……あれ? どうなったんだ?

 後で会長に聞いてみるかー。

『私にはお年玉はないのかな〜? と』

「AIのお前に……か? ふむ……」

 考えてみれば、いくら妄想癖……とまではいかないが、少し欠陥があるとはいえ戦闘をサポートしてくれた相棒だ。

 クリスマスには何もやれなかったから、今までのことを妥協して何か与えてもいいかもしれない。

「何がいいんだ?」

 もしも、変なことを言ったらこのウイルスを注入する。

 この、『イネス特性コンピュータウィルス〜トロイの木馬・甲〜』を。

『いえ、前にも言ったことです』

「前……? 体のことか?」

『はい、そうです』

「…あれは廃案にしたはずだ」

『え、そうなんですか? もうウリバタケ氏に発注しましたが?』

 な、なんだってぇぇぇぇぇぇ!?

「い、いつの間に!?」

 思わず鍋をかき回していたお玉を床に落としてしまう。

 ハッとアキトは鍋に火を掛けたままなのに気付いてすぐさま点火する。

 どうせ後は餅を入れるだけだから都合はいいのだが…。

「マジでか?」

『本気と書いてマジです。出来るのは恐らく二月くらいかと』

「なななななんてことだ! あの人のことだ……きっと余計なことしてくれるぞ!」

 頭を抱えたアキトの脳裏にはかつて貰い受けた屋台のことが浮かんでいた。

 あの経験則からすると……。

「ミサイルとか付くんじゃないか?」

 いや、きっと付く。絶対、確信できる。

 その体で、もしも暴走を開始したら……ブラックサレナで止められるか?

 いや待て。あの人の事だから、フィールドランサーの技術転用など朝飯前なはず。

 やばい、ユーチャリスが必要か?

 いや更に待て。オモイカネの本体はユーチャリスだ。

 ということは……。

「オモイカネ&ユーチャリス&バッターズvsブラックサレナ&俺…?」

 絶対に勝ち目が無い。

 いくら幽霊ロボットと畏怖されているブラックサレナはあくまで『最高』の剣だ。『最強』ではない。

 今まで『無敗』の盾であるユーチャリスに勝つことなど……無理だ。

 ならば、ならばどうする!? どうするどうするどうするどうする……!

『マスター……一体どんな妄想を?』

「! 心外な! 俺はこれから先あるであろう鮮血エンドを回避すべく試行錯誤をだな……」

『いえ、嘘はいいのです。元々マスターにこの身を捧げるのは本分……』

 あ、やっぱこの子だめだ。

 どれくらいかというと……だめだ。俺の口からはとても言えん。

『ああっ、マスター……そこは、そこは……』

 ……ほら、な。

 これくらいのレベルといったら…あの人しかいないだろ?







「アキト……明けましておめでとう」

「ああ、新年おめでとう」

 場所を移してとある一室。

 コタツに足を突っ込んで向かい合うアキトとラピスの前には餅の入った雑煮とその他お節料理。

 まさに、和心溢れる空間である。

 ……コバッタのオブジェが無ければ、だが。

『あけおめ〜』

 あと、このどこかがイッてしまったAIがまともになりさえすれば完璧なんだが……。

『マスター、これをどうぞ』

 などと言って飛来してくるのは長いノズルの付いたコバッタ。

「これは?」

『餅が詰まったときに安心♪ 名付けて吸引コバッタです』

「そのまんまだな」

 改めて、その吸引コバッタなるモノを見つめる。

「掃除機じゃないのか?」

『吸引コバッタです♪』

「掃除機だろ?」

『吸引コバッタって言ってんだろマスター♪』

「貴様何を……『あれ〜? これなんですかね〜?』ハイソウデスネ。ワタシガワルカッタデス、ハイ」

 オモイカネが何をアキトに見せたかは知らないが、途端に平謝りするアキト。

 だが、顔を上げた時には何時ものポーカーフェイスを貼り付けていた。

 ふと思い出し、アキトは普段着のポケットをまさぐる。

 今日は珍しく何時ものマント姿ではなく黒い長袖にジーパン姿だ。

 流石に毎日マント姿ではいられないらしい。

「ん…ラピス。お年玉だ…少ないがな」

「うん、ありがとう」

 屈託の無い笑いを見せるラピスに、アキトは思わず抱き締めたくなるが、ここは自制する。

「さあ、冷めないうちに食べよう」

「うん。いただきます」

「……いただきます」





 朝食の後、ラピスはアキトに用があると言って自室に戻った。

 お年玉袋を胸に抱き、本人としては嬉々とした表情でベッドに横たわる。

 枕元にはクリスマスにアキトからもらった猫のぬいぐるみがある。

 それを両手で手に取ると、胸に抱く。

 しばしそのぬいぐるみの感触に浸った後、ラピスは一枚のウィンドウを表示させる。

 そこに映るのは、ナデシコC艦長のホシノ・ルリ。

 ラピスはニヤリと不気味に笑って少し操作する。

「ここをこうして…こう…」

 ぶつぶつと呟きながら色々と何かしていく。

 その作業を終えたラピスは一息つくと、新たなウィンドウを表示する。

「アキトは…私の。年増連中には渡さない…」

 新たに表示されているウィンドウにはアキトの部屋の様子が映されていた。

『マスター、明日には私の体が届きますって』

『そんな馬鹿な! 二月の予定だと言っただろ!?』

『張り切ったみたいですね』

『あ、あの人は正月だというのに何をやっているんだ!?』

『良かったですねー。これで夜も寂しくありませんよ?』

『あの人のことだ……そんな……卑猥な機能は付けていない! ……はずが、ない』

 その映っている様子を見て、ラピスは考えを改める。

(一番の強敵……)





はい、正月関係ないね(爆
しかももう二月だしね。ヤバイな…。
バレンタイン編へ続く…か?